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―追悼式―

193話 一枚の張り紙

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あくる日、学園に来たさくら達。と、学門近くの掲示板前がざわついている。

見てみようよ!と飛び出していったネリーに続きさくら達も覗き見ると、そこには1枚の新しい張り紙。内容は―。

「『追悼式』の生徒参加は諸事情により中止?」

どうやら希望者で魔界へ赴き追悼式に参加する催しがあるらしい。だが残念ながら張り紙の通りである。

「もう数日後なのに突然だねー。なにかあったのかな?」

首をひねるネリー。一行は疑問を残したままとりあえず1限の授業教室に向かう。と、その道中である。

「あ、リュウザキ先生!」

視線の先を慌ただしく小走りしているのはつい先日戻ってきたばかりの竜崎。とはいえ彼が帰ってきたのは夜遅く。そして早朝に部屋を出ていたらしく、隣の部屋に住まわせてもらっているさくらとしても、顔を合わせるのは数日振りである。

あったついでに追悼式の件を聞こうと走り寄るさくら達だが…。

「ごめんね、ちょっと急いでるんだ。後で詳しい話をするよ」

と、断られた。いそいそと彼が向かうは職員室のようだ。それを見て、ネリーは悪巧み。

「ね、授業まで時間があるし、ちょっと盗み聞きしない?」




ということで職員室前の扉。4人はそこで聞き耳を立てていた。いつもは止める立場のさくら達だが、好奇心は抑えられない。それに、もしかしたら自分たちが関わったレドルブの一件が関係してくるかも?といった微かな期待も手伝っていた。

「聞こえる?」
「うーんあまり…」

だがそこは厚い職員室の扉。さくら達には先生たちが一堂に会して何かを話し合っていることしかわからない。ということでー。

「モカ、お願い!」
「任せて」

獣人モカが代表して耳をそばたたせることに。

「ふんふん…なるほど…」

流石は強化された獣人の耳。結構聞こえるらしい。たまらずネリーが顔を寄せる。

「先生達何て?」
「やっぱり追悼式について話してるみたい。ちょっと待って…ふん、ふんふん…やっぱり…!」

聞くことに集中しているらしく、それ以上話してくれないモカ。さくら達はじれったいのを我慢しながら待つ。

ふと気づけば職員室前は生徒の山が。他獣人生徒達もモカの真似をし扉や壁にに耳をつけ始めた。どうやら皆、張り紙を見て気になったらしい。詳細を聞こうと職員室に来てみれば、先生方は会議中。そして先客が聞き耳を立てている。なら乗じるのが当然と言わんばかりである。

「あっ、まずい」

と、モカを含め耳をつけていた生徒が一斉に回れ右。囲んでいた仲間達に逃げるよう促す。何事かとさくら達がざわつくと…。

ガラッ!!

勢いよく職員室の扉が開く音。そしてー。

「くおぉら!何してるんだお前ら!!」

声が大きいことでで有名な教師の怒号がその場に響き渡り、生徒達の耳をつんざく。さくら達は蜘蛛の子を散らすようにその場から走り逃げた。





「あー…怖かった…!」

お化け屋敷から出てきたかのような感想を漏らすネリーを中心にまたも集うさくら達(と聞き耳を立てていた生徒達幾人か)。息を整えたモカは聞いた内容を皆に語る。

「結構大事みたいだし、あまり話を広げない方がいいかも…」

と前置きをして。



職員室内、ざわつく室内に一際通った声が。竜崎、そしてニアロンの声である。

「…以上の調査結果から、次の追悼式ではほぼ確実に魔王の命を狙う者が仕掛けてきます」

―しかも、推測するに相手は中々の規模となる。ただの獣を巨大化暴走化させることで戦力とするなぞ、かつての戦時に散見された魔術や『獣母』関係の禁忌魔術を彷彿とさせるが、清人が回収した遺物を解析したミルスパール曰く、それらと似通った点があるらしい。間違いなく、脱走して消息不明だった元魔王軍の魔術士達は一枚噛んでいることだろう―

「かつての戦争状態、いやそれよりも過去の時代に逆戻りということですか…!?」

竜崎達の解説に、恐怖するかのような誰かの声が。それを宥めるように聞こえてきたのは学園長のしわがれた声。

「確かにその可能性は捨てきれない。ただし今回は安心していいわよ。これは魔王からの情報なのだけど、この反抗は予測、そしてある程度の察知はなされていたらしいの。それを踏まえたうえで彼ら魔王達は敢えて迎え撃つらしいわ。その旨はリュウザキ先生達の手により各国へと伝達済みね」

それを聞いた教師陣からは少し安堵の息が漏れる。そのうちの1人が言葉を漏らす。

「しかし危険があるのは確か。生徒達の参加を見送ったのも仕方ありませんね…」

確かに戦いが起きるのが確定事項の場に、戦闘経験が皆無な生徒達を連れて行くわけにはいかない。突然の張り紙も致し方ないのだろう。


と、竜崎の声は更に追加の情報を伝える。

「それとこれも魔王からです。元魔王軍関係者やかつての戦いで名を馳せた方々もまた、参加を見送るようにと。下手をすれば刃がそちらを向く可能性もあるかもしれませんので」

「あらじゃあ私達はお留守番かしら?仕方ないわね…」

「ふむ…戦闘に助力できないのは些か不満ではありますが、吾輩達は王都の防衛に尽力いたしましょう」

イヴの声に続き、ジョージの声。そして締めたのはグレミリオの声だった。

「そうね。まあでもリュウザキちゃんやミルスパール様が入れば無問題でしょう。それに魔王ちゃん達もやる気なら最強の布陣完成済みよね」

その言葉に違いないと笑う教師陣。そこで張り詰めていた緊張の糸が解けたらしく、外の様子に気づいた教師の1人が―。



「…ということみたい」

ようやく事情が呑み込めたが、予想以上に危険な匂いを感じ取り戦々恐々とする生徒達。そんな中、さくら達は顔を寄せひそひそ声。

「ねぇ、その『獣を巨大化暴走化』って…」
「うん…。多分私達が見たあれだよね…!」

つい先日目撃した、家畜泥棒達が使ってきた切り札。兎を人よりも数倍大きな化け物に変貌させる謎の代物であろう。結局竜崎もオズヴァルドも言葉を濁して詳細を教えてくれなかったが、ここまでくればいとも簡単に繋がる。

巡り巡ってかなり大事件の端っこを掴んでいたとは。お手柄ではあるが、それよりもそこから連想される事態の深刻さに目が向く。同じように家畜泥棒や獣を売っていた傭兵はレドルブ近郊だけでもわんさかいたのだ。何千、何万もの獣が巨大な体躯と剛力を得て暴れる―。想像しただけで背筋が震えてしまうさくら達であった。
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