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顧客リスト№70 『レオナールのコンサートダンジョン』

人間側 とある陰キャっ娘と偶像⑦

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な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、なぁひゃぁ!?!?!?


し、し、心臓が口から、と、飛び出てへぇ!! 天井まで飛び跳ねて!! た、叩きつけられて戻ってきて!!! それでも収まらないで、ボールみたいにバウンドしてっ!!!


い、いえ、比喩で、すけどっ! 流石に本当に心臓が飛び出しちゃってはいませんけれど!! でも悲鳴と共に本当に出てくかと思って! 本当に口元まで跳ね上がって、凄い早さでドクドクドクドクいってて!!


だ、だって! だって!! 今、は、背後から耳に、ふうっと息を吹きかけられるぐらいに!  私今、大きい木箱に入っているのに!! 


私の背中から、木箱の中から、声が!!! しかも、とってもとっても聞き覚えのあるこの声は!!!!!


「フフッ! 脅かしちゃってごめんよ」

「迎えに来ちゃった~んふふふ~♪」


や、やっぱりですぅ!!! リダさんとオネカさん! 上位ミミックのあのお二方ですぅっ!!!?







って! な、な、な、なんで!!? なんでですか!?!? なんでお二方がここに!?!? なんで私と一緒に、こんな暗い廊下の木箱の中に!? 振り向いた首をバッと急いで戻し、目を擦ってからもう一度見てみますけど…!


「そう訝しまなくてもボク達だとも、ベル♪ 触れてみるかい?」

「は~いぎゅ~♡ あら、ほっぺた…! ちょっと待ってね~…!」


や、やっぱり見間違いとかじゃありません!? 格好良くて騎士のようなリダさんは流れるように私の手をとって揉んでくださって、優しくて女神のようなオネカさんは…取り出した軟膏を私の頬に…!? 気持ち良い…良い香り……!


…っは! ほうっとしてる場合じゃないですよね!!? え、えっと……ど、どこから考えましょう!?!? えと、えと、えっと!!!?


「大丈夫だよ。ボク達はキミの傍にいる。まずはゆっくり深呼吸して」

「一つ一つ、な~んでも答えてあげるからね~。そうそういい感じ~」


私の左右へ並ぶように包むようにしてくださるお二方に従い、息を整えて…すぅ…ふぅ……。そ、そうです!


「わ、私、今、悲鳴あげちゃって…! ぴいぃって煩いのを…!」

「フフ、まさに弾けるようだったね♪ 改めて謝らせてくれ。すまない」

「ほんとよ~。リダったら、わっ!てしたいって聞かないんだから~」

「おや? 案外オネカもノリノリだったじゃないか?」

「そ、それはぁ~…。ミミックの血が騒いだと言うかぁ~…」


クスクスと笑い合うリダさんオネカさん…! やっぱりお二方の掛け合いは可愛くて……い、いえ今はそれどころじゃなくて! 


「その、私のせいで、どなたかがびっくりされてるかもしれなくて…! さっき仮眠室に向かわれたスタッフさんとかに迷惑が……え、え…!?」


まず頭に浮かんできていたそれをそのまま口にしますと、笑い合っていたお二方が急に目をぱちくりと…! わ、私何か悪い事を言ってしまって……!?


「…最初に出てくるのが労りか。あんなに病みかけていたのに…ふふ、やっぱりベルは素敵だよ」

「んふふふふ~♪ も~うほんと、良い子良い子優しい子~♪ よしよしうりうりうり~♪」


ひゃひゃわっ!? な、なんでお二方とも私の頭を撫でて!? 労りなんて、素敵だなんて、私は良い子でも、優しい子でもないのに!? だってこうして、やって駄目な事をやってお二方に迷惑を……えっ……あっ…!?


「な、な、なんでお二方がこちらに!?!?」


そうです! どう考えてもこっちが先ですよね!! なんでお二方がここに!? ここは事務エリアと大道具エリアの狭間で、お二方はコンサートエリアとレッスンエリア担当の方ですのに!


いえそもそも…私、ミミックさんに見つかっていなかったはずじゃ!? それか、ゴミ未満の存在感で見落とされているはずじゃ!!?!? なのになんで、こうして面と向かって……!?


「お。フフフッ、ようやくだね! けれどそれは一旦置いといて、先の心配からいこう。安心して。あの人達はもう仮眠室入りしてるし、キミの声で驚いた人もいないよ」

「なんならこの辺り、今はスタッフさんも警備員さんもいないわね~。だから見つかる心配もしなくていいよ~。もしもの時はうち達が隠して守ってあげるし~♪」


それでもなお、私を撫でる手を止めないお二方…!? 怒られもせず無視もされず、甘やかすように…!! え、えと……!?


「とはいえここで騒がしくするのは良くないし、キミの身体も心配だ。だから、次は場所を変えようか!」

「は~い、うちの中にいらっしゃ~いベルちゃ~ん♪ 運んであげるからね~♪ んふふ~ずるずるずる~☆」


ひゃわわわぁっ!!? オネカさんがそっと私の両肩を支えて、木箱の底へと連れ込まれて…引きずり込まれて!? いえこれ多分オネカさんの箱の中に入れられているんですけど…ひゃうっ!?


リダさんまで私の手に指を絡めて握って、軽く押し込むように!? そしてすぐに、暗めだった視界が…真っ白に!? これオネカさんまた…ま、待っ…!? い、一体私を何処に――ひゃわぁああ…!?


 







「か~んせい♪ もう出ても大丈夫よ~ぽんっと♪」

「きゃっ…!? ひゃっ…!」


箱の中に仕舞われて少しして、鞄もスタッフ証も外していただいた状態で箱からポンッと飛び出させて貰って…! あれ、この感触…ベッド? もしかして、自分の部屋に帰されて――!?


「――じゃ…ない? これ、私のベッドじゃない…? ここは…?」

「近場に誰~もいない、大道具倉庫の一つよ~。リダが使用許可貰いにいってるから安心してね~」


同じくベッドの上のオネカさんに促され、周りを見渡してみます。確かにここ、倉庫みたいです。灯りがついているのはこの一角だけですけど、それでも至る所に演劇やライブで使われたと思しき大道具が所狭しと並べられてるのがわかります。


一番近いこれは…お城のセットでしょうか。城壁だったり、城下を描いた窓景色だったり、遠近法で魅せるための小型の塔だったり。見るからに立派な調度品も置かれています。どれも出来がとても良いですし、少ない灯りのおかげでまるで黄昏時のようで、神秘的な感じになってます…!


あ、このベッドもその大道具の一つみたいです。本当に眠る用じゃないですからちょっと固めですけど、その分デザインがとっても素敵で…! 装飾が凝っていて、大きくて、天蓋までついていて……! これはまさに……!


「んふふふ~♪ ベルちゃん本当にお姫様みた~い♪」

「ひゅいっ!?」


お、オネカさん!? い、いえ確かにまさにお姫様のためのセットだと思いましたけど! それが私な訳は…!!


「ベル姫様~どうか気兼ねなくお寛ぎくださいな~」


ぴょいんとベッドから飛び降りたオネカさんはこちらへ向き直り、まるでメイドさんのように深々と…! あ、全く埃立たないと思いましたら…もしかしてさっきベッドメイキングを…!? 私のために…!?


「なんならこのままお休みになられても~。お部屋へはうち達がしっかりこっそりお連れいたしますから~☆」


姿勢を大きくは崩さず、慈愛のウインクをくださるオネカさん。これは…もしかしてあの時みたいに、レッスンエリアまで運んでくださった後みたいに、私からのお姫様台詞を待ってる感じです…!? え、えっと…で、でも……!


「んふふ~大変そうだったみたいだし、子守歌でも~…へ? あ、あらら~??」


立ち上がって、オネカさんを抱え上げます…! そしてそのままベッドへ戻り、オネカさんを横へ戻しまして…!


「あら姫様だいた~ん♪ 子守歌をご所望でございますか~? んふふ、では僭越ながら~…」

「い、いえ! 聞きたくはあるんですけれど、そうじゃなくて…! その…!」

「ん~どうしたの~? なんでも言って~。叶えられることならすぐに~…」

「っ! お、オネカ女神様! 私がお姫様なら、オネカさんは女神様ですっ!!」

「……ふえ? ふえ~~~~????」


ああっ!? オネカさん目を丸くなされて! え、えと、ビックリさせたかったんじゃなくてすみません言葉足らずで!


「そ、その…! こんな私を助けてくださって、気遣ってくださって、なんでも叶えてくれるって言ってくださって…! まさに皆さんの仰っていた通りの女神様で、ですから私なんかよりも凄い方で、だから私を見上げて頂く訳には…!!」


な、何言ってるか自分でもよくわからなく…! と、ともかく、オネカさんにメイドさんみたいな振舞いをさせるのが畏れ多くて! ただでさえいつも寮のスタッフさんにも申し訳ない気持ちでいっぱいですのに…! 


ですから床じゃなく、せめて私と同じところに居ていただきたくて…! ってそれもダメですよね、なんなら寧ろ私が床に降りて敬服の姿勢をとるべきですよね!


「ご、ごめんなさい…! 折角のジョークに上手く乗れなくて……今…!」


急いでベッドから降りて、オネカさんを祀るようにしないと……ひゃっ!?!?


「…ん~ん♪ そうね~。お姫様と女神様ならこうするべきね~」


お、オネカさん…!? いつのまにか私を抑えるように傍に、私と同じようにベッドに腰かけてます…!? 宝箱が床についてしまって…あ、いつもですし足先ですから良いんですよね…?


それにしても…いつも宝箱の中にいらっしゃる方ですから、こうやって並んで腰かけるなんてことはまずなかったですから、改めて見ますと…オネカさん思ってたよりも大きくて…。その、身長とかお胸とか……!


そんな完璧なプロポーションをお持ちな上に、つい身体の力を抜いてもたれかかりたくなるぐらいの癒しの波動が放たれていて、いつも以上にお姉さんやお母さんや女神様みたいな包容力が感じられて――!


「んふふ~こうしても違和感ないかしら~♪ そ~れ☆」

「ふにゃっ!? え、ちょっ、オネカさん!?」


そんなことを考えていましたら、オネカさんの触手がくるっと私に巻き付いて、ひょいっと横に倒してきて!? そして…ひ、膝枕!?!?


「よしよし~。可愛くて健気なお姫様~? 女神のお膝は如何~?」

「ひぅぅ…!? え、えと柔らかくて、暖かくて、良い香りがしましぇ…!」


きゅ、急にこんなことしていただくと、きゃ、キャパオーバーになってしまって…! はぅはぅぅう…!!


「おや、楽しそうなことをしてるじゃないか!」

「! り、リダさん!」

「あら~リダ騎士様の御帰還ね~♪」


た、助かりました…! いえ見られてしまいました…!? いつの間にかお戻りになられていたリダさんはクスリと笑い……リダさんまで傅くように!?


「ベル姫様、お飲み物をお持ち致しました。ティーセットをご用意できなかったこと、どうかお許しください」


その両手には、自販器のカップが…! 許可を貰うついでに買ってきてくださったみたいです…! でも、えっと、その、あの、えっと…!


「んふふ~♪ 騎士様~、姫様は『許す、近うよれ』と~♪」

「なんと、それは光栄です! ではお隣に失礼させていただきます…なんてね☆」


慌てて頭を起こした私の横に、またも私をオネカさんと挟む形で、やっぱり宝箱を床につける形でリダさんが腰かけてきて! わわ…リダさんもです…! 普段は宝箱に入っているから小さく見えてましたのに、やっぱり私よりも背が高くてスラっとしていて!


オネカさんとは別ベクトルで至高のプロポーションをなさっていますところに、親しみやすいのに颯爽さを感じられる佇まいが加わってまして、やっぱりつい頼ってしまいそうなリーダーのようで、騎士様のようで――!


「温かいのと冷たいの、どちらが好みかな?」


へっ、あわわっ…!? 見惚れてしまっていましたら、リダさんは微笑みながら両手のカップをそっと前に…! え、えっと…あれ、この香り…さっきも…。あ…これ、魔女スープ…!


「じゃ、じゃあ温かいので…」

「ならこっちだね♪」


わわ…! リダさん、冷たい方を素早く宝箱の蓋へと置いて、両手を使って…カップを受け取った私の両手とその底を支えてくださって…! 「おかわりもあるから遠慮しないで」とウインクを交えて……おかわり?


「オネカはどっちがいい?」

「うちもあったかいの~」

「ok、今出すよ」


へ? まだ温かいのを何処かに……あっ! リダさん、足元から…箱の中からもう一つカップを!?


「おっと…! ごめんよ、つい。見てくれが悪いよね」

「いえいえいえいえ! 寧ろ流石ミミックさんだと思いまして…!」


リダさん、足の入っている場所から出したことを気にしてくださったんでしょうけど…ミミックさんらしくて、思わずふふってなってしまって…! 私はミミックさん好きですから全然受け入れられますし、それに……。


「リダさんオネカさんのなら足蹴にされたものでも特に…寧ろ私、お二方の爪の垢を煎じて飲むべきで……いえなんでもないです!!」


なんか変な事を言いかけた気がします!? ご、誤魔化しませんと、急いで呑み込みませんと! す、スープで!


「「あっ、その勢いは…!」」


「熱ちゅっ!?」











「――はふぅ……沁みますぅ……」


あ、いえ、火傷に沁みるとかではなくて…! 火傷はギリギリしませんでしたし……! その、魔女スープ、本当においしくて。さっきプロデューサーさん方が唸られていた理由がわかります。色も変わってなんだか楽しいです…ふふ…!


それと…沁みたのは魔女スープだけでなく、冷たい飲み物もです。結局そちらも頂いてしまったのですが、ほぼ一息で飲んでしまって…! ……そういえば喉乾いていたんでした。


「フフ、嬉しい飲みっぷりだね」
「ほっ…ちょっとあんし~ん…」


飲み終えた方のカップを自然に回収してくださりながらリダさんが。そして私の肩を撫でてくださいながらちょっと小さめの声でオネカさんが。……もしかしてお二方共、私が喉乾いているのに気づいて…? 


多分そうです。特にオネカさんはメディカルチェックが得意ですし、先程もすぐに私の頬に常備薬を塗ってくださいましたし。ここに連れて来てくださったのも、私をリラックスさせるためみたいですし……。


……てっきり私、場所を変えると言われた時、誰もいないところまで連れていかれて、そこでみっちりと叱られるんじゃないかって…。どう考えてもそれが当然ですから……。


だって私、こんな深夜にこんな勝手なことをしているんですよ……? だからライブ中に厄介をかけたファンの人みたいに対処されて然るべきなのに、リダさんオネカさんは叱るどころかこうやって色々とケアしてくださって…。


今もこうやって両側から優しくくっついて挟んでくださって一緒に飲み物を味わって、足元ではお二方の宝箱が私のフットレスト代わりになってくださってるおかげでベッドに深々腰かけられて…。


どうしてここまでしてくださるのでしょう…。迷惑ばっかりかけているのに、厄介なことをしでかしてしまったのに…。ハッ…もしかして内心では怒っていらして、これは逃げないようにするためで、この後……!


な、なら……受け入れませんと…! 私が悪い事をしたのは事実ですから、お二方がここまでしてくださったんですから、私も逃げちゃダメで…! 


「ハハッ! ベルったら、ボク達は怒ってなんかいないよ☆」

「んふふ~そうよ~♪ でも、びっくりはしちゃったかしら~」


…へ? お二方共…? しかも更に、クスリと笑うように、ちょっと感心するように…。


「まさかキミが、深夜にお忍びで彷徨っているなんてねぇ」

「ベルちゃん本当に大胆~♪ 秘密の大冒険ね~♪」


ぁぅ…それは……その……。理由が……ありまして……。そのせいで、こうしてとうとうお二方にも迷惑を……。本当に申し訳なくて……。


……けれどリダさんもオネカさんも確かに怒ってらっしゃる様子もこれから叱る様子もなくて。もし事情をお話したら、全部受け入れてくださいそうで……。でも、話してしまったら巻き込んでしまって……。いえですがお二方は警備員でもありますから全て白状すべき……なんですけど…けれど…………。


あ…気づいたら、飲み終えたスープカップをクシャッと凹ませちゃってました…。あぁ…そうでした…。私は…ゴミ未満ですから…そうやって悩む権利も……あはは……――。 


「――さて。そろそろベルの質問に答えるとしようか!」

「は~い☆ ベルちゃ~ん、お腰にしつれ~い。よいしょ~♪」

「ひゃあっ!?!?」


きゅ、急にオネカさんが、今度は腰をぎゅるっと触手巻きにして!? ひょいっと引っ張られてというか空中に持ち上げられましたぁ!!? 思わず落としてしまったカップはリダさんが見事にキャッチなされて――ひゃぷん!?


「お話は横になって、の~んびりしながらね~♪」

「フフ、さしずめ女神の揺り籠ってところかな?」


ふぇっ…はわぁっ!? ベッドの真ん中で足を伸ばして寛ぐような姿勢となったオネカさんの上に、私、乗せられて!? これじゃまるでオネカさんをベッドにしてしまってるみたいで、しかもさっきは膝枕でしたのに、これは胸枕で……! しかも足先はオネカさんと一緒に宝箱の中に入って、きゅっと優しく絡んでる感覚だけ伝わって来てぇ…!


そしてリダさんは、足の宝箱をオネカさんの背もたれ代わりに添えて、私達を横から覗き込むような…まるでお姫様が寝付くまで傍で見守ってくださる騎士のような形に…! 表情もまさにそれで…ひゃっ! また手をそっととって温めてくださって、頬を指の背で優しく撫でてくださってぇ…!


「あ~! リダずる~い、うちもうちも~!」

「勿論さ! けど、ボクより本人に聞かないと☆」


ふにゃ…!? リダさんの問いかけウインクとオネカさんのお願い視線に…私、つい小さく頷いてしまって…! ひゃ、ひゃわわぁ!? 左頬と右手がリダさんに下から、クールに大切にされてぇ…! 右頬と左手がオネカさんに上から、優しく包まれてぇ…! だ、駄目ですこれ、駄目になっちゃいますぅっ…!


「聞きたいことは『なんでボク達がここにいるか』だったね。フフ、流石ベル。的確な質問だよ」


って、このまま始められるんですか!?!? ちょっ、待ってくださっ…! せめてしっかり起き上がって姿勢を正して…だ、駄目です!? お二方共、手のさすさすと頬のなでなでを止めてくださいません!?


「でも事は単純さ。キミが出歩いてると報告を受けてね。急いで駆け付けたんだ」

「そしたら丁度スタッフさんが来てたから~、つい木箱に呼び込んじゃった~☆」


え、えと…!? 随分さらっと仰られましたけど…つまりはお二方がいらっしゃったのは、私がプロデューサーさん方のお話を盗み聞きしてしまった時よりも後。大道具エリアへ戻るためにひたすらまっしぐらだった時みたいです…!


あ。あの時スタッフさんから隠れるために使った木箱…! あれ都合よく置いてあるなと思いましたら、お二方が用意してくださったものだったんですね。もう今更ですけど…あの時の私、無警戒が過ぎました。


そもそもあの場所まで誰にも、ミミックさんにも見つからずに来れたことが奇跡のようなものなんです。なのに私、変な方向で自分を盲信してしまって……――ん…? え……。あれ今…。……え!?!?!? 


「全く、皆にはもっと早く休んで貰いたいものだよ。ボク達ミミックはどこでも休めるし、なんならシフト組んでいるんだから」

「ね~。午前担当の子と午後担当の子が違うなんてザラなのに~。まあ下位の子達の見分けは皆には難しいかもだけど~」

「あ、あの…!? ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!?」


やれやれと話しあうリダさんオネカさんへ、慌てて割り込みます! だ、だって、今、リダさん!!


「『報告を受けた』――って!?」


お、おかしいんです! 報告を受けたということは、報告をした方がいるということで!! 報告を受けた方がいるということは……私が出歩いているのを見た方がいるということで!!!


でも、でも! 私はここまで誰にも見つからずに来たはずで……誰からも気づかれずに来れてしまったはずで!! そのはずでしたのに、その口ぶりは、今のお二方の何かを含んだ優しいお顔は、まるで――…!!


「やっぱりベルは聡いね。じゃあ…良いかい?」
「うち達の種明かし、聞いてくれる~…?」

「……い、いつから…なんですか…? いつから…私は……!」
 

ゴクリと息を呑み、恐々と聞きます……! 一番可能性があるのは、ついさっきの破れかぶれ。灯りや人の気配とかをあまり気にせずひたすらに進んでいましたから、その時に見つかってしまったのかもしれません。……そう、信じたいです…!!


けれど…もしかして…もしかして……! ぁぅ…!思わず身が固くなってしまって…! でもオネカさんが背中から足先まで身体を使って、腕で私の片手と胸を触れてくれて、全身を包み温め解すようにしてくださって…!


リダさんも私のもう片手を握ってくださりながら、まるで視線誘導するように片腕を軽く上げて…! その視線の先であるベッド周りが良く見えるように、オネカさんと角度を合わせるように身を反らされてから!


「最初から、さ☆」
  ――パチンッ!

「「「「「キュルルルゥッ♪」」」」」


ひわっ…ひゃわわあっ!!! リダさんの軽やかな指パッチンと共に、そこかしこから…尖塔から、城壁上から、城下の街並みの奥から、調度品の中から――ベッド周りのお城のセットの至る所から!!?


ひょっこりと、ぴょんっと、可愛くクルルゥと鳴かれて!! た、た、た、宝箱型の子が、触手型の子が、群体型の子が!!?



ミミックさんが――ミミックさん達が!!! と、と、飛び出してきましたぁっ!!!?







「最初から皆、見守っていたんだ。キミが寮を抜け出した後から」

「今の今までずぅっと、よ~。ベルちゃんの近衛としてね~♪」


リダさんオネカさんの言葉に『その通り!』と言うように、突如として現れたミミックさん達は、まるでスポットライトに照らされた私達を囲み踊るダンサーのようにベッドの周りをくるくると、ぴょんぴょんと…! え、えっ…!?


い、いえ、正しくは突如なんかではなく…!? お二方の言葉を信じるなら、このミミックさん達は…ず、ずぅっと最初から見守っていて?! えっ、えっ、えぇぇっ!? 状況を呑み込めず目を白黒させてしまっていますと、リダさんが…!


「そうとも! 例えばほら、この子達。実は寮周りの――」

「ほ、本当です…!? いつもお庭で話しかけてくれる…!」

「おや……!?」
「「キャウッ♡」」


リダさんが手招きしてくださったミミックさん達には見覚えがあります…! 確かに寮の庭園でいつも警備をしてくれている子です…! こっそり出てきたから見つかっていないと思ったのに…! と、となると…その後も!?


「そうよ~。例えばこの子はね~――」

「っ…!? も、もしかして……あの時、警備員さんと一緒だった!?」

「あら~…!?」
「シャアンッ☆」


オネカさんの、私の横に飛び乗ってきた子にも見覚えが! と言いましても暗闇で微かに見ただけですから確証はなかったんですが…当たっていたみたいです。記者さんが捕まった後に、隠れる私の横を通り過ぎていったミミックさんです!


「……ベル、本当にキミは凄いよ…! 下位の子達を見分けられるなんて…!」
同種族うち達じゃないと難しいはずのに~…! ミミックたらし~…!」

「へ…? え…? え、えと…!?」


な、何故かお二方が驚いて…? い、いえでも、驚きが隠せないのは私もで…! なんで気づいて…気づかれていて!? あんなにこっそり出てきましたのに、あんなに息を潜めてましたのに!


あ、いえでも……。思い返してみますと、見つかって当然と言えば当然かもしれません……。だって寮を出る時は、正門から出たらバレちゃうからとミミックさんが利用する抜け穴を使いましたし…。


隠れてやり過ごしたと思っていたミミックさんも…あの距離で気づかない訳がありませんよね。リダさん曰く、ミミックならダンジョン内のことは手に取るようにわかると仰っていましたから。


だからあんな真横を通られてしまったらバレて当然で……ううん、もっと遠くから気づいていて、敢えてスルーしてくださったんです。皆さんの反応から間違いなくそうで――あ、じゃ、じゃあ……!?

  
「そ、そのもしかして…! 私さっき、大道具エリアでゲンさんに見つかりかけてしまったんですけど…その時にミミックさんがゲンさんを止めてくれたのは、気のせいとかじゃなくて…!」

「うん、あの子もキミのことに気づいていたとも」
「も~ゲンさんったらまたねぇ~…。怖かったよね~」


ひゃうっ…!? オネカさん、また私の頭を撫でてくださって…! で、でも違うんです! あれはゲンさんが正しくて、こんな深夜に出歩いている私が悪くて、侵入者同然で!


そう…昼間とは違って本当に侵入者だったんです私は…。あの時は迷い込んでしまっただけでしたけど…今回はわざと忍び込んで見つからないように息を潜めてと、ゲンさんがお嫌いな厄介な方々と同じ行動をとってしまっていて……。


だから、今度こそ捕まってもおかしくなくて……いえ、捕まえて貰った方が良かったかもしれないです…。あの時自首してゲンさんに、ミミックさんに……。そうすればゲンさんは初めから間違ってなかったことになって、私も寮を追い出して貰える理由ができて……。


……今からでも遅くないかもしれません。リダさんオネカさんに頼んで捕まえて貰えば良いんです。私を、あの記者さん達のように。罪状はいくらでもありますし。寮をルール違反で抜け出して、警備員さんから隠れて、プロデューサーさんの会話を盗み聞きして――。


「――ところでベル。実はまだ、キミが気づかなかった近衛がいたんだ」

「……ふぇ?」

「んふふ~♪ この子達よ~。さあ~それぞれどこに居たでしょ~う♪」


と、突然のクイズですか!? お二方に紹介されベッドへと乗ってきたミミックさん達は、確かに見覚えがありません。ど、どこに居たかと言われましても……。


「隠れて見守ってくださっていた…だけじゃない…んですよね…?」

「フフ、そうだね。それに加えて、キミの傍でお手伝いをね」

「こっちの子達はバレかけちゃって危なかったって~」


えぇ…!? ミミックさんですから何処かに隠れているのは間違いないとは思うんですけど……私の傍でお手伝いをして、しかもそっちの子達は私が気づきかけて…!? そんなことあったでしょうか…? えぇと……えぇと……えぇと……!? な、なんにもわかりません……。


「さあ、答え合わせといこう!」
「まずはこの子達からよ~♪」


お二方の合図で、私が気づきかけたというミミックさん達が返事のひと跳ね。そのままベッドを飛び降りて……え、ベッド下に潜り込んだみたいです? そして何か、大きめの物を引っ張り出してきてるみたいな――ひゃわああっ!?


「こ、こ、こ、こ、これ!!?? これぇっ!?!?!?」

「そう、これさ☆」
「よく見たでしょ~♪」


思わず口をパクパクさせるしかなくて!! だ、だってこれ、これっ!!!!



「ま、ま、ま、ま、マップ!!!?」



ど、どう見てもあのマップです、フロアマップですっ!!! さっきまで道に迷いかける度に見つけることができていた、あの! 額に入っていて壁に備え付けられるタイプの、あの! ちょっと厚みがあって、現在位置の丸印が立体の、新しくなっていたはずのあの!


それがひょこっと自立して、なんならぴょんっとベッドに飛び乗ってきて!!? な、な、な、なんで!?!?


「ベルは良い線いっていたんだ。いや、見抜いたと言っても過言じゃないさ」

「んふふ~ほら~よく現在位置の印を見てみて~。あれが~~~ぱかっ~!!」

「へゃっあ!? み、ミミックさん!!!? ミミックさんが出て来て!!?」


私の前で、マップの立体現在位置マークがパカッて開きましたぁ!!? そしてそこからはしゅるんと出てきたのは、今しがたまでベッドの上にいた、群体型のミミックさんのお一方です!!? 


って、あぁっ!? マップの額が開いて、そこからもさっきのミミックさん達が!?!? つ、つまり……このマップ自体が、各所にあったマップが……!!?


「ここはダンジョン、迷う人は必ずいるんだ。特にお客さんや業者さんはね」

「そういう時はこうしてマップになって~さりげな~く道案内をしてるのよ~」


リダさんオネカさんの解説に合わせ、マップのミミックさん達は額と印の中に戻り……印が!? 立体のマークがスススッと動き出して!! マップの至る所へ行き来して!!!


わわっ! 更に地図自体もシュルシュルと額裏へと引き込まれて、別のフロアの地図に!! と、と、ということは…やっぱり…!


「私が偶然見つけたと思っていたマップは全部、この子達が…!?」

「「正解~♪」」


微笑み肯かれるリダさんオネカさん! そ、そ、そんな…!! そんな!! なんで、なんで!!? 本当になんで!!!? 


「勿論、キミを導き見守るためさ☆」
「力になれて何より! だって~♪」


私を…導き見守るため…!? 私の力になってくれて……!? え、えと…えと…!? で、でもとりあえず違和感が全部解消したのは間違いないです…! マップ自体に感じた違和感も、その存在への違和感も。


昼間迷ってしまった時はマップなんてすぐには見つけられませんでした。けれどさっきは違って幾つも、ちょっと多いんじゃないかってぐらい見つけられたんです…! 運が良いだけかもと思っていたんですけれど……実際は…違って……いて……――。


「さあ、続けざまにいってみようか!」
「こっちの子の番よ~。わかるかしら~?」


へ…あ…! そうでした、もうお一方のミミックさんが…! こちらの方は触手ミミックさんなんですが……やっぱりわからないです…。マップに感じたような違和感は、他のことには特には……。


「ん~ヒント無いと難しいかも~」
「ベル、キーアイテムはこれだよ」


リダさんが箱から取り出したのは……へ? これって、さっき私が飲んだスープの、空になったカップ…? カップの中…とかではないですよね。カップ……しかも飲み終わった後のカップなんて……ええっ!!?


「まさか……あの時の、プロデューサーさん方から隠れていた時の、ゴミ箱の…! 私が隠れてたゴミ箱の中、ですか!!?」

「「大正解~!」」


嘘ぉっ!? で、でも触手ミミックさんも触手でパチパチパチと拍手を!? そ、そんななんでそんなとこに……あっ!?


「も、もしかして…! プロデューサーさん方が捨てたカップがぶつからなかったのは…!」

「お! そこまで気づくとはね!」
「んふふ~ベルちゃん天才~!」


そうだったんですね…! 絶対顔にぶつかると思ったのにぶつからなかったのは、あのミミックさんがその前に回収してくださったからで…! ということはまさか、ミミックさんが私と一緒にゴミ箱に入ってくださったのは、私を守ってくださるためで……!


「そのまさかだともベル! ボク達皆が――」
「ベルちゃん大好きお助け隊なのよ~♪」


ふぇっ!? だ、大好きの部分はともかく…やっぱり、そうなんですね……! 私、ずっと気づかれなかったと思ってましたのに……ミミックさんにすら気づかれなかったと思ってましたのに、実際は全く違くて…!


結局ミミックさんの目を欺くことなんて、ミミックさんよりもこっそり動くことなんて出来なくて…! さっきまでの悪い事は全て、ミミックさんに遠くから、ゼロ距離から見られていて…!


そう、全部、全部…最初から、最後まで、ずっと、ずっと……ミミックさん達は私のことに気づいていて……私のことを……私の……私は…………。


「……ごめんよ。ずっと騙しているような形になってしまって。けれど皆、キミを思っての行動なんだ」

「うちとリダを嫌いになっても良いから~…どうかこの子達のことは嫌わないで欲しいの~…お願い~…!」


「よ……」


「「…よ?」」



「良かったぁぁ…………」











「良かった…のかい? っとすまない、その…」
「ベルちゃん、うち達を許してくれるの~…?」

「え、あ!? す、すみませんまた思ったことをすぐに口に出してしまって…! で、でもそもそも嫌いになるとか怒るとか騙されたとかなんて欠片も思ってなかったですし、寧ろ私が謝るべきで!」


恐る恐るな様子で私の表情を窺ってくるリダさんオネカさん、そして周りのミミックさん達へ慌ててそう返します! そうです、まずは私が皆さんへ謝りませんと! お礼を言いませんと!


「ごめんなさい、こんな深夜にこんな迷惑ばかりかけてしまって……。こんなゴミ未満の存在の私なんかを見守ってくださって有難うございます…!」

「ベル…キミ……」
「ベルちゃん……」

「……ちょっと、怖かったんです…。ミミックさんに見つからなかったことが…。最初は良かったと思ってたんですけれど、次第にどんどん……」


あ、あれ…? 私、流れで口が勝手に…? こ、こんなこと聞かされても皆さん迷惑でしょうから、止めませんと……ふぁ…!?


リダさんが、私の手を握りながら腕を優しく擦ってくださって…! オネカさんがもう片手を温めながら肩を撫でてくださって…! まるで手を引くように、背を押すように…! このまま最後まで聞かせてと言うように――。


「その……。私、勝手にミミックさんに親近感を覚えていて…。ですから、そんな皆さんに見つけて貰えなかったのが、本当に無意味な存在になったように感じてしまって……。怖くて、痛くて、胸が穴みたいになって辛くて……」


あっ…つ、つい、言ってしまいました…。勝手に親近感を覚えたなんて失礼なことなのに、皆さんには無関係なことなのに…。で、でもここまで口に出してしまったら、最後まで言うしかなくて止められなくて――。


「でもそれが、実際は違くて…! 皆さん私に気づいてくださっていて、だから、だから今のお話を聞いて、怖くなくなって、痛くなくなって、胸がじゅわぁって埋まって、嬉しかったんです!!」


「フフ、こちらこそ有難う。ベル…!」
「うち達も嬉しい~! ぎゅ~う♪」


ひゃっ!? 急にお二方共になでなでさすさすを再開して、ぎゅうまでしてきて!? え、え、えっと、で、ですけど……!


「その…でもわからないことがありまして……」

「ん? なんだい?」
「なんでも聞いて~」

「……なんで、私を捕まえなかったんですか? 悪さしてたのに……」


ミミックさんが見守ってくださっていたのはとても嬉しいです。けれどなら…なんで皆さん、そんなことをしてくださったんでしょう…。ううん、それだけじゃありません…!


なんで導いてくださって……なんで私に気づいていたのに見逃してくださって……なんで私が見つからないように守ってくださって……なんで怒らないで、私をこうして甘やかしてくださって……!!


本来なら私もあの記者さん達と同じように…ゲンさんが怒髪天になる人達と同じように…ライブで暴れる人達と同じように対応されて然るべきですのに…。なんなら今、リダさんオネカさんにそうしてもらうように頼もうとしてましたのに…!


なのにそう考えた直後に明かされたのは、私が自由に動けるように…それも気づかれないように動く私に気づかれないようにお手伝いしてくださっていたミミックさん達の配慮で! なんで、私の悪さを……!


「フフフッ! その答えも、とてもとても単純だとも☆」

「だって~ベルちゃんは悪さする子じゃないもの~♪」


ふぇっ…!? 私を甘やかすようにし続けながら、お二方はそう答えて…!? 更にリダさんは説明をしてくださるように続けて。


「もしこっそり抜け出した子が本当にダンジョン冒険が目的なら、ほどよく探検させてから諫めて連れ帰る。寮の外に出ようとするなら全力で止める。そして――」

「悪~いことを考えている子だったら~~ぱくぅっ~!」

「ひゃんッ!?!?」


お、オネカさんがハグの力を、脚の絡ませを、急に強めてきて!? い、一瞬本当にぱくぅってされちゃうかと!? それを見ながらリダさんはクスクスと微笑まれて…!


「『出来る限り皆の心を汲んで欲しい』それがネルっさんからの指示なんだ。おっと、これは内緒にしておいてくれよ…♪」


そう教えてくださり、クールながらもどこかドキンとさせるウインクと指立てを…! は、はい…!と思わず頷きますと、良い子を褒めるように、その指立てをした手でまた私の頬を…!


「オネカの言った通り、キミは悪さをする子じゃない。今回の大冒険だって理由ありきの行動なんだろう?」

「それは………………はぃ……」


ぅ…つい、これも頷いてしまって……でも、その理由についてを詳しく話してしまう訳には……ふぇ…? リダさん…まだ答えなくていいというように、頬を撫でていた手を滑らせて…内緒をお願いしてきた指で私の唇を軽く抑えてから…!


「皆、それがわかっていたから、キミを知っていたから、こっそり見守っていたんだ。どうかな、答えになったかい?」


え、えと…! そ、その…答えにはなりましたけど、その、なんと言いますか…! 私なんかを信用してくださってのご判断ということはわかったんですけど、その…今度は別の疑問が湧き上がって来て……! で、でも……――。


「良いんだよ、ベル。約束したろう? ボク達はなんでも答えるって」

「胸の中のもやもや、全部うち達に吐き出してすっきりしちゃえ~!」


っ…! また、私の心を読んだかのように…! え、えと、これはもやもやという感じではないんですけれど…!


「あの……ミミックの皆さんが、私のことを、そういう風に…!?」


リダさんのその説明ですと、まるで皆さんが…ミミックの皆さんが、私を――!


「そうとも! 『キミのことはボク達み~んなご存知』なのさ!」

「健気でちょっとシャイで、とっても可愛いベルちゃんってね~☆」


え、えっと!?!? そういえばリダさん、さっきそんなことをさらっと仰ってました…! ということは…続いたオネカさんのそれは…!


「そ~よ。うち達の、ベルちゃんに対する認識よ~。だからうち達はベルちゃん大好きお助け隊で~そして~んふふ~♡」

「ハハッ、だね! 大道具担当の子も賛成していたみたいだし、ボクも握手会前に告白したし、今一度宣言しよう!」


へ…!? お二方が…いえ、この場のミミックさん全員が顔を見合わせて!? そしてやはりお二方が代表されるように――!



「「ボクうち達はアイドルベルの、最初のファンよ~♪さ!」」



え、ええええっ!? そ、そんな、そんな!? いやいやいや!?


「さ、流石に冗談、ですよね!? ファンとか、認識とか…!」


「アハハッ☆ほんのちょっとだけ盛ったかな!」
「ファン第一号の座はネルっさんのよね~♪」


いえそうじゃなくて!? 私が聞きたかったのはそういうことではなくて!! も、もう! お二方共!!


「フフ、しっかり答えるよ。キミのことはボク達全員がご存知だとも。警備という仕事柄、そしてミミックの能力もあってね」

「の、能力…ですか?」

「そうさ! ボク達はダンジョン内のことであれば色々と感覚でわかるというのは前に話したろう? その能力の延長線でね」

「ダンジョン内によくいる人の雰囲気は感覚で把握できるんだ~。差し入れ配りをやる子達とか、それがとっても得意なのよ~」


そ、そういう…! だからなんですね…! だから皆さん私のことを侵入者と判断なされなくて、だからあの差し入れ配りミミックさんはやっぱり私をわかっていて…! だからリダさんもオネカさんも私に構ってくださって…!


「だからキミが誰にも気づかれない存在になることなんてないし、そうはさせないとも。ボク達が傍にいる以上はね」

「仮に誰もがベルちゃんに気づかなくても~うち達は絶っ対に見つけるよ~。だって~ファンなんだから~!」


ひゃ、ひゃぁわぁ…!? お、お二方共、ち、近いですぅ…!? リダさんは正面からまっすぐ見つめてきて、抱っこしてくれてるままのオネカさんは、頭へ頬ずりするようにぃ…!! し、心臓がバクバクしへぇ…!


ふにゃっ!? さ、更にそこへ、私を見守っていてくださっていてミミックさんまでもが集まって来て…宝箱にそっと囲まれてしまって!? そ、そんなこんな! こんな大切に扱われてしまったら、これじゃまるで私が――!!


「フフフッ! そうさ、キミはボク達の宝物だとも☆」
「んふふ~♪ 囲んで見守って大切に扱っちゃ~う♡」


ひゃっ!? も、も、もう! また! またそうやって、なんでですか!!?


「なんでそんなに心を読めるんですか!!?」


すぐに私の心へするっと触れてくるお二方へ、つい聞いてしまいます…! そうです、前々から気になっていたんです! なんで心を読むことが出来るんですか!!?


「アハハッ、ごめんごめん☆ でも心を読むだなんて大仰なものじゃないんだ」

「雰囲気を感覚で把握できるってお話したけど~それの更に延長かしら~」


ちょっと失礼な質問をしてしまったとも思ったんですが…それでもやっぱりお二方はすぐさま答えてくださいます。何処かちょっと照れくさそうな様子で明かしてくださいました。


「ボク達ミミックって不意打ちが生業なんだけど、それって相手の隙を窺う必要があるんだ。だからその分、機微を見抜くのに心得があってね」

「例えば~ちょっとした表情の変化とか~身体のちょっとした硬直とか~。そういう雰囲気から考えていることを推し量ってるのよ~♪」


えっ!? つ、つまり……実際に心を読んでいた訳じゃなくて、私の…相手の僅かな変化から推測して、あたかも心を読んだかのような精度で言い当ててきた……ってことですか!?!?


それ下手したら心を読む能力よりも凄いんじゃ!?!? 人の動きをそこまで細かく見れるってことだけでも驚きですのに…あっ! もしかしてオネカさんが体調を見抜くのがお得意なのも!? 


「そ~よ~♪ うちはそうやってバイタルチェックするのが割と得意~♪  因みにリダは本格派よ~♪」


へむゃっ…!? オネカさんは肯きつつ、私の口に指をぴとっと当てて来て…!? そしてそのままリダさんへチラッと。本格派って……あ、そうです! 今日のライブでも、私に、そしてお客さん方に――!


「そうだね☆ ベルに声をかけたのも、観客の動静を予測できたのも、その能力に寄るものだよ」


や、やっぱり!! そしてまさに今、披露してくださいましたよね!? 私の機微から私の心を言い当てる、そのとんでも技を!! はわわぁ……っ!!


「凄い…!! 本当に凄いです!!! そんなミミックさんの宝物みたいなヒミツ、教えていただいて良かったんですか!?」


あっ…! お、思わず変な事を口走って…! で、でもこのお話、それこそあの週刊モンスターの記者さん方が喉から手が出るほどに求めそうな内容ですもの! そんな大切なことを、私なんかに教えてくださるなんて……勿論絶対に口外する気はありません!


「ハハッ、もう大袈裟だよベル…! ミミックなら皆持っている力だしね…!」

「そ~よ~…! 社長に鍛えて貰ってなかったらここまでできなかったし~…!」


「いえ! 能力自体も凄いですけれど、使いこなしていらっしゃるのはもっともっと凄いと思います!! まさに努力の賜物で、皆が皆出来る事じゃなくて、私だったら絶対できないでしょうし、だからこそお二方が凄腕なのが改めてわかって、格好良くて華麗で素敵で――んみゅっ!?」


こ、今度はお二方が同時に私の口を塞いできて!? 失礼なことを言い過ぎてしまったのでしょうか…!? い、いえでもお二方のお顔は怒っては…寧ろさっきまでの照れた感じが増して…でも心を読もうとしている訳ではなさそふひゃあっ!?


「「「「「キュールルルゥ♪」」」」」


み、ミミックさん方!? 私の周りを囲んでいてくださっていたミミックさんが、更に囲んで…というよりぴったりくっついてきたり乗っかってきたりつついてきたり!? く、くすぐったいですよぉ…!?


な、なんで急にじゃれついてきて……あ、あれ? なんだか何かを求めているような? まるで自分達も自分達も!とおねだりしてるような感じが?


「こらこら皆。フフ、皆もベルに褒めて貰いたいんだって」
「うち達と同じで、たっぷり鍛えられてきたもんね~」

「へ? え、ということは……!」

「そうとも。この子達も結構その技を使えるんだ」
「頑張って覚えたね~って、なでなでしてあげて~♪」


この子達もできるんですね! け、けど、良いんでしょうか…? 褒めるなんて上からな気が……。いえでも皆さんそうして貰いたさそうに頭や触手や蓋を差し出してますし、リダさんオネカさんも幸せを分けてあげて欲しいと言わんばかりです。


じゃ、じゃあ僭越ながら…! 守ってくださったお礼もいっぱいに籠めましてなでなでをさせていただきます! 皆さん凄いです! そして、有難うございます!


「「「「「クルルル…♡」」」」」


お一方お一方を丁寧に出来る限り優しく、お礼の言葉と共になでなでよしよしを。なんだか握手会みたいです。それにしてもふふっ、皆さんとっても可愛くて…! リダさんオネカさんみたいに、箱のぎゅう抱っこもお好きみたいで…!


でもいざお仕事となれば、とっても頼りがいがあるのがまた格好良くて! さっきまでも私を影ながら守ってくださって、導いてくださって、きっと私の心もしっかり推し量ってくださって……私の…心を…。


「……ベル、正直に告白するよ。キミの想いをより汲むために、より守るために、ボク達は呼ばれたんだ」

「ここからはうちとリダが引き継ぐからね~。でももう隠れないから~心を壊す前に気軽に相談するのよ~」


へ……? 皆さんを撫で終わったのを見計らったように、リダさんオネカさんが切り出されて…。私の想いをもっと汲むために…もっと守るために……気軽に相談……って……もしかしなくとも…!


思わずお二方の顔を窺いますと、それぞれ深く頷かれて…! 格好良くて美しい瞳で、お顔で、お声で――!


「心を推測するのはあくまで推測に過ぎない。だからキミが本当は何を想っているのか、何を探していたのかはボク達でもわからないんだ」

「だから~今日の冒険のお宝について、聞かせて貰えるかしら~? ベルちゃんのファンで友達なうち達が絶対に力になるから~!」


そ、それは……! で、でも…………皆さんに…これ以上迷惑をかける訳には…………あ……。リダさんも、オネカさんも、また私の手をきゅっと握ってきて…でもさっきまでとは違って、差し伸べるような、頼って欲しいと祈るような…守って導いてくださいそうな……!


ぅ……お二方になら……私を守ってくださった皆さんになら……相談してしまっても……でも……けど……う、うん……け、けれど……やっぱり……だけど……で、でも…………。



「…………その……実は……――」











「――だから…その何処かにお菓子を落としてるかもって考えまして……。再現して辿って探すために鞄もスタッフ証も用意して……ぁぅ……」


話して……しまいました……。とうとう……。迷惑がかかるかもしれないのに…ううん、絶対に迷惑がかかってしまうのに……。お菓子を失くしたことに気づいてから、今に至るまでの経緯を……全部……。


あ……はは……くだらない……ですよね。こんな……ことで……深夜に人目を盗んで、悪い事をして……。誰にも迷惑かけなければいいと、勝手に決めて…。でも結局、皆さんには――……


「よく話してくれたね。成程、そういうことだったのか」

「道理でレッスンに来る時とおんなじ格好だったのね~」


え……お二方共…? 合点がいったと言うように、一笑に付す様子もなく…? そのままお二人で話し合いを…。


「コンサートエリアに該当する落とし物はなかったな。そっちはどうだい?」

「うちもよ~。レッスンエリアにも無かったはず~。後は~あ、来た来た~」


来た…? わ、鳥さん…!? でもあの色合い的に、群体型のミミックさんです…!? その子はリダさんの差し出した手に止まり、何かを伝えるようにぱたぱたと…!


「大道具エリアにも無し、と。有難う。なら一応皆はこの後――」

「ついでにうちのとこにも同じ伝令頼めるかしら~。お願い~」


皆さんのお顔、まるでライブ中の警備みたいに真剣です…! え、えっと、その鳥ミミックさんが何処かへと飛び去ったタイミングを見計らって、謝りませんと…!


「あの…ご、ごめんなさい! 迷惑をかけてしまって……」

「ん? フフ、ベルったら。迷惑だなんて思っていないよ?」
「そ~よ~。寧ろベルちゃんに頼られて嬉しいぐらい~☆」


オネカさん、シレラさん達と似たようなことを…!? で、ですけどでも……どう考えても迷惑極まれりって感じですし、悪い事をしてしまった上に…。どう言葉にしようか迷ってしまっていますと、リダさんオネカさんは微笑まれて…?


「そうだね…ほら、ボク達は迷惑者や悪い人をパクってするだろう? けれど、キミはされていない」

「つまり~ベルちゃんは迷惑をかけてもいないし悪さもしてないってことよ~♪ 心配なら甘パクしてあげちゃ~う♪」


そ、それは詭弁といいますか皆さんの匙加減じゃ!? ってちょっ!?オネカさっ、これこちょこちょ!?っあはははゃぁあっ!!!?


「フフフッ、やっぱりキミは笑顔が似合うよ☆ ――残念だけど、落とし物としては届けられていないみたいなんだ。だからまだ何処かに落ちているか、誰かに拾われたか、あるいは…」


は、はひゅぅ…はひゅう……! や、やっとオネカさんこちょこちょを止めてくださいました…。しかもその間にリダさんが重要なことを仰っていた気が……。


「けれどこのまま闇雲に探すのは良くない。もう一度、足跡を整理してみないかい? ボク達と過ごした一日を振り返ろう!」

「んふふ~良いかも~! 折角色々準備してきてくれたんだしね~♪ あ、ここベッドだし~まずは~~おはよ~ベルちゃん♪」

「ふえっ!?!?!?」


そ、そこからですか!? で、でも確かにそんな最初から振り返ることはしていませんでした。今日したことを順繰りに辿って行けば、もしかしたら……!? え、えとじゃあ……!


「お、おはようございます…!」

「「おはよう♪」」






「――それで、ライブ前に一度レッスン室に寄りまして。いつもみたいに着替えとかの嵩張る物は置いてから、コンサートエリアに向かいました」

「へぇ! いつもそうしていたのかい? 知らなかったよ!」

「は、はい…! 嵩張る荷物を持ってライブ参戦しますと周りの皆さんに迷惑がかかってしまいますから…! 最近はセトリとか救急セットとかお財布とかタオルとかだけで、応援グッズも持っていってません…!」

「マナーを守る素敵なファンね~♪ でも舞台袖から見るんだし~そこまで気負わなくてもリダ達なら大丈夫よ~」


そんなオネカさんの言葉に賛同するように、リダさんはキラッとウインクでお応えになって…! 確かにあの場に他のお客さんはいませんし、何故だかスタッフさん方は私専用の鑑賞席を嬉々として整えてくださっているんですけど…だからこそなんです!


「寧ろ、猶更なんです! お忙しい中狭い場所に居させて貰っているんですから、スタッフさん方の邪魔にならないように極力小さくなりませんと…! できれば私もミミックさんみたいに…!」

「フフフッ! そうか、キミと一緒にライブを見ると心地良いのはそういうことなんだね。仲間みたいで気を許せて安心するんだ」

「ふぇっ!? そ、そんな…! で、でもリダさんと一緒にライブを見ると楽しいのは私もです! 頼れて落ち着きますし、仕事振りも格好いいですし…!」

「んむ~。うちも今度、ベルちゃんと一緒に参戦しようかしら~。なんかリダばっかりズルいもの~」

「是非! 私、オネカさんとも一緒にライブ見たいって思ってたんです! 絶対楽しいですし! あ、その時は私がオネカさんを抱っこして…!」

「おっと、それはそれでズルくないかいオネカ? ボクもしてもらいたいのに…」

「あらあら隠さなくなっちゃって~♪ ベルちゃん、代わりばんこでお願~い☆」

「はい! 勿論です!!!」


ふふふっ! 楽しい約束をしてしまいました! いつになるかはわかりませんが、そのいつかを想像するだけでとってもワクワクします! 


って、あ、あれ…!? 私、朝からのことをぺらぺらと話してしまって…!? ここまで話してようやく我に返りました…! ついお二方とのお喋りが楽しくなってしまって……!


駄目ですよね、目的は今日を精査することなんですから。もっと真剣にいきませんと。……けれど今なら、この調子なら、全部するっと話せそうな気がして――。





「――そして、その時に差し入れ配りのミミックさんからお菓子を頂きまして、この鞄にしまいました……そのはず…なんです…!」

「鞄、見てもい~い? んふふ~ありがと~。じゃあ失礼して~~ん~底に穴は開いてないみたい~。すぽっと落ちたとは考えにくいかも~」


とうとう辿り着いてしまいました…問題の瞬間に…! 包み隠さずにお話しますと、早速オネカさんは私の鞄箱から取り出して調べてくださいます。たださっきはレッスンエリアには行かなかったので、当時と違って服とかもそのまま入っているやつですけど…。と、その間にリダさんが。


「もし落としたことを前提とするなら、何かを取り出した拍子に、かな? 飲み物を買ったり、タオルで汗を拭いたりとかはしたかい?」

「いえ…。レッスンに遅刻してしまいそうでしたから、ただひたすらに急いでました…。タオルはお菓子を仕舞う時に包むのに使っていて…もし砕けたりしちゃったら失礼ですから……」


時間がなくて焦ってこそいましたけど、大切にしなきゃと思ってそうやって仕舞い込んだはずなんです。最も…慌てていたせいでしっかり出来ていたかとかはちょっと怪しいかもしれませんけど……。けれどリダさんは顔を顰めたりは一切無さらず、うんうんと。


「成程。それでその後に迷ってしまって、ゲンさんに間違えられてしまったのか。今度ボクが彼に会ったらベルの良いトコ沢山伝えて、ファンになって貰おうかな」

「ひゅいっ!? そ、そんなことをしていただかなくとも!! それにゲンさんは、その…今…」

「おっとそうだった! キミのために何か作っているのも聞いているよ。フフ、受け取ってあげてね。彼なりの贖罪なんだ」

「はい!喜んで! でも……悪い事をしていたのは私ですのに……寧ろ私がゲンさんにお詫びすべきですのに……」


先程のゲンさんの様子を思い返すと、胸が締めつけられて痛くなってしまって…。だって、私さえいなければ……。


「おや、そんな風に考えちゃうのか。そうだね…なら、お詫びじゃなくてお返しをするのはどうかな。謝罪合戦になってしまうより、お礼合戦になるほうがずっと楽しいだろうしね」

「お返し…ですか?」


お詫びじゃなくて、お返し…。謝罪じゃなくて、お礼…。それで良いんでしょうか…? でも確かに同じ謝罪を繰り返すだけよりも、頂いた物へお返しをした方が喜ばれるかもしれません。ですけど……。


「何を…お返しすれば良いんでしょう…?」


私なんかには差し上げられるものは何もありませんし…。精々がアイドルのグッズとかですけど、ゲンさんはあまり興味がなさそうですし…こういうことに使ってしまうのはアイドルの皆さんにも失礼ですし…。


あ、なら、シレラさん達のユニット結成ケーキのお店のお菓子なら! あ…で、でも甘いのがお好きかはわかりませんし、まずはお聞きした方が――……。


「ハハッ! 物じゃなくても良いんだよベル。実はね…ボク達はキミが出来る、誰もから最高に喜ばれるお返しを知っているんだ…!」


「へ…!? そ、それって何ですか!?」


耳元で囁くようなリダさんへ、つい聞き返してしまいます! だってそれがあれば、迷惑をかけた皆さんへお詫びを…ううん、お返しをすることが出来るんですから! 一体それって……!?


「すっごいアイドルになる――オネカが宣言した通りにね☆」

「ふえっ!?!!?!!!!?」


そ、そ、そ、それですか!!? で、でも私は…そんな…!! でもリダさんは弾けるような笑みで――!


「キミなら間違いなくなれるさ! ボクもオネカも――オネカ?」

「ん~~~~?」


あれ、オネカさん…? 私の身体を片手でしっかり支えてくださりながら、顔ともう片手はリダさんとは反対側に。まだ鞄を見てくださっているみたいですけど…。


「ベルちゃ~ん、今言ってたこと本当だもんね~? 失くしたお菓子はタオルにくるんでいた、って~」

「え、は、はい」

「そうよね~。タオル持ってたのよね~。だから鞄にも入ってるのよね~…」


鞄の中を探りながら、入れていたタオルをひょいと取り出してみせながら、オネカさんはそう呟きます。そして、なんだか少し切り出しにくそうに…?



「でも~うち、ベルちゃんの忘れたタオル取りに行った気がするのだけど~…」


「え……あ。あっ!!? ああぁっっ!!!!!」



そ、そうですっ! そうでしたっ!!! レッスンに遅刻して、オネカさんに運んでいただいて、慌てて着替えて、その時にタオルが無いって気づいて!! それでオネカさんが取りに行ってくださって…!


え、じゃ、じゃあ……なんで、鞄の中にタオルが…? いえ入れたのは当然私です…再現するために、今朝入れた物をもう一度準備したんですから…! ……いつも入れてる物ですから、今日も入れたと勘違いしてしまったんでしょうか…?


い、いえでも…! 今しがたリダさんにお話した通り、頂いた差し入れお菓子をタオルで包んで鞄の奥底に仕舞ったのも間違いないんです! な、ならタオルは……お菓子は――――っあっ!!!!?



まさか……そんな、いやそんな…!? いやでも……私なら、やりかねませんっ!! か、確認しなきゃっ!!



「オネカさん! お、お願いが!! レッスン室に入る許可をくださりませんか!!?」

「んふふ~何か思い出したのね~♪ 勿論よ~! 早速行きましょ~!」

「約束通りここからはボク達が護衛を務めよう! 今度はこちらにおいで☆」


オネカさんは二つ返事で、今度はリダさんの中に連れられて…!? ひゃわ…! オネカさんとはちょっと違う、どこかすっきりとしたでも温かな感覚が…!


い、いえ感想を考えてる場合じゃ…! あ、でもミミックさん達がまたねと言うように跳ねて…! ここまで有難うございます、皆さん…! 今度、何かお返しをさせてください!


けれどまずは! オネカさんリダさん、どうかレッスン室までお願いします!!










「オ~プン♪ さあベルちゃん、どうぞ~」

「し、失礼します!」

「おっと、焦って転ばないようにね」


リダさんに運んでいただき、オネカさんにレッスン室の…更衣室の鍵を開けていただき、急いで中へと駆け込みます! リア様やサラ様、シレラさんやニュカさんやルキさんのロッカーを越えて、まっすぐにまっすぐに、私のロッカーに!


そして扉を開けて! 中を! 多分、私の予想が正しければ…私のやらかしが正しければ――――あっ…!



「あ…あった……あった!!!」



ありました……ありましたっ!!! 私のロッカーの中、棚の上に、! 大切そうに奥めに仕舞いこんではありますけれど、極めて普通に!! タオルでぐるぐる巻きにされている物が!


即座にそれを取り出し、灯りに晒して封を解きます…! 中身は――……あはは……あはははは…あははははははは……!


「お! 此処にあったんだね!」

「ほ~…良かった~♪」


はい……はい…! 此処にありました……良かったんです…!! タオルの中から出てきたのは、間違いなくリア様サラ様からの差し入れお菓子…! あの時ミミックさんから貰い、鞄に仕舞ったあのお菓子です…!


それがなんで普通にロッカーの中に入っているのか……あはは……。……とっても、単純な話だったんです…。本当、人に聞かせるのも恥ずかしいぐらいの……。


その……お菓子を頂いてから遅刻して更衣室に入ったまでは良いんですけれど……私、何を血迷ったか、このタオルの包みをんです……。


説明になるかわからないんですけど…寧ろ意味不明さが増すかもしれないんですけど…私これ多分、これ自体が『大切なお菓子が入った包み』って認識になってしまってたんです…。つまり…タオルを、剥がしちゃいけない包み紙みたいに思ってしまっていて……。


あ…はは……それで…………タオルが無いと思い込んでしまって……パニックになって……鞄をひっくり返して探して……。でも、頂いたお菓子は大切ですから、無意識にこうして安全なところに避難させていて……。それでもタオルのことには気づかなくて……気づけなくて……どんどんパニックが大きくなって……。


そこをオネカさんに救って頂いて、タオルを部屋から持って来ていただいて、レッスンに参加できて……。そのままレッスンが終わってもシレラさん達のユニット結成やネルサ様の話題に頭がいってしまって、無意識に避難させていたお菓子のことはやっぱり気づかないまま、鞄に仕舞ったことだけ変に覚えていて……。


寮に帰ってからも、waRosのライブの感想に集中しなきゃと思って、思い出せずにいて……。差し入れをくださったお二方から話題が出るまで……いえ…今、オネカさんに指摘されるまで……私、ずっと……ずっと……。



あ…は……はは……ははは…………なんて……なんて…なんて、間抜けなんでしょう私は……。自分のやらかしに最後まで気づけず、周りに……リア様サラ様、シレラさんニュカさんルキさんに……そしてミミックさん方に、リダさんオネカさんにまで迷惑をかけにかけてしまって……。私は……私は……私は――。



「フフ、見つかったことだし、気持ち良く眠れそうだね! お部屋までの護衛はお任せください、姫様☆ それとも、ボク達と一緒に朝まで――……っ…!?」

「大冒険の果て、お姫様はお宝を見つけたのでした~。な~んて♪ そ~だ、うち達もお部屋にお邪魔して、お休みの歌を~…え……ベルちゃん…!?」



「「泣いて……!!?」」



「え……? あ……。あ…………」


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