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顧客リスト№68 『忍者の忍びの里ダンジョン』

人間側 ある自惚れ生徒忍者と忍箱①

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「そろそろ試験の時期だね……。気が重いよ……」
「そうでござるな…。箸も止まってしまうでござるよ…」


昼休み時、里の一角にある定食屋へ訪れた拙者の耳にそんな会話が入ってきたでゴザル。見ると、拙者と同じ…されど、何も改造がなされていない普通でダサくてセンスの欠片もない指定の装束を着た生徒忍者男女が。


ハッ! 全く、見た目通りに平凡な連中でゴザルなぁ。だから試験なんてものを怖がるんでゴザル。それはつまり実力が無い証、もっと拙者を見習ってほしいものでゴザル。


うむその通りでゴザル。拙者もあの二人と同じ、生徒の身でゴザルとも。けど一緒にしてほしくないでゴザルな! 近々に控えた、忍技術にんぎじゅつ大試験に怯えるあいつらと一緒になんて…!


拙者のような――首元や脇腹部や大腿外部に鎖帷子風のメッシュを仕込んだ銀地のボディスーツ! それらを魅せるように取り付けられた息づくかの如く仄かに輝く発光装甲! そして手甲や布面頬や背にはドラゴンやタイガー、ナインテイル・フォックスの紋様をエレガントに染め抜いた、このオーダーメイド装束を着こなせないようなあいつらとは比べて欲しくないでゴザルな!



故に二人から離れた、されど話が聞こえる席に座り注文をするでゴザル。折角でゴザル、料理が届くまで、平凡連中の怖気声でも聞いてみるでゴザルか。


「――それにしても誘ってくれて良かったでござる。皆気が重いゆえに、食堂全体が……」
「だよねぇ。やっぱり僕も今の食堂で食べるのはちょっと…。溜息とかばっかりだし……」


フッ、どうやら同じく試験を怖がる連中から逃げてきたらしいでゴザル。拙者は普段よりあの食堂は使わないでゴザルゆえどうでもいいことでゴザルが。なにせあそこ、美味しくはあるでゴザルけどなぁ…。


「ぅう……話てたらまだ先なのに緊張してきた…! 今回も一発合格できるかな……!」
「きっと私達なら出来るでござる……多分。 はぁ…優しい指南役殿に当たりまするように…」


おっと、あの二人そんなことを。はぁ、同じ生徒の身として恥ずかしいでゴザルな。相手が誰であれ、忍術で殲滅してしまえば良いだけのこと。それが出来ないなぞ……ハッ、どうせ今までの合格もまぐれで拾ったものに決まっているでゴザル。


「でもさ、今回からは前までと違うもんね? なにせあの新しい指南役の方達から…!」
「ふふっ、そうでござるな。おかげで腕が上がったのは実感できているでござるし……!」


そして、互いに頑張ろうと頷き合う平凡二人。ハハハッ涙ぐましいでゴザルなぁ、拙者のような実力の無い者達の努力は。あの新人指南役達に頼るしかないとは――。


これは最近のことでゴザルが……拙者の住むこの忍びの里ダンジョンへ新たな住民がやって来たのでゴザル。それがなんとも奇妙なことに、忍者ではなかったのでゴザル。どんな者達かと言うと――。


「はぁ~い。ご注文の『鴨肉のガランティーヌ~季節の野菜や茸と共に~』、おっ待たせ~」


おぉ、丁度注文の品がやってきたでゴザル。しかし、その運ばれ方は奇怪。なにせトレイが宙に浮くように運ばれてきているのでゴザルから。最も正しく言えば、触手で高めに持ち上げられているだけでゴザルが。


そう、この者達がこの里の新たな住民でゴザル。身を伸ばしていても頭が机に届くほどの背の、脚は箱に収まりし魔物。『ミミック』にゴザル。因みにこの者は上位ミミックでゴザル。


「さ、召し上がれ~!」


小袖の店員装束を着たそのミミックに促され、拙者はナイフとフォークを手に早速食事を。フッ、このような料理は食堂では出ないでゴザルからな。こうして学校の外に出向かなければいけないのでゴザル。


それが食堂を利用しない理由か、でゴザルか? そうでゴザルとも。それと――。


「もう、また野菜も茸もけちゃってるの? 美味しく作ったんだから食べて欲しいわ」


――っ…! またでゴザルか…。その声で顔を上げると、向いの席にそのミミックが。腕を組み頬を膨らませているでゴザル。


「どう食べようが注文した拙者の勝手でゴザル」

「まあそうかもだけど。なら最初から野菜も茸も抜きで頼んでくれればいいんじゃない?」

「それでは不格好でゴザルからな」

「残すのとどっちが不格好かしら……」


やれやれと肩を竦めるミミック。と、今度は拙者を叱るように。


「好き嫌いなく食べないと強くなれないわよ~? 男の子なんだし一息に――」

「ハッ、拙者は既に強いでゴザル! 今まで文句を言って来た連中は指南役含め、忍術で黙らせてきたでゴザルとも!」


そんな一般的な文句が拙者に聞くわけないでゴザル。寧ろ、こう返してやるでゴザル!


「それに里長様も大の茸嫌いでゴザルが???」

「あらら…それを出されちゃうと辛いわ。でも折角だし、一口ぐらいどうかしら?」

「断るでゴザル」

「もう…お姉さん悲しいわ……」

「泣き落としが効く歳ではないでゴザル」

「あら、まだ可愛い顔してるのに? じゃあ……食堂のおばちゃんに密告しちゃっても良~い?」

「んぐっ!? そ、それは卑怯でゴザルぞ!?」

「うふふふっ! 冗談よ! じゃあ呼ばれたからこれにてドロン、ゆっくり食べてってね~」


言うが早いか、ミミックは目の前から姿を消したでゴザル。そして離れた席の客の元に現れ、注文を取りに。恐らく壁のからくりを使って移動したでゴザルな。


うむ、あのようにミミック達はすぐさま里に馴染んだでゴザル。そしてその一部は新人指南役にもなったわけでゴザル。なんでも忍ぶ技に精通しているらしく、あの平凡二人のように師事をする者が増えてきているようでゴザル。


けれどフンッ、何が忍ぶ技でゴザル! そんなの実力の無い者が怖がって隠れるために使う物、雑魚専用の技でゴザル! 面倒で時代遅れなダッサダサの技でゴザル!!


拙者のように強い者はそんなのを使わなくとも忍術だけで最強、どんな敵でも罠でも片っ端から倒して壊して一網打尽にすれば終わりでゴザル。無双するのが新世代の忍者でゴザルとも!


フッ、見てるがいいでゴザル。そんな拙者が次の試験で、古ぼけた頭の指南役をズババッと瞬く間に倒してのける瞬間を! そして拙者の前で参りましたと頭を下げさせてやるでゴザル!


やれやれ、でもそれだと流石に可哀そうでゴザルな。少しぐらい手加減するのもいいかもしれないでゴザル。クフッフッフ、強すぎるのも考えものでゴザルな!












「――ではこれより、『忍技術にんぎじゅつ大試験』を執り行う。今日の受験者は揃っておるかの?」


「「「「「「此処に」」」」」」


「宜しい。もはや説明も不要であろう。開始合図は鐘の音、それまでは束の間の安息とせよ」


言うが早いか、里長様は姿を消したでゴザル。後に校庭に残ったのは、拙者を含む複数人の生徒忍者のみ。天上に月が輝く中、冷たい風に乗ってそいつらの吐露が耳に入ってくるでゴザル。


「とうとう本番かぁ……。上手くいけばいいけどよぉ……」

「どの指南役が担当してくるかが肝ね……」

「…………結局全力を尽くすしかないだろ」

「ふぅうう……。よし、頑張ろう! そっちも!」

「えぇ、今日までの学びを存分に発揮するでござる!」


む? 以前定食屋で盗み聞きした平凡二人も交じっているでゴザルな。ともあれ、誰も彼もが緊張しているのが窺えるでゴザル。


そうでゴザル。この皆が寝静まる深夜に始まるのが、忍技術大試験。皆が怖がりに怖がっている試験でゴザル。なにせこれは普段の実技試験やペーパーテストとは違うのでゴザルからな。


毎日数人ずつ、制限時間は深夜のこの時間から始業の鐘が鳴る朝にかけてまで。フィールドはこの里全て使用可。最も町の方へ出た場合、誰かしらに気づかれたら即不合格という追加ルールがゴザルが。


それで何をするか。フッ、至って単純でゴザル。指南役との1対1――。それだけでゴザルとも。制限時間内に指南役を唸らせることが出来れば合格でゴザル。


指南役が仕掛けてくる攻撃から兎のように逃げ続けるか、持ち込んだ道具でがむしゃらに攪乱するか、雑魚のように隠れてやり過ごすか……学んできた忍の技や術、果ては環境を活かし挑むのがこの試験の肝でゴザル。


勿論、面と向かって戦うのもアリでゴザル。実力さえあればそれが最も早く試験を終わらせられる方法でゴザルからな。そして拙者は――




 ―――ゴォオオオォオン




「「「「「っ!!!」」」」」


む、開始の鐘が鳴ったでゴザル。この鐘が鳴るタイミングは指南役達の思うが儘でゴザル。束の間の安息なぞ大嘘、皆の隙を突いて鳴らしてくるでゴザルからな。これも常在戦場の心構えのためとかなんとか。心底意地が悪いでゴザルなぁ。


しかし今回の受験生徒はマシでゴザルな。なにせ音の聞こえた瞬間姿を消したのでゴザルから。何処ぞに潜んでいるはずの各指南役も恐らくそれについていったでゴザル。後はそれぞれ頑張るだけでゴザル。


拙者でゴザルか? そうでゴザルとも、全く動いてないでゴザル。わざわざ弱者のように忍ぶなんて、ハッ、虫唾が走るでゴザル!


前に言った通りでゴザル。古ぼけた頭の指南役をズババッと瞬く間に倒してのけるのでゴザル! 拙者は今までもそうして合格してきたのでゴザルからな!


フッフッ、やれ忍ぶ技が―なんて五月蠅い指南役は拙者の範囲殲滅忍術で悉く降参してきたでゴザルとも。全く、忍術の前では陳腐な忍ぶ技なぞ無駄の無駄でゴザル。今回もそれで華麗に決めて、気持ちいい勝利の余韻に浸るでゴザル。拙者tueeeをするでゴザル!


さて、もう拙者担当の指南役も何処かに隠れて見てるはずでゴザル。そんな余裕ぶった態度をとっていて、後の吠え面が楽しみでゴザルな。さあさあ、どんな忍術で負かせて――



 ―――ぐぅうう……。
「む……」


お腹が鳴ってしまったでゴザルな。どうせすぐに決着がつく試験だから兵糧丸なんか持ってきてないでゴザル。まああんなマズい物、幾ら腹が減っていても願い下げでゴザルが。


それに昼間、あの定食屋のミミックに拙者の好物詰め合わせを作って貰っているでゴザル。試験を終わらせた後に必死な他の連中を見物しながらゆっくり楽しむためにでゴザル。


だからこんな面倒事、さっさと蹴りをつけるとするでゴザル。早速印を、それそれと……――




「もう…減点に次ぐ減点だわ。イヤーッ!」



「!? もぐほぁっ!!?」



!?!!? ど、何処からか何かが飛んできて……拙者の口に刺さったでゴザル!? 面頬をつけていなかったら……っむ!? こ、これは!?


「ブ、ブロシェット串焼き!? ふぁ、ふぁひゆへにな、なにゆえに!?」


拙者の好物が一つが、それも拙者が好む具材しか刺さっていないブロシェットが、何でまた手裏剣めいて口へと!!? いや考えるまでもないゴザル! これは誰かが……恐らく拙者が華麗に倒すはずな指南役による攻撃で――……!


「『臨』、開始の合図が鳴っても身を隠すことをしない―。『兵』、しかも余裕ぶって警戒を怠る―。『闘』、それどころか皮算用に現を抜かす―」


っ!! こ、この声は……!? さっきも微かに聞こえた!? 一体何処から!? 


「『者』、集中の切れる空腹状態で任務…もとい試験に挑む―。『皆』、なのに食糧の用意は無し―。『陣』、それどころか忍具の準備すらほぼ皆無―」


むっ……えっ……!? 本当に何処からでゴザル!!? 近くのようで遠いような……!?


「『列』、印結びは隙だらけでそれをカバーする気もゼロ。『在』、急所狙いのアンブッシュでさえ防げない―」


と、とりあえずなんとかしなければ……! い、印を結び直して……って、口に串が刺さったままでゴザル…! まず引っこ抜いて……えぇとそして……!? 


「『前』、窮地に陥った際の対処は最悪レベル。はぁ…簡単に並べ立ててもこの酷さ。九字を切る前に首を斬られちゃっても良いの?」


――!! 拙者の背後に、何かが着地した音が! 姿を現したでゴザルな! おのれ、拙者をここまでコケにするとは! 薙ぎ払う前にその指南役が正体、見極めてやるでゴ…ザ……ル……――!!?


「アイエエエッ!!? ナンデ!? ナンデ!!?」


ナンデ!? ナ、ナンデ!!? た、確かに聞き覚えのある声の割に、指南役の顔が思い浮かばぬと思っていたでゴザルが……ゴザルが!!?



「ミミック!? ミミックナンデ!!!!?」


「ドーモ、ミミック・ニンジャです。 なんてね。うふふっ、お昼振りね~!」



あの定食屋の上位ミミックが、何故ここに!?!?!?!? 










「ということでキミ、試験は不合格よ。もう減点いっぱいすぎ!」

「いや待つでゴザル!? なんで、何で、ナンデ…あぁもう!」

「はい深呼吸深呼吸~。一個ずつ答えていってあげちゃうから。ね?」


定食屋ミミックに言われ、拙者はとりあえず呼吸を整えるでゴザル…。すぅ…ふぅ……定食屋での小袖ではなく、拙者のような全身にピッタリ張り付く戦闘用ボディースーツ忍装束を着ているでゴザルな…。いやそれよりも――!


「なんでここにいるでゴザルか!??」

「いえ~い、サプライズミミック! って、普通それは忍者が担当する理論よね~。面白くなってればいいれけど!」

「っ??? ま、真面目に答えるでゴザル!」


飄々とした様子のミミックに、つい怒鳴りつけたでゴザル! しかし彼女は一切悪びれることも怯えることもなく、『は~い☆』と元気に返事して答え直したでゴザル。


「それはキミの試験担当官だ・か・ら。因みに再試もお姉さんが担当するわ」

「試験担当官!? しかし定食屋で給仕や調理を……!?」

「うふふっ、それは世を忍ぶ仮の姿……とまではいかないけれど、お姉さんの本質は『密偵』でね」

「み、密偵でゴザル……!?!?」

「そうよ~。里長様から命を受けて、キミのことをずっと見ていたの。びっくりしちゃったかしら?」

「何で……」

「やっぱり知らなかったのね。元々お姉さん達って、里の皆の忍ぶ技を鍛え直すためにここに来たの。その一貫よ」

「ナンデ……」

「キミを、って? それは勿論、キミがその対象だからに決まってるじゃな~い!」


クスクスと笑うミミック…! その瞳は柔らかくも、拙者の全てを見透かしているような…!


「ずっと見てきたおかげでキミの呼吸タイミングや魔力の流れ、感情の機微による視線移動や身体反応は完璧に把握済みよ。それを活かし潜んでいたから、お姉さんがどこにいるかわからなかったでしょう?」

「ぐっ……」

「これこそ忍ぶ技の基本。そしてキミに潰滅的に足りていないものよ」


よ、余計なお世話でゴザル…! 拙者に説教なぞ……! 指南役のつもりでゴザルか…!? 給仕の服から、そんな…装束に……着替えて……まで……。


「あらあら、視線の動きも把握してるって言ったでしょう? どこ見ているか丸わかりなんだから!」


っ……! 小袖を纏っていた時はわからなかったでゴザルが……その胸は豊満で……! しかも、拙者を煽るようにむにゅりと寄せて…!!


「うふふっ、この装束素敵でしょ~? アストちゃんのにちょっと寄せて貰っちゃった! キミのほどはオプションつけてないけどね~」


クルリと回って見せるミミック…。見れば箱も、唐草紋様の千両箱に変わっているでゴザ――。


「あ、良い機会だから言っちゃうけど……。キミのその装束、忍者というよりも極道…いえ、ヤンキーっぽいわ。正直、可愛いキミには似合ってないわよ?」


「なっ!? ふ、ふ、ふざけるなでゴザル! 拙者が考え抜いたデザインをコケにするでゴザルか!?」


見惚れ…様子を窺っていたら急に罵倒してきたでゴザルッ! こ、この…! どこまで人をおちょくれば!!


「大体、拙者になにもさせず試験を終わらせるなぞどういう料簡でゴザルか!? せ、拙者が本気だったら、あっという間に逆転するでゴザルからな!」


「あらそう? じゃあ一度チャンスをあげちゃう! 今までのは全部見なかったことにして、試験続行してあげるわ」


「……何か企んでるでゴザルか!?」


怒りに任せてそう言ったら、まさかの返答を……! あまりに好都合な申し出に警戒し睨むと、ミミックは満面の――。


「ふふっ、いいえ。寧ろそれこそがお姉さんの狙いだもの。お姉さん、今日という日を待ち望んでいたのよ。こんな良い調教…けほん。教育の機会を!」


……っ!? な、なんだかゾッとする笑みでゴザル…!! もしかして拙者、誘導されたでゴザルか……?


「さ、まずはその串焼き食べちゃって! 何はともあれ腹ごしらえしないとね。ゆっくり待ったげる」


拙者が頭を悩ませていると、ミミックはそう促してきたでゴザル。いや、しかし……確かに良い匂いはするでゴザルが……。


「そう不安がらなくとも毒なんて仕込んでないわ。おかわりもう一本と、お茶もあるわよ~」


っ!? いつの間に拙者の真横に…!? 追加串と急須&湯呑を手に…! くっ……腹が減っているのは事実…!


「い、頂くでゴザル……!」

「は~い、召し上がれ~♡」


はむ、もぐ……美味でゴザルな……。うん…うむ……。とりあえず、次回からは金属製の面頬にでもするでゴザル。


…………あと、ドラゴンやタイガーやナインテイル・フォックスの紋様は消してみるでゴザルか。









「ご馳走様でゴザル」

「はぁい、お粗末様~。お昼に作ってあげたお弁当も帰ったらしっかり食べて頂戴ね?」

「当然でゴザル」

「うふふっ! じゃあそれまでに――しっかりお腹を空かせましょう!」


拙者の食べ終えた食器類を箱の中へ仕舞い、後方への鮮やかなる回転飛びにて距離を取るミミック。そして構えを取り、焚きつけるように手をくいくいと!


「差し当たり、キミの自慢どこを見せて貰っちゃおうかしら!」


――フッ、食事の礼は言わないでゴザル。寧ろ拙者が言うのは…煽り返しでゴザル!


「後悔しても遅いでゴザルよ!」

「相変わらずな自信でお姉さん感心~! 良いわよ遠慮な――」

「火遁ッ! 奥義『火の鳥フェニックス』ッッ!」


そして、アンブッシュの仕返しでゴザル! 瞬時に印を結び、口より噴き出したるは烈火の巨鳥! 人を容易く呑み込むサイズでゴザル!


そしてそれは地を焼き焦がしながら目にも止まらぬ高速突撃、そのまま敵を咥え上げ空高く高く飛び上がり――!


「爆散でゴザルッ!」


大輪の花火の如く、月夜に輝きと轟音を響かせ大爆発! ハッ、これぞ拙者の奥義でゴザル! これで今まで幾人屠って来たと――。


「お~得意げだっただけあるじゃな~い! 印結び時間はとっても短いし、威力も申し分なし!」


……なっ!?


「けど残念ながら褒められるのはそれだけかしら。大きさ任せで照準は適当、相手を捕縛できなければ動作半分が無駄。挙句の果てに空中で爆散爆音って、他の敵を誘き寄せるだけよ」


空を見上げていたミミックが、拙者へ肩を竦めて……! ば、バカな! 躱したでゴザルか!?


「折角火の鳥を名乗っているなら、科学忍法のぐらいには命をかけて飛び出さないとダメよ? なんてね!」


よくわからぬ冗談?を口にしながら余裕綽々と…! なら次は――!


「土遁ッ! 『砂漠柩さばくひつぎ』ッ!」

「あらら?」


捕らえたでゴザル! 足元の、校庭の砂を利用した捕縛忍術! ミミックの身は一瞬で砂にほぼ覆われ、囚われの身! そして――!


「このまま圧し潰すでゴザル! 必殺『砂漠――」

「やっ」

「ゴザッ!? 目が…目がぁっ!?」


目に……目に砂がっ……! ――しまっ……!?


「良い技だけど術者が隙だらけなのはダメダメ。それに次の術に移るまでの数瞬で緩みが出来ちゃってたし、そもそも回避しようと思えば回避できたし。おでこに『愛』って書くのも巨大瓢箪背負うのも認められないわ」


っく……首元にクナイが突きつけられてゴザル……! 拙者が怯んだ隙に抜け出してきたでゴザルか……! くっ…!


「『変わり身の術』ッ!」

「うんうん、これは及第点といたしましょう!」


拙者が忍術で難を逃れると、ミミックは変わり身丸太の上に乗ってクナイを指先でクルクルと…! この…このォっ……!


「拙者を怒らせたでゴザルな…! もう手加減は――!」

「あ、じゃあ次はこれね~」

「―っ!? 消えっ…!?」

「さ~さ~、当ってられる~かっしら~?」


身代わり丸太の上から消えたミミックの声が、何処からか……! 最初のアンブッシュと同じく忍んだ訳でゴザルな…! ハッ! 好都合でゴザル!


「当てるもなにもないでゴザル! そんなダッサダサの忍び技、こうすれば終わりでゴザルからなぁっ!」


いつも以上に念入りに、籠められる力を根こそぎ注ぎ込み、印を結ぶ! これで終わりでゴザルッ!



「超必殺奥義ッ! 風遁ッ『極悪殲滅大大大大だいだいだいおお竜巻』ィッ!」


印結びの終了と共に一回転すると、拙者を囲むように旋風つむじかぜが! それは瞬く間に勢力を膨らませ、強風、暴風、猛風、烈風……否っ!!!




 ―――ゴオオオォアアアアアアアッッッッッッッッ!!!!




ハッハハハハハッ!! どうでゴザル!! どうでゴザルッ!! 火遁土遁で荒れた地面なぞ浅い! 更に地の奥の奥まで削り、花火もかくやの高さまで巻き上げ――!


「全てを薙ぎ払うでゴザルッ!」


拙者の合図とともに、竜巻の径は広がってゆくでゴザル! 石や草を、鍛錬器具を、岩や木々を! ありとあらゆる物を取り込み、砕き刻み、弾き飛ばし、また取り込み――! 後に残るは無惨なる不毛な地!


しかし竜巻は留まらぬでゴザル! 夜闇すら怯えるほどにドス黒く染まり唸るそれは悪龍の如し! 広き校庭全てを薙ぎ、校舎全てを巻き込み、森の手前を破壊し尽くすその姿はまさしく天災! 天才の造りだしたる天災でゴザルッッッ!! 


フ、フフフ……!  さて、もう良いでゴザルか……。限界まで蹂躙し尽くしたでゴザル……。流石にこの必殺奥義は消耗が激しいでゴザルな……。うっ……。


拙者がへたりこむと同時に竜巻は消え、巻き込まれていた鍛錬器具地面に埋まる勢いで落下し、原型を失った岩や木は舞い散り……! ハ、ハハ……壮観でゴザル…!


ど、どうでゴザルか…! これであればあのミミックも……! ……嗚呼、今度店に寄った際は、礼の一つでも――



「あららら~…。ごめんね、ちょっと見くびってたかも。ここまでだなんて。耐久の術がかかってなかったら校舎も鍛錬器具も粉々だったでしょうし、木はそれでも細切れだものねぇ…」



……………………………………!?!!?!!!? な……な……な……ど……ど……!?


「何処に……!?」


「ん? キミの頭の上よ?」


言うが早いか、ミミックは拙者の頭上より降りて来て…! まさか……まさか……さっきの身代わり丸太のように、上に乗られていたでゴザルか!?


「成程ねぇ、そりゃ前までの試験で合格出る訳だ。お姉さんも結構なびいちゃったし~?」


ほ、褒められてるでゴザルのだろうが……ミミックには傷どころか砂汚れすら無い……でゴザル……。拙者の最大級の技が…いとも容易く……こうも容易く……。


「ま~でも? お姉さんを納得させるには足りなかったかな~。だって忍びの技で容易く回避出来ちゃったんだもの!」


ぐぅうっ…! なんという屈辱でゴザル……! たかが逃げるだけのダサ技風情に……っ!!


「あちゃ、もう心折れちゃった? なら今日は終わりにしよっか? お姉さんはそれでも良いわよ?」


歯ぎしりをしてしまっていると、ミミックは箱縁に腕組みと顔を乗せ、へたりこんだ拙者の顔を更に下から覗き込んできたでゴザル…! い……い…! 


「嫌でゴザルっ! 断るでゴザルっ! 拙者はまだまだ戦えるでゴザルッッ!」


大技の反動と忍術の源不足で鈍った身体に鞭打ち、ふらつきながらも立ち上がって見せるでゴザル! たかが拙者の数多ある必殺術が数個を破った程度でその態度……やっぱり礼は言わないでゴザルからな!


「うふふふふっ! 良かった、プライドの高さがプラスに働いてくれて! 忍者とは忍び堪える者、どんな苦境でも折れず挫けず忍んで堪えて、絶好の機を狙う者だものね~!」


そこは加点できちゃうわ! と言いながら先のように後方宙返りで距離をとるミミック。そして箱を漁り――


「じゃ、ここからはお姉さんのタ~ン♡ とりあえず場所を変えましょ、さ~逃げて逃げて~!」


と、取り出した大量の手裏剣を全て、拙者の足先数ミリへと投げてきたでゴザル!? あ、危なっ…! くううっ……!


「ほれほれ! どんどん出して、まだまだ投げちゃうわよ~!」


「ず、ズルくないでゴザルかあ!? そんな、箱の中から無限に取り出すなんて……ミミックは卑怯でゴザル……!」


「うふふっ! ミミックじゃなくても、忍者ならこれぐらいお茶の子さいさいじゃなきゃ! だって忍者が手裏剣を切らしているとこ、見たこと無いし見たくないでしょ~!」


そう言いながら手裏剣の集中砲火を続けてくるミミック…! せ、拙者、どんどん押し込まれてゆくでゴザルぅぅ……!
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