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―オズヴァルドと共に―

183話 アイナの家へ

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いつまでも休んでいるわけにはいかない。さくら達はやっと収まりかけた足の震えを堪えて立ち上がり辺りを見回す。

「ここがアイナちゃんの村…」

比較的広い村であり、住んでいる人もそこそこいる。規模としてはさくらが以前行った魔界の村並みであるようだ。

「綺麗な村だねー」

ネリーがそう漏らしたように、主戦場付近であるはずのこの村はどこにでもありそうな長閑な雰囲気を漂わせている。ただやはり戦火にさらされはしたらしく、慰霊碑らしきものが村の端に建っていた。とはいえ復興はほぼ完全に済んでいるようだ。

と、1人の村人がさくら達に話しかけてくる。
「あのー。もしかしてアイナちゃんのお友達? 学園の制服着ているし」

「―!はい!アイナちゃんの家ってどこですか?」

「この先をまっすぐ行って右へ曲がったところよ。 でも変ねぇ。奥さん、ご主人が怪我したって手紙を出したのついさっきだって言ってたのに…」

どうやら怪我をしたのはアイナのお父さんのようだ。さくら達は礼をし、竜と戯れているオズヴァルドをひっつかみ彼女の家へと走った。



「はーい、どなたですか? あら!」

さくら達がそのアイナ宅をノックすると、出てきたのはアイナのように優し気なお母さん。扉の前にいた学園の生徒3人、そしてエルフの教師を確認するや否や、彼女はどうぞどうぞと室内へ案内した。

「アイナが勝手な行動をしてご迷惑をおかけしましたようで…大変申し訳ございません。お仕事中でいらしたのになんとお詫びすればよいのか…」

「いえいえ!リュウザキ先生も私も気にしておりませんよ!」

娘の失態に平謝りする母親に、笑顔で返すオズヴァルド。そう言われても気は晴れないのだろう。心苦しそうな表情を浮かべながら、アイナの母親はとある部屋の扉を開ける。

「アイナ、先生とお友達が来てくださったわよ」

「えっ!!」

聞こえてきたのは驚くアイナの声。部屋にはベッドが置かれており、その上には片足片腕をギプスで覆った男性が。恐らく彼がロウ・バルティ、アイナのお父さんなのだろう。そしてその傍にある椅子に座り、アイナは果物の皮を剥いていた。

「もう!心配したんだよ!」

ネリーに飛びつかれ、彼女はあわや果物ナイフを取り落としそうになっていた。



「アイナが皆さんにご迷惑を…」

床に臥したまま、アイナの父親は頭を下げる。報告書の日付から怪我をしたのは恐らく昨日か一昨日であろう。当然まだ痛むらしく、少し体を動かすだけで彼は顔を歪ませた。

「大丈夫ですよ!お仕事の残りはリュウザキ先生が片付けてくれますしね!」
またもにっこり笑顔のオズヴァルド。竜崎に全幅の信頼を置いているのは誰の目にも明らかであった。


「ところで、何があったんですか?」
オズヴァルドの言葉にさくら達も気を向ける。賊との喧嘩があったとは報告書に書いてあったが、詳細は読み飛ばしてしまったのだ。するとアイナの父親は唇を噛みしめ語り始めた。

「実は…最近村の家畜が次々と盗まれていまして。てっきり人獣や魔獣あたりが食い殺したのかと最初は思っていたのですが、それにしては死骸や暴れた跡は無いですし、対策用に罠も設置してありました。流石におかしいと思い、何人かで隠れて見張っていたんですが…」

「その正体が盗賊達と」

「お察しの通りです。5人ほどで現れた彼らは家畜を柵から出しどこかへ連れて行こうとしていました。見過ごすわけにはいかず、1人でも取り押さえようと私達は一斉に立ち向かったのですが…」

その時を思い出すと傷が痛むのか、ギプスに手を当て少し顔をしかめるアイナの父親。数秒で収まったらしく、ふう…と息をつき続きを語る。

「相手が悪かったのです。私達の姿を見た盗賊達は慌てることなく口笛を吹きました。するとすぐに彼らの後ろから人獣と魔獣が何匹も現れ、私達に襲い掛かってきました。突然のことに対応できず、集まっていた人達は次々と怪我を負い、私も足を噛まれ腕の骨を折られました。しかもその隙に盗賊達には逃げられてしまい…」

かなり散々な目にあったらしい。さくら達はかける言葉が見つからなかった。

「魔獣を従える家畜泥棒って珍しいなぁ。魔獣の餌にするわけでもなく、どこかへと連れて行く…。何したいんだろ?売るのかな?」

オズヴァルドはそう呟き首を捻るが、すぐにそれを止める。そしてさくら達に声をかけた。

「さて皆、どうしたい?」



「えっ?どうしたいって…」

突然の質問に困惑するさくら達。するとオズヴァルドは言葉を変え、もう一度聞いてきた。

「レドルブに戻るか、盗賊を探しに行くか。どっちがいい?」

「それは…」

言葉に少し迷うさくら達。と、アイナは覚悟を決めたように口を開いた。

「私は、盗賊を見つけて捕まえたいです…!お父さん達を怪我させたのも許せませんし、また盗みにくるかもしれません。だから…!」

「よし!じゃあ行こう!」

アイナの言葉に若干被せるように、オズヴァルドは元気に指揮を執る。そんな中、さくらはおずおずと問う。

「良いんですか…?竜崎さんのとこに戻らなくても…?」

「おや?さくらさんは帰りたい派?」

「いえ、寧ろアイナちゃんと同じ気持ちですけど…」

竜崎にあちらの仕事を任せっきりにしていいのか気にするさくら。するとオズヴァルドはふふーんと笑い顔を寄せてきた。

「じゃあクイズ!こんな時、リュウザキ先生なら何て言ってくれると思う?」

「え、それは…」

そう言われ、さくらは想像してみる。この状況、彼ならば間違いなく盗賊確保に赴くだろう。

それに、先程竜崎は『仕事を片付けたら自分も向かう』と言っていたのだ。アイナを連れ戻すだけならオズヴァルドに任せておけばいいはず。しかしそう言ったということは―。竜崎自身も、盗賊を捕える気満々だということである。

「…捕まえましょう!」

もはや後顧の憂いは無くなった。さくらのその言葉に、オズヴァルドは「おーっ!」と鬨の声をあげた。




幾人もの大人達が大怪我を追わせられた相手に挑むと聞いたアイナの両親は不安がるが、オズヴァルドがそれをうまく丸め込んだ。当然の如く参加したネリーとモカを含んだ5人は、その盗賊達が現れたという現場に来ていた。

その場は人の足跡と獣達の足跡で入り混じりぐちゃぐちゃ。足跡を目で追うことはできない。

「モカ、匂いは…」

「流石に無理だよ。こういうのは本物の犬とかじゃないと」

ネリーはモカに獣人としての力を頼ろうとするが、けんもほろろに断られる。仮に出来たとしても、地面に鼻をくっつけんばかりに四つん這いになるモカの姿は見たくない。

どうしようかと悩むさくら達。と、オズヴァルドが手を打つ。

「犬か。じゃあ任せて!」

すっと杖を取り出した彼は、何かを詠唱。すぐさま魔法陣が現れ、何かが呼び出された。

「「「ワオォン!」」」

白い姿の、人が幾人か乗れるほど巨大な犬。霊獣であるのは間違いない。しかし、鳴き声は同時に三つ。そう、つまりは首が三つ。

「ケ、ケルベロス…?」

オグノトスで見た白蛇のように、多頭の霊獣は他にもいたらしい。さくら達が驚いているのを余所に、オズヴァルドは召喚獣に命令をした。

「沢山の家畜を連れた人の匂いをかぎ分けて!そして案内して!」

白犬は一声鳴くと、三つの首を地面に寄せフンフン嗅ぎ回る。顔が三つは鼻も三つ。効率三倍。瞬く間に割り出したらしく、どこかへと歩き始める。

「さ、ついていこう!」

歩き出すオズヴァルドを追いかけながら、さくらは感心といった声をだす。

「オズヴァルドさん召喚術も使えるんですね…。しかも霊獣のなんて」

「私は色々使えるよ!見てて!」

足を止めたオズヴァルドは詠唱、すると二つの魔法陣が同時に起動する。現れたのは…。

「ゴーレム!!」
「サ、サラマンド!?」

なんと3mほどの雄々しいゴーレムと、火の上位精霊サラマンド。足元の草に引火しはじめたため、さくら達は慌てて召喚を終了してもらった。

「まあ上位精霊とかは今のとこ一体召喚が限度だけどね!」

そうカラカラと笑うオズヴァルドだが、さくら達は舌を巻いていた。基礎魔術だけでなく、浮遊魔術や各種召喚術まで。しかも易々と同時召喚を行っていたのだ。天才と呼ばれるだけはある。

「なんで基礎魔術を教えているんですか…?」

こんな腕ならば、もっと応用的な魔術を教えたほうが良いんじゃ?そんな思いから、さくらは思わずそんな質問をしてしまう。するとオズヴァルドは無邪気に答えてくれた。

「私、魔術は結構感覚で使ってるからね!実を言うと、教えるの下手なんだよ。自分でもなんで成功しているかわからない魔術幾つかあるし」

とんでもない回答である。では何故学園の講師になったのか。それを聞いてみると…

「リュウザキ先生と同じところで働きたかったから!何回も挑戦して、なんとか基礎魔術学教師としての許可は貰えたんだ!」

とのことである。竜崎と会う度にテンションがおかしくなるのも仕方ないことなのかもしれない。



「「「ワオン!ワオン!」」」

「な、なんだぁ!?」

と、いつの間にかかなり先まで進んでいた白犬が誰かを威嚇する。急いでさくら達がその場に駆け付けると、怯えた様子のお爺さんがいた。とても盗賊には見えないが…。

「…オズヴァルド先生、この方はここの牧場主です…」

アイナのその言葉に、さくら達は顔を見合わせる。確かに『沢山の家畜を連れた人』ではある。

「またやっちゃった!」

オズヴァルドのその口ぶり、どうやら命令ミスの常習犯であるらしい。魔術の天才ではあるようだが、やはりどこか雑なオズヴァルドである。
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