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閑話⑫
アストの奇妙な一日:グリモワルス女子会⑤
しおりを挟む「あっ! そっか、その手があったじゃん★ 流石めまりん! さすめま★」
「ちょっメマリア!?」
メマリアの提案を受け、なるほど!と手を打つネルサ…! 対して私は反射的に抗議してしまっていた…!
「ふふ、このまま終わるより、試せるものは試したほうが良いでしょう?」
いやメマリアの言う通りなのだけど…! 私も当事者じゃなければ同じ提案したかもしれないのだけど……! その当事者且つ、予想大当たりだから慌てているのだ!
これ、さっきのベーゼよりも状況が悪い! だってネルサの魔眼は――!
「うぇーい★ 『親睦眼』はつどーう★」
――って、だから早っ!? さっきのベーゼ並みの速度でネルサが魔眼を発動させてる!! 指ピースをウインクした目元に当てつつ、お仕置き部隊隊長&副隊長が映し出された画面へ魔眼を!
マズい……! 彼女の魔眼『親睦眼』の能力、それは――『対象人物が、自分や指定の相手や物をどれだけ好いているかわかる』というもの。そして、ついでにその対象人物の名前も見抜いてしまうのだ!
まさに【全大使】レオナール一族令嬢に相応しい能力なのだが……本当にマズい……! ベーゼはタルトの材料から探っただけだけど……ネルサは映像とはいえ、直接私を調べているのだもの!!
というか、こうして説明してる間にもうバレてるっ!!! 魔眼なんだから、見ただけですぐさまわかってしまう!!! 発動された以上、止める暇なんて皆無で――……!
「あ、これダメっぽ★」
――へ? ネルサ…ウインクもピースも止め、ざんね~ん★と椅子に身体を預けた……。駄目とは……?
「たま~にあるんよコレ。こーいう作品系…ドラマとか映画とか系で『しっかり役に入っている人』は、その『役名』しか出ないってヤツ★」
……!? と、ということは……――。
「この二人の実名はわからなかったということ……?」
「そ! あっすん(仮)は『お仕置き部隊副隊長』としかでなくて、ミミック隊長の方も『お仕置き部隊隊長』ってだけ! あでも、この二人がすっっっっっっごいラブラブだってのはわかっちったけど★」
……それは見えたんだ……。なんだか恥ずかしい……ゴホン! ま、まあ良かった……! ネルサの魔眼にそんな穴があって助かった……!
彼女の口ぶりから察するに、副隊長からネルサへの関係も表示されていないのだろう。あれは『アスト』ではないのだから。となると、親睦眼による正体看破は失敗に終わったと見ていい……?
「んむ~。でも、他の出演者たちの名前はしっかり出てるんけどな~」
諦めきれないようで、映像の場面を色々切り替えつつ魔眼使用を続けているネルサ。と、そこへメマリアが指摘を。
「それは、一応役名はあれど『その有名人本人』として出ているからではないかしら。それがこの番組の趣旨にして醍醐味なのでしょう?」
「あそっか! 天才めまりん! てんめま★」
どうやら納得したらしく、メマリアをウインクで褒めながら魔眼解除するネルサ。やった…! これでこの件について詮索されることは……――。
「でもなぁ~……ね、あっすん。本当にあっすんじゃないの~? あーし、絶対あっすんだと思うんだけど~!」
――駄目、ネルサ諦めてない!! 椅子ごと私の方にぐいぐい近寄ってきた!!
「実際のとこどうなん? ほんとのこと、あーしにだけでも良いから教ーて★」
自身の耳へちょいちょいと触れてアピールしながら、私の肌と触れ合う距離まで……! いやえっと、だから……!!
「私じゃないって……!」
「え~マジ? あっすんにしか見えないんだけど~。そりゃ角とか羽とか尻尾とか、暗いし隠されてるしだけどさ~」
本当、ぐいぐい来る……! なまじ当たっているからタチが悪い…! いや当たっている確信があるからぐいぐい来てるんだろうけど!
「だってほらほら★ それ以外の見た目とか声とかそっくりだし~! ――あ、そだ!」
……? 再度画面に副隊長を映し出し迫ってきていた彼女が、急に何かを思いついた顔に。何を……?
「あっすん、ちょーっち髪弄って良い? だいじょぶ、すぐ戻すから★」
「か、髪? い…いいけど……?」
急に話が変わった…? そしてそれにほっとしたからか即okを出しちゃった……。――ってもしかして!?
「やりぃ! わ、あっすん髪さらさら~! えーと…こうして★ そうして★ あんな感じにすいすいすい~★」
ストップをかける暇もなく、ネルサは魔法で幾つもの櫛を操りつつ私の髪型を変えて……! こ、これ…やっぱり――!
「う~し★ こんな感じこんな感じ! ど? あっすん(仮)に近づいたっしょ!」
――――副隊長の、髪型!!!
「にひひ★ やっぱそっくり! でもまだまだ! こっから更に~~ぃ」
私の髪型をセットし直したネルサは、今度は画面をちらちら見ながら魔法で何かを生成し出して……! もう嫌な予感が……!
「え~と……こんなかな? ん~…もうちょいここ削って……。あっヤバ、やりすぎちった」
いやもうあれ、どう見ても……画面の中の私がつけている、お仕置き部隊用ドミノマスク……! ネルサ、完全に私に……――。
「べぜた~ん。ちょいお願いしてい~い? あーしじゃ無理っぽだから、あの服作ってくんない? 正面だけので良いから~」
「おっまかせあれ~!」
うん! 間違いないよね! ネルサ、私に副隊長のコスプレさせようとしてる!! ベーゼも巻き込んで! というか彼女は嬉々として参加してるけど!
「「でっきあがり~★」」
そして同時に出来上がった魔法製副隊長マスク&副隊長服(前身頃だけ)をいそいそと私に取り付けてきて……――!
「じゃじゃ~んっ★ かんせ~い! あっすん(仮)あっすん!」
「おお~!! すご~い!」
「まさに瓜二つ、ですわね!」
「宝箱でも抱えさせてみる? なんてね。ふふっ!」
副隊長な私を見て、皆は揃って歓声を。そりゃそうでしょう、本人なのだもの……。 ……もうどうしようもないから、髪型を変えられた時点で着せ替え人形の心持ちだったもの…………。
「じゃ、あっすん★ あの台詞、お願いして良~い?」
「あ、あの台詞……?」
「その恰好なら、やっぱあれっしょ! あーし達、みんな笑ってるし★」
「ででーんっ!」
求めてくるネルサと、効果音を口ずさみお膳立てしてくるベーゼ…! はあもう……半ば自棄!
「――全員、OUT!!」
「「いえーいっ★」」
「「ふふふふっ!」」
「ね~~やっぱあっすんじゃないん~? 絶対ご本人じゃ~ん★」
うりうり~! と私を突いてくるネルサ。全く……! なんだかもう別に『実はそう!』と言っても良い気分にもなってきたけど……自棄ついでに聞いてみよう。
「なんで私だと決めつけているの?」
副隊長マスクを外しつつ、逆に聞き返してみる。副隊長が私だと確信を持っているのを加味しても、なんだかちょっとしつこい感じがするもの。と、ネルサはちょっと目をぱちくりさせ――。
「あれがあっすんにしか見えないってのが一番だけど……ん~~。 …にひひ★」
ちょっと照れくさそうにしながら、いつもの笑いを浮かべる彼女。そして先程までの行いを謝るかのように舌をペロリと出し、心の内を明らかにした。
「あーしも、べぜたんとおんなじ気持ちなんだと思う★」
「ベーゼと?」
「そ★ なんつーか……あっすんが垢抜けてきたのが嬉しいってか、これに出演するぐらいになってくれてたら楽しいって感じ? そしたら色々お話できるもん★」
確かにベーゼも似たようなこと言っていた。要は…『何も知らなかった親友が、自分の趣味や好みの分野に入って来てくれて舞い上がってしまった』というところなのだろうか…?
そして折角の好機を逃したくない、思い違いだと思いたくないから、ちょっとしつこく聞いてきたという訳……――
「――なの?」
「ぅ……! あっすん、怒ってる……? 怒ってるよね……? ごめ……」
流石にこの推察をそのまま口にしたわけではないけど……簡単にまとめてみると、ネルサは普段の彼女らしくないぐらい小さくなってしまった。図星みたい。別に怒っているわけではないのだけど……。
というより、ここまで彼女にしゅんとされると胸がすっごく痛い……。だって彼女は真実を見抜いていて、私は嘘をついている側なのだから……。
んー……なんとかして怒ってないと伝えて、且つこの話題を円満に終わらせるような続け方は……あ、そうだ。
「今思ったんだけど…ドッペルゲンガーやシェイプシフター、化け狸とかの方々が私?を真似たって可能性もあったり? 実はそういう人達と何度か会ったことあって」
なるべく自然に、今考えついたかのように(実際今考えついたのだけど)一部真実を入り交ぜた適当な憶測を。するとネルサは……ポンッと手を打った!
「それアリそーかも!! どっかであっすんを見かけて、ってね! そかそか、ミミックと友達みたいな種族だし、そーいうことならクレジットに名前ないのも頷けるかも★」
思いのほかすんなり納得してくれた…!? 随分とあっさり……――。
「にひひ~★ だって、あっすん超美人だもん! そりゃ~モデルにされちゃうわ!」
「――なっ…もう…!」
「いやマジで可愛いーもん! さっき遅刻してきた時の顔も良かったけど、今のその顔も! あーしもベーゼみたいにキスしたくなっちゃうぐらい★」
いつものネルサに戻ったようで何よりだけど! というか、そんなこと言うネルサだって、他の皆だって超美人でしょうに!!
全く……! ヒヤヒヤさせてくると思ったら、今度は顔を熱くさせてくるのだから……! はあ……なんだか彼女に振り回されてしまった。なんだか悔しいというか、やきもきさせられたというか、ちょっとぐらい一矢報いたい気分というか……。
……胸を痛くしたばかりだけど、ちょっとぐらいやり返しても構わないかも?
――ふふっ! そうだ、未だ燻る自棄に任せて『お仕置き』してしまおう! 流石にお尻を叩くわけにはいかないけど…ネルサ、丁度良い台詞を口にしたし……!
「……ベーゼみたいに、キスしたくなるの?」
「へっ……?」
お仕置き部隊副隊長の服を正し、マスクをわざとらしく弄び、今度は私からネルサへ擦り寄る――! そして……ベーゼや社長、オルエさんに倣って…………!
「じゃあ…………する?」
「…………ふぇっ!!? えっ……!? あっ……! その……あ…ぁぅ……」
ベーゼのキスモーション、社長の甘え方、オルエさんの妖艶さ…! それらを参考に、密着距離で煽ってみた…! そしたらネルサは可愛らしい声を漏らしながら慌てて椅子ごと自分の席へと戻り――。
「……あっすん、垢抜けすぎぃ…………」
真っ赤にした顔を伏せ、先程とは違う感じで縮こまって…!!! あの調子であれば暫く副隊長話題は振ってこなさそう…。してやったりではあるのだけど……。えっと…その……。
……なんだか、それこそオルエさん辺りが出て来そうな変な空気になってしまった……。ちょっとやり過ぎちゃった…?
「アーちゃん……! カッコいい~…!」
「へぇ……」
一応、ベーゼからは歓声が飛んできて、メマリアは広げた扇子の奥で何故か感服しているようなのだけど……き、気まずい……! 先程までとは別の意味で気まずい…!
冷静に考えてみると、なんでこんなことを…!? ぅ…お尻叩かれている映像(音声のみではあるが)を見られている時より、恥ずかしくなってきた……! どうしよう…この空気……!?
「コホンッ!」
――! この咳払い…ルーファエルデ! ハッと見ると、彼女はこの空気を打ち払うように、声を響かせてくれた!
「ではものの次いで。私も魔眼を使用させていただきますわ~!!!」
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