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顧客リスト№47 『巨人のジャイアントダンジョン』

魔物側 社長秘書アストの日誌

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「首痛くなってきました…」

「私もー…」


私と社長は揃って首に手を当て、ぐるぐる回してマッサージ。そして、再度見上げる。


「本当、大きいですねー」

「ねー」


ついぽかんと開いてしまう口で、そんな言いあう。ふと、頭をよぎった疑問を口にしてみる。


「なんでこんなに大きいんですかねー」

「んー。真面目にやってきたからじゃない?」


「なるほどー……へ? どういうことですか?」

一瞬頷きかけてしまったけど、意味不明な社長の回答。なんだそれ。

しかし聞き返しても、社長はアッハッハと笑うだけ。…まあ、いいや。







さて。私達はとあるダンジョンを訪問している。とはいっても、そんじょそこらのダンジョンとは規模が違う。

一つの街とか、そのレベル。下手すればもっともっと大きいか。それが、地上に広がっているのだ。



かといって、別に危険な施設とかがあるわけでもない。魔王軍の練兵場というわけでもない。至って普通の景色。

具体的に言うと、山や平地、川が広がっている牧歌的な雰囲気。野を駆ける魔物達もちょこちょこ見かける。

そして、ところどころにある建物。…まあそれが、異常っちゃ異常なのだけど。


遠目から見ても、どう考えても大きい。どれもこれも王城みたいな巨大さ。けど、見た目は至って簡素な家だったり。

なんでそんな巨大な家なのかと言えば…それは住んでいる人が大きいからに他ならない。なにせ、ここのダンジョンの住人は―。



「巨大さMaxね~。まさにキョダイマックス! あんな人達がズシンズシン歩いていると、なんか進撃しているみたい!」

……やっぱりよくわからない社長の言葉はさておいて、そういうことである。


私達の前にいるのは、その『巨大な』『人』―。即ち、『巨人』なのだ。







この『ジャイアントダンジョン』と呼ばれる広いダンジョン。その色んな場所で寛ぎ、楽しそうにしているのは巨人。10mとか15mぐらいの背が特徴な種族。


例えば…小高い山を背もたれに、通常の大きさな羊を手に乗せ、ふわふわと愛でている者。手にした巨大斧で木々を枝の如く軽く切り取り、素材としている者。

中には頭を鳥の巣にしているらしく、動くたびにカラフルな鳥がパサパサ飛んでいく者まで。まさに圧巻の一言。


だから大きな建物は、彼らにとって普通サイズだということ。それどころかこのダンジョン自体も、ちょっとした村みたいな感覚なのだろう。







え? 50mとかの超大型巨人や、鎧とか獣とか? よくわからないけど、そういうのはいないと思う。

女型? いや女性は勿論いる。今私達の隣にいる、依頼主の方のように。


「うちらの大きさにびっくりしたかな? ちっちゃなお二人さん♪」


そう笑いつつひょいと覗き込んでくるのは、確かにスタイルの良い、巨人の女性――。


但し、2mぐらいの身長の。







実は巨人族って、結構魔法を使える者が多いのだ。なんでも、とある神族の末裔種だから云々。

だから、その身にミニマム化魔法をかけることができるらしい。まあそれでも、私達の隣にいる彼女…『テタン』さんのように、かなりの高身長になるみたいだけど。


小さくなれば食事も少し(※巨人比)で済み、服も小さいので(※巨人比)済むから、結構重宝しているらしい。ただ…


「う…ーーん…。 ね。社長さん、アストさん。うち、もう元の大きさに戻って良いかな?」


長い脚と長い腕をぐいいっと伸ばし、伸びをするテタンさん。どうやら、ミニマム化は身体が窮屈に感じる様子。

だから寝る時とか、ゆっくりする時は元の巨人に戻るというわけである。ということで、テタンさんも―。



「しゅわっち!」


片腕を力いっぱい天に衝き、もう片方の腕を胸の横で止めたポーズをとるテタンさん。どうやらそれが元に戻る魔法みたいだけど…。

…なんだろう、どこかで見たことあるような…。気のせいかな?


「なんか三分間しか持たなさそうね~」


と、社長ののほほんと。 さっきから若干、感想が独特な気がする…。



―おっと、離れておかなきゃ…! テタンさんが大きくなった際に踏みつぶされちゃう…!








「ふぅっ! 開放かーん♪ やっぱりこのサイズが一番動きやすーい♪」

再度伸びをするテタンさん。しかし迫力はさっきのとは比べ物にならない。また首痛くなってきた…。


―あ。一応言っておくと、巨人たちが着ている服は魔法製だから、しっかり伸びて大きくなる。千切れ飛んだりしない。変なこと考えていた人、反省を。


ただ、テタンさんのように開放感を気にする方が多いのか、腰巻や胸当てだけとか、原始人っぽい格好をしている方もちらほらいる。…流石にパンツは履いているみたいだけど。




「さ、行こ! そうだ、うちの肩に乗ってって! この姿だと声聞こえにくいし」

身体のストレッチが終わったテタンさんは、その大きな手の平をにゅうっと伸ばしてくる。別に私は飛べるのだけど…楽しそうだから、失礼して!


「指に掴まってね~」

私と社長が乗り込んだのを確認し、手のひらをぐおっと動かすテタンさん…!おぉっ…!

なんか…凄い感覚…!身体が浮き上がる…! テタンさんは普通に腕を動かしているだけなのだろうけど、小さな私達にとっては結構なアトラクションである。



「はいっと♪ 滑り落ちないように気をつけて」


テタンさんの肩にたどり着き、腰かけさせてもらう。わぁ…凄く高い…! 良い景色!


「うちの頭にお掴まりになり、揺れにご注意あれー♪」

そのままズシンズシンと歩き出すテタンさん。すると、連動し私達の座る床…もとい彼女の肩も揺れる。っと、おっとっと…!

案外揺れる揺れる…! テタンさんが腕を振りながら歩いているから、猶更…! かなり衝撃があるけど…楽しい…!



とはいえ、ロデオのような状態。私は最悪飛べば良いだけだが、社長はちょっと危険かもしれない。

そう思い、横に置いた社長の方を見ると―。


「この状況、あの兄弟みたいね…。でもテタンさん、サングラスは案外似合うかもだけど…筋肉を60%とか80%とか抑えているわけないし……。それに弟じゃないし…。私、兄じゃないし…。危機感足りないわけでもないし、B級妖怪でもないから…」


すっごく小さく、何かを呟いている。…もうツッコまない方が良いのかもしれない。詳細不明だし。


けど、私の勘が告げている。さっきからの社長のそれ、なんか全体的に古めだと…。











「ここがうちのうちー♪」

そのまま、テタンさんのご住居に訪問。家が大きいから、扉も超大きい。


そして、中の家具類もかなり大きい。…かと思えば、ミニマム化している時用の、小さいキッチンとかテーブル、クローゼットとかもある。

……いやいや。小さいって…。それが私達の通常サイズだ…。大きいもの見過ぎて、感覚麻痺してきてる…。





「よいしょっと! 飲み物淹れてくるね」


巨人用の大きな机の上に、ミニチュア机&椅子(※当然巨人比)を置いたテタンさん。そこに私達を降ろして、巨人用キッチンへと。


「なんか小人になった気分…!」

椅子に腰かけ(正しくは飛び乗り)、辺りを見渡す社長。良かった、やっと理解できる感想を聞いた。


「どんな依頼なんですかね。冒険者がらみなのは聞いてますけど…」

私も隣の椅子に座り、そう聞いてみる。正直、巨人相手にミミックの派遣ってちょっと考えつかなかったのだ。


なにせ、体格差がえげつない。ミミック達は箱。つまり普通の人型である私が抱え上げるぐらいの大きさが精々。

だから下手すれば、巨人とミミックのサイズ比は、人とハムスターみたいな大きさとなる。それで愛でるならまだしも、雇うときた。


まあ戦う相手は人間である冒険者。役に立てはするだろうけど…。






「お待たせー! 紅茶どうぞ!」


と、そんな間にテタンさんが戻って来た。私達の前に置かれたのは、紅茶が入ったティーカップ。…ただ…。

「あの…えっと…」

「あれ? どうしたのアストさん。 あ、もしかして紅茶嫌だった? ならスポーツドリンクとかもあるよ。巨人愛用のスポーツドリンク」

「いや、そうではなくて…」

「へ? ―あっ」


私が言葉を探している内に、テタンさんは気づいてくれた。…ティーカップ、お風呂みたいなのだ…。これ、巨人用のティーカップ…。



「うっかりうっかり!」

てへっと照れるテタンさん。新しいのを淹れて来てくれると言ってくれたが、この量の紅茶は流石に勿体ない。

なので私達サイズのカップとポットを貰い、汲んで頂くことに。消費はしきれないだろうけど。


「紅茶のお風呂…」

…なんだか社長が、カップの中に飛び込みたさそうにしているが…。










「それで、どのように冒険者が悪さをしているのですか?」


歓談の後、社長が切り出す。するとテタンさん、ちょっと待っててとどこかに行き…。

「これの防衛をしてほしいんだ」

そう言いつつ、何かを机の上にズシンと。これは…ジュエリーボックス…?とんでもなく大きいけど。


と、テタンさん蓋を開けごそごそ。中のものを幾つか、私達の前にゴトリと置い…わっ…!


「「大きい…!」」


私と社長は同時に驚いてしまう。置かれたのは指輪とかネックレスとかイヤリングといったアクセサリー系統なのだが…どれもこれも巨大なのである。

私の胴がすっぽり入りそうな指輪、身体を縛り上げられるぐらい長く大きいネックレスの鎖、イヤリングとかについている宝石も、抱え上げる必要があるぐらいなサイズ。



なるほど、狙われるのも道理。…あれ?


「このアクセサリー…傷まみれですね…?」


ふと気づいたことを口にする。よく見ると、出されたアクセサリーのどれもこれも、変な傷がついているのだ。これは…剣とかで削られたような…。


「そ! そこ!」


と、私の言葉に反応し、怒った様子で机をドンっと叩くテタンさん。その勢いで私達の身体もちょっとふわり。テタンさんは慌てて謝ってきた。


「あっ。ごめんなさい…! …そこなの、アストさん。それ、冒険者達が削っていった痕なんだ…」



―あぁ。読めた。巨大すぎて持ち帰るのが困難だと感じた冒険者が、端っこを削り取って持ち帰ったのだろう。確かにその欠片だけでも、充分な価値がある。


「冒険者達、小さいから追いにくくて…。物陰に隠れられると見失っちゃうし…。小さくなって捕まえようとすると、かなり手強いし…」

はぁぁ…と溜息をつくテタンさん。よっぽど悩んでいるらしく、かなり長い。私、思わず軽く吹き飛ばされかけた。



なるほど、ここでまさかの巨体のデメリット。確かに大きければ強いし、冒険者なんかプチッと潰せるだろう。

だがその分動きが鈍重になり、小さいものを追うのが難しくなる様子。人が虫や鼠を苦戦して追い払うのと同じ感覚なのだろう。


しかも、その鼠は知能があるし、鋭い武器も持っているときた。そりゃ面倒な相手に違いない。





「それで皆困ってるんだよ…。助けて、社長さん…」

頬を机にぺったりくっつけ、泣きそうな表情のテタンさん。それに対し社長は―。


「なるほど…。把握いたしました! ミミック派遣、問題ありません!」


左手を背に回し、そして右手で拳を作り、その底部分…小指側の方で、自身の左胸をドンと叩いた。



「…なんです、そのポーズ…?」

見たことのない社長の謎ポーズが気になり、つい聞いてしまう。すると社長は決め顔のまま、答えてくれた。


「これは『心臓を捧げる』敬礼よ!」


……??? もうツッコんだら負けなのかな…?








何はともあれ、商談成立。…流石に契約書は私達の持参品。つまり小さいため、再度テタンさんにはミニマム化してもらう。


「…で、ここにもダンジョン代表としてのサイン、と!」

よく読みこんで貰い、サインも書いて貰ってこれで完了。 やったーっ♪とパタパタ手足を動かすテタンさん。今は小さいから、いくら暴れても衝撃は来ない。


と―。


「ッ…!」

突然、首に手を当て痛がるテタンさん。私は慌てて駆けよった。

「どうしたんですか…?」

そう尋ねてみると、テタンさんは悲しそうに答えてくれた。


「…実はね、最近冒険者達の中に、うちら巨人を『狩ろう』とする奴らが混じって来てるんだ…」





「か、狩る…!?」

魔獣とかではなく、巨人を…!? そう驚いた私に、テタンさんはコクリと頷いた。

「そう…。 なんか変なのを使ってうちらの身体を登ってきて、何故か首筋にばかり勢いよく切りつけて…」


ほら、と彼女は髪をかきあげて見せてくれる。彼女のうなじには、確かに鋭い刃物による切り傷が。巨人状態の彼女達を狙うなんて、なんという命知らず…。


…巨人って首筋、弱点なのかな? ……そりゃ誰だって首は弱点か。








「んー…。となると、それもなんとかすべきですよねー…」


契約書を片付けつつ、テタンさんのお話を聞いていた社長は、首を捻る。と、直後何かを見つめた。


「良い手があるかも! すみませんテタンさん、もう一度巨人に戻ってもらっても?」

「? 勿論良いよ。  じゅわっ!」


先程とは違う掛け声で、巨人になるテタンさん。すると社長はそんなテタンさんの肩に掴まって、どんどん上に…。私も飛んで追いかけなきゃ。






「では、少し耳をお借りします!」

テタンさんが完全に巨人へと戻った後、社長はそんなことを。耳を借りるって…なにか話すことがあるならミニマム化状態でも充分だったんじゃ…。


「痛かったり、重かったりしたら言ってくださいね!」



…ん? 妙な社長の台詞に私は眉を潜める。すると―。


「そーれ!」


えっ!? テタンさんの耳にぶら下がった!?






「どうです? 変な感覚あります?」

そのままテタンさんの耳で、ブランコ遊びをするかのように揺れる社長。しかし、テタンさんは…。

「うーん、特にないかな。 普段つけているイヤリングとかとおんなじ感じ!」

と、全く気にする様子はない。それを聞いた社長はにっこり笑い―。


「アスト、受け止めて!」


大きめにブランコし、ジャンプ。そのまま私の腕の中へと着地してきた。



「一体何をしてたんですか社長?」

突然の奇行の意味がわからず、質問してみる。すると、社長は真下を指さした。

「あれよ、あれ!」

あれ。と言われても。とりえあず視線を下に向ける。そこにあったのは―。


「アクセサリー…ですか?」


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