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顧客リスト№62 『笑いの神の笑ってはいけないダンジョン』
人間側 とある芸人達と使い⑨
しおりを挟む「いっっっやぁ……! まさかのご登場だったなぁ……!」
「ホンマですよ! 先代の魔王様なんて! あー恐ろしかった……!」
「ドラルク公爵のあのネタ、魔王様に許可頂いてやってるんでしょうねぇ……」
「正直、漏らさんようにするので精一杯やったわ……!」
「あと御覧になってくださってるの嬉しいねんけど…ほんま畏れ多いわぁ…!」
【夜も更け、普段ならば眠気が襲う時間帯。しかし五人は興奮冷めやらぬ様子】
「でも流石に、ドラルク公爵様以外の貴族の方々は出演されないんすね。…出たら出たでこっちの身が保ちませんけど」
「どうもお忍びっぽいしなぁ。 あでも、ちょい前にグリモワルスの娘さん方登場したことあったよな」
「あぁ、『レオナール家』と『エスモデウス家』の! あん時も散々暴れていかれましたわ……」
「今回トップの方が御出演なされたんですし、また今度、あのお二方みたいにどなたかが…?」
「そういうこと言うとマジで出してくるから言うなって…。恐縮過ぎて、胃がものごっつ痛くなんねん…!」
【彼らには珍しく、時と欠伸を忘れるようにお喋り。 と、そこへアナウンスが――】
『皆さん、そろそろ当ダンジョン1日体験も終了間近です。 色々とトラブルもございましたが、お疲れ様でした』
「あ。副隊長さん」
「本当にお疲れですよぉ…」
「そうかもうそんな時間なんやなぁ」
「なんか気づいたら急に眠なってきたわ…。 ふああぁ……」
「副隊長も隊長も、お疲れ様ですわ」
『有難うございまーす! そだ。ここまでお供させて頂いた身としてちょっと聞かせてくださいな! 当ダンジョンは如何でしたか?』
「如何…と言われたら…そりゃあ」
「あれやな。見事に『やりたい放題』って感じやな!」
「ふふっ…! 本当そうっすね…! …あやばッ…!」
「…あ、今は許してくれるんか。良かったな」
「ふっ…! まあ確かに言う通りやりたい放題でしたけど…案外楽しかったですよ隊長さん」
『そう言って頂けると幸いでーす! 今日一日、つきっきりのアナウンスをしていた甲斐がありました!』
「あ、そうそう! それマジで凄くないすか?」
「丸一日ずぅっとケツ叩き宣告してくれて…。他にも色々アナウンスしてだもんなぁ」
「下手すりゃ俺らより過酷っすよね……」
「な。笑ってるのを見逃さないようにせんといかんから…。本当、お疲れ様です」
「大丈夫なんですか? 体力とか喉とか……」
『ご心配には及びませんとも! うちの副隊長は色々と魔法が使えるので、その辺はちょちょいのちょいって!』
『はい! それに、全く苦ではありませんでした。 皆さんの雄姿を楽しく拝見できましたから!』
「フハハッ! 雄姿て!!」
「ケツしばかれて蹴られて頬ビンタされて、悲鳴上げてんのは雄姿言わんのちゃうかなぁ…ふふっ…!」
「まあ喜んでくださってるなら何よりですけれども」
「そうっすねぇ。叩かれた甲斐がありますよ」
「じゃなきゃやっとられんもん……!」
『副隊長ったら今朝の自己紹介ではガッチガチに緊張していたのに、以降ずっとご機嫌ですもの! アナウンスも常に溌剌でしたでしょう?』
「わかりますー! 昼ぐらいにも言ったんですけど、常に生き生きしとる様子だから元気貰えてる気がしますわ」
「俺あん時は無慈悲にケツシバかれたけど、ホンマに癒されとりますよお」
「それは全面的に同意やなぁ。 なんつぅか、良い感じに清涼剤になってくれとるわ」
「ホントそうっすね。 いつものフジラワさんの録音音声なんか目じゃないっすもの」
「まあその分手間でしょうけども…正直、すっごく助かってました。副隊長さん」
『えっ…! そんなことを言って頂けるなんて…っ!! そんな、有難うございます!!』
「あー照れてる照れてる…!」
「嬉しそうやなぁ」
「なんかこっちまで嬉しくなってしまいますね」
「勿論隊長さんのアナウンスもですよ。無邪気で天真爛漫って感じで!」
「ちょっとSっぽさもあってな。 良いコンビよなぁ」
『あら!私にまでどうも! で・す・け・ど…私よりも副隊長を、もーっと褒め殺してくださいな!』
『…へっ? 隊長? 何を仰って…???』
「ん?? ……あ、もしかして…。 ―――いやぁ、ホンマな! 次回以降もアナウンス役やって欲しいぐらいやわ!」
「??? まあ、ハダマさんの言う通りですよね。毎回これなら楽しく乗り切れそうですし」
「それなぁ。 声綺麗やしハキハキやし、聞いていて不快感全くないですわ」
「寧ろ、お二方の声が聞こえてきたら『おっ!』と思っちゃいますよね」
「わかるわぁ。可愛いもん」
『え…え…!!! そ、そんな…! え、えっと…! 皆さん、別にそんな、その……!』
『どうやら足りないみたいなので、もっともーっとお願いしまーすっ!』
『し…隊長!!? なんでそんな…!?』
「やっぱりそういうことやな…! ―――お世辞とかじゃ全くないよなぁ。 なぁ?」
「そりゃあもう! 澄んだ声で、キュートさとセクシーさが合わさったような感じで!」
「しかもこうして良い反応してくれるのがまた…!」
「初々しさもあるんやろうけど、なんか小気味良いんよな。逸材やわ」
「ちょっと本当に次回以降も出演考えてくださりませんか…? 大変なのはわかっとるんですけど……!」
『え…! あ、あの……そ、その……! え…えっと……! そんな……! …………ふふふっ…!』
『皆さんお見事! えーいっ☆』
\デデーン/
『副隊長、OUTぉ!』
『…………へっ!?!?!?』
「「「「えっ…!?」」」」
「ふっ…! やっぱりかい…!」
『ということで副隊長、お仕置きよ! さ、お尻出しなさい!』
『えっ、ちょっ、ええっ!? き、聞いてませんよ!?』
『聞いてないも何も、【笑ってはいけない】のよ? 知ってるでしょう?』
『勿論存じてますけどもぉ! アナウンスOFF状態の時、笑っても何も…!』
『でも今はアナウンスON状態! 笑い声はしっかり響いたわ! ということはぁ…お仕置き対象よ!』
『ちょ、ちょっとにやけちゃっただけで…!』
『あらぁ? さっきそれでお仕置き執行したの、どこの誰かしらぁ?』
『それは隊長がやれって……!』
『もんどうむよーう☆ たいちょうめいれーい☆ ようぎしゃかくほー!!』
『ひゃあっ!? ちょっと待ってくださいっ…社……隊長っ!! 待っ―――!』
『せーのっ! ばーんッ!』
『ひぃんっッ!!!?』
『そしてもういっちょ!』
\デデーン/
『全員、OUTぉ!』
「いやそら笑ってまうって!! だあっ…!」
「さんざ褒め殺してからのオトシって…。策士ですねぇ隊長…。 あぐぁっ…!」
「そのための褒めてあげてアピールやったんやなぁ…。 ずぁっ…!」
「やっぱ怖いわ隊長! だぅっ…!」
「ばぅっ…! ――いや、だと思ったんよなぁ。 やっぱそういう流れやったかぁ」
『やはりお気づきでしたか! 流石希少種族イエティ!』
「やかましいねん! なんか今日ちょいちょいおかしいと思ってたし…。 なんなら副隊長から、俺らと同じ『仕掛けられる側』の匂いしてたもん」
「てててて……。 あー…確かにわかりますわ…」
「そういや昼もアドリブやらされてましたしね……」
「なるほどなぁ。逆ドッキリやったんやなぁ…」
「今日一日、この機会を虎視眈々と狙ってたんすかねぇ…」
『そういうことで、ということよ副隊長! どうだったかしら?』
『うぅぅ……。 嬉しいやら悲しいやらですよ、隊長…!』
「ふっ…! 因みに副隊長の嬢ちゃん、嘘は一切言ってないかんな? マジで良いアナウンスやと思っとるで?」
「それは本当の本当です!」
「ホンマにええ声だって思ってます!」
「次回も出て欲しいって本気で思ってますよぉ!」
「いよっ、名コンビ! ……褒め言葉に…なっとるよな多分…?」
『――っ! あ…有難うございます…! ……ふふっ…!』
\デデーン/
『副隊長、OUTぉ!』
『え゛っ!? い、一回だけじゃないんですか!!? 待ままままま……!! ――ひゃあんっッ!!!』
「見事に二度目を引き出されましたね…。 ふふっ…!」
「流石にちょっと可愛そうな気も……ふふはっ…!」
「隊長容赦ないっすねぇ…ふっふ…!」
「でもホンマええコンビしとるなぁ」
「な。 さて、立っとこか」
\デデーン/
『全員、OUTぉ!』
【そう、和気藹々のムードに包まれる一行。 しかし、事態は急転をみせる――!】
『――ん? わっ!? きゃあっ!!』
『えっ? わわわっ…! 何を…―――っ……;/@[..#!$/......』
「―!? なんや急に…!?」
「隊長達のアナウンスが急にノイズまみれに…!?」
「わっっ!?!? 急に真っ暗になったで!?」
「うわぁっ!? 誰!? うわ何す……もごごごっ!!」
「なんですか!??? なんですかこれぇ!???? 助けてええぇぇぇぇぇ……―――」
「なんや…!? おい、ホーセ!? エンドオ!? …返事ない…」
「どっか連れてかれたんや……!」
「あっ! 見てください画面!」
「ヘッヘッヘッ……! ヘェッポッポ…!! ヘェッ―――ポッポッ!」
「なんやこの笑い声…?」
「というか、この声…!」
「ガーキー様の使いの1人の……『ヘェポォ』さんっすよね!?」
「ヘッヘッヘ…! その通りだぁ! 俺はヘェポォ。フジラワと同じく、このダンジョンに棲む魔物の1人だぁ!」
「うわ悪魔族の恰好のヘェポォや…!」
「どこやあれ…! 金ぴかの宝の山に囲まれとる…!」
「エンドオとホーセさんをどうしたんですか!?」
「なに、ちょっと監禁させて貰っただけさぁ。 我が計画の邪魔となるからなぁ」
「計画…?」
「――あ! 見てくださいヘェポォさんの後ろ…!」
「ん…? うわっ…! フジラワ、とっ捕まっとるやん!?」
「気づいたようだなぁ! こいつは人質だぁ。俺が新たなるダンジョン主になるためのなぁ!」
「「「ダンジョン主…?」」」
「そうだぁ! このダンジョンの創設者であるガーキーのヤツは、この俺をダンジョン主に選ばなかったぁ! ならば、反旗を翻すまでだぁ!」
「野心たっぷりやなぁ…」
「大体、ダンジョンの名前がダサいんだよぉ! なんだ『ガーキー禿げ光りダンジョン』ってぇ! 『ヘェポォおまめダンジョン』の方が格好いいだろうがぁ!」
「いや変わらんわぁ……」
「俺は今日のために色々と準備をして来たぁ。 使えるかもと思って、『世界の半分をあげる券』なるものも盗っても来たぁ! ……いつの間にかどっかに無くなってしまったがなぁ…」
「あぁあれ…! ホーセさん聞いたらキレそうっすね……」
「そしてとうとうダンジョン乗っ取りの時だぁ! 既に俺の部下や使い魔達が暴れ出しているぅ! お前達も仲間二人のようになりたくなければ、そこを動かないことだなぁ! ヘェ――ポッポォ!」
「あ…画面消えてもうた…」
「ここを動くなって言われたけど……」
「どうします…?」
『...お...応答......応答してください…! 皆さん、応答してください!』
「おっ! アナウンス! 灯りも戻った…!」
「副隊長さん…!」
「なんか、ヘェポォつぅヤツが反乱起こしたみたいやけど……」
『その通りです…! 私達も今しがた襲撃を受けて…!』
『とりあえず叩きのめしましたけどね~!』
「うわ強ぉ…!」
「流石お仕置き部隊の隊長副隊長やな…!」
「俺らどうすればいいんすかね? 二人捕まってもうたんやけど」
『そうですねぇ…。私達が助けに行く! と言いたいところなんですが、他の皆の救援にも向かわなきゃいけなくて……。 ですから――』
『――発見しました、隊長。 捕まったお二人は【食糧庫】に監禁されている模様です!』
『彼らの救出は皆さんにお願いして良いでしょうか? 聞いての通り、食糧庫に囚われてるそうですから!』
「しゃーないなぁ」
「わかりましたぁ」
「そちらも頑張ってください…!」
『くれぐれもお気をつけて…! 既に通路はヘェポォの一味によって占領されてるも同然です…!』
『ここからは【笑ってはいけない】は解除しますが、【驚いてはいけない】ですよ~! さ、急ぎましょ副隊長! ではでは!――――――』
「…切れてもうたな……」
「すー…ふー…! よし、行くかぁ!」
「行きましょ! ちょっと怖いですけど…!」
【突如の緊急事態。これより、『驚いてはいけない』開幕である―――】
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