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閑話⑫
アストの奇妙な一日:グリモワルス女子会⑰
しおりを挟む「――……本当、垢抜けたわね。惚れ惚れするぐらいに」
私の提案……『秘書談義』という言葉を受け、降参と言うように肩を竦めたメマリア。そして操っていた髪から扇子を外しとり、恥ずかし笑み悶えるかのような口元を隠した。それはつまり……ふふっ!
さっき述べた通り、メマリアの包まれた言葉の意は全てわかったのだもの。確信をもって言えた。彼女がこうして冷静さを維持する扇子の内側に私を引き込み、珍しく高揚しているのは、私が魔王様について話せる相手だから…だけではないのだ。
そう……私が曲りなりにも『秘書』をしていること――。それが彼女にとって、とても大きなファクターとなっているに違いない!
魔王様の正体については、繰り返すようだが現在登城しているグリモワルス各位にしか話せない内容。だがしかし……『王秘書』についてはそれよりももっと少ない、というか同じ王秘書である彼女の両親祖父母にしか共感者がいないのである! ある意味、一族によって仕事分けをしているグリモワルスの欠点とも言えるであろう。
勿論、魔王様の秘密に比べれば気軽に誰にでも話すことのできる内容ではあるが……魔王様最側近の修練を始めたての彼女がそれこそ心を蕩けさせてお喋りできる部下なんて、恐らくまだいない。魔王様に次ぐ威厳が必要な役目なのだから。そのストレスも相まって模擬戦に熱を入れていたのだろうが……。
――けど、そんな彼女の前にその全ての不満を解消できる相手が現れたのだ。『魔王様の秘密を知っていて』『秘書経験もあって』『昔からの心許せる親友』である、私が! そんな奇跡レベルでうってつけなお喋り相手を前にしたら、彼女だってこうはなる。私だってそうなる。
……そう、私だってそうなる…! 今挙げた『奇跡レベルでうってつけなお喋り相手』というのは、メマリアから見た私だけじゃない。私から見たメマリアも、全く同じなのだ!!
社長やラティッカさん達や他のミミック達がいるとはいえ、将来の任とは違う秘書業、魔王様方のお話、それを話せる相手なんて……まさに奇跡と言っても過言ではない!
だからもう遮るものが無くなった今、私も彼女とお喋りしたくて堪らない! だから、メマリアが私と同じ思いであれば本当に嬉しいと、本当に思っていて――!
「最強トリオが御一人を師匠にしているのは伊達ではない、ということかしら?」
メマリアは図星を突かれた照れ隠しのように、目で社長を指し示す。じゃあ私も作り出した扇子で、彼女が浮かべているのと同じような笑み悶えを覆って!
「隠すのは得意じゃないかもしれないけど、探し当てるのは社長相手で大分慣れたから。なんて!」
「あら、どうやら敏腕な秘書のようね。ふふっ!」
あとは互いにクスクスと笑いあい、揃って手にした扇子が連結してしまうぐらいに顔を寄せ合って。皆が気づかない間だけの、二人だけの秘密の時間と洒落こもう!
「――それで、その時の魔王様は……もう貴女相手だし不敬を構わず言ってしまうけど、そのゴネられておられる姿はとてもとても可愛らしくて…! 兵や民へはあんなに素晴らしき魔王様をお見せになられているのに、そんな御姿を私なんかの前で見せてくださるなんて、王秘書として信頼されていると感じると同時にただただ純粋に愛おしくてたまらなくて……!」
「いいなぁ…! 私もその御姿、拝見したかったなぁ…!」
「ふふっ。先にお役目に就いた役得ね。でも、貴女も酒席で色々と頼られたと魔王様御本人から聞いたわ。私としてはそっちも羨ましいわ」
「あはは…! 魔王様、社長とオルエさんに攻められちゃって、私に助けを求める形でちょこちょこね。お酔いになられていることもあって、結構絡んで頂いちゃって…! 社長と私の取り合いをしてくださったり……!」
「あぁあ……! 聞くだけでお可愛らしい…! 良いわねアスト、お腹をすかせたベーゼじゃないけど、指を咥えたい気持ちよ…! 私が見たのは一応魔王様としてのお立場での行動だから、そんな心を完全に許しお蕩けになった御姿なんてまだ……! もっと詳しく聞かせて頂戴な…! あと、もっと話しても…?」
「勿論! 私も魔王様の可愛いエピソード、無限に聞きたいもの!」
扇子を握り潰さんばかりに感情を露わにしまくるメマリアに、私も同調。ふふっ、この熱量をメマリアが秘めていたなんて! びっくりするとともになんだか更に親しみが湧いてしまう!
揃って興奮し過ぎのてらいがあるが……一応、二人の周囲に防音系の魔法をかけておいた。ある程度声を大きくしても社長達には届かない程度の。おかげかまだ気づかれている様子はないが、それでも冷静さを維持しなければ、動きでバレてしまうだろう。
……でも、どうして冷静でいられようか! 無理に決まってる! 秘中の秘のコソコソ話なんて、盛り上がってしまうに決まってる! 話は更にヒートアップ!
「はぁ…どうしたら私も酒席を共にする栄誉に預かれるかしら……?」
「まあ私は社長のご縁で同席を許して頂けただけだから。それでもだいぶ説得に時間がかかったらしいし」
「でも魔王様のことだもの。嫌がられていたのではなく、ただ恥じらっておられただけなのでしょう?」
「えぇ、社長達曰くそうみたい。実際そんなご様子だったし、最初は謁見の形でお会いすることになったし。あの時社長の指示で仕事服で行くことになってしまったから、魔王様に謁見と聞いて本当気が気じゃなくて!」
「ふふふっ! その顛末はある程度聞いているわ。なんとも魔王様らしく、そして最強トリオらしいエピソードね。 ……私も貴女みたいに最強トリオの下につけば良いのかしら?」
「えっ!? いやいや…いやいやいや!? だ、ダメだし、オルエさんはちょっと危険……ってそうじゃなくて! というよりそれ…!」
「うふふふっ! 勿論冗談よ。魔王様こそがその一角であらせられるのだしね。 ただ真摯に王秘書としての精進を続け、魔王様に認めていただくのが一番の近道なのはわかっているわ。いつになるかは魔王様の御心のままだから、少しばかり焦れてしまうのだけど…」
「ちょっとズルい手段になるかもしれないけど……社長に頼んで魔王様を説得して貰うのはどう? どんな形になるかわからないし、素敵な決意をしたところに水を差――」
「――是非お願いして良いかしら…!」
「…ふふっ! わかったわ。まあ説得して貰えたとしても、いつになるかはわからなそうだけど……」
「構わないわ。それだけで希望が持てるもの! 持つべきものは親友ね」
「現金なんだから! ふふふっ!」
と、そんな風に冗談を言われたり約束をしたり――!
「――さっき言っていたけど、マネイズさんを傍に呼んだの? 実は彼女……」
「あら、貴女も目をつけていたの? あぁ、そういえば彼女が担当していたダンジョンもミミック派遣対象だったわね。ふふっ、彼女、私よりも秘書らしいかしら?」
「もう…! 答えに困ることを…! だって貴女はそれ以前に親友だもの。そうとしか見れなくて。それに、そもそもアドメラレク家は秘書のお手本とするには格が違い過ぎるでしょう」
「うふふ…アストからそんなことを言われる日が来るなんてね…! コホン、それはさておき、あの方の書類作りセンスは群を抜いているわよね。あがってくる書類の中で一際輝いているもの」
「あれを見たら、参考にしたくなると同時に……」
「秘書としての血が騒いでしまうわね!」
「「ふふっ!」」
「――ところでアスト、先日御社に勇者一行の資料が送られたでしょう? あれはどうだったかしら?」
「へ? あのアドメラレク家作成の? マネイズさんのと同じくらい読みやすくてわかりやすかったから、凄く有効活用できたけど……――って、もしかして!?」
「ふふ…! 彼女に教示を頼んだ甲斐があったというものね」
「やっぱり! メマリアが作ったものだったの!? ぅう~…! それを見抜けてたら今日のは…!」
「うふふふふっ!」
と、共通の知り合いの話で盛り上がったり、更なる種明かしをされたり――!
「――そうそう。さっきのアスト、とても参考になったわ」
「? さっきの、って…?」
「あの御二方を…特にミミンさんを叱りつけたことよ。あれは惚れ惚れしたわ。勿論皮肉なんかではなく、純粋にね」
「えぇ……。褒められてる…のよね……?」
「ふふっ勿論よ。実は私、悩みがあってね。王秘書の身であるが故、必要であれば恐れずに身を張り魔王様を諫める――それがアドメラレク家の家訓が一つなの。けど…私は修練中の身であるし、あの魔王様を諫める方法なんてどうにも……」
「あぁそういう…! あんな姿を参考にされるなんて大分恥ずかしいけど……。メマリアの役に立てたのであれば嬉しい……――」
「いえ、まだ足りないの…! どうかもっと詳しく、諫め方を教えて頂戴…! きっとあの様子だと、日常茶飯事とまではいかないだろうけど、普段からよくやっているのでしょう?」
「いや……まあ……たまに? 社長、結構やんちゃだから……。お仕事からちょこちょこサボって逃げるし、中々の頻度で振り回してくるし、子供みたいな駄々を言うし……。だから私が叱って、許して、誘導してあげないと――」
「そう、それよ! 私が今欲しているテクニックは! 自らの上役を宥めすかし、気安く執務に取り組ませることのできる、貴女のそのテクニックを…! ミミンさんと魔王様、性格は違えど心の核は似ているわ。だから、ご鞭撻をお願いしたいのよ。アスト師匠?」
「師匠、って…! ふふ…ルーファエルデの言う通り、向上心の塊ねメマリアは。社長と魔王様が…そしてオルエさんの三人の内側がそっくりなのは私も同意。けど魔王様相手にどれだけ通じるかはわからないし、あの御方のことだからやり過ぎずに甘えさせるのを多めにしたほうがいいと思うけど…」
「ふふふっ。流石アストね。一度の酒席だけでそれも見抜いたなんて。師とするには心強いわ」
「もう……! じゃあ、コホン。私は社長相手がサボったときにはね……――」
「……――成程…。押して急に引くのね。それで不安と罪悪感を煽って……策士ね…!」
と、請われたり、教示したり――! メマリアのことだからきっと私よりも使いこなすだろう、上役相手への説教術! ふふふっ、彼女が魔王様の傍で控えつつ、王秘書として魔王様を色々な意味で補佐をする日が楽しみである!
勿論、これだけではない。今まで溜まりに溜まったお喋り欲求はこの程度では収まるわけがない! 社長達が気づいていないかチラチラ確認しながら、今度はちょっとした愚痴の言い合いに!
「――それで、そんな状況なのに社長が急に予定を変更してね。その時のスケジュール調整はちょっと大変だったかな……」
「ふふっ。私も同じことがあったわ。本当綱渡りだったわ…! あとはやっぱり複数同時来客時の対応が大変よね。緊急性の高いものをより分けるのが特に。可能な限り迅速に詳細を聞き出し突き止め、魔王様へ繋ぐのは毎回気を揉むわ」
「わかる…! 凄いわかる…! うちの場合は来客というよりも依頼だけど……本当にそれは大変。しかもそういう時に限って一気に来るから……!」
「なんなのでしょうね、あの現象…! やりがいはあるのだけどね。更にそこへ管理業務や手配業務も挟まってくるからもう……!」
「ね! そういう時は幾ら魔法を駆使しても足りないぐらい! 最大何体の使い魔を同時操作したことやら! 社内に溢れるぐらいには出したもの。 メマリアは?」
「私は髪の方が動かしやすいからもっぱらそっちね。それでも全部動かすことになった時があって、その際は報告に入って来た兵が腰を抜かしてしまったかしら。急に闇夜が現れた―とか言って」
「あはは! あるある、あまりにも鬼気迫り過ぎて、他の人をびっくりさせちゃうこと! 流石にそれぐらいのことは滅多にないとはいえ……」
「金輪際お断り、って気分ね! うふふっ! ――やっぱり務める場所は違えど、秘書の苦労は変わらないわね。けど、その分……」
「えぇ! 社長の魔王様の…仕える方の笑顔と感謝があるから報われちゃう! しかも頑張れば頑張るほど可愛らしい御姿を見せてくれるから、それを護れるのであれば…!」
「我が身果てても悔いはない――。ルーファエルデじゃないけど、それぐらいの覚悟は持ててしまうわね」
「ね!」
「「ふふふふふっ!」」
もう……もう……楽し過ぎる! メマリアとのお喋りが止まらない! 口に出るまま、空気に流されるままポロポロ話してしまうのだ! やっぱり今日だけでは済まないと今度個人的に会う約束をも交わしつつ、今度は――!
「――それで、これがその時の写真。社長のだらけっぷり、凄いでしょう?」
「はあぁ…! お可愛らしい…! 良いわね、魔王様の写真は撮ってはいけないから……。でも、ミミンさんも魔王様と同じぐらい愛くるしいわ……! もっと見せて貰えないかしら…!」
「いくらでも! えっとね…これは朝の寝ぼけている時の写真集。毎朝こんな感じだから沢山あって。もう容姿も相まって完全に子供みたいで…――!」
と、不意に出た話から私秘蔵の社長アルバムを見せることに! 魔法陣上に幾つも表示し、社長の可愛らしく緩みまくりなお顔をメマリアと一緒に観賞を――……!
「……アストとメマリアちゃん、二人でこそこそ何話してるのよ~……」
「わっ!? 社長!?」
「ミミン様!?」
びっくりしたぁ!! 私達の目の前に展開した写真表示魔法陣、及び内緒話のために開いていた扇子の奥……丁度私達の壁となる形で、社長が机の上に!!
慌てて社長の影からチラリと見ると、どうやら他のメンバーは未だ歓談中。……というよりオルエさんに舌で(言葉という意味)弄ばれてる。私達の密談に気づいたのは社長だけらしいけど…。
「えぇと……ミミン様、これは……」
さしものメマリアも少したじろぎ気味。と、社長は照れ隠しのように深く息を吐き……。
「様なんて重苦しいものつけなくて良いわよ。さっき二人で話していた時みたいに気楽にして頂戴な」
「……! 聞いてたんですか…!?」
その台詞でハッと気づき、私は問う。すると社長、ふふん、と胸を張って――。
「私、ミミックよ? ダンジョンの行く先で常に待ち構えてる魔物よ? 聞こうと思えば遠くの路地で針が落ちた音ぐらい聞けるの、知ってるでしょう?」
確かに…。ミミックはそういう魔物。この程度の防音魔法なんか意に介さなくて当然か。……でも。
「『聞こうと思えば』ということは……気になってたんですね? 私達の会話」
「ンぐ……! ……そりゃそうでしょ…。私とマオの話なんだから。耳をそばだたせたくなって当然じゃない…」
張っていた胸を今度は縮め、むぅっ……とうら恥ずかしさで頬を染める社長。しかし面目が立たないと思ったのか、また背を伸ばし、腕を組んで――。
「全く……人が黙っているのを良い事に、結構恥ずかしい話まで暴露してたじゃない? そういうのは――」
「お仕置きの一貫、ということで」
「――うっ……。言うわねぇ…。それ持ち出されたら何も言えないじゃないの……。メマリアちゃん、『参考になる』みたいな顔して笑わないでよ……」
社長、クスクス笑うメマリアへツッコミつつ、またちっちゃく。散々やられたんですもの、これぐらいは許して貰わないと!
「はぁ……もう良いわよ。好きなだけ話して頂戴な」
もはや敗北を悟ったらしく、社長は全てを放り投げるかのように手をヒラヒラ振る。と、そのまま私の膝の上に戻って来て……。
「でも…ここからは私も入らせて貰うわ!」
「遠慮はしませんよ?」
「えぇ! その分、マオの恥ずかしいトコ喋りまくってやるんだから! そもそもあの子があんなお願いしてこなきゃ、こうして駆り出されることも、アストに怒られることもなかったんだから!」
プリプリと怒りを露わに、鼻をフンス!と鳴らして。……魔王様の恥ずかしい御姿なんて、垂涎もの……! 思わずゴクリと喉がなっちゃう……!
……――だが。それよりも前に気になることがある。実は先程からメマリアと話していて、どうしても腑に落ちない疑念が胸の中に芽生えてしまっていたのだ。それが今の社長の一言で、一気に成長してしまった。
チラリとメマリアを窺うと、彼女も同じ思いを持っているのだろう。私へ頷きを返してきた。後ろ髪を引かれる思いだが……聞いてしまおう!
「社長……。本当なんですか?」
「ん? 何が?」
「その魔王様からのお願い……密命。それ、本当に『私達が次代グリモワルスに相応しいか確かめる』というものだったんですか?」
「………………なんでそう思ったのかしら?」
私達に背を向けたまま、先程までとは打って変わって深沈たる声を発する社長。私達はその様子に怯えることなく、自らの推論を明らかにした。
「単純に、違和感を感じているんです。その密命内容は確かに利には敵っているとは思いますが……」
「あの魔王様がそのような命を出すなんて……。とても信じられませんわ。そのような御性格ではありませんでしょう?」
そう――。直接魔王様にお会いした私とメマリアにしかわからないことであろうが、どうにも納得いかないのだ。魔王様は先も述べた通り、とてもシャイな方。そんな方が、このグリモワルス女子会に乱入させる形で、気の置けない友人であるとはいえ社長とオルエさんを送り込むだろうか。
「残念ながら警戒されてしまっているのでしょう。私の魔眼『要眼』では真偽は読み取れませんでしたが……。だからこそ際立ってしまいましたわ。アストの説教を受けている際のミミンさんの一言が」
「あの時社長、『理由はここでは話せない』と仰っていたじゃないですか。ですがベーゼの魔眼を受けて、即座に話しましたよね?」
「あれはオルエが勝手に話してしまったからよ?」
「社長であればオルエさんの言動を予測できるでしょうし、止めることすら出来たはずです。密命なんですから。そもそもオルエさん自体も社長達と同じく隠すべきところは隠すタイプですし…………多分……」
「仮にそうでなかったとしても、妥当性の確認としては少々手段が歪すぎますわ。私達を好き放題に弄ぶだけ弄んで、それで問題なしだなんて……普通に考えればおかしい話ですもの」
メマリアと私、私とメマリア。交互に問い詰めてゆく。それを受け社長は――。
「――ふっふっふ……ふふふふふっ! 合格! 次代アスタロトとして相応しいわ!」
「「!?」」
「……なんてね! 本当、マオの未来は安泰ねぇ。こんな素敵な子達が育っているなんて!」
くるりと振り返り、満面の笑みで私達の頭を撫でてきた…!? え、これはどういう……!?
「お察しの通りよ。オルエが言っていたのは口から出まかせ。……いや、全部が全部嘘ってわけじゃないんだけどね。ただ、本当の『マオのお願い』は別にあるわ」
「「と、言いますと……?」」
「内緒☆ マオの面目のためにね。でも、察しの良い二人のことだもの。すぐにわかると思うわ。もうそろそろだし」
「「すぐにわかる…? もうそろそろ…? あの、仰っている意味が――」」
社長の謎めいたウインクに、私とメマリアは揃って首を捻ってしまう。一体どういう……――。
―――リリリリリリリリリリリリンッ!!!!!
「わぁっ!?」
「な、なに!?」
「これは…!?」
「ベルの音!?」
突如場に響き渡ったのは、けたたましいほどのベル音! ベーゼもネルサもメマリアも私も動転する中、社長とオルエさんは『あぁ、もう?』と言うような感じで落ち着き払ってる…!
そしてそれは残るもう一人……ルーファエルデも!? 彼女は懐から懐中時計を取り出し、時間を確認しだした。どうやらそれが音の元のよう。
「あら! もうこんな時間! 楽しい時が流れるのは早いものですわ~! では皆様、一旦休題としてくださいまし!」
ベルの音を止めながら、私達へそう指示する彼女。こんな時間、って…。女子会はまだまだ続けられるはずだけど……。
そんな私達の疑問に答えるように、ルーファエルデは皆を見渡す。そしてベル音にも負けないような張りのある声で、宣言をした。
「会の始めに申し上げました、『とある重大な御予定』の時刻と相成りましたわ! 準備をいたしましょう!」
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