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閑話⑫
アストの奇妙な一日:グリモワルス女子会⑨
しおりを挟む「へっ……。……あっ。 ――っ!!!」
し…し……しまったっーー!!? そう言えばルーファエルデ、一度たりとも勇者一行が女性パーティーだってこと口にしてない!!
さっきのベーゼやネルサとは違い、完全に自分で墓穴を掘ってしまった……! マズい、だって……!
「それは公にされていない情報よ? 当代各位やバエル家には事情が事情だから伝わってはいるけど……何故アスタロトの令嬢である貴女が知っているのかしら?」
ぅっ……! メマリアが睨みつけてくる……! そう、アドメラレクの名で送られてきた勇者一行についての資料は、全て機密扱いだったのだ! 本来、口外無用なのである!
コロシアムが楽しくて気を抜いていた節はある……。ルーファエルデの褒め言葉にちょっと浮かれていた節も……! そして何より、この場に集っているのがグリモワルス令嬢のみ、というのも……!
それらを言い訳にすることなんてできないけど、つい喋っちゃうなんて……! というよりまさか、気づかれるなんて……!
「一体どこから聞いたのかしら? 正直に答えなさいな」
詰めてくるメマリア……! ど、どうしよう……! なんとか誤魔化す……なんとか誤魔化せるのは……!
「え、えっと……昨日、お父様お母様から話を少し聞いていて…! そういう事情だとは知らなくて……!」
……思わず両親を売ってしまった……。私、酷い……。――けど、メマリアは納得してなさげ……!?
「アスタロト様方が? あの方々が娘とはいえ、漏らすかしら?」
うっ…確かに……! だって、つい最近まで社長と旧知の仲であったこと隠してたんだもの…! そんなことしなさそうなの、私が一番わかってる!
……あ、でも。社長と知り合いで、その社長の会社から上級者向けダンジョンへ派遣があって、それがルーファエルデが言っていた『協力者』だから、その繋がりで……――
――いやだから! その社長関係を今隠しているんだって! それを明かさないように今まで頑張ってきたというのに! そんなことを説明したら全て台無し……!
「本当は誰から? 怒らないから仰いなさい」
「いや……その……だから……えっと……」
かといって、何か他の打開策が思いつくわけでもなし……! うぅ……両親の名誉と、私の友人関係、どっちかをとるかしかないの……!? そんな……――。
「随分と歯切れが悪いわね。 なら……私の魔眼『要眼』で見てあげようかしら?」
――!? そんな!?
……メマリアの魔眼、『要眼』。その能力は、まさに王秘書を担う一族に相応しい能力……! 端的に言えば、『目に映したものの要旨要約要点を見抜く』というもの!
報告書や論文と言った文章は当然のこと、絵や物語等の要も把握可能。そして……人が話している内容にすら、その魔眼は効果を発揮する!
更にそれだけではない。話の要がわかるということは……応用すれば『嘘をついているか否か』もわかるということ。嘘をつく誤魔化す相手を騙すといった目的がメインとなることで、口にしている内容はそれを隠すためのカバーとなる……即ち、話の『要』と認識されなくなるのだから!
勿論、メマリアがその応用技を身につけていない訳が無い…! もう公務修練をしている身なのだもの…! というより、何度かその精度の高さを見てるし!
「構わないかしら?」
「そこまでする必要はないと思いますが……」
「まあメーちゃんが気になるなら?」
「あっすんだし、別に良さげな気ぃすっけど~……」
メマリアの申し出に、渋々ながら承諾するルーファエルデ達……! そして、私にその権利はない……! 皆、察したのだ。もうこれは、さっきまでのキャッキャッとはしゃげる魔眼タイムじゃない!
いや私にとってはさっきまでのも基本冷や汗ものだったのだけど! ……これはその比ではない。審尋の時。情報漏洩元を探るための取り調べに他ならないのだ!
……もう終わりかも……。ここまでずっと誤魔化してきたけど、要眼を出されたら……。多分、どう答えても『私が何かを隠していること』は話の要になってしまうもの……。
「もう一度聞くわね。勇者一行について、誰に聞いたの?」
「……昨日実家に戻った時、両親から…。口ぶりからそうかもとは思っていたけど、実際には知らなくて……。つい今喋ってしまって……」
開いた扇子をパチンと閉じ魔眼発動をしたメマリアへ、私は訥々と答える……。せめて最後の抵抗に、さっき言ったことと矛盾しないように……。でも、こんなのすぐさまバレる…。全部……――
「――あらそう! なんだ、本当のことだったの。なら私がとやかく言えはしないわね」
……ん? へ?? え???
「変に勘ぐってごめんなさいな。許して頂戴ね」
なんで……? え、なんで…? メマリア、え、なんで???
彼女の魔眼であれば、間違いなく私が嘘をついていることは見抜けたはず…! 特に私、完全に諦めていたのだから。少なくとも、両親から事情を聞いたという話は要にはなっていないはずなのだ。
なのに、なんで…? ベーゼの主催眼やネルサの親睦眼のように能力の裏を突いた、とか? いや、そんなことは…。彼女の魔眼の弱点となるのは、無言を貫かれることぐらいなのだし。そしてそんなことをしたら疚しいことがあるのがバレバレだから実質無意味だし……。
……わからない。なんで嘘が気づかれなかったのかわからない……。魔眼が何らかの理由で不調とか? あとは、魔眼は正常に発動したけど本人が理解しきれていない、とか……? でも……――
「でも、なんだか少しおかしい感じがするわ。そうね……」
――! メマリア、やっぱり気づいて…? 少し思考する素振りを見せた彼女は、小さく身体を震わせてしまっていた私へ問いかけを……!
「アスト、これは私の推測なのだけど……。ご両親へ、貴女から話題を振ったのではなくて?」
「……へ?」
何を言ってるのメマリア…? 推測って…? いや、別にそんな話はしてないのだけど…。会社でのお仕事の話とかはしたけど、勇者一行については特に……。
「あら、違うの? 魔眼の解からしてそうだと思ったのだけど」
「えっと……」
私の困惑気味の返答に、おかしいわねとに首を捻るメマリア。するとルーファエルデに話を向け――。
「ルーファエルデ、知っているかしら。その勇者一行をバサク殿と共に押しとどめている『協力を仰いだ方々』のこと。あの方々、実はミミックなのよ」
――っ!! そ、それは……! 我が社の派遣した……! ……って、ルーファエルデも驚きの顔を浮かべている?
「まあ!? そうなのですか!? いえ、私も存じ上げなく…。何分機密性保持のため、現場外の者には詳細は秘匿されておりまして……」
……そういえばルーファエルデ、そのことを話す際に『~のよう』と誰からか聞いた口調であった。確かに全部知っていたらバサクさんの協力者がミミック派遣会社の者だって把握しているはずだけど……さっき何も言ってこなかった。……って、メマリア…!?
「そうね。私もその程度しか聞かされていないの。でも、バサク殿と肩を並べられる存在なんてそう多くはないわ。ならそのミミックは……アストの師、またはそのお知り合いである可能性が高いのではないかしら?」
「! あぁ成程! これほどまでに成長なされていたアストの師が、件の協力者! 確かに腑に落ちますわ~!」
「えぇ。そしてその方がアストとの鍛錬の最中、暗にでも口を滑らせてしまって。気になったアストはご両親へと聞いて。そしてアスタロト様方はこの女子会のこともあり、答えた――。これが私の推測よ」
答え合わせを求めるように、改めて私の方を向くメマリア。ルーファエルデも心底合点がいったと頷きを。
「私がこの場を借りて皆様へ協力を願うことは予めお父様方との相談の上のこと。もしかしたら、アスタロト様方にも伝わっていたのかもしれませんわね。それならば機密とはいえお話するのも納得がいきますわ~!!」
「あーそういう! ありえっかも★」
「アーちゃん、どうどう? どうなの?」
ネルサとベーゼも目から鱗といった様子で膝を打って……! え、えぇと……!
「じ、実はそうなの……!!! その通り!!! 師匠が実際に関わっているかはわからないんだけど!!!」
もうそう言うしかない!! 乗るしかない!! メマリアがなんでそんな憶測に至ったかはわからないけど……全部騙し通せるそれに乗じるしかない!!!
それに、私の師がミミックであって、そこから情報が伝わったというのは間違いではないのだもの!! 派遣した子達にとって師は私(と社長)の方なのだけど……もうそれでいい!!! そういうことにしておこう!!!
――というかメマリア! ミミック派遣会社のことを知らなかったのは有難いけど……! 貴女も――!
「機密を話してしまっているの、メマリアもじゃない!」
「……あらそうね! ふふふっ、アストを責められないわ!」
また扇子を開いて笑みを隠す…いや全く隠しきれていないメマリア。先程の張り詰めた空気はどこへやら、一気に場が打ち解けた……!
全くもう……なんだかあっさり助かったけど、心臓に悪い……。糸で綱渡りしている気分である…。いや、地雷原の上を歩いている気分である……!!
「――そうだ。今の話で、貴女の交友関係で思い出したのだけど……。そろそろあの話、お願いして良いかしら?」
「……あの話って…?」
「一番初めのよ。『魔法の宝箱』シリーズについて!」
「ぅっ……!」
メマリア……話題を変えてくれたのは有難いけど、そっちも地雷…! いや地雷原なのだから、どこもかしこも爆弾まみれなのだけど!
「そうですわ! その心惹かれる話題がまだでしたわ!」
「待ってました! あーし超気になってたし★」
「さっきはお腹ペコペコだったから遮っちゃったけど……今はアタシも聞きた~い!」
そしてルーファエルデ達も興味津々。話したくないで誤魔化せる雰囲気ではない。こうなったらもう、出来る限り爆発させないように無理やり走り抜けるしかない!
「話すのは構わないけど……何が聞きたいの?」
とりあえず、探りを入れてみる。すると最初に手を挙げたのは――ネルサ。
「はいは~い★ どこで買ったん? あーしも欲しいんだけど、どこ行っても無くて! てか売ってるとこ限定されてるじゃん?」
最初から回答に困る質問が……! ま、まあでもこれは正直に……。
「えっと……。実を言うと、お店で購入したものじゃなくて。ラ…職人さんに直接頼んで作って貰ったの」
「ふふっ、やはり噂の職人と交友があるのね」
結果的にメマリアの予想通りと。そのほうが矛盾は生じないし好都合である。――と、今度はベーゼが羨ましそうな声をあげた。
「アストちゃん、い~な~! だってその人、『個人からの依頼は受け付けない』って言ってんでしょ~?」
「それどころか、『正体が詮索されるようであれば二度と箱を作らない』と仰っていたと聞きましたわ。とても気難しい方だとも」
ルーファエルデもそう加わる。――が、そこでネルサが小首を傾げた。
「え、マ? 確かにその話は知ってっけど……性格そんなだっけ? あーし、よく笑う楽しい人だって聞いたし?」
「あら。私は堅実で真面目な方だと聞いたわ。他の買い手のため、買い占めは控えてくれと頼んでいると」
「アタシは結構内気な人だって聞いたけどな~。え、どれが本当なの???」
メマリアとベーゼまで。全員バラバラ、見事なまでの情報錯綜っぷり。よくもまあここまで…!
恐らく、ラティッカさんの『適当に誤魔化しておいて』というお願い通り、各店主の方々はそれぞれ適当なことを吹聴しているのであろう。なんだかいい感じにラティッカさん像からズレているもの。
強いて言えば、ネルサが聞いた性格が一番的を得ている。彼女のコミュ力によって、ちょっと本当のことを引き出されてしまったに違いない。当のラティッカさんにこのこと話したらその通りに笑いそうである。
まあ最も、ラティッカさん一人で作っている品ではないのだけど。あれは箱工房謹製。販売数が少ないのはただ単純に――。
「どの性格が正しいとかは言えないのだけど……どれもこれも趣味で作っているものみたいで。あまりそればかりに注力していると本業に差し支えるから断っている――って言っていたかな」
ということ。前にも述べた通り、箱作り大好き職人達による暇潰しなのだ。下手にグリモワルスから大量受注が入ると、そればかり作らされる羽目となってしまう。そうなるとミミック派遣会社は困るし、そもそも本人達が嫌がる。だから所在を隠しているのだもの。
「それならば致し方ありませんわね」
「製作打ち切りなんて憂き目には遭いたくないものね」
「ま、気長に待つしかないっしょ★」
「そのほうが美味しさ悦びひとしおか~」
受け入れてくれる皆。――けど、またもベーゼがぽつり。
「でも、似たのでいいから作れたらなぁ~」
うーん……。作り手に近い立場だからこう言うのもどうかと思うけど…それは確かにアリかもしれない。何分生産数がかなり限られているし、グリモワルスが欲しがったら他の人達には簡単に届かなくなるし。
ラティッカさん達もお金儲けではなく、暇潰しで作ったものが場所をとるから売り始めた感あるし、類似品が出回ってもまあ……そんなに気にしなさそうかも?
「あーそれなんだけどさ~。なんかムズいっぽい? 他のグリモワルスでもそんな話になって、じゃあやってみよ~★ってなったみたいだけど――」
と思ったら、ネルサが? やっぱり、この場にいるグリモワルスメンバー以外にもあの箱は人気のようで。そしてその発想に至った人は居たみたいだが……?
「使われている魔法の術式、それを収められて機能してる箱の性能、どれもヤバいぐらい凄腕らしくて! 真似ようにも簡単には無理なんだってさ! ぶっちゃけ、あの値段で売ってること自体ヤバみの極みなんだと★」
そんなレベル…! あれ、ラティッカさん達に簡単に作って貰ったけど…そこまで凄い職人技の結晶だったとは。……まあ、魔法の術式の方は――。
「――あぁ! もしかしてそういうことですの! 皆様、少々失礼」
あれ、急にルーファエルデが召使ベルをチリンチリンと。すぐにメイドが入って来て、ルーファエルデに耳打ちされ、どこかへ向かって……すぐに何か抱えて戻って来た。あれは……。
「魔法の宝箱?」
「えぇ、そうですわ!」
バエル家メイドが持ってきたのは、先程から話題の的となっている魔法の宝箱。バエル家の紋章がついて専用品となっている。ルーファエルデはそれをパカリと開け、中をしげしげと覗き込み――。
「ウフフっ! 常々感じておりました通りですわ~! この魔法術式、アストの癖が出ておりますわ!」
「――えっ!?」
私の癖って!? そんなのあるの!? ……いや、あるとするなら大当たりなのだけど!
「ということは~……アーちゃんが作ったってこと!?」
「なるほ~! なら凄いのなっとく★」
「共同生産者。それなら個人的に作れるのも当然ね」
「えぇと……正しくは魔法提供しただけなのだけど…」
仕方ないからそれも明かそう…。容量の何十倍の物を仕舞えるようにする術式は、確かに私がラティッカさんに頼まれて組み立てた代物。それを利用してラティッカさん達は魔法の宝箱作りをしているのだ。共同生産者、というのはちょっと違う気がするが…深くかかわっているのは間違いないのである。
……しかし、それを術式の癖?からパッと見抜くなんて。マジさするふぁ……。
「確かに言われてみればあっすん感あるわこれ★」
「おぉ~ホント! アタシ気づかなかった~!」
「灯台下暗し、ってところかしら」
魔法の宝箱を回し見しながら頷き合う皆。なんかこれも恥ずかしい……! 自分の把握してない癖を皆が知ってて、曝け出されてる感じなのが……! もう止め……!
「――あれ、じゃあ……噂の職人って、箱作りのスペシャリストってことかな~?」
「術式担当がアストであるなら、そう考えるのが自然ね」
「箱作るのすっごい上手い人か~★ どんな人だし~~?」
……止んだけど、違う話に! 皆で考え出してしまった! 職人の正体探りは厳禁だったんじゃ……? 駄弁りの一貫だから仕方ないとは思うのだけど……。
なんというか、嫌な予感がする……。このままこの話題を続けていってしまえば、じわじわ逃げ場が失われていく気がするのだ。そろそろ別の話に……――。
「「「「箱作り……箱……箱……ミミック?」」」」
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