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―閑話―
67話 お手伝い
しおりを挟む「お手伝い、ですか?」
「うん、昨日の魔猪暴走で壊されたお店が結構あってね。そのせいで人手が足りないから依頼が来ててね。もちろんお給料もでるからお願いできる?」
脱獄者達が全員捕まり、巨大化した魔猪の死体は片付けられた次の日の出来事である。さくらは、竜崎からそんなお願いをされていた。
因みにあの事件の後始末だが…200台もの壊れた機動鎧はソフィアの工房が引き取っていった。使える部品を再利用することで、廉価品として造り直すらしい。
また、検査のため命を救われた数匹の魔猪もいる。彼らをそのまま野に帰すわけにはいかず、学園で暫くは飼われることに。
グレミリオの手によって完全に手懐けられた彼らは、学園敷地内の小屋で悠々自適に寝そべっていた。きっと、使役魔術等の協力獣として扱われるのだろう。
学園のほうはそれで片付いた。しかし、そうはいかないのは街のほうである。予期せぬ突撃によって道路側の店頭は軒並み壊滅、中には建物自体が半壊してしまった店もあるらしい。
故に被害にあった人々は修復作業に追われており、その手伝い依頼が学園生徒にも回ってきたということである。
どうせ自由の身。さくらは依頼を受け、街へと向かうことにした。 とある一人を連れ立って。
「ナディさん、帰ってきて早々大丈夫なんですか? 竜崎さんも気にしてましたけど…」
「えぇ。時間は掛かりましたけど、特に大変な調査隊でもありませんでしたし。でも…私がいない間に色々あったんですねぇ…」
それは、竜崎の助手を務めるナディ。つい先日の夜、ようやく調査隊から帰還したのだ。 彼女は自身がいない間に起きた数々の事件をさくらから教わり、目を丸くしていた。
…確かに色々あった。盗賊捕まえて、危険な花を見つけて、盗賊が脱獄してきて…。さくらも話しながら、ちょっと非日常感を感じた。 まあ、異世界なので常に非日常なのだけど。
事態は事態だが、二人で談笑しつつ歩いていると、日常的な気分に。この間一緒にお買い物をした時のことを、さくらは思い出していた。
そんな間に、依頼の店へと到着。 そこは―、以前ナディと買い付けに来た精霊石店であった。
「あらよく来てくれたねぇナディちゃん。そしてさくらちゃんも、この間ぶりねぇ」
「こんにちは、おかみさん。…あれ? 旦那さん、どうかされましたか?」
迎えてくれた店のおかみさんに、丁寧に礼を返すナディ。そんな彼女の言葉に、おかみさんは片手をパタパタ。
「それがねぇ。あの人、店先の修理してたら腰をやっちゃったのよ。ほらうち、夫婦だけでやってるじゃない?私一人だと色々手が周らなくてねぇ」
「それは大変ですね。あ、良かったら旦那さんに湿布お作りしましょうか? 魔法薬学の応用品ですので、かなり利くと思いますよ」
「あら! お願いしていいかしら」
―ということで、ナディは一旦湿布作り。そのため暫くの間はさくらが店番に立つことに。
おかみさんも傍にいてくれているので不安は薄いが、やはり緊張はする。心を落ち着かせるために周りの店に視線を動かしてみると、そこかしこに学園の制服やバッジをつけた生徒達が救援にきていた。
「結構学園のみんなお手伝いに来ているんですね」
「そうなのよ。今森に入らないようにって勧告が出ていてお金の稼ぎ道が少ないってのもあるみたいだけど…災害の後とかはこぞって駆け付けてくれるのよねぇ。ありがたいばかりだわ」
嬉しそうに話すおかみさん。すると彼女は、突然にさくらに振ってきた。
「そうそう、さくらちゃん。あなた、貴族様方の間で大人気なんですって?」
「っ!? な、なんでそれを…?」
突然の一撃を受け、むせてしまうさくら。おかみさんはにこにこしながら教えてくれた。
「ほら、精霊石って調理にも使われるじゃない? リュウザキ先生が懇意にしてくれているから、ウチにもたまに貴族召使の人達が買いに来るのよ。 その時に耳に挟んでね、若いのに凄いのねぇ」
…この調子だと他の店にも噂は広がってそうだ。背中がむず痒くなるさくらだった。
「すみませーん、この火の精霊石10個ほどください」
「注文していた精霊石一箱届いてます?」
「これ、回収お願いします」
やはり日用品ということだけあって、来る客は結構いる。次第にそれも増え、ひっきりなしに。
湿布を作り終えたナディが表に立ってそれを捌いていく。さくらもお会計をしたり、品を袋に包んだり、裏から注文品を持ってきたりと甲斐甲斐しく働いた。
――そんな折である。
「おう、姉ちゃん。ここは武器になる精霊石は売っているのかい?」
と、明らかにガラの悪い男性客が現れる。ナディはそんな相手でもしっかりと対応をした。
「はい、ございますよ。何属性をご所望ですか?」
「そうだな、火と風を見せてくれ」
頷き、幾つか持ってくるナディ。しかし目の前に並べられた精霊石を見て、突然彼は声を荒げた。
「んだこれ、質が悪いじゃねえか!」
「え?そうですか? 結構良いものですけど…」
「はっ!嘘つけ!こんな粗悪品売り付けようとしても無駄だ。この程度なら、精々この半額にしてもらわないとな!」
大声を上げる男。…どうやら、クレームをつけて買い叩こうという魂胆らしい。今の街の騒ぎに乗じ、店頭に雇われ店員がいる瞬間を狙った様子である。
しかし、相手が悪い。ナディは竜崎の助手、精霊術もかなりの腕前。当然精霊石の目利きも出来、全く騙されはしなかった。
「いえ、これはかなり良い品ですよ?本来この質ならば、最低でもこの値段の1.5倍はしますし。…ほんとになんでこの値段で売っているんでしょう…? おかみさーん。これ値段間違ってないですか?」
寧ろその男の一言で眉を潜め、離れた場所で接客をしていたおかみさんへ問いかけるナディ。すると、返って来た答えは―。
「あらいいのよ、その値段で。贔屓にしている業者さんが安く売ってくれてね。どうせなら、本当に使いたい人の手に渡りやすくしたほうがいいじゃない?」
という、嬉しい答え。それを聞いて、男はゴクリと喉を鳴らした。
しかしあんな啖呵を切った手前、手のひら返しで買うとは言えず…捨て台詞を吐きながら別の店に向かっていってしまった。
その様子を、目で追っていたさくら。嫌な予感がしたのだ。 そして、それは見事に当たった。
どうやら男は懲りていないらしい。ふらふらと品定めするように歩いていた彼は、とある店へと。すると、そこが俄かに騒がしくなる。
「ごめんなさいナディさん、少し店をお任せします!」
「えっ?さくらさんどこへ!?」
引き止めようとするナディだったが、丁度会計を求める客が重なり、身動きがとれなくなる。その間にさくらはあの男性客が入った店に駆けこんだ。
するとそこでは…想像通りの、嫌な展開が起こっていた。
「おいおい、こんな安物にこんな価値はねえよ。なんだこのクソ店!」
「で、ですがそれは相場通りで…」
「あぁ?客の目利きにケチつけるのか?こんなもん半額でも高いぐらいだ。ほら金はやるから」
「そんな…!お売りすることはできませんよ!」
「いいからよこせってんだ!」
ナディにしてやられたせいで苛立ってるのか、無理やり商品を持ってこうとする男性客。それに必死に抵抗する店員。そんなやり取りの間に、さくらは毅然と割って入った。
「貴方、さっきも同じことをしてましたよね?迷惑だから止めてください」
「あん?…誰かと思ったらさっきの店にいた嬢ちゃんか。うるせえな、どっかいってろ!」
力ずくで押しのけようとする男。それに対抗するように、さくらはラケットを取り出した。
「んだァ?俺と喧嘩しようっていうのか? ガキだからといって手加減しねえぞ!」
脅しをかけるように彼はナイフを引き抜く。と、さくらの武器についている高級精霊石に目を付けた。
「いいもんもってんじゃねえか。それくれりゃあ事を収めてやるよ」
「嫌です!」
「チッ! じゃあ力ずくで貰うぞ!」
男は、ぬうっと手を伸ばしてくる。さくらはそれに、ラケットをバシンと叩きつけた。
バチィイン!
「うおおっ!?」
神具の鏡はしっかり反応し、弾かれた男は店内から道路の真ん中にまで吹っ飛ばされた。
「痛ってえ!ふざけやがって!」
逆上した彼は立ち上がろうとする。が、それを阻止するように人に囲まれた。
「大人しくしろ!」
なんとそれは全員学園の生徒。騒動を聞きつけ、誰とも言わず集まったらしい。ナイフを奪われ、武器を突きつけられた男性は手を挙げ降参の意を示す…―。
「ガキが!」
―わけなかった。彼はタックルを敢行、怯んだ生徒達の間から抜け出し一目散に逃げていく。慌てて追いかける生徒達。さくらも店から出て走るが、出遅れてしまった。
どうしよう、精霊を召喚して、いや遅い…。ならば…! 瞬間的に思考を巡らせたさくらは、かつてウルディーネにやったように、テニスボールを一つ召喚。
あまり威力をつけすぎないよう、でも確実に当たるよう、狙いを定めて…!
「はっ!!」
パコンッ!
強盗に投げつけられるカラーボールの如く、いやそれよりも数段加速したスマッシュが、空を裂き飛んでいく。そして見事、男の背中をビタリ捕えた。
「ぐへぇ!?」
手痛い一撃を食らい、その場でズッコケる男。その上に生徒達がのしかかるようにして、彼は完全に取り押さられた。
「やった…!」
喜ぶさくら。すると、傍でパチパチと拍手の音が。
「流石はさくら様。お見事です」
見ると、そこにいたのは以前お礼の品を届けてくれた貴族の召使が1人。丁度買い出しに来ていたらしい。
「不躾ながら、一連の貴方様の御姿、見ておりました。その勇気ある行動…やはり、是非1度、我が主にお会いしていただけませんか?」
深々と頭を下げる召使。さくらとしても、ラブコールを受けるのは悪い気分ではない。
…が、直後、彼女は周囲がざわざわとし始めているのに気づいた。貴族召使に褒め称えられているのだから当然ではある。すると急に、恥ずかしくなってしまった。
「あっと、えっと…今お店のお手伝い中なんで…また今度で!」
そう言い残し、さくらはナディの元へ走り逃げたのであった。
「そんな一日でした…」
お手伝いを終え、別の場所で助っ人をしていた竜崎と合流したさくらは、本日の出来事を報告していた。
逃げ帰るように精霊石店に戻ったさくらだったのだが、『悪いクレーマーを捕まえた女の子がいる』、『貴族達を助けた噂の盗賊退治少女二人の片割れらしい』と聞いた人々が、ちょこちょこ覗きにやってくる始末となってしまったのだ。
その分そこそこ売り上げは伸び、おかみさんは喜んでいたが…。ずーっと恥ずかしくて仕方がなかったのである。結局丸一日そんな調子であり、さくらは愚痴混じりで竜崎に話さずにはいられなかった。
「やるねぇ、お手柄だよ。着実に信頼されていってるみたいで何より何より」
それを聞いた竜崎は、まるで自分の事のように喜ぶ。さくらはちょっと頬を膨らませた。
「むー…。なんかこそばゆいです」
「ふふっ、でも良いことだよ。もう異世界から来たってことを大々的にバラしても驚かれることはないかもね」
そんなことを言う竜崎に、軽く肩を竦めるさくらであった。
さくらを先に返し、竜崎は作業に戻る。 するとニアロンが顔を覗かせ、懐古するような口ぶりで彼に語り掛けた。
―なあ清人、思い出さないか―
「何がだ?」
―お前が魔術を覚えた時、同じように村の皆を守っていたろ。似ているなさくらは。多少無茶するところもそっくりだ―
クスクスと笑うニアロン。竜崎もちょっと微笑んだ。
「あぁ、そういうことか。懐かしいな。 …ただ…あの時の俺は、生贄として死んだはずの自分と、呪いを封印していたニアロンを怖がる村の人達に認めてもらうため必死だっただけ。その点、さくらさんは正義感だけで成し遂げている。俺より立派さ」
フッと自虐する竜崎。それを聞いたニアロンは呆れたように、彼の頭を小突いた。
―内情どうあれ、人を助けたのは事実だ。また言わせる気か? いちいち自分を―
「卑下するなってな。はいはい」
ニアロンの先の言葉を奪い、軽く受け流す竜崎であった。
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★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
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※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
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