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閑話⑨

アストの奇妙な一日:偉大なりしや魔王様③

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更に楽しい時は進んでゆき、酒杯は幾つも空けられていく。次々出てくる食事も、これまた美味なものばかり。



―へ? 今更だけど、どうやって食事とかお酒とかが出てきているかって? 


そこは魔王様のお力の見せどころ。




どうやら別の場所に専属シェフたちを待機させているらしく、何か食べたい物があれば遠隔で注文、そして魔法陣を介して出来たてデリバリー。お酒も同じく。


取り分けや配膳、お酌という作業も、食器や瓶自体が勝手に動いてやってくれる。テーブルの上に乗り切らない場合は、近くの別の机に置かれたり、ふわふわと空中で浮遊していたり。


しかも自分でそれをやりたかったり、誰かにやってあげたい時…というか普通に欲しい時は、そのお皿へ目配せ一つですっと来てくれる。


そして、空になった食器はすぐさま回収。おかげでテーブルの上は常に使いやすく綺麗。凄い。





なお、社長もちょっとした食べ物を持ってきていた。各ダンジョンから頂いたor買ってきたもの…レアな果物やお団子とかから、キノコやソーセージとかの食材系まで。


それらをいつも通り、自分の箱に詰めて来ていたのだ。 やっぱりこっちも凄い、ミミックの箱。











気づけば私の緊張もかなりほぐれ、場には友人同士の和やかムードが満ち満ちて。

そして皆の会話もその空気に相応しい、思い出話や最近の他愛もない出来事などの歓談に相応しいテーマばかりであった。




幾つか、内容を紹介するとしよう。まずは…『社長達三人の出会いのお話』―。



~~~~~~~~~~~~~~~



「―それでね。 魔王城から抜け出してきたマオは、街で私達と偶然ぶつかってね。 追っ手から逃げてるって焦っていたから、私の箱に匿ってあげたのよ」


「そして私が抱っこして、素知らぬ顔で歩いてね♡ まさかマオがちっちゃな箱の中に入っているなんて思わなかったみたいで…兵の皆、スルーだったわ♡」



懐かしそうに思い返す社長とオルエさん。まさか出会いが、そんな劇的&定番なものだったとは。




「そっから私達の関係が始まったってわけ! …あれ? でもなんで逃げて来てたんだったかしら?」


そう嬉しそうに言ったものの、はてなと首を傾げる社長は魔王様をチラリ。 すると魔王様は…顔を赤くなされて、か細い声を。


「うぅ……予防注射が…怖かったから…だ…!」





「あぁそうだったわ♡ 結局、私とミミンで説き伏せて、魔王城に送り届けたんだっけ♡」


「そうそう! いやー、あの時のマオ、ワンワン泣きまくってたわよねぇ。注射する時も、私達に手を握ってってせがんできたし! 会ったばかりだったのに!」


思い出し、クスクスと笑うオルエさんとゲラゲラ笑う社長。 ―と、社長の笑いっぷりが癇に障ったらしく…魔王様が、頬をぷくっと。



「むぅう…! そう笑うが、ミミン! 貴様も大概だろう! 父上先代魔王の厚意でついでに注射を打ってもらえるとなったら、箱をがっちり閉じて逃げた癖に!」


「なっちょっ!? それ持ち出すの!?」


まさかの暴露返しに、グラスをあわや倒しかけるほど慌てる社長。私は思わずポツリ。



「そうだったんですか社長…」


「違うの! 違うのアスト! いや違くないんだけど…。 今は別になにも怖くないわよ!?」


ただの相槌のつもりだったのだけど…。注射は私も怖かったし。 でも変に受け取られてしまったらしく、社長は全力で言い訳をしようと。


―と、そこに…オルエさんが追撃を加えてきた。



「ふふ♡ あの時のミミン、頑なだったわよねぇ♡ その場にいた大人総がかりでもぎっちり閉めたままだったし。 で・も・♡ 私がふーっ♡って息を吹き入れてあげたら、変な声あげて出てきちゃって♡」



「おーるーえーッ! 大体あなただって…! …いや、違うわ…」


魔王様以上に顔を真っ赤にした社長が、吼える。そして自身も暴露してやろうとするが…突如意気消沈。


「うむ…。 あの時のオルエ、率先して注射受けてたからな…」


そして呆れ笑いを浮かべる魔王様。オルエさんは、うふ♡と私へウインク。


「私、刺されるような痛みも、結構感じちゃうのよぉ♡」



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その後も少しばかり暴露合戦が続いたが…。まあ結局、不毛な争い。すぐに和解して終わってしまった。


暴露の度に社長と魔王様が顔真っ赤にするのに対して、オルエさんは恥ずかしいのが気持ちいい言わんばかりに身を少しピクつかせてたし…。 



因みに他の暴露内容だが…。どれもこれも、微笑ましいものばかり。

『何の食べ物が苦手だった』とか。
『魔王様が世間知らずだった』とか。
『かくれんぼで社長が潜んでた箱が、落とし物として届けられてしまった』とか。






さて次は、『身体の成長のお話』―。



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「しっかし…相変わらずオルエのおっぱいってたゆんたゆんよねぇ…。何食べたらこうなるのよ…」


「我らは、子供の時分からほぼ身体付きが変わっていないというのに…ぐぬぬ…」



社長は触手でオルエさんの胸を突き、魔王様は自らの胸に手を置いて悔しそうに。

確かにオルエさんの身体は出るべきところは出て、締まるべきところは締まっている。まさにTHE・サキュバス。




「それは仕方ないじゃなぁい♡ 私達は持ってる力が強大過ぎて、カラダの成長が阻害されちゃってるって診断受けたでしょ♡  私はカラダが重要なサキュバス族だから、なんとかおっきくなれただ・け♡」


胸を好き放題揉まれながら、2人をあやすオルエさん。 しかし社長たちは不満顔のまま。



「…なーんか納得いかないわね…。 そだ! マオ、このキノコ齧って!」


「な、なんだこれは…? なに? 身体が大きくなるキノコ?」



社長が魔王様に渡したのは…前に訪問した『キノコの山ダンジョン』から頂いた、赤地に白水玉のスーパーなキノコ。 確かそれって…。




「もぐ……。 むっ…!?」

♪ピロンピロンピロン⤴♪


やっぱり謎な電子音と共に、煙に包まれた魔王様。それが晴れた後には―。



「おぉ!? 大きくなれたぞ!!? 我も大きくなれたぞ!!」




なんと、大人の体つきになった魔王様が。 そう…このキノコ、普通はただ巨大化するだけなのに、何故か社長が食べたら大人化したのだ。 だから魔王様にも効いたのだろう。


しかしこの変化後の御姿…! 女王様と呼ぶに相応しい威厳と貫禄に満ち溢れている…!



…が、当の魔王様本人が少女のように喜び過ぎて、それも半減中なのは言わざるべきか…。




「これならば…!カーテンや兜で顔を隠さなくとも臣民に姿を…! あうっ!?」


そして魔王様…喜び過ぎて、立ち上がった節にテーブルに足をゴン。 

…このキノコ、ダメージを受けるとすぐに効果切れするため…。



♪ピコンピコンピコン⤵♪


「へっ…!? あ…あぁ…小さくなってしまったぁ…そんなぁ…ふぇぇ…」



…と、悲しみに暮れる少女姿な魔王様へと戻ってしまった…。







「私にもミミンのキノコ、食べさせてちょうだい♡」


そこに参戦してきたオルエさん。魔王様が渡すと、それをしげしげと眺め、端を齧り…。…って…。


「んふ…♡ ぺろ…んちゅ…♡ っん…♡ 美味し…♡」


…齧るというか…舐《ねぶ》るというか…。 というか持ち方自体もどこはかとなく卑猥な気も…。



……まあそれはともかく、同じように電子音と煙が。――しかし…。



「「んんん??」」

「あれ…? 姿が…?」


眉を潜める社長と魔王様。私も首を捻る。だって…。


「あらあら♡ 変化無しなんて♡」


…大人化はおろか、巨大化すらしてない…。そういうパターンもあるんだ…。




「…ミミン」

「…えぇ。 ていっ!」


「きゃんっ♡」



直後、魔王様に促され、社長がオルエさんの肩に触手ビンタ。 再度下がり気味の電子音と煙がでたけど…。


「「「やっぱり変わってない…」」」




~~~~~~~~~~~~~~~~



という顛末が。…というかオルエさん、サキュバスだからって身長を縮めて少女姿になることは出来るらしく…。


そっちに関してはキノコ無しでポンっと変身してみせてくれた…。…別にサキュバスだからって、そんな能力持ってるとは限らないと思うんだけど…。



しかしそうなると私以外の三人が少女(偽)となり、明らかに飲み会の場としては通じなくなるので…元に戻って頂いた。



なおオルエさん、私に『小っちゃくなる方法知りたい?』と聞いてきた。…正直、社長と同じ高さで話してみたいという気持ちはあったため、悩んでしまった。


するとそれをイイことに、『教えてあげるわ…♡手取り足取り、そのカラダにじぃっくりと…♡』と言ってベッドへと連れていかれかけた…。 社長と魔王様が慌てて止めてくださったけど…。







更に話は変わり、今度は『かつての【最強トリオ】の逸話』へと。これに関しては、私が持ちだしたのだが―。



~~~~~~~~~~~~~~~




「実はグリモアお爺様にお聞きしまして、こんな雑誌をお借りしてきたんです」


そう言いつつ私が取り出したるは、『週刊モンスター』のバックナンバーが一冊。それをペラペラと捲り、とあるページを魔王様方に見せる。



「むむ? おぉ…! これは…! 魔王軍と人間の騎士兵団を両成敗した時のか…!」

「懐かしい~♡ まだ皆やんちゃだった時のひと騒動ね♡」


…さらっと仰る魔王様とオルエさんだが…。ここの書かれているのは、下手すれば戦争一歩手前なぶつかり合いの記事。片方だけでも数万じゃ効かないぐらいの兵士はいたんじゃないかって戦い。


そこに子供の頃の『最強トリオ』…社長とオルエさんと魔王様の三人が乱入し、一切の傷を負うことなく双方をボッコボコにしたという、歴史から抹消された出来事なのだ。





「父上や当時の人間の王達が共謀して、全ての記録を消したはずだったのに…。 こんな場所に残っていたとはなぁ…」

「もう都市伝説扱いされて久しいのにね~♡ アストちゃん、これよく見つけてきたわね♡」


しげしげと載っている写真や文章を眺める魔王様とオルエさん。 その魔王様の御言葉がちょっと気になり、一つ質問をさせてもらうことに。


「人間側も隠蔽に協力したのですか?」





「うむ、そうなのだ。なにぶん『目玉焼きには醤油か塩コショウか』から始まった、双方命令無視の大喧嘩だったからな。 しかも我らに手も足も出ず全滅したから、笑い話にもならなかったろう」


そう答えてくださる魔王様。……本当だったんだそれ…。 ―と、社長がしみじみと口を開いた。


「先代魔王様にすっごく怒られたわよねー、参加してた魔王軍兵全員。そして私達も! なにせ、魔王様に内緒で止めに行ったのだもの!」



「そうそう♡ 珍しくマオが提案してきたのよ♡ 次期魔王としての責任を感じちゃって♡  あわや魔王様にクビにされかけた皆を、涙でぐちゅぐちゅになりながら庇いもしてたわねぇ♡」


「私とオルエも一緒になって魔王様に頭を下げたわね~。 ほんと、懐かしい話!」



過去を偲び、うんうんと頷くオルエさんと社長。 そしてさらっと暴露された魔王様は、またも顔を赤らめてた。



~~~~~~~~~~~~~~~~



なおその後、ついでに『最強トリオ』は他に何をしたか聞いてみると…。



「そうさな。暴れていた巨竜共を張っ倒して鎮めたり…」と魔王様。

「人質とってダンジョンに立てこもった盗賊団を全員ブッ飛ばしたり…」と社長。

「魔王様に挑もうとして来た冒険者を、先んじて片付けたりとか♡」とオルエさん。



他にも、出るわ出るわ武勇伝。 魔王様に頼まれてだったり、勝手に行動したり。やりたい放題だったご様子。

まあ悪い事はしていなかったようで何よりだけど…。そりゃ噂にも残るでしょうね…。






―そうそう。その流れでちょっとしたお話が続いた。どんなかというと…。



~~~~~~~~~~~~~~~



「そういえば…♡ この時指揮していた魔王軍幹部の方、まだ現役みたいじゃない♡」


私の持ってきた雑誌を指さしつつ、オルエさんがそう聞く。 すると魔王様はこくりと頷いた。


「うむ。『バサク』のやつだな。 今は『上級者向けダンジョン』の仕切り役兼、ボスを務めてもらっている。 あやつの血の気の多さは昔から変わらんから…」


「ダンジョンにねぇ…。 ねえ、マオ。何かあったら―」


そんな魔王様の言葉を聞き、社長は少し声の調子をまともに。しかし、魔王様はそれを制した。



「わかってるぞミミン。 既に二回も手を貸して貰っているのだ、困ったときは頼る」


「なら良かった! もー。立派になったのは嬉しいんだけど、今度は今度で頼らなすぎよ!」


いつもの元気な調子で、ちょっと不満を口にする社長。すると魔王様、ちょっと俯き、指同士をつんつんと。


「むぅ…。 だって我、魔王だもん…。いつまでも、おんぶに抱っこではいられないし…」




自信無さげに、そう呟いた魔王様。しかし社長は…それを笑い飛ばした。


「何言ってんの。友達なんだから、困ったときは助け合うもんでしょ。 ぶっちゃけ、私も助けられてるし! 市場に流しにくい危険素材の買い取りとかで!」


「あれは寧ろ我も助かってるのだが…。 格安で希少素材を手に入れられるのだから…。 …もっと高値でも良いのだぞ…?」


「今のままで充分よ! 元は取れているんだから! …ま、サキュバス素材はオルエからのほうが良いだろうけど!」



そう微笑み、チラリと向かいの席へ目をやる社長。するとオルエさん、待ってましたとばかりににっこり。


「うふふ…♡ この間、新しいサキュバス媚薬を作ってみたの♡ 香りを嗅いだだけで、一ヵ月は発情しっぱなしになって、感度も3000倍ぐらいに気持ち良くなっちゃうやつ♡ いる?♡ それとも…今使ってみちゃおうかしら♡」


そう言いつつ、胸の谷間から小瓶を取り出したオルエさん。 …なんか、見るからにヤバい色をしているんだけど…。



「「――!! 絶対開けるな!」」


瞬間、明らかに警戒しだす魔王様。 社長に至っては、自身の宝箱の中から危険物用の強化金庫を取り出して威嚇まで。持ってきてたんだ…。



その焦りっぷりをクスクスと笑い、再度胸の中に小瓶を仕舞うオルエさん。…ミミックの収納術とか、教わってたりするのかな…?





「ざーんねん♡ …けど、実はこれ、とある女騎士ちゃんに使うつもりだったの♡ アストちゃん並みに良い子が来たから、身も心も堕としてあげようと思って♡」


そう種明かしをするオルエさん。…誰かは知らないけど…気の毒に…。


「…でも、せっかく良いところまでイッてたのに…急に来なくなっちゃって…。 …クーコちゃん、どこに行ったのかしら…」


―しかし、オルエさんは至極残念そうに溜息を。どうやら上手く逃げおおせたらしい。 


と、その名前を耳にした魔王様がポンと手を打った。


「クーコ…女騎士…。 もしや、あの『勇者パーティー』の、気も力も強い女騎士か?」




それを聞いて、社長も『あ、やっぱり?』と。 何を隠そう社長と私は、少し前に訪問した『中級者向けダンジョン』でその勇者パーティーの姿を映像で見ているのだ。


そして社長、その中の女騎士を見て『オルエが気に入ったって娘に似てる』と漏らしていた。つまり、同一人物で当たっているのだろう。




すると魔王様、それで一つ思い出したらしく…社長へと顔を。


「ミミン。その勇者パーティーが、魔王軍の各ダンジョンをじわじわ攻略していっているのだ。いくら負けても、何度でも…。ちょっと怖いぐらいに……」


少し怯えた様子の魔王様。繰り返し挑むって…何しているんだろう…。 経験値を溜めているのかな…?




「いずれ上級者向けダンジョンにも到達し、ともすればここ魔王城にもやってくるだろう。狙いは我みたいだし…。だから、その時は…」


そぅっと社長と私の顔を窺う魔王様。 社長はいつものように、ドンと胸を叩いた。


「えぇ! その時は、私とアストに…『ミミック派遣会社』にお任せあれ!」


「はい! 私も微力ながら、お力になります!」



私も片手を胸に当て、そう宣言する。 …ついでに、オルエさんも…。


「もし魔王城に来るとわかった時は、私も呼んで♡ クーコちゃんの弱点、ぜーんぶ知ってるし♡」


…と、頼もしいんだか危ないんだかな協力表明をしてくださった。




~~~~~~~~~~~~~~~




他にも色々と話を交えたが……。これ以上はキリがないので割愛。



とはいえ、歓談する以外も色々と遊ばせて頂いた。ボードゲームをしたり、映画を流したり、カラオケしたり。


社長はふわふわソファに身体を沈めこんでソファミミックになってたり、ボトルシップ的なものをあっという間に作ってみせていた。




…え? ボトルシップってそう簡単に出来る物じゃない? うん、私もそう思ってた。



でも…彼女はミミックだというのを忘れないでいただきたい…。ボトルの中に入れる存在だっていうのを…。



【ミミックミミンの、簡単ボトルシップ講座♪】


1.手順は単純! まず空ボトルと入れたい物を用意します。


2.まず自分がボトルに入ります。そして手を出し、入れたい物を掴みます。


3.あとはそれをスポッと引き入れてセットして、自分が出れば完璧! ね、簡単でしょ? 


【おしまい♪ 皆も真似してやってみよう!】



……みたいな感じだったのだ…。真似できるわけないでしょう…。








あ。あと、とあるゲームに興じた時が結構盛り上がった。それはなんと…『王様ゲーム』。


うん。魔王様がいるのに、王様ゲーム。 けど、魔王様にしてみれば命令されるのが新鮮らしく、また昔の社長達との関係を思い出せてお気に入りなご様子だった。


勿論やりすぎなお題は禁止で。…その点に関しては、オルエさんがちょっと不満げだったけど。



それを最後にご紹介するとしよう―。




~~~~~~~~~~~~~~~



「えいっ…! やったー!今度は私が王様ー! なんの命令しようかっしら~!」


幾度目かの挑戦で、社長が王様に。 ニヤニヤと少し考え、お題を出してきた。



「じゃあ…①番が③番に抱っこして貰って、わしゃわしゃーって撫でまくってもらう!」



……社長にとっては、誰が選ばれても面白い絵面だろう…。 けど…けど…!



「①番は我だ。 ③番はどっちだ?」


ひゃっ…! しかも、よりにもよって魔王様…! だって…③番って…!



「…あ、あの…。私、です…! ご、ごめんなさい…!」






まさかまさかの、私が抱っこするほう…! いや逆の方が失礼かも…? …どちらにしても、畏れ多い!!


「何を謝る必要がある。『王様』の命令だぞ。 我、魔王だが。 膝を借りるぞ」


おたおたしている間に、魔王様は自身の椅子から降り、こちらへトコトコと。そして平然と私の膝の上に乗り、頭を預けて……!!!!



「ん? どうしたアストよ。 撫でてくれ。わしゃわしゃーっとな」


「へ! は! はい! お、お任せくだひゃい!」


一緒にお酒を飲むのは大分慣れたけども…! 流石にこれは…! 手が震えて…上手く動かない…!



「アスト、そう緊張しないの。 普段私にやってくれているようにすればいいのよ!」


ふと、社長からそんなアドバイスが。 普段通り…普段通り…。…よし!


「では、失礼します…!」





魔王様の頭にそっと手を置き、優しく髪を梳くように丁寧に撫でさせて頂く…。 …髪、柔らかい…頭、ほんのり暖かい…!



「ほう…ふむぅ…ふへへ…。 なかなかどうして、心が安らぐ…。ミミンやオルエとはまた違った感覚だ…」


どうやら魔王様も喜んでくださっている様子。 顔を少し動かし、私へ微笑みかけてくださった。


「いつか、そなたが我の元に仕えた暁には、常にこうしてもらいたいほどだな…。 なんなら、今からでも…」



「ダメ―! アストは私の! 少なくとも、暫くは私のー!」



…またも魔王様の言葉を遮るように、社長が叫んだ。わぁ…すっごく、破裂しそうなほど頬を膨らませている…。



「あらあら♡可愛い焼きもち♡ 人気者は辛いわね、アストちゃん♡」


ただ一人オルエさんだけ、長姉のような慈愛の笑顔を浮かべていたのであった。


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