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閑話⑪

アストの奇妙な一日:アストのお家(で☆)騒動⑭

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社長宝箱に入っていた2枚目の写真。少し古めのそれに映っていたのは、その撮影年相応に若い私の家族。そして――。


「やっぱり、魔王様と、社長と、オルエさん……! ……見た目変わってない」


今と変わらず少女の身体な魔王様と社長。そこに加わっているのは、社長達の親友である、今は『淫間ダンジョン』を営んでいるサキュバスのオルエさん。 この時からあのとんでもない恵体らしく、普通に見れば社長と同世代だとは思えない感じ。


……なんだか、写真に『ゆさっ♡』とか書いてありそうな……え、本当に書いてある!? というかオルエさんの横にサラッと浮かんでる!?!?





――ゴ、ゴホン……。そのことはいいとして……。この写真には先程とは違う点が。1枚目の写真は、集合写真のように全員がキチッとしていた。


けどこれは、かなり違う。なんというか、興奮の中で撮影したというか…。 まず、私の家族は偶然通りかかったから引っ張ってこられたという様子。 事実、社長とオルエさんに手を引かれている。皆楽しそうではある。


そして魔王様は同じように顔を出し恥ずかしがっているのだが…どこか誇らしげな感じ。社長の拘束無しで、小さいながらも胸を張っている。


……違う、胸囲の話ではなくて…! 面映ゆさ故と、突然に連れてこられた私の家族に驚いたせいで、上手く張り切れていないという意味で!



そんなわちゃわちゃの中、社長とオルエさんは片手で何かハンドサイズ垂れ幕を手にしている。それぞれ書いてある文字が違う。えーと……。



……社長が『会社設立!!』で、オルエさんが『ダンジョン設営♡♡』!?










「これって……!」


新たなる真実を目の前にし、そう呟いてしまう。これが正しいのならば……社長と私の家族は、ミミック派遣会社ということ……!!


「それは私とオルエが、長年の夢を叶えた時の1枚よ。 マオ魔王に力を貸してもらってね」


……また、声の発生源が捉えられない感じに。 社長、今の間に別の場所へ移動したらしい。今度はどこに……?


「――そういえば仰っていましたね。会社設立当初、私が入社する前は魔王様やオルエさんを頼っていたって」


注意深く耳を澄ませながら、思い出したことを口にする。バーでの夜、社長はそう話してくれたのだ。 すると、瞬間行方不明状態な当の彼女は、かつてを偲ぶような口調に。


「本当、前も話した通りあの時は大変だったのよ…。 いざ会社を立ち上げたは良いけど、やることいっぱいで…! マオもオルエも対価なんて無しで手伝ってくれたけど、片や魔王なりたて片やダンジョン主なりたて、気軽には頼れなくて……」


よっぽど苦労したのだろう。思いを馳せた溜息のせいか、壁の額縁がほんの僅かに揺れて…――


「今度はそこですか!」




捉えた…! 壁にかかっている小さな絵画! 手にした写真を1枚目の横に並べるように置き、そちらへと近づく。すると――。


「けど、特に苦労したのが会計事務ね。だってミミックの派遣なんて前例ない事だし、素材相場もよくわからないし! そこに諸々の経費処理が合わさって、もう絶望の一言よ!」


絵画と額縁の隙間からにゅるんと、そしてぶらんと垂れさがる形で姿を現した…! まるで逆立ちしているような……。


いや、コウモリみたいである。髪を重力に従って垂らして、着ている白ワンピースは手でしっかり押さえてる。


完全に重量オーバーで絵画ごと落下しそうな見た目だけど、その気配が一切無いのはミミックとしての才なのだろうか…。





「とりあえず箱に戻ってくださいって…! お祖父様の部屋なのですから…!」


そう諫めて捕まえようとするが、社長は逆さの身体を振り子のように揺らし、私の腕をひょいひょいにゅるんにゅるんと躱す…! 折角捕まえるために写真を置いてきたのに…!!


「経理担当として誰かを雇っても良かったのだけど…下手に人を雇うぐらいなら、その分入社してくれた皆へ還元してあげたかったし! そもそも、ミミックだらけのところに来てくれる人はそうはいないのよ」


しかも社長、そのまま話を続け出した…。もう……。 私が捕獲を諦めると、社長も振り子運動を停止。そしてしみじみと。


「けど、本当ならそれすら…起業すら不可能だったのよねぇ…。 私普通のミミックだから、簿記とか財務管理とか諸々、全く知らなかったしできなかったもの!」


……今まで社長を見てきた身としては、『普通』の意味を調べ直して欲しいものである。 まあミミックの普通って今でもよくわからないけど…。




「――でもね、アスト」


と、社長は急に語勢を変え、私へ一層強く語り掛けるように。逆さのまま、優しく見つめてきた。


「私にその辺りのことを教えてくれて、曲がりなりにも『社長』としていられるようにしてくれた人達がいるのよ」


「……誰ですか?」


「それはね――」


そこで一旦言葉を止めた社長は…白ワンピースを押さえていない方の手で、私をピシッと指してきた。




「グリモア様と先代魔王様と……特にアスト、あなたのご家族よ!」













「へっ…!? ……あぁ! 『大主計』として、ですね!」


びっくりしたが、すぐに納得。だって我が一族の任は『大主計』――。即ち、経理担当なのである。


私も昔からその教育を毎日受けており、今は会社の経理を一手に引き受けている。 まあこういうのはなんだけど……魔眼の力もあって、その程度お茶の子さいさいだったり。


そして現職前職大主計である私の家族は、当然そんな私以上の知識と技術を身につけている。まさにその分野でのプロ中のプロ。


だからこそ初心者であった社長に経理業務のいろはを教えるなんて、お茶の子さいさいを通り越すほどの容易さであろう。



「おかげで、なんとかやっていけるようになったわ! それでもデスマーチが続いて、あわや本当に復活魔法陣送りになりかけたこと、何度もあるけど!」


逆さのまま、ケラケラ笑う社長…。全く笑い事ではない……。 今でこそ軌道に乗っているが、設立当初というノウハウも資金も余裕もまともに無い中、よく持ちこたえたと感服してしまう。


それに……私が初出勤した際の印象だが、当時いたミミック達もラティッカさん達も、苦しんだり疲弊している様子はなかった。 皆社長を心配して手伝いを買って出てくれていたが、誰一人として先行きを憂いてはいなかったのだ。



きっと社長は、皆の手こそ借りはすれども、苦難の試行錯誤を出来る限り漏らさないように…余計な不安を皆に与えないように、自らの箱の中心の内に辛さを閉じ込めていたのだろう。鍵をかけ鎖で雁字搦めにしていると言えるほど厳重に。



――だから、それから解放してあげられたことが……鎖を解き鍵を開け、中の宝物社長を救い出す一助となれたことが、たまらなく嬉しいのである!!




つい、そんな感慨にふけってしまってしまう。すると社長はやはり私の内を覗いたかの如く、少女のように無邪気で、慈母のように柔らかい笑顔を(逆さ姿のままで)浮かべてきた。


「本当…本当に本当に、あなたが来てくれて良かった。あの時、私のスカウトを受けてくれて良かった! 感謝してもしきれないわ。 ありがとね、アスト!」


…っ! 今まで幾度お礼を言われたかはわからないけど、何回受けてもくすぐったいのには変わりない…!  照れ隠しのために、話しを戻しちゃおう…!



「――と、いうことは…私の家族とは、その頃からのお知り合いということですか?」


2枚目の写真へ軽く意識を向けながら、改めてそう問う。 すると社長は――。




「あら? まだ気づいていないのかしら?  アストにしては鈍いわね~!」












今度は一転、からかいの笑み。 気づいていないって、何を…?


「あの話をあなたが聞きつけてきた時は流石にビビっちゃったけど…。案外気づかないものなのね! まあ直接の関わりは話していないからかしら…っと!」


あ。社長、意味深なことを言いながら絵画の隙間にスポンッて消えていっちゃった。そしてそのまま、さっきみたいな台詞を。



「なら、最後よ。 3枚目の写真を御覧なさい」








もう慣れた感じで従い、私は宝箱の元へ。最後の1枚……わっ、これ更に古い…!!


1枚目が最近、2枚目が私の子供の頃。傍に並べてある写真を見ながら、改めて脳内でそう復唱する。 では…それより更に過去のこれには、どんなことが……――!


「せーのっ……えいっ!!」


内心にドキドキと、そこそこのワクワクも宿しながら、思い切って写真を表へ。そこには…――!



「こ…これって……!! お祖父様お祖母様と…魔王様とオルエさんと社長と……!?!?」











二度あることは三度あると言うが……三度目の驚愕…! そして、先の二枚とはこれまた違う装いの写真…!!


まず撮影場所は、私も以前招いていただいた、魔王城の玉座前。ただし誰かが拝謁しているわけではなく、近衛兵の数も極少数。


その玉座にほど近い場所に控えているのは、お祖父様お祖母様だが……二枚目の写真と比較しても格段に若い…! おじ様おば様と言うべきぐらいの……!


加えて、他の腹心の面々グリモワルスも幾人か揃っている様子。顔を知っている方々だらけだが…先代先々代も多く、やはり総じて若々しい。


更に、玉座にお掛けになっている、もはや背景のような巨躯なる御姿なのは……先代魔王様、サタノイア84世である。今は御隠居の身だが、この写真に置いては意気軒高といったご様子。




――ただこれ、おかしな点が…とんでもなくおかしな点がある。この写真に写る面々、見る人が見れば畏れひれ伏すような方々の顔が……奇妙なのだ。



偉大なりし先代魔王様、精強なる側近達、百戦錬磨の近衛兵……その全員が唖然というか呆然というか、脱帽しているというか舌を巻くというか、恐ろしさを感じ冷や汗を垂らしているというか――。


そんな、なんとも筆舌に尽くしがたい微妙な表情を浮かべているのである。 そして、その視線は総じて玉座前に注がれているではないか。



そこに何があるのか―。否、そこに誰が居るのはもう明白であろう。



そう…。当代魔王様、オルエさん、社長の三人である……!!! ……って。




「可愛い……!!」









―――っあ…。つい言葉が漏れちゃった…! だって……社長達、なんだか様子なのだもの。


当代魔王様と社長は、今も少女姿。この写真に写っているお二人も似たような御姿なのだが…どこか幼さが漂っている感じなのだ。


そしてあのオルエさんですら、社長達と同じいたいけな少女姿なのである。……既に若干の危なさを纏っている気がするけども。


これは間違いなく、子供時代のお三方。そんな彼女達はやり遂げたと言わんばかりの顔で写真に思い思いのポーズを取っている。 当代魔王様はやっぱり恥ずかしいのか、社長達に軽く抑えられ、おずおずながらに。



しかしこの写真、どんなタイミングで撮られて…。……ん?そういえば…。


「社長達、かなり汚れてる……?」


よーく見ると…三人共怪我している様子こそないものの、土汚れを全身につけ、髪もボサボサ。まるで外で散々遊んできた……というより、激しく暴れてきたというような……。



「まだわからないかしら、アスト助手? じゃあ…ヒントをあげましょう」






――社長の声…!  けど、先程みたいなどこにいるかわからないような雰囲気ではない。でも、壁の絵からではない…。方向的に――!


「安楽椅子…!!」


ハッと弾かれたようにそちらに顔を向けると、そこには安楽椅子にゆったり揺られながら、足を組み手を組みの姿勢でこちらへ微笑んでくる社長が。……安楽椅子探偵?


「もう一度、写真裏の日付を御覧なさいな。 私達三人、そしてその日付―。を見つけてきたあなたなら、自ずと答えは導き出されるはずよ」


首を捻る私へ、社長はそう助言を。 日付…? えーと、歴史的な出来事や重大な事件が起こった日ではなさそ…――



――ん? 重大な…事件…? そういえば、確かに見たことある気がする日付…。 でもどこで…?


日付日付…カレンダー、手帳、書類の日付欄、歴史書や年譜の記録……新聞や雑誌の記事……――雑誌? 雑誌の記事!? ――あぁっ!!!



「しゅ……『週刊モンスター』…!! その……バックナンバーっ!!!」



全身に稲妻が走るような感覚を覚えながら、私の口はその日付が書かれていた雑誌名を紡いでいた。そう、あれは…っ!!!


「あなたがグリモア様の元から借りてきた、古い魔物情報誌。その中のとある記事に書かれていた眉唾事件、その発生日。 でしょう?」


……そ、そう…! 社長の言う通り…! ただあれは、眉唾事件じゃなくて……!


電撃に曝され続けているかの如き心持でごくりと息を呑むと…社長はにっこりと決め顔を浮かべた。



「えぇ、その通りよアスト。 魔界人間界が結託し揉み消した、世間一般では精々が都市伝説扱いの、あの事件。 魔王軍と人間騎士合同軍がぶつかり合った、『目玉焼きには醤油か塩コショウか戦争』の日よ!!」











……いや、いくら名前が無いからってその命名はちょっと…。本当にそれが開戦の理由みたいなのだけど……。


というか、それは戦争になる前に未然に防がれたのだ。……社長と魔王様とオルエさんの『最強トリオ』が、双方全兵士を一人残らず叩きのめすことで……。



「その写真、それが終わって帰還して、先代魔王様に報告した直後の一枚なのよ。全員信じられないって顔してるでしょ?」


楽しかった思い出を語るような口調の社長。そして、テヘリと。


「まあそれ撮ったすぐ後、内緒で勝手に止めに行ったことを物凄く叱られたのだけど!」



…………相変わらず気楽に話しているが……両部隊それぞれが数万はくだらない兵を有しており、命令無視の全面衝突が始まっていた中、たった子供三人で乱入、沈黙させたという話である。眉唾扱いもむべなるかな。



けど、なるほど。それならばこの写真の様子も理解できる。各側近が慌てて集合し知恵を寄せ集め、近衛兵も僅かな人員を残し事態の収拾に奔走し始めていた頃合いなのだろう。


そんな中、子供三人が戦いを終わらせてきたと報告して来たら…それも汚れ具合から嘘ではないとわかってしまったのなら、こんな表情にもなろう。






「……この頃から、私の家族と知り合いだったんですね……」


「正しくは、マオ当代魔王と出会った最初から…マオの友達として魔王城へあがらせて貰った時からだけどね~! でも色々と気にかけてくださるようになったのは、その事件がきっかけかしら!」


種明かし! と宣言するような様子の社長。そして、悪戯っ子みたいに肩を軽く竦めた。


「それにしても……。私とあなたの家族との関係、本当に気づいてなかったのね。 私が『最強トリオ』の一角だと聞きつけて、その『若気の至り』戦いへの殴り込みも知って、あまつさえマオ達から当時のエピソードを色々聞いたってのに!」


「ぅ……!」



――そう、なんで気づかなかったのだろう…。 いや、言い訳をさせてもらえるなら、のだ。今日、幾度かは!


何か引っかかる、何かが変。時折そう感じていた違和感の正体。それはまさに、そのことなのである。まさしく、その『最強トリオ』の話なのである!




…まず、今しがた話題に上がった、その無双について。いくら歴史の闇に葬られた出来事とは言え、当時の関係者達が知らぬわけがない。


もっと言えば、それほどの規模の隠蔽、魔王腹心全員がかりで動かなければ成し遂げられぬことであろう。その際には当然金銭のやり取りも発生するのは明白。


怪我した兵士の治療代、情報統制に必要な資金、人間界側との渉外費諸々…。……こう言っては何だが、各所へ黙秘を命じるもそこそこ必要としたことだろう。


そんな大仕事に、大主計であるアスタロト家が関わらない訳がない。そして勿論、その仕事の原因…もとい、事態を解決した存在を覚えとかない訳ないのだ…!!




というか! そもそも幼き魔王様が友達として、子供とはいえ一般市民を選んだ時点で、腹心級の存在であれば一定の注意を払うのは当たり前! 変なことを吹き込まれたら大変なのだから!


それに! 社長達が『最強トリオ』とまことしやかに呼ばれるようになってから、先代魔王様の許可で色々派手に暴れたらしいが……それを魔王側近達が知らない訳ない! メンバーに次代魔王様が含まれてたんだし!


更に! 社長達、今なお魔王城でちょくちょく飲み会を開いているんだもの! それもまた、魔王様に仕えているのならば…! ……もういいや…。




つまり――。今まで、ヒントは幾らでもあったのだ。……はぁもう…。なんでそこまで思考が回らなかったのだろう…。


なんだか普段の社長を見ていると、『ま、いっか』みたいな感覚に陥るからかな…。または、私が社長を信頼しきってるからか…。 そもそも明確な判断材料はないに等しかったし…。



――いやそれよりも! 誰もそんなこと、おくびにも出さなかったのだもの! お祖父様もお祖母様も、お父様もお母様も!! いつぞやに顔を合わせた各グリモワルスの当主陣も!!!


流石、魔王様に仕える存在…。 尊敬すべき前任者の皆様方である……。





因みに、グリモアお爺様は詳しく教えて貰ってはいないと仰っていたが…。ただあの方は御意見番かつ、図書館ダンジョンという魔王城より離れた場所に居られる身。


伝えられてなかったのは、あの方を心配させてはいけないのと、恥の出来事でもあるからであろう。私が当事者でもそう考えるし……。 最もお爺様、あらましは当たり前のように御存じのようだけども。









「ペイマス様とイーシタ様には、マオのついでに沢山勉強を教えて貰ったわ! カウンテ様とアルテイア様も、お茶目でお優しい方で!」


……私のお祖父様お祖母様、お父様お母様の名を淀むことなくつらつら挙げる社長…。とうに疑いようは無いのだが、やはり既知の仲な様子。



…………社長と私の家族がここまで深い仲だったなんて……。知らなかった……。


…………そして、なんだろう…。とても……とてもモヤッとする…。



ずっと秘密にされていた、ということに対しての不満は多少なりともというか結構あるけども…。今はそれじゃなくて…――。





改めて、机に置いていた二枚の写真も手にし、三枚並べてじっと見つめてみる。どれもこれも衝撃的な絵。でも、何か引っかかる…。というより、何か忘れてる気が……。


「―――さて。その疑問アスタロトとの関係性がつまびらかになったところで……。次の疑問に移りましょう」


「…えっ? 声近……わっっ!?!?」



写真から目を離すと、いつの間にか社長が目の前の宝箱の中に!!? ……でも、見慣れた様子に戻ってくれて良かった…。


「まず明言しておくけども、私がアスタロト邸を訪れたのはこれが初めて! アストとの探検、すっごく楽しかったわ!」


そう満面の笑みを浮かべながら、社長は箱の縁に両肘をついて顎杖。――すると、突然顔に妖しさを纏い…。



「でもなんで……。この部屋に入った瞬間、こうも語り出したのでしょうねぇ。……不可思議じゃあない?」






――そう! 今度はそれ!!  つい社長の放つ雰囲気に呑まれてしまって、写真の衝撃が強すぎて、更には宝箱の行方推理をした時のようにノッちゃって、頭から飛んでいった疑問…!!!



社長の台詞は嘘ではないとわかる。本当に我が家に来たのは初なのだろう。 ならば、その疑念は更に膨れ上がる…!



何故社長は、『箱の中に裏返しで入っていた写真の詳細を知っていたか』…! しかもそれを元にあんなにも語って…!




「さっきと今しがた、二回も推理解決パートをやって頭を動かしたのだから、アストならもうわかるでしょ~?」


箱に入ったまま、私の顔をにんまり窺ってくる社長。 ……えぇ。ここまで情報と証拠が揃えば、私だって安楽椅子に座りながらでも推測が出来る――!




正体不明の誰かに回収された宝箱! いくら捜索しても見つからない状況! どこにもなかったネヴィリーの足跡! 


何故かネヴィリーから宝箱のことを聞き出したというお母様お祖母様! あんな部屋の状態なのに、お祖父様の書斎へ行くよう促したお父様!


そして扉が開き切り、真っ暗で明かりがつかず、周囲に誰も使用人がいない書斎! その中に安置されていた見覚えのある魔導書! 隠し部屋へのヒント!


何故か登録されてあった、私の生体情報! そしてそれで開錠した隠し扉! 奥に潜んでいたこの部屋に置かれていた、社長の宝箱!!


その中に入れられていた、不自然な三枚の写真! その全てに社長と私の家族が写っているという奇妙さ!


極めつけが……その存在を知り、語り、今こうして目の前で妖麗なる笑みを浮かべる社長っ!!!






―――もはや、真実は一つしかない。 写真を持つ手を震わせながら、私は顔を上げ……その推測を口にした。




「……全て……全て、んですね…!!」








「そうよ、アスト! 全ては仕組まれていたの。本当に、全てが。 今日一日のことだけじゃない。今までのことも、あなたとの出会いすらも!!」



私の解に、社長は両手を広げ認める。それはまさに、全ての事情を知る者やラスボス、黒幕が取るようなポーズ…!


「長かった探索パート、推理パートは終わり、残るは解決パート……謎の答えを、真相を語るのみ」


そう口にしながら、社長はぬいぐるみの花輪を取り、自らの頭に。そしてそのまま箱を動かし……えっ……! なんで入口の扉付近に移動を……!



「今こそ、その真相の悉くを明かすとしましょう。 そう―――」



っっ…!? 社長がそう宣言した瞬間、扉が勝手に開いて…!? 人影が…!! 社長は軽く飛び跳ね、その人影に抱っこされ……!




「「祖父ッチャンの名にかけてっ!!」」




……え、なぜ、ちょっ、えっ、どうして、えええぇっ…!? ええええええっ!?



「お、お祖父様ぁ!?!?!?」


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