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―追悼式―
198話 迎え撃つ③
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―安らかに寝ている死者を起こすわけにはいかないな―
「そうだな。アリシャ、できる限り墓場とその周囲を荒らさせないようにしよう。…俺達の友もここに寝ていることだしね」
「うん、キヨト」
竜崎と『勇者』アリシャ。肩を並べた二人は土煙をあげながら迫る魔獣達を迎え撃つ。
アリシャが剣を右に、竜崎が杖を左に。それぞれの武器を横に構え前を向く彼らの背は実に頼もしく、気心の知れた相棒同士のよう。いや、ようではなく本当にそうなのだろう。
―さて、私も久しぶりに身体を戻すか。清人が強くなってからめっきり隠居状態だったしな―
ニアロンは少しの皮肉交じりにそうつぶやくと、その身を輝かせ姿を変えていく。童女のような姿から、大人の姿へ。妖艶なる出で立ちへとなると、竜崎達の頭に優しく触れた。
―必要ないかもしれないが、いつも通り強化魔術や治癒魔術をかけさせてもらうぞ。 …よし、と。さぁ、暴れに行こうか!―
ニアロンの掛け声に、竜崎とアリシャは一斉に地を蹴り突き進む。その勢い、弾丸の如く。
「ガアァ!」
対する魔獣数十体のうち、抜きん出て迫っていた数体が吠える。だが―。
「「はっ!」」
ザンッッ!!
猛る獣達は一瞬の内に切り裂かれ、黙らせられる。勇者の鋭く剛き一刀で、竜崎の炎刃を付与した杖の一振りで、ニアロンの魔力を集中させた手刀で。
「私はこのまま右」
「じゃあ左だな」
倒した相手を一瞥することなく、勇者と竜崎は左右に展開する。襲い来る獣達の群れに大胆に飛び込んだ彼らは武器を振るい始める。
右陣では巨体の魔獣達が次々と吹き飛んでいく。勇者の剛力により勢い余ってすっ飛ばされているようである。その度に見える勇者の戦姿は艶やかながらも爽快さを伴っている。
左陣では光弾が煌めき、精霊が舞う。ニアロンが砲撃を行い場の流れを支配、竜崎がその中を縫いながら精霊で残った魔獣の急所を突いているようである。二人が作り出す軌跡は美しく、つい見惚れてしまう。
彼らは向かうところ敵無し、迫りきていた獣達は次々と鮮やかに屠られていく。あっという間に片付けられ、またも竜崎達は中央で合流しピッと血を払った。
「ガオォオ!!」
しかし空輸は止まらず、続々と増える獣達。彼らは竜崎達を敵と認識し進行方向を絞り、束となって襲いかかる。
そんな化け物達を見た竜崎達は互いに視線を交わすことすらせず、全くの同時に地を蹴り、全くの同時に飛び込んでいった。
勇者が振り抜いた剣に竜崎が魔術を付与し、竜崎が勇者の足場となっている間にニアロンが勇者へ強化魔術を重ねる。勇者もまたそれを当然の如く受け入れ、竜崎達を守るために次々と魔獣を切り裂いていく。
「ガァア!」
と、二人は運悪く魔獣達に挟み込まれ、背を取られる。だが―。
ドッ!ドッ!
一切振り向くことなく、竜崎とニアロンは勇者の背に、勇者は竜崎達の背に迫った魔獣を討ち止める。そのまま、阿吽の呼吸で次なる相手へと武器を向けた。
言葉なぞ不要と言わんばかりに、彼らは協力して暴れる獣達を仕留めていく。互いの行動を信じ切り、自らの体を完全に友へと委ねた彼らの縦横無尽なる動きはまるで激しい男女のペアダンスを踊っているかのよう。見事なコンビネーションである。
「これで」
「一旦は」
―終わり、だな―
最後の一匹に見事なるクロス攻撃をしかけ、地へと沈み込んだのを確認し竜崎達はようやく息をつく。丁度飛んでくる鳥たちも収まっており、僅かだが休憩時間を確保できたのだ。
ほんの数分程度の間に、幾百の狂化された獣達はたった3人の手によって全て鎮圧された。彼らの横をすり抜け慰霊場に踏み入ることが出来た獣は一匹たりともおらず、竜崎達が立っている位置から後方、つまりさくら達側は血飛沫すら飛んでいなかった。
「すごい…!」
望遠鏡にかじりつき、竜崎達の戦闘を見ていたさくらは先程からずっと興奮していた。あれが世界を救った勇者と術士の戦いぶりなのかという感慨。あれが自分と同じ世界から来た人の動きなのかという驚愕が彼女を包んでいた。それを見た賢者は嬉しそうにふぉっふぉっと笑った。
「言ったじゃろう、2人にはお茶の子さいさいじゃと。あの子ら、全く本気を出しておらんぞい」
「えっ!?」
確かに勇者は体に魔術紋様を迸らせることなく、竜崎は高位精霊はおろか、上位精霊すら対空砲撃を任せただけで戦闘には使っていない。
彼らの底力が恐ろしくなってきたさくらが少しブルっと体を震わせた時だった。
「ほう、どうやらようやく本隊の到着のようだ」
にやりと笑う魔王の視線の先を追うと、竜崎達より更に奥にある森から何かが飛んでくる。
「あれって…木!?」
数秒睨みつけてようやくその正体に気づいたさくら。何かに勢いよく突き上げられたか投げ飛ばされたかのように空中をぐるんぐるんと舞うそれは、先程まで根付いていたであろう大木。それも一本二本ではない。数十本が次から次へと吹き飛んでくる。このままでは確実にどこかに落下し被害が出てしまうであろう。
さくらが慌てて森の方を望遠鏡で覗いてみると、今竜崎達が倒した魔獣達の比ではないほどの土煙が勢いよく迫ってきていた。
「警戒と対処の命令を…」
他魔王軍に伝令を行おうとするラヴィだったが―。
「待て」
魔王がそれを止める。
「そろそろ我も動こう。全てリュウザキ達に任せっきりで気が咎めていたところだ」
首を一度コキリと鳴らし、かの魔王は悠然と歩を進め始めた。
「そうだな。アリシャ、できる限り墓場とその周囲を荒らさせないようにしよう。…俺達の友もここに寝ていることだしね」
「うん、キヨト」
竜崎と『勇者』アリシャ。肩を並べた二人は土煙をあげながら迫る魔獣達を迎え撃つ。
アリシャが剣を右に、竜崎が杖を左に。それぞれの武器を横に構え前を向く彼らの背は実に頼もしく、気心の知れた相棒同士のよう。いや、ようではなく本当にそうなのだろう。
―さて、私も久しぶりに身体を戻すか。清人が強くなってからめっきり隠居状態だったしな―
ニアロンは少しの皮肉交じりにそうつぶやくと、その身を輝かせ姿を変えていく。童女のような姿から、大人の姿へ。妖艶なる出で立ちへとなると、竜崎達の頭に優しく触れた。
―必要ないかもしれないが、いつも通り強化魔術や治癒魔術をかけさせてもらうぞ。 …よし、と。さぁ、暴れに行こうか!―
ニアロンの掛け声に、竜崎とアリシャは一斉に地を蹴り突き進む。その勢い、弾丸の如く。
「ガアァ!」
対する魔獣数十体のうち、抜きん出て迫っていた数体が吠える。だが―。
「「はっ!」」
ザンッッ!!
猛る獣達は一瞬の内に切り裂かれ、黙らせられる。勇者の鋭く剛き一刀で、竜崎の炎刃を付与した杖の一振りで、ニアロンの魔力を集中させた手刀で。
「私はこのまま右」
「じゃあ左だな」
倒した相手を一瞥することなく、勇者と竜崎は左右に展開する。襲い来る獣達の群れに大胆に飛び込んだ彼らは武器を振るい始める。
右陣では巨体の魔獣達が次々と吹き飛んでいく。勇者の剛力により勢い余ってすっ飛ばされているようである。その度に見える勇者の戦姿は艶やかながらも爽快さを伴っている。
左陣では光弾が煌めき、精霊が舞う。ニアロンが砲撃を行い場の流れを支配、竜崎がその中を縫いながら精霊で残った魔獣の急所を突いているようである。二人が作り出す軌跡は美しく、つい見惚れてしまう。
彼らは向かうところ敵無し、迫りきていた獣達は次々と鮮やかに屠られていく。あっという間に片付けられ、またも竜崎達は中央で合流しピッと血を払った。
「ガオォオ!!」
しかし空輸は止まらず、続々と増える獣達。彼らは竜崎達を敵と認識し進行方向を絞り、束となって襲いかかる。
そんな化け物達を見た竜崎達は互いに視線を交わすことすらせず、全くの同時に地を蹴り、全くの同時に飛び込んでいった。
勇者が振り抜いた剣に竜崎が魔術を付与し、竜崎が勇者の足場となっている間にニアロンが勇者へ強化魔術を重ねる。勇者もまたそれを当然の如く受け入れ、竜崎達を守るために次々と魔獣を切り裂いていく。
「ガァア!」
と、二人は運悪く魔獣達に挟み込まれ、背を取られる。だが―。
ドッ!ドッ!
一切振り向くことなく、竜崎とニアロンは勇者の背に、勇者は竜崎達の背に迫った魔獣を討ち止める。そのまま、阿吽の呼吸で次なる相手へと武器を向けた。
言葉なぞ不要と言わんばかりに、彼らは協力して暴れる獣達を仕留めていく。互いの行動を信じ切り、自らの体を完全に友へと委ねた彼らの縦横無尽なる動きはまるで激しい男女のペアダンスを踊っているかのよう。見事なコンビネーションである。
「これで」
「一旦は」
―終わり、だな―
最後の一匹に見事なるクロス攻撃をしかけ、地へと沈み込んだのを確認し竜崎達はようやく息をつく。丁度飛んでくる鳥たちも収まっており、僅かだが休憩時間を確保できたのだ。
ほんの数分程度の間に、幾百の狂化された獣達はたった3人の手によって全て鎮圧された。彼らの横をすり抜け慰霊場に踏み入ることが出来た獣は一匹たりともおらず、竜崎達が立っている位置から後方、つまりさくら達側は血飛沫すら飛んでいなかった。
「すごい…!」
望遠鏡にかじりつき、竜崎達の戦闘を見ていたさくらは先程からずっと興奮していた。あれが世界を救った勇者と術士の戦いぶりなのかという感慨。あれが自分と同じ世界から来た人の動きなのかという驚愕が彼女を包んでいた。それを見た賢者は嬉しそうにふぉっふぉっと笑った。
「言ったじゃろう、2人にはお茶の子さいさいじゃと。あの子ら、全く本気を出しておらんぞい」
「えっ!?」
確かに勇者は体に魔術紋様を迸らせることなく、竜崎は高位精霊はおろか、上位精霊すら対空砲撃を任せただけで戦闘には使っていない。
彼らの底力が恐ろしくなってきたさくらが少しブルっと体を震わせた時だった。
「ほう、どうやらようやく本隊の到着のようだ」
にやりと笑う魔王の視線の先を追うと、竜崎達より更に奥にある森から何かが飛んでくる。
「あれって…木!?」
数秒睨みつけてようやくその正体に気づいたさくら。何かに勢いよく突き上げられたか投げ飛ばされたかのように空中をぐるんぐるんと舞うそれは、先程まで根付いていたであろう大木。それも一本二本ではない。数十本が次から次へと吹き飛んでくる。このままでは確実にどこかに落下し被害が出てしまうであろう。
さくらが慌てて森の方を望遠鏡で覗いてみると、今竜崎達が倒した魔獣達の比ではないほどの土煙が勢いよく迫ってきていた。
「警戒と対処の命令を…」
他魔王軍に伝令を行おうとするラヴィだったが―。
「待て」
魔王がそれを止める。
「そろそろ我も動こう。全てリュウザキ達に任せっきりで気が咎めていたところだ」
首を一度コキリと鳴らし、かの魔王は悠然と歩を進め始めた。
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