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―巨兵―
159話 巨兵
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「…という話を聞いてな。今晩はその新しい店でどうじゃ」
「良いですねー。そういえばその店、ログ先生も絶賛してましたよ」
―実は私もその店に目をつけていたんだ。丁度いい―
「決まりじゃな」
大人達の晩酌予定会議を聞きながら、さくらも竜崎達の後に続く。恐らく行きたいといえば連れて行ってくれるのだろうが、先程の件の続きで竜崎がいじられるのは目に見えていた。流石に可哀そうである。勇者一行の話は気になるが、まあそれは別の機会でもいいだろう。
じゃあ今日の晩御飯は何にしよう。ネリー達かナディとどこかで食べてくるか、教師寮の食堂で誰かに作って貰うか、はたまた自分で作るか。そう考えながらさくらが歩いていると…。
ゴゴゴゴゴゴ…
「!? 地震!?」
突如、地面が揺れる。周りの人もなんだなんだと狼狽え、中には怖がり身をかがめる者も。出店の商品は幾つか転げ落ち、停められていた馬や竜も興奮していた。
「こ、この世界にも地震ってあるんですか…?」
さくらは自分を庇う体勢をとってくれていた竜崎にそう問う。しかし彼は首を捻った。
「いや、あんまりないんだけど。というよりこれは…」
少しして揺れは収まった。周囲の人々は何だったんだと疑問を抱きながらも日常へと戻る。
「龍脈異常とかの揺れ方ではないな…。どこか人為的な感じがする」
―となると、誰かが地面を使った魔術でも使ったか? にしては強大だが―
竜崎達がそんな会話をすると、揺れの中でも平然と立っていた賢者が微笑む。
「それで当たりのようじゃな。あれを見てみい」
賢者が指さしたのは学院方面。さくらもそちらを向いてみると…。
「なに…あれ…」
まだ遠い学院の建物の屋根、そこに下からぬうっと出てきたのは巨大な手。そのまま建物をガシンと掴むと、さらに奥の方からせり上がってくるように腕が、頭が、身体が姿を現した。その大きさ、数十mでは効かない。100mはあるのではないか。
「巨人…!?」
さくらは思わずそう呟いてしまうが、すぐに首を振る。いや、人ではない。遠目からでもわかる。頭部に目らしきものは輝いているが、口や鼻、耳は存在しない。頭頂部や肩等、各所は要塞のような造りとなっており、人が乗り込める形状。そしてその材質は土や石のようなもの。間違いない、あれはゴーレムである。
「もしかして…」
さくらの胸中にはとある考えが飛来する。こんなことが出来そうな人を1人だけ知っているのだ。
と、賢者が目を凝らす仕草をしながらふぉっふぉっと笑った。
「リュウザキよ。あのゴーレムの頭の上をを見てみい、変わったものが見えるぞい」
それを聞き、竜崎は杖を取りだしついている望遠鏡機能を使う。さくらも凝視してみるが、遠すぎて何も見えない。
「えっ!いやまあ彼女しかいないけど…なんで…?」
―清人、それ貸せ。おー、確かに面白いことになってるな。どうしたんだあいつ―
竜崎は困惑、ニアロンは爆笑。さくらも杖を借りて見てみると…。
「イヴさん!?」
やはり。そこに居たのは『ゴーレム軍団長』の仇名を持つ、ゴーレム術講師のイヴだった。しかし、どこか様子がおかしい。
「高笑いしてる…?」
普段の優しい、大人な雰囲気な彼女とは違い、まるで悪役のように手を広げアッハッハと笑っている。あまりにも印象が違い過ぎて気でも狂ったのではと疑ってしまう。竜崎の困惑もわかってしまうほどである。
「おい…!なんだあれ!」
街行く人もようやくそれに気づき、ザワザワと騒ぎ始める。そこでさくらはハッと気づいた。
「あのままじゃ学院が壊れちゃうんじゃ…」
未だ巨大な手は学院を掴んだまま。少しでも動けばボゴォと壊れてしまうだろう。しかし、それを聞いた賢者は彼女を宥めた。
「その心配はないわい。安全のため建物全体に障壁を張っておるからの、簡単には壊れん。それに、どうやらあのゴーレムはすぐさま暴れる気はなさそうじゃぞ」
確かにあの巨兵はそのまま佇んでいるだけである。しかし油断はできない。いつ動き出すかは召喚主であるイヴの思いのままなのだから。
「とりあえず行ってみるかの」
賢者の言葉に一行は早歩きで学院に戻るのだった。
「良いですねー。そういえばその店、ログ先生も絶賛してましたよ」
―実は私もその店に目をつけていたんだ。丁度いい―
「決まりじゃな」
大人達の晩酌予定会議を聞きながら、さくらも竜崎達の後に続く。恐らく行きたいといえば連れて行ってくれるのだろうが、先程の件の続きで竜崎がいじられるのは目に見えていた。流石に可哀そうである。勇者一行の話は気になるが、まあそれは別の機会でもいいだろう。
じゃあ今日の晩御飯は何にしよう。ネリー達かナディとどこかで食べてくるか、教師寮の食堂で誰かに作って貰うか、はたまた自分で作るか。そう考えながらさくらが歩いていると…。
ゴゴゴゴゴゴ…
「!? 地震!?」
突如、地面が揺れる。周りの人もなんだなんだと狼狽え、中には怖がり身をかがめる者も。出店の商品は幾つか転げ落ち、停められていた馬や竜も興奮していた。
「こ、この世界にも地震ってあるんですか…?」
さくらは自分を庇う体勢をとってくれていた竜崎にそう問う。しかし彼は首を捻った。
「いや、あんまりないんだけど。というよりこれは…」
少しして揺れは収まった。周囲の人々は何だったんだと疑問を抱きながらも日常へと戻る。
「龍脈異常とかの揺れ方ではないな…。どこか人為的な感じがする」
―となると、誰かが地面を使った魔術でも使ったか? にしては強大だが―
竜崎達がそんな会話をすると、揺れの中でも平然と立っていた賢者が微笑む。
「それで当たりのようじゃな。あれを見てみい」
賢者が指さしたのは学院方面。さくらもそちらを向いてみると…。
「なに…あれ…」
まだ遠い学院の建物の屋根、そこに下からぬうっと出てきたのは巨大な手。そのまま建物をガシンと掴むと、さらに奥の方からせり上がってくるように腕が、頭が、身体が姿を現した。その大きさ、数十mでは効かない。100mはあるのではないか。
「巨人…!?」
さくらは思わずそう呟いてしまうが、すぐに首を振る。いや、人ではない。遠目からでもわかる。頭部に目らしきものは輝いているが、口や鼻、耳は存在しない。頭頂部や肩等、各所は要塞のような造りとなっており、人が乗り込める形状。そしてその材質は土や石のようなもの。間違いない、あれはゴーレムである。
「もしかして…」
さくらの胸中にはとある考えが飛来する。こんなことが出来そうな人を1人だけ知っているのだ。
と、賢者が目を凝らす仕草をしながらふぉっふぉっと笑った。
「リュウザキよ。あのゴーレムの頭の上をを見てみい、変わったものが見えるぞい」
それを聞き、竜崎は杖を取りだしついている望遠鏡機能を使う。さくらも凝視してみるが、遠すぎて何も見えない。
「えっ!いやまあ彼女しかいないけど…なんで…?」
―清人、それ貸せ。おー、確かに面白いことになってるな。どうしたんだあいつ―
竜崎は困惑、ニアロンは爆笑。さくらも杖を借りて見てみると…。
「イヴさん!?」
やはり。そこに居たのは『ゴーレム軍団長』の仇名を持つ、ゴーレム術講師のイヴだった。しかし、どこか様子がおかしい。
「高笑いしてる…?」
普段の優しい、大人な雰囲気な彼女とは違い、まるで悪役のように手を広げアッハッハと笑っている。あまりにも印象が違い過ぎて気でも狂ったのではと疑ってしまう。竜崎の困惑もわかってしまうほどである。
「おい…!なんだあれ!」
街行く人もようやくそれに気づき、ザワザワと騒ぎ始める。そこでさくらはハッと気づいた。
「あのままじゃ学院が壊れちゃうんじゃ…」
未だ巨大な手は学院を掴んだまま。少しでも動けばボゴォと壊れてしまうだろう。しかし、それを聞いた賢者は彼女を宥めた。
「その心配はないわい。安全のため建物全体に障壁を張っておるからの、簡単には壊れん。それに、どうやらあのゴーレムはすぐさま暴れる気はなさそうじゃぞ」
確かにあの巨兵はそのまま佇んでいるだけである。しかし油断はできない。いつ動き出すかは召喚主であるイヴの思いのままなのだから。
「とりあえず行ってみるかの」
賢者の言葉に一行は早歩きで学院に戻るのだった。
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