67 / 391
―とある胎動―
66話 盗賊脱獄④
しおりを挟む脱獄者達が全て鎮圧され終えた頃、時同じくして王都アリシャバージルから少し離れた山の中腹部。
何者かが、学園を見下ろしていた。 しかし、人の目で…否、望遠鏡を使ったところで外観がうっすらとしか見えないような場所である。
にも関わらず、その謎の人物は、まるで学園を目の前にしているかのように振舞い、舌打ちをした。
「折角魔猪と機動鎧を与えてやったというのに、あの程度の時間しか稼げないか。賢者様や学園長のヤツも出張ってこないし、学園にあると思った禁忌魔術の隠し場所もわからない。無駄な行動だったな」
謎の人物―、小汚いローブを被った彼は、あの虹色の花、取り扱い危険指定にもなるほどの麻酔効果を持つ花を丸ごとシャリシャリと食べながら呟く。
すると、そこに――。
「こんな位置から、望遠鏡も使わずに見えるものなのかのぅ?」
不意に背後へ現れたのは、一人の老爺。謎の人物は振り向くと声の調子を1つあげ、楽しげに挨拶をした。
「やあこれは『賢者』ミルスパール様、よくここがおわかりで。 見えますよ、だって『禁忌魔術』を使ってますもの。…『観測者達』と、同じ魔術をね」
煽り交じりの答えを受け流すように、賢者は質問を重ねる。
「お前さん、何者じゃ?ワシの力を以てしても、顔に靄がかかっておるな。それも禁忌魔術の1つじゃろう」
「ハハッ、そうですねぇ…『禁忌の継承者』とでも名乗っておきましょうか。とはいえ見つかってしまってはしょうがない。少々うるさくなりそうなので、少しの間どこかに身を隠させてもらいますよ」
のっそり立ち上がり、詠唱を始める謎の人物。―しかし、賢者のほうが早かった。
「逃がすわけにはいかんな」
グシャッ!
「ぐうっ…!?」
まるで巨人に踏まれたように、謎の人物の身体は地面に押し潰される。苦しんでいた声を上げた彼だが、次の瞬間その姿はパッと消えた。
「ハァ…、こちらですよ賢者様…。内臓一つ二つは潰れかけました…」
声が聞こえてきたのは、賢者の背後。まるでテレポートしたように、彼の後ろに現れたのである。
賢者は振り向かぬまま、合点が言ったかのように頷いた。
「なるほど、それで機動鎧を盗んだか」
「えぇ、大当たりです。花も足りない魔猪も全てこの魔術で魔界から持ってきました。…ところで、この足枷外してもらっていいですか?」
謎の人物は、自らの足元を指さす。 そこにあったのは、ガッチリと噛みついた魔力製の虎ばさみ。骨にまで突き刺さっているのか、足からはダクダクと血が出ている。
「もちろん、断る」
「そうですか、では時間稼ぎに」
賢者の回答を聞いた謎の人物は、ローブの中を漁り何かを取り出す。それは一匹の蛇。それにこれまたローブの中から取り出した、謎の道具をグサリと突き刺した。
瞬間―、悶える蛇の肉がブクブクと膨れ上がる。そして、人を簡単に飲み込めそうな大蛇へと変貌しではないか。
「お前さん、それは…」
「えぇ。獣母に使われた禁忌魔術、そのうちの一つの応用です。もう一度見せましょう!」
そう嬉しそうに宣言した謎の人物は、今度は耳を紐で結んだ兎を取り出した。しかし既に死にかけらしく、力なくぶらんと垂れ下がっていた。
「では、この兎に…えいっ」
グサリと突き刺さる音。 直後、兎の目がカッと見開かれる。生気、いや狂気が宿ったかのような瞳で会った。
加えて、ボコボコと身体が変形、巨大化。先に作り出された大蛇と同じような、人以上のサイズへと変貌を遂げた。
「「グギャアアアア!」」
蛇と兎…いや、もはや魔物というべき二匹は、目の前の賢者を敵と認識し吼える。
――だが、それが彼らの最期の声となった。 次の瞬間には、賢者の魔術によってスパリと首を落とされていたからだ。
ドシャリと倒れる巨大肉塊。それを見て、パチパチパチと軽い拍手をする謎の人物。いつの間にか虎ばさみから逃げ出していた。
「お見事、賢者様。 あの当時からお強さは変わっておりませんね」
「…当時?お前さん、ワシの知り合いか?」
「どうでしょうか。では失礼」
懐に手を伸ばす謎の人物。―しかし、これまた賢者のほうが早かった。
「逃さんといったろう」
彼は石を即座に作り出し、謎の人物の手元へと勢いよく叩きつける。 見事直撃し、彼の懐からは何かの鉱石が零れ出た。
「チッ…流石は賢者様、先程の転移で種は割れておりましたか。もしもの策を講じておいてよかった」
舌打ちをし、今度は何かを詠唱し始める謎の人物。 ―しかし、詠唱が終わってもなにも変化が起きない。狼狽する彼に向け、賢者は一言。
「土砂崩れ狙いの魔術なら解いておいたぞ」
「なっ!?」
「上手く隠しておったが、あの程度ではワシの目は誤魔化せぬよ。 そら」
グシャァ!
再度、地面に押し潰される謎の人物。今度は一ミリたりとも手足が動かせないほどに強力だった。
「ハハハ…やられましたね…。 命を削りますが仕方ない。さようなら。 次までには、対策を施すことにします」
その言葉を聞き、賢者は殺す気で力を強める。…だが既に遅く、その場を閃光が包む。
それが晴れた後には既に『禁忌の継承者』は消え失せており、後には何も捕えられなかった魔術が大穴を残しただけだった。
「抜かったか…!」
急ぎ感知の魔術を広げる賢者。 …しかし、それらしき反応は引っかからない。完全に逃げられたようだ。
「せめてこれで何かわかればよいが…」
唯一の手掛かりである落ちた鉱物を拾い、賢者は仕方無しに帰るしかなかった。
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第二章シャーカ王国編
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
異世界転生モノの主人公に転生したけどせっかくだからBルートを選んでみる。
kaonohito
ファンタジー
俺、マイケル・アルヴィン・バックエショフは、転生者である。
日本でデジタル土方をしていたが、気がついたら、異世界の、田舎貴族の末っ子に転生する──と言う内容の異世界転生創作『転生したら辺境貴族の末っ子でした』の主人公になっていた! 何を言ってるのかわからねーと思うが……
原作通りなら成り上がりヒストリーを築くキャラになってしまったが、前世に疲れていた俺は、この世界ではのんびり気ままに生きようと考えていた。
その為、原作ルートからわざと外れた、ひねくれた選択肢を選んでいく。そんなお話。
──※─※─※──
本作は、『ノベルアップ+』『小説家になろう』でも掲載しています。
【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。
「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺!
◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
「魔王のいない世界には勇者は必要ない」と王家に追い出されたので自由に旅をしながら可愛い嫁を探すことにしました
夢幻の翼
ファンタジー
「魔王軍も壊滅したし、もう勇者いらないよね」
命をかけて戦った俺(勇者)に対して魔王討伐の報酬を出し渋る横暴な扱いをする国王。
本当ならばその場で暴れてやりたかったが今後の事を考えて必死に自制心を保ちながら会見を終えた。
元勇者として通常では信じられないほどの能力を習得していた僕は腐った国王を持つ国に見切りをつけて他国へ亡命することを決意する。
その際に思いついた嫌がらせを国王にした俺はスッキリした気持ちで隣町まで駆け抜けた。
しかし、気持ちの整理はついたが懐の寒かった俺は冒険者として生計をたてるために冒険者ギルドを訪れたがもともと勇者として経験値を爆あげしていた僕は無事にランクを認められ、それを期に国外へと向かう訳あり商人の護衛として旅にでることになった。
といった序盤ストーリーとなっております。
追放あり、プチだけどざまぁあり、バトルにほのぼの、感動と恋愛までを詰め込んだ物語となる予定です。
5月30日までは毎日2回更新を予定しています。
それ以降はストック尽きるまで毎日1回更新となります。
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる