上 下
191 / 391
―閑話―

190話 精霊術代理講師 エルフリーデ①

しおりを挟む
レドルブに同行し数日、さくら達は学園へ帰ってきていた。


あの家畜泥棒騒動以降もレドルブ近郊を飛び回ったさくら達だが、同じように謎の人物達から依頼された盗賊達がちらほらと。事はかなり大きく、広がっているようである。

ちなみにその途中、オズヴァルドの生家にも立ち寄った。出迎えてくれたオズヴァルドの両親は息災そうで、他の村の人々と同じように竜崎の顔を見るなり手を合わせ拝んでいた。

「うちの息子が皆さんにも迷惑をかけているでしょう。騒がしい奴でごめんなさいね」

彼らはさくら達に申し訳なさそうに謝ったが、その言葉の節には心のどこかで世界を救った勇者一行をはじめ、名だたる伝説に天才と認められた自慢の息子を誇っているようにも見えた。


諸々の打ち合わせや引継ぎを済ませ、竜崎運転の竜でアリシャバージルに戻ってきたのだが、竜崎自身は他の場所の応援に行くらしく、すぐさま発っていった。ニアロンはこの任務について「ここ何年かで竜崎の手間が減った」と言っていたが、それでも彼はまだまだ頼られているらしい。




流石にこれ以上我が儘を言うわけにいかず、さくらはお留守番。いつもの如く学園に通っているのだが…。

「そういえば竜崎さんがいない間は代理の先生がいるって聞いたけど…」

以前ナディから聞いた話では、竜崎が任務等で授業ができない間は代理の教師が教鞭をとっているらしい。良い機会だし、ぜひ会って見たい。そう思いナディに聞いてみると…。

「丁度良かった!さくらさんにご紹介したかったんですよ!」

彼女に手を引かれ、ついた場所は精霊術講師控室。ナディに続き部屋に入ると、竜崎が普段座っている席に1人の女性が座っていた。尖った耳、若く美しい顔。エルフである。そして伝統衣装の1つであろうか、以前エルフの国へ赴いた際に時折見かけた変わった服を身につけていた。

そんな彼女は立ち上がるとさくらと握手をし、微笑んだ。

「初めまして、私はエルフリーデ・リリアント。リュウザキ先生が学園を離れている間、授業の代理をしている者だ」

なかなかに気の強そうな人である。だがどこか竜崎と似たような雰囲気も感じ取れる。誘われるまま近場の椅子に腰掛けたさくらに、彼女はナディと揃ってずいっと顔を寄せた。

「ところで、聞かせてくれないか?レドルブでオズヴァルドのやつがリュウザキ先生にどんなことをしたか」

その妙に強い圧に、さくらは思わず頷いてしまう。そしてレドルブでの出来事を彼女達に話していくことになった。


しかし、思わぬことが。起きた事件や特異な点だけを教えてくれと言われたと解釈し話していったさくらだったのだが、彼女達が聞きたかったのは本当に『オズヴァルドが竜崎に何をしたか』であった様子。

皆での情報収集、アイナの暴走、家畜泥棒の話も興味深そうに聞いてくれたエルフリーデ達だが、途中からオズヴァルドの行動言動ばかりを根掘り葉掘り聞かれた。

「オズヴァルドのやつ…!また先生に…!」

「もう…これだからあの人は…!」

エルフリーデとナディの口調は徐々に怒り交じりに。とうとう2人揃ってオズヴァルド批判を始めた。その苛烈な様子にさくらは若干身をのけぞらせる。ナディ自身は「竜崎に対して敬意が感じられない」といった理由でオズヴァルドのことを嫌っていたが、どうやらエルフリーデのほうも同じのようだ。

もちろんさくらとしても、オズヴァルドが竜崎を慕っていることをしっかり話したのだが、焼け石に水。もう彼女達は聞いていない。仕方なしにさくらは質問がてら別方向から沈静化を試みる。

「そういえばエルフリーデさんは普段学園にいないんですか?」

その問いかけでようやく落ち着いたエルフリーデはさくらのほうに向きなおった。

「私は普段学院や騎士団にいる。とはいっても正式所属ではなく、それこそ傭兵のような立ち位置なんだが…。個人的には『リュウザキ先生の代理講師』という職が一番良い。本当はリュウザキ先生より多い給料なんて辞退したいんだが…いや寧ろリュウザキ先生に授業をさせるなんて申し訳ない。全部私が変わってあげたいぐらいだ。先生はもっと自由になってもらっていいんだ」

どうやらこの人、竜崎過激派のようだ。苦笑するさくらに、ナディが補足を入れる。

「エルフリーデ先生は私の前任者、元々はリュウザキ先生の助手だったんです。リュウザキ先生の代理なんて皆恐れをなしてやりたがらず、長らく専任の方がいなかったらしいんですけど、エルフリーデ先生が立候補して決まったんですよ。そして、弓の名手でもあるんです。その腕はそんじょそこいらのエルフ兵の人達よりも強いんです!」

そう聞いたさくらが改めてエルフリーデの横をみると、弓と矢筒が置いてあった。精霊術に加え弓術まで。かなり優秀そうである。


と、さくらは一つ気になったことをエルフリーデに聞いた。

「竜は使わないんですか?」

エルフの弓術といえば、竜使役弓術。それを自在に扱えるのはエルフでも研鑽を積んだ者だけなのはさくらも知っているが、先程ナディから『弓の腕前はエルフ兵よりある』と聞かされたばかり。ならば、と考えてした質問だったのだが…。

「「―!」」
エルフリーデ達の表情は引きつり、空気が固まる。何か変なことを言ってしまったのか。焦るさくらに、エルフリーデは少し悲し気な表情を浮かべた。

「実はな…」
彼女がそう口を開いた時だった。

キーンコーンカーンコーン

「ん、予鈴か。この話は後にしよう。さくらさんも私の授業にでるかい?」

「是非!」

なんやかんや、竜崎以外から精霊術を教わる機会は今まで無かった。強いて言えばメルティ―ソンが少し教えてくれたぐらいである。彼女はどんな授業をするのか少し気になるさくらであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。 妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。 その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。 家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。 ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。 耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた

cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。 お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。 婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。 過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。 ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。 婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。 明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。 「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。 そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。 茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。 幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。 「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?! ★↑例の如く恐ろしく省略してます。 ★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

処理中です...