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閑話⑪

アストの奇妙な一日:アストのお家(で☆)騒動⑯

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「えーと……。 ミミンさん、アストと仲睦まじくしてくださるのはとても喜ばしいことなのだけど……。その、ね……」


――あっ…! 私達を見つつ、母がちょっと苦言を呈するような台詞を……! 流石に家族の前でイチャイチャしすぎたのかもしれない…。 


慌てて社長との手繋ぎを離し、姿勢をピシリとお淑やかモードへ。 ここで変な風に睨まれると、元の木阿弥…!



……と、思っていたら、どうやら母の懸念事項はそこでは無かったらしい。そのまま社長へ、かなり心配そうに申し出た。



「まだ真相語りは途中なのですから。今日のことを打ち明けた後、アストが許してくれるかどうか……」








―――そうだった。まだ種明かしは終わっていない。先程までに明かされたのは、社長とアスタロト家の繋がりと、私の就職裏工作。


そして残されたのは……今日一日についての話。私がアスタロト家に帰省してきてからの一件。社長によって引き起こされた、まさにお家を巻き込む騒動、その真相。



……この、『社長によって引き起こされた』というのが曲者。元々それは、社長がアスタロト邸宅内を探検するために、敢えて宝箱を誰かに回収させたということを意味していた。


けど、その意味は先程大きく変わってしまった。ただの社長の悪戯だと思っていたら……事は予想以上に大きく、私の家族達と力を合わせた『何かしらの謀略』らしいことが判明してしまったのである。






ただでさえ今まで騙され続けてきた…まさしく『関係を隠す奸計』の的となってきたアストは、今までのその秘密が明かされた上に、今日のことも許せるのか。それが母の不安な様子。


すると、父達も若干顔を曇らせ始めたではないか。……もう、そういう表情になるのならば、最初からやらなければいいのに……! 仕方ない…――



「――お母様、そのご心配は無用です。 どんな真相かは不透明気味な推測しかできておりませんが……きっと、そう憤慨することはないかと!」


仔細を隠されてきたことに、幾ばくかの不満は感じていますけどもね!  と、皮肉交じりに笑って母達を宥める。 別に怒りで笑顔になってるとかではないから本当にご安心を。




事実、裏工作や秘密にされてきたことに対し、驚愕や困惑、呆れはある。けどそれは、ほんのちょびっと。『もう……!』とか『全く……!』と溜息を吐く程度。


なにせ私と社長との出会いにおいて、根回しこそあったものの…最終的には私が自分の意思で受け入れ、社長とこうして心を通わせられたと明言されたのだもの。


つまり言い換えれば、両親達がただ私に仕事先の候補を提案しただけである。そう考えると、別にそんなにおかしいことではないと思う。



最も、なら最初から教えてくれればいいとも思うけど……。下手に当時の私に詳細を明かし、『アスタロト家の監視下にいるようだから嫌だ』と無下にされたら元も子もない。


また、働き出した後も同じ。それを聞いて『失望したから辞める』とか言い出したり、社長にずっと疑いの目を向けてしまう恐れを考慮したならば、言いだせなかったのも道理。


別に私はそんなこと言う気はなかったが…。可能性がある以上、黙っているしかなかったのだろう。ともすれば、墓場まで持っていく気だったのかもしれない。





――なのに、何故か今日、社長達はその隠し事をカミングアウトしたのだ。一日かけて家の至る所を周るという手間をかけて。それには何かの理由があるのだろう。


だとしても、もう怖いものはない。社長達はずっと裏で繋がっていたが、その全てのことが私を想っての策。なら、今日もまたその延長線上に違いないのだ。



そう言う事であれば私は、ソファに深く腰を落ち着け、頬を小さく膨らませながら、詳細を聞くとしよう!!













「じゃあ…。とうとう、最後の…今日の真相を明かすとしましょう」


あ。社長また黒幕みたいなポーズを。いや間違いなく黒幕なのだけど。 ちょっと笑ってしまっていると、社長はスッと私を指し示してきた。


「事の発端はアスト、あなたと魔王様がお酒を酌み交わした後…。というか、あの次の日の出来事なのよ」


「あの時だったんですか…!  ……――ーてっきり私、会社のバーで社長が泣いちゃった日かと…!」


「ぃ…! わ、忘れなさいっての!  ……あれはその……魔王様を説き伏せた際に、ふとあなたが大主計を継ぐ日を想像しちゃって……」



私の意趣返しに、顔を赤くさせながら声を小さくする社長。可愛い…! けど、ちょっとやり過ぎたかも…?


「ごめんなさい社長、少し意地悪しちゃいました! どうか続きを…!」


「むうぅ……アストには仕返しする権利があるから良いけどぉ……」


ちょっと不貞腐れつつ、咳払いして調子を取り戻す社長。そして改めて話し出した。






「宴席の翌日、魔王様はそのことをカウンテ様とアルテイア様に話したらしいのよ。とても楽しいひと時だった、って!」


それを証明するように、父と母は頷く。 …と、社長は少し含むような口調に。


「それによって、アストが魔王様へということが伝わったわ。 『アスタロト家の娘』として、ね」


――その言葉のベールを剥がした意は、『最高機密である魔王様の真の姿少女姿を、次期当主の身として知った』というところか。ということは…――


「頃合い――。 私もアルテイアも、そう考えた。 それほどまでに成長したならば、隠していた秘密を明かしても構わない、とな」


「お父様お母様の意見も、私達と同じだったの。 と言う事で、ミミンさんに魔王様経由でコンタクトを取って頂いたのよ」


そう語る父と母。 そして、またも社長に。


「私もそれに賛成したの! 正直、そろそろ隠し通すのも限界を感じていたし、ほっといたらアスト、どこかでハタと気づいちゃっただろうし…何より、ずっと騙してるのはかなり辛かったし!」


溌剌と、それでいてようやくの安堵を交らせて。そんな様子の社長は、次には困った困ったと言わんばかりのへにょん顔に。


「けど、そこで問題が生じてね~。 どうやって真相を明かそうかって!」











「そんなの、普通に話してくだされば……」


「えー! 面白くないじゃない!」


私のツッコミに、ケラケラと笑いつつ返す社長。 実に社長らしい理由と納得しかけたのだが――。


「まあ冗談は置いといて! あながち冗談ではないのだけども! 色々と考えがあったのよ」


どうやら一応、他にも理由がある様子。どんなものなのかを聞いてみると…淀むことなく答えてくれた。



「まず、そのままサラッと真相を明かすと言うのはナシにしたの。 それだと信じて貰えない可能性が高いし、事情を明確に事細かに説明しないと不信感が生まれちゃうじゃない?」


確かに…。突然に『あ、そういえば』みたいな切り出しで話されても冗談にしか聞こえないし、今日聞いたような詳しい話が無ければ訝しみに訝しんでいたと思う。 


「更に、どちらかが単独で明かすというのも避けたかったの。 理由は今言ったのと同じよ。当事者が勢揃いをしなきゃ意味が無いもの!」


それにも納得を示すように頷く。すると社長は、この場を示すように手を動かした。


「となると、私とアスタロトの皆さんが集まる場所が必要。 すぐに挙がった候補は会社か、ここ…アスタロト家か。 事情と都合の兼ね合いで、ここに決まったわ!」


「事情と都合、ですか」


「そ! 皆さんにご足労をおかけするのは恐縮だったし、ここの方が安心して話せるだろうし、何よりも…『帰省を促す』という名目でアストに手紙を送れば、そんなに疑わずに来てくれるから!」


あー……そういう……。 確かにあの呼び出し手紙、タイミングと文面の装いにこそ違和感を覚えたけど、そんなに深く考えずに受け取った…。 



今にして思えばあの妙な感じ、今回の計画があった故なのだろう。 ―――でも…。



「そこまではわかりました。 ……ですけど、それなら帰って来て早々に明かしてくだされば終わりましたのに。 わざわざ隠し部屋まで作って、そこに社長の箱を隠すなんて……」









私を呼びつけ、社長を招いた(トランク潜入形式で)ところまでは良い。けどそれならば、その後すぐに場を設け真相を語ればそれで終了だったはず。


だけど実際は、社長の箱探しで家の内外を周った挙句、普通ならば絶対に見つけられない隠し部屋へと誘導されたのだ。そうまでするのならば、勿論――。


「勿論、そこにも理由があるの!」


はっきり言い切る社長。そして……。


「時系列的に…まず隠し部屋からね!」


……時系列…? 首を捻る私を、まあまあ聞いて!と抑え、社長は説明を始めた。




「真相を信じてもらうには、『証拠』を見せることが一番。だけど、それは出来る限り秘密裡に済ませたくて、皆で方法を考えていたの」


『証拠』…即ち、『魔王様の真の姿が写った写真』のこと。確かにそれは、リヴィングルームの机に置いといて良いものではない。真相語りの真っ最中だとしても。


「そこで思いついたのが、隠し部屋を作るという方法! そう、まるでダンジョンみたいなね!」


……けど、なんでそんな話になるのか…。社長の入れ知恵であるのは間違いないのだろうけど……。


――と思ったら、祖父が補足を挟んできた。


「元々隠すための方法は色々あったが……どうせならもっと厳重なものに、そしてできれば洒落たものにしたいと前々から考えていてなぁ! 儂が仕切らさせてもらった」


そういうことでしたか……。それにしてもこの祖父、ノリノリである。








「ということで、計画は実行。 まず手始めに、部屋作りに必要な魔導書の取り寄せをして貰った――のだけど…」


改めて語り出す社長……と思ったら、即座に失速。何事かと顔を窺うと、にんまりと笑みを。


「そこで早速、まさかの事態が起きちゃったの。 それは――」


そう口にしつつ、社長はゆっくりと首を動かす。その先に居たのは…この場唯一の使用人…! つまり――!



「ネヴィリーさんに、アストの仕事先が…つまり、私の存在がバレちゃった!」









「あの時の…!!」


瞬時に、市場での一件が頭の中を駆け巡る。 祖父の書斎に置かれていた魔導書に見覚えがあったのは、その出来事があったから……市場で魔導書受け取りへ遣わされたネヴィリーに偶然出会ったからなのだ。


そしてその際、私はネヴィリーを誤魔化…労おうと奮戦したのである。 結果、隠していた就職先のことはおろか、社長の存在までもがバレてしまったのだが……。


「アスト、覚えてるかしら?  あの時、私がネヴィリーさんに耳打ちしたこと!」


「はい、勿論です。 それを聞いたネヴィリーは、やけに納得した表情で帰ってくれましたが……」


社長に頷き、あの日のオチを思い返す。 確か――。


「その耳打ちの内容って、社長と魔王様が知り合いだということと、社長の手引きで私が魔王様に謁見したということでしたよね?  ―――あれ、そういえば……」



ふと、気づいたことがある。確か社長、それを『ネヴィリーに話した内容の一部』として私に教えてくれたのだ。 そして、残りは『ひ・み・つ!』と誤魔化されてしまった。


私がその事実に至ったことを、社長も見抜いたのだろう。にっこりと微笑みつつ、あの日の裏話を。



「当時のアストは知る由なかっただろうけど、私とアスタロト家の皆さんの間では今日のための計画が進行中だったの。 とはいっても、ネヴィリーさんにバレた程度ならば影響はなかったのだけど…」


その通りであろう。私への計画と、ネヴィリーが社長の存在を知ることは、そこまで関係はない。即ち、ネヴィリーの存在を視野に入れることすらなく計画進行が可能…―



―なはずなのだが……。そこで社長は、悪戯っ子のようにテヘリと笑った。


「そこでちょっと良い事を思いついちゃって!  ネヴィリーさんを計画に引き入れることにしたの!」








「えぇぇ……。 なんでですか…?」


この場に彼女が控えているからわかっていたが…やはり、ネヴィリーは巻き込まれていたらしい。けど、何故…。


「アストに訝しまれないような『駒』が丁度欲しかったのよ! 私達の手足となり、目となり、耳となり、口にもなる。 そんな存在が!」


…確かに、両親達や社長が変に動くより、ネヴィリーが動いた方が私も疑わない。事実今日、そうだったし。


「アストに抱っこされて一日様子を窺ってたことで、ネヴィリーさんが秘密をしっかり守れる方で、アスタロト家への忠誠心も最高レベルだとわかったわ。だからこそ、バレたことを逆に利用したの!」


そう語る社長は、ネヴィリーから私へ視線を戻す。そして、こそこそ話をする時のように、手を口の横へ置き続けた。



「あの時ネヴィリーさんに伝えた、アストに秘密にした耳打ちの内容はね……今日あなたに伝えたこと全部! つまり、一足先にネヴィリーさんに明かしちゃったの!」








「ええぇぇぇぇぇ…………」


再度困惑の声を漏らしてしまう私。 ……けど、納得である。


その話には当然、『社長とアスタロト家私の家族も知り合い』ということや『私の就職先決定にアスタロト家が関わっている』というのも含まれているはず。 つまり、私の就職先はアスタロト家公認と言ったも同然。


それならば、使用人であるネヴィリーが何を訝しむ必要があるか、何を叱る必要があるか。いいや、無い。 まさにいうこと無し。あの手のひら返しもむべなるかな…。



「更に今回の計画についても軽く伝えて、私が信用したとお墨付きを加えたうえで、皆さんへその旨を伝達して貰うことにしたの。 そうすれば、少なくとも悪いようにはならないから!」


そう続け、笑う社長。すると、祖父と祖母も笑いだした。


「ふぁっふぁっふぁっ! ネヴィリーが話があるとやって来て、秘密や計画のことを口にしだした際は肝が冷えたなぁ!」


「けどミミンちゃんの人の見る目は確かだし、ネヴィリーは本当に優秀な使用人だもの。だからこそ、計画に噛んで貰うことにしたのよぉ」



その祖母の言葉に、父と母も同意を。流石、私の教育係として抜擢されるだけある。ネヴィリーの評価は皆からも高いのだ。何故か私も誇らしい…!


そして当の本人はそれが心底嬉しいらしく、ネヴィリーは顔が崩れるのを必死でこらえるようにしながら一礼をしたのであった。 ……それでもかなり表情が綻んでいるけども。













「ということで、晴れてネヴィリーさんもパーティー入り!  彼女の加入はまさにお誂え向きで、どうしようか悩んでいた作戦を決行できるようになったのよ!」


場が軽く落ち着いたのを確認し、そう話を続ける社長。 しかし、作戦とは……


「これよ、こ・れ・!」


首を傾げる私に、社長は入っている箱をコンコンとつつく。あぁ、なるほど!


「宝箱探しですね!」


「当ったり~! あれ、ただ遊んでいたわけじゃないのよ?  最も、私としてはアストと一緒に探索したかったというのが最大の理由なのだけど!」


ケラケラ笑う社長。そしてそのまま、宝箱探しに隠された狙いを明かしてくれた。



「目的としていたのは二つ。一つは、『アストが今の仕事を続けたいかを見定める』こと。 宝箱探しの名目でアスタロト家内を巡らせることで、あなたの意思を確認しようとしたの」


「私の…意思……」


「そ! 思い出深い各所を周ることでね! もしそれで家を懐かしんで帰りたがるならば、遠慮なく職を辞させる。けどまだ社会経験を積みたいのであれば、今しばらく私の元に預けて貰う。 それが皆さんとの取り決めだったのよ」



……何故わざわざそんな面倒なことを、とは言えない。 だって目論見通り、先程私はまさしくその思考に陥った。 各部署の使用人達と顔を合わせ、その度に喜びの声を聞き、私は『次代当主として家に戻って来た方がいいのかも』と考えてしまったのだ。


その葛藤の沼に沈んでしまっていた時、社長は私の考えを見透かしたようにプチシュークリームを口に押し込んできたのだ。 秘書職を辞めるという選択肢を提示しながら。



なるほど、あれこそが宝箱探しの真の意だったとは…。気づくわけがない。――けど、それならば安心である。 だって…――


「私の意思は決まっています! 今しがた宣言しました通り、時が来る瞬間まで、社長の秘書を務めあげる所存です!」


改めて、家族全員へそう伝える。 すると皆は軽く顔を合わせ微笑み、代表して祖父が答えた。



「儂らもそれを認めよう。 寂しい気持ちはあるがなぁ」




――やった!!! とうとうお許しを得ることができた!!  まさに感無量……!!!


あ、そうだ!  そういうことならば、あの時社長に伝えた『具体策』を…!!


「ご安心ください、お祖父様。そしてお祖母様お父様お母様、ネヴィリーも! もっと、帰省の頻度を増やしますので!」


「ふぁっふぁっふぁっ! それなら良しとしよう!」


私の言葉に、嬉しそうに笑う祖父。祖母達も、零れるような笑みを浮かべてくれたのであった。










「では、このままアストを…娘さんをお預かりさせて頂きますね! 彼女が楽しく勤めていられるように、全身全霊を傾けることを誓います!!」


社長もまた、祖父達へ頭を深々下げる。そして顔を上げ、再度宝箱探しの真相語りへと。


「さてさて! じゃ、宝箱探しの目的その2! なのだけど……ここから先はその作戦の進行についても、途中のについても話させて頂きますね!」


…? 社長、父達の方を見ながらわざとらしく…。 あれ、父と祖母が肩身狭そうな様子に…。


「存分に話してやれ、ミミンや。 堪え性のない二人のことをなぁ」


一方でそう煽る祖父と、クスクス笑う母。……なるほど、恐らく『やらかし』とは、父と祖母がネヴィリーに叱られたという話の真相……!


「それでは、不敬をお許しいただきまして!」


社長も社長で弄るように礼をし、ゆっくり話始めた。





「二つめの目的は『アストの心模様を把握、調整する』こと。 秘密を聞いた際に、過剰反応を起こさないようにね」


「ということは……私の機嫌とりみたいな感じですか?」


「大体そうね! 変に深刻に受け取られて、アストが自暴自棄になっちゃうのなんて、誰も望んでないもの! できるだけ平穏を維持して、隠し部屋に連れてくる必要があったのよ」


そう説明してくれる社長。そして、ポンと自身の胸を叩いた。


「その役割を仰せつかったのが、私。二つ返事で承諾…というか、発案の一端を担ったわ。 だって、アストと一緒に探検できる良い口実だったから!」


まさにwin-win! そう笑った社長は、コホンと咳払い。  語調を少し変え、今日一日を振り返るように口を開いた。


「そして作戦は開始。 まず…アストが皆さんへ挨拶に行っている隙に、ネヴィリーさんに宝箱を運び出して貰ったの!」






「やっぱりですか!!」


早速、衝撃的な種明かしが。思わず叫びネヴィリーを見やると……。


「大変申し訳ございません、お嬢様…!」


平身低頭する勢いの謝罪を。 ……まあ、薄々そうじゃないかと思ってたけども!


全く…。味方だと思っていた彼女が実行犯だったなんて…。 でも彼女の現れたタイミングや、彼女の言葉によって各部署を周ることを決めたというのを考えれば、ストンと腑に落ちる。


「ネヴィリーさんには宝箱をペイマス様に渡して貰うだけじゃなく、アストの誘導、そして使用人の皆さんのコントロールもお願いしていたの。そして全部、完璧な仕上がりだったわ!」


社長にそう褒められ、ネヴィリーはお辞儀を。 確かに彼女の立場ならば、使用人の位置調整は容易。祖父の書斎周囲を無人にしたのも彼女だろうし、きっと私が各所で聞いて回った宝箱所在の質問についても、それとなく後始末をつけてくれているのであろう。




「おかげで作戦は首尾よく進行……してたのですけどねぇ?」



――と、社長、そこで再度祖母と父へ視線を。そして二人がビクッとなったのを見止めると、私へ肩を竦めた。


「さっきも言った通り、宝箱探しの目的の一つは、あなたの心を平穏無事に収めておくこと。 だけどね、イーシタ様とカウンテ様ったら…!」


堪えきれなくなったのか、小さく笑いを漏らし出す社長。祖父と母も。 祖母と父が絡んだ、多分私の心を乱すような出来事……。


「――っあ!!  もしかして…! お茶をした時と、書庫での……!!」


「その通り! お二方とも我慢できず、秘密や余計な冗談を口走っちゃったのよ!」








思い返すは、庭園でのお茶の時間。 黙りこくった私を心配した祖母は、秘密なはずの『私が宝箱を探していること』を突然に口にした。


思い返すは、書庫に辿り着いた時。 そこに居た父は、私の問いかけに対し、『仕事を強制的に辞めさせる考え』を示唆した。


最も、最終的に前者はネヴィリーが明かしてくれたと、後者は冗談だったと言い訳をして誤魔化していたが……。



で、アストの心中は大荒れ。 正直申し上げますと、私、ぬいぐるみの中で顔を手で覆っていましたもの!」


社長の言う通り。それによって私の心は大きくドクンと跳ね上がり、絶望に叩き落されたのだ。 片や私を気にかけて、片や私との会話を繋ぐためとはいえ…『子の心、親知らず』と言うべきか……。


「あの時、アルテイアが割って入ってくれていなかったら、全部明かしちゃっていたかもねぇ…。 それに、それしか手が無かったとはいえ、ネヴィリーに責任を押し付けてしまって……」


「私もだ…。 ネヴィリーに事前に『その系統の冗談はお控えください』と言われていたというのに、どう答えるべきか見失ってつい……」


しょぼくれる祖母と父。母とネヴィリーは慌ててフォローを。 それを豪快に笑いつつ、祖父は私へ微笑んだ。


「それだけ皆、お前のことを気にかけていたということだ。 許してやるといい」


当然、私は苦笑いながら了承。 すると祖父は、返す刀で父に苦言を。



「しかし……特にカウンテ、お前は逸り過ぎだなぁ。 アストが帰って来て早々の話も、お前が単刀直入に話題を出し過ぎたためにお開きにしただろう。 加えて結末を急ぎ過ぎて、わざわざアストの行く先へ赴き、儂の書斎へと導くとは……」


そう叱られ、更に小さくなってしまう父…。私を想ってくれているのはとても嬉しいのだけど……。


――と、流石に可哀そうに思えたのか、社長が謝る形でフォローに加わった。



「申し訳ありません、カウンテ様。 私がもう少し早く探索を切り上げていれば……」


「いや、ミミンさんは悪くない。完全に私の非だ。 それにあの状況では、ネヴィリーの時のように飛び出しての阻止なぞ不可能だものな……」


「……ネヴィリーの時…? 飛び出して阻止…?」


ふと父の口から飛び出した言葉に、思わず眉をひそめてしまう。父はそれでハッと噤み、母達から呆れ笑いを食らう。社長も笑みつつ、説明してくれた。



「ネヴィリーさんと遭遇した際、私、急に飛び出したじゃない? あれ実は、アストが下手に勘ぐるのを阻止するためだったのよ!」







??? 何かあったっけ…? よくわからずに首を捻ると、社長は『これまた杞憂だったかしら?』と笑った。


「ほらだってネヴィリーさん、アストが『誰か』が部屋に侵入したかもとしか言ってないのに、『メイド』って言い直したでしょう? 衛兵やバトラーも沢山いるのに」


「……あ!」


「そして、宝箱をどうしたと説明する前に『盗み出された』と言っちゃったでしょう? 汚されたとか壊されたとか、色々あるはずなのに!」


「あーーっ!!」


言われてみたら確かに……!!  そうか……!そこでしっかり考えていたら、ネヴィリーが黒幕の1人だったってわかったんだ……!


……けど、わかる訳ない…! 私、探偵じゃなくて社長秘書なんだもの……!! さっきも探偵社長の真相解説を仰天顔で聞く一般人役だったし…!!!







「私、そういう調律役も任されていてね~。だからネヴィリーさんとアストが揉めだしたあのタイミングで飛び出したし、要所要所で手助けしたわ!」


心当たりあるでしょ? と問うてくる社長。勿論、大ありである。何度助けられたことか…。 ――と、ネヴィリーがその件について礼を述べつつ、恥ずかしそうに付け加えてきた。


「まさか、ミミン様がぬいぐるみに隠れていらっしゃったとは思いませんでした…。 妙だとは感じていたのですが……」




どうやら、そこら辺の取り決めはしてなかったらしい。なるほど、あの時のネヴィリーの驚き方は本物で、且つメイン黒幕である社長がサラッと顔出ししてきたことにも驚愕したのであろう。


「それには私たちもびっくりしたわぁ。お茶の時、アストがぬいぐるみからお菓子を取り出した際に初めて『もしかして』と気づいたのだもの」


続いて、祖母もそんなことを。すると母も、そして父も頷いた。 なるほど…あの時の母と祖母の驚き具合は社長の存在を認識したからで、父がぬいぐるみを見て呟いたのも、同じ理由なのだろう。


「敵を騙すならまず味方から、と言いますので!」


それに返すように、社長は自信満々に胸を張って見せる。 そして私へ、テヘッと無邪気な笑顔を。




「―――以上が、今日の真相よ。 アスト、私達へ怒鳴ることはある?」








その言葉に合わせ、祖父達全員も姿勢を直し、私の言葉を待つ素振りに。 どうやら今まで騙してきた代償を、今日一日のおふざけへの叱責を受ける気らしい。全く……。


なら被害者として、その権利を行使するとしよう。コホン…―。



「そうですね…。とりあえず一言失礼します。 皆、酷いです!」



心底からの呆れと多少の不満と、全てへの赦しを晴れやかな笑顔に乗せ、皆へ伝える。そして……。



「もう一つ。 皆、ネヴィリーにお礼を言ってください! 変なお家騒動に巻き込んだのですから!」



いくら我が家の使用人とはいえ、とんだ災難に付き合わされた彼女。 祖父達もそれを充分に理解している様子で、全員で顔を合わせ微笑み揃って…――



「「「「「協力有難う、ネヴィリー(さん)!!」」」」」



感謝と労いを込めた一言を。 ネヴィリーは慌てふためきつつも万感胸に迫らせるように、深い一礼で返してくれたのであった。



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