62 / 227
顧客リスト№29 『ロック鳥の霊峰ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌
しおりを挟む
「うひゃぁぁぁぁぁぁ…」
かなりの上昇負荷に、思わず変な声が出てしまう。地上がぐんぐんと離れていく様子は、圧巻の一言。
またも私と社長は空を飛んでいる。正確には掴まれて持ち上げられている。
以前、ハーピーの方々のダンジョンを訪問した時、降りる際に鳥の足に掴んで貰って降下した。今回は最初から掴んで貰い、目的地へと向かっている最中。
ただし、あの時とは違う。ハーピーのハーさんは私の腕をしっかり掴んでいた。しかし今は…私の身体を包み込むかのような、巨大な鳥の足にがっちり掴まれている。
自分のお腹らへんを見ると、そこには私の顔よりも大きい鳥の爪。光が反射しキラリキラリと輝いているそれは、固い魔獣の皮でも簡単に裂いてしまいそう。
勿論、そんな爪がついている足指?は太く、丸太みたい。それが3本。足指はもう一本あるのだが、それはなんと私が跨がれる椅子となってくれている。ジェットコースターの固定ベルトよりも安心。
…鷹に捕まったネズミの気持ち、わかった気がする。
さて、そんな巨大なる足の持ち主だが…上を見上げてみれば正体はよくわかる。
そんじょそこらの魔物よりも数倍大きい、色とりどりの翼を猛々しく羽ばたかせるその姿。爪と同じように尖り曲がった嘴、猛禽特有の鋭い瞳。
空の支配者が一角と言っても誰も咎める者はいないだろう、その素晴らしき威容。
彼女の正体は『ロック鳥』、超大型の鳥魔物である。
ロック鳥…またの名をルフ鳥。ドラゴン巨大種に並ぶほどの巨体を持つ猛禽類。最大級のサイズだと、一度に象を数匹掴みあげることが出来るらしい。怖。
今私達を連れていってくれている方はそこまではないが、充分大きい。翼を完全に広げたら、それこそ象数匹並べても足りないだろう。
そんな彼女が棲むのは、高い山の上。『霊峰ダンジョン』と冒険者ギルドに名前をつけられている。
山登りをするとなるとかなり険しく、飛んだとしてもかなり時間がかかる。ということで依頼主自ら運んでくれることに。
普段から大きい魔獣とかを仕留め、ご飯とするロック鳥。私達程度朝飯前のご様子。何も掴んでいないかの如く、勢いよく飛んでいっているわけである。
因みに社長はというと、もう片方の足に…ではなく、咥えられている。小さくて掴みづらかったらしい。食べられちゃわないだろうか…。
「わー! 高ーい!!」
…無邪気な社長の声聞こえてきた。大丈夫そう。
「クルルルルッ」
鳴き声1つ、ロック鳥は着地をする。…うーん、やっぱり名前がないのは説明しづらい。
彼らもまた、ワイバーン達と同じく個人名を持たない。当たり前っちゃ当たり前。特にロック鳥は集団で暮らす種ではないからというのもある。
ということで、少々悪いけどまたも勝手にお名前をつけさせてもらおう。『ルク』さんということで。
そんなルクさんが降り立ったここは、だだっ広い霊峰の頂上。とはいっても、岩が結構転がっている。ルクさんサイズだと小石みたいな感じかもしれないけど。
端には、食べ終えた獣の骨が山積み。中には私の身体よりぶっといのも。また、別の端にはベッドなのか、たっぷりの葉っぱで作られた鳥の巣。でもその総量、ちょっとした林の分ぐらいあるんじゃないだろうか。
まるで自分が小人になった気分。そんな妄想とかけ離れた、メルヘンの欠片もない場所だけども。
と、そんなことを考えていた時だった。
「ピヨ、ピヨ!」
「ピヨヨヨ!」
「キュピー!」
ボスッと音を立て、寝床から何かが飛び出してくる。私の数回りは大きいそれらは、体格に似合わずよちよちと…!
「ひゃ…!」
私は思わず口を抑える。歓喜の声が漏れそうになったからである。
ずんぐりむっくりとしたその身体は、真っ黄色でふわっふわな羽毛で包まれているため。嘴も爪も丸く、目までくりくりとまんまる。可愛さの塊としか言いようがない。
そう、やってきたのはひよこ…もとい、ロック鳥の雛たちである。
先程から『彼女』と呼んでいた通り、ルクさんは母ロック鳥なのだ。威厳すら感じられる親とは対照的に、子はおっきいぬいぐるみみたい。
そんな雛たちは私達の姿を見るや否や、怖いもの知らずに一斉に駆け寄ってきた。そして、興味深そうにつんつんとつついてくる。
嘴は尖ってないから、全く痛く…あっ、ちょっと痛い…! 大きいから案外力が強い…!
思わず横へ避けると、別の雛の嘴がこつん。更に避けると別の子の羽毛がもるん。
ハッ…! 今気づいた…! 囲まれている…! しかも巨ひよこ円陣はじわじわと狭まってくる…!あぁ…このままじゃ揉みくちゃに…!
「よいせっ…! はーい!みんなーおやつよー!」
あわや私が黄色に取り込まれかけたその時、社長の声と共にドサッと重い音が。それは、巨大なお肉が置かれた音。
「「「「ピヨー!」」」」
瞬間、雛たちはこぞってそちらに。巨大羽毛玉の中心はお肉になってしまった。ほっとしたやら、なんか悔しいやら…。社長も、このタイミングで持ってきたお肉出さなくても…。
「後で存分に触らせて貰いなさいな。あのモフモフ」
うっ…社長に内心見透かされてた…。
「よーい…ドン!」
食後、唐突に始まったのは何故かレース大会。腹ごなしらしい。
社長の号令に合わせ、おっきい雛たちが簡易トラックをとてとてぐるぐる。時折ジャンプでぽよんぽよん。ひよこレース。
なお、別に優勝云々とかは特にない。遊びだから当たり前だが。当然マテリ…クリスタルとかの商品もないのであしからず。
てか、ずるい…。社長、雛の頭の上に乗っかってる…羨ましい…。
私も背中とかに乗りたい。…背中どこだろ。羽毛モフモフでわからない。
「クルルル…」
と、私の横で座っていたルクさんが小さく唸る。本来ならば相手を射竦めるほど強い眼を、細ーくして。慈愛の眼である
おっと、忘れちゃいけないいけない…依頼で来てるのだ。社長が子守をしている間に、私が依頼内容を聞き出しておかないと…。
黄色毛玉に後ろ髪を引かれつつも、ようやく意識を改める。とはいえ、私は社長と違って直接はルクさん達の声はわからない。
ということで、翻訳魔法の出番。これさえあれば私でも言葉がわかる。詠唱してっと…。
「―ほんと、凄いもんだねぇ。アタイでも制御しきれないガキンチョ共を、こうも容易く手懐けるって。ハーピーの子らのアドバイス聞いて正解だったよ」
突如、誰かの声が聞こえる。しかしその声色は、ルクさんの鳴き声と同じ…。ということは―。
「うん? どうしたんだいアストちゃん、そんな呆けた面して。キュートな顔が台無しだよ?もっとスマイルスマイル。 あ、言葉わかんないか!」
こっちを見て、肩を竦めるように嘴を軽く動かすルクさん。間違いない、彼女の言葉だ。翻訳は見事成功しているらしい。
…いや、うん。そんな喋り方だとは思わなかった。もっと厳かな雰囲気かと…。
なんだろ、これ…。なんかロックンローラーみたいな話し方…。あ、ロック鳥だけに…?
「え、じゃあハーさん達が私達を推薦してくださったのですか!?」
「えぇそう。鳥魔物同士シンパシーが合ってねぇ。ちょくちょく顔合わせてんのよ。冒険者共の愚痴言いあったり、一緒に狩りしたり」
ルクさんと話してみると、まさかの事実。そこで繋がっていたとは。鳥のママ友同盟。ということは。
「子守オプションをつけるということで?」
「そのつもり。抜け羽とか折れた爪とかで代金OKなんだろ? それならたっくさんあるし」
ルクさんが嘴でクイっと示した先には、散らばった羽とかが山積み。中には卵の殻とかも。
「どうせ下に捨てるもんだから、好きなだけ持って帰っていいからね。 あ、新しいのいるかい?丁度痒かったんだ」
そう言いながら、羽繕いをするルクさん。私の目の前にふわさっと一本落ちてきた。
綺麗な色をしているそれは、私の羽よりも大きい。そして、鑑識眼に出たお値段も立派。流石。
「ご用命、確かに承りました。 因みに他にもご心配事があったりしますか?」
いつものごとく、別の問題が無いか探りを入れる。すると、ルクさんは大きく頷いた。
「あるある、バッドな悩みが。 てか子育てだけなら、依頼せずに自分でやってのけるよ」
笑いながらそう前置きをし、彼女は教えてくれた。
「最近、ちょこちょこ冒険者が侵入してくるようになってね。多分山を登ってきてるんだろうけど、そいつらが羽やら卵やらを盗っていくんだよ。アタイがいない時を狙ってね」
これまたハーピーの方々と同じ悩み。なら対処も同じで良さそう。そう思っていると、ルクさんは更に続けた。
「それとね…ガキンチョ共が狙われてるんだよ」
どういうことか。私が軽く首を捻っていると、それに答えるように社長の声が。
「こういうことよ、アスト」
振り向くと、社長を頭に乗せた雛がそこに。そのまま社長は、触手を伸ばしある箇所を指し示した。
「あれ…剥げちゃってる…!」
びっくり。なんと雛の身体の一部が、不自然に剥げてるではないか。というより、毟り取られたような…。
「あ…そういうことですか」
…理解した。実はロック鳥、雛の毛も高値で取引される。超高級羽毛布団とかに加工されるからだ。それを狙う冒険者もいるのだろう。
「うーん…。でも雛もこの巨体ですから、ミミック達の力なくとも冒険者を倒せる気がしないでも…」
ふと、思いついたことを口にしてしまう。すると―。
「ヘイ、この子にアタックかましてやんな」
「はーい!」
ルクさんの合図に雛は助走をつけ、たったったと私に突進してきたではないか。いや、ちょ…!こんな大きいのにぶつかられたら…!
モッファァ…
「あっ……」
至福のぶつかり心地…。じゃない、痛くない。うん…これは冒険者を倒せない…。
「ま、そういうことだよ。もうちょい成長すればイケるかもだけど、それまでにまだ何年もかかるしねぇ。ガキンチョ共に怪我させたくないし、頼んだよ」
「はひぃ…」
モフモフに埋もれた私は、そんな生返事しか返せなかった。
「ところで、おひとつ伺いたいことがあるんですけど」
と、社長。ひよこに押しつぶされた私を文字通り下目に、ルクさんへこんな質問をした。
「さっき皆にあげたおやつのお肉。毎回あんなふうに加工されて落ちてるんですか?」
社長の言う通り、さっき雛たちが美味しく食べた巨大肉は、この霊峰の麓に落ちていたもの。皮や細かい骨や内臓がとられ、お肉屋さんに卸せるような形で転がっていたのだ。
明らかに怪しいそれに私も社長も警戒してたのだが、ルクさんが持っていこうとしていたため、社長が箱に詰め搬送したというわけである。一応調べてみたけど、毒とか危険物の反応は全く無く、新鮮なお肉だった。
「あぁそうさ。たまに落ちてるんだ。獲物を狩る手間が省けるから有難く頂戴してるよ」
食物連鎖の頂点な余裕か、全く気にする様子はないルクさん。まあ確かに、ロック鳥は頑丈な魔物ではあるけど…。
そんな中、社長はちょっと顔を顰める。そして、問いを続けた。
「皆に聞いたのですが、それには時折紐みたいなのが巻かれていると?」
「そういやそうだね。あれがあると持ち上げやすくて楽なんだ。 …あれ、でも今日は無かったね?」
ルクさんは首をくりんと回す。すると社長は、言いにくそうに頬を掻いた。
「あー…。多分冒険者達、その紐に隠れてここまで登ってきてますね…。きっと、バレる直前で降りて。さっきの間に色々見せて貰いましたけど、それっぽい痕跡幾つか見つけましたし」
「え…! いやいや、そんなまさか…」
目をぎょろんと見開き驚いた様子のルクさん。しかしすぐさま沈黙。少し後、ゆっくり口を開いた。
「…被害があったの、確かに大体、肉を取ってきた日だわ…」
嬉しいプレゼントが一転、まさかの罠。よほど堪えたらしく、ルクさんは羽根を垂れさがらせる。ロック鳥の威厳が一気に失われてしまった。
「じゃあなんだい? もうあのお肉はとらない方が良いのかい…?」
凄く残念そうに、彼女はそう呟く。…しかし、社長はポスンと胸を叩いた。
「いえ、そのためのミミックです!ご安心を! とりあえず色々試してみましょうか! まず、雛たちにはなるたけ抵抗しないようにこんな風に…」
こそこそと相談を始めるお二方。でも…もう限界…!
「あ、あの…流石に息苦しく…!」
その間ずっと黄色毛玉の下敷きだった私は床岩をタップし、ようやく解放してもらえたのだった。
…良い羽毛布団だった…。
かなりの上昇負荷に、思わず変な声が出てしまう。地上がぐんぐんと離れていく様子は、圧巻の一言。
またも私と社長は空を飛んでいる。正確には掴まれて持ち上げられている。
以前、ハーピーの方々のダンジョンを訪問した時、降りる際に鳥の足に掴んで貰って降下した。今回は最初から掴んで貰い、目的地へと向かっている最中。
ただし、あの時とは違う。ハーピーのハーさんは私の腕をしっかり掴んでいた。しかし今は…私の身体を包み込むかのような、巨大な鳥の足にがっちり掴まれている。
自分のお腹らへんを見ると、そこには私の顔よりも大きい鳥の爪。光が反射しキラリキラリと輝いているそれは、固い魔獣の皮でも簡単に裂いてしまいそう。
勿論、そんな爪がついている足指?は太く、丸太みたい。それが3本。足指はもう一本あるのだが、それはなんと私が跨がれる椅子となってくれている。ジェットコースターの固定ベルトよりも安心。
…鷹に捕まったネズミの気持ち、わかった気がする。
さて、そんな巨大なる足の持ち主だが…上を見上げてみれば正体はよくわかる。
そんじょそこらの魔物よりも数倍大きい、色とりどりの翼を猛々しく羽ばたかせるその姿。爪と同じように尖り曲がった嘴、猛禽特有の鋭い瞳。
空の支配者が一角と言っても誰も咎める者はいないだろう、その素晴らしき威容。
彼女の正体は『ロック鳥』、超大型の鳥魔物である。
ロック鳥…またの名をルフ鳥。ドラゴン巨大種に並ぶほどの巨体を持つ猛禽類。最大級のサイズだと、一度に象を数匹掴みあげることが出来るらしい。怖。
今私達を連れていってくれている方はそこまではないが、充分大きい。翼を完全に広げたら、それこそ象数匹並べても足りないだろう。
そんな彼女が棲むのは、高い山の上。『霊峰ダンジョン』と冒険者ギルドに名前をつけられている。
山登りをするとなるとかなり険しく、飛んだとしてもかなり時間がかかる。ということで依頼主自ら運んでくれることに。
普段から大きい魔獣とかを仕留め、ご飯とするロック鳥。私達程度朝飯前のご様子。何も掴んでいないかの如く、勢いよく飛んでいっているわけである。
因みに社長はというと、もう片方の足に…ではなく、咥えられている。小さくて掴みづらかったらしい。食べられちゃわないだろうか…。
「わー! 高ーい!!」
…無邪気な社長の声聞こえてきた。大丈夫そう。
「クルルルルッ」
鳴き声1つ、ロック鳥は着地をする。…うーん、やっぱり名前がないのは説明しづらい。
彼らもまた、ワイバーン達と同じく個人名を持たない。当たり前っちゃ当たり前。特にロック鳥は集団で暮らす種ではないからというのもある。
ということで、少々悪いけどまたも勝手にお名前をつけさせてもらおう。『ルク』さんということで。
そんなルクさんが降り立ったここは、だだっ広い霊峰の頂上。とはいっても、岩が結構転がっている。ルクさんサイズだと小石みたいな感じかもしれないけど。
端には、食べ終えた獣の骨が山積み。中には私の身体よりぶっといのも。また、別の端にはベッドなのか、たっぷりの葉っぱで作られた鳥の巣。でもその総量、ちょっとした林の分ぐらいあるんじゃないだろうか。
まるで自分が小人になった気分。そんな妄想とかけ離れた、メルヘンの欠片もない場所だけども。
と、そんなことを考えていた時だった。
「ピヨ、ピヨ!」
「ピヨヨヨ!」
「キュピー!」
ボスッと音を立て、寝床から何かが飛び出してくる。私の数回りは大きいそれらは、体格に似合わずよちよちと…!
「ひゃ…!」
私は思わず口を抑える。歓喜の声が漏れそうになったからである。
ずんぐりむっくりとしたその身体は、真っ黄色でふわっふわな羽毛で包まれているため。嘴も爪も丸く、目までくりくりとまんまる。可愛さの塊としか言いようがない。
そう、やってきたのはひよこ…もとい、ロック鳥の雛たちである。
先程から『彼女』と呼んでいた通り、ルクさんは母ロック鳥なのだ。威厳すら感じられる親とは対照的に、子はおっきいぬいぐるみみたい。
そんな雛たちは私達の姿を見るや否や、怖いもの知らずに一斉に駆け寄ってきた。そして、興味深そうにつんつんとつついてくる。
嘴は尖ってないから、全く痛く…あっ、ちょっと痛い…! 大きいから案外力が強い…!
思わず横へ避けると、別の雛の嘴がこつん。更に避けると別の子の羽毛がもるん。
ハッ…! 今気づいた…! 囲まれている…! しかも巨ひよこ円陣はじわじわと狭まってくる…!あぁ…このままじゃ揉みくちゃに…!
「よいせっ…! はーい!みんなーおやつよー!」
あわや私が黄色に取り込まれかけたその時、社長の声と共にドサッと重い音が。それは、巨大なお肉が置かれた音。
「「「「ピヨー!」」」」
瞬間、雛たちはこぞってそちらに。巨大羽毛玉の中心はお肉になってしまった。ほっとしたやら、なんか悔しいやら…。社長も、このタイミングで持ってきたお肉出さなくても…。
「後で存分に触らせて貰いなさいな。あのモフモフ」
うっ…社長に内心見透かされてた…。
「よーい…ドン!」
食後、唐突に始まったのは何故かレース大会。腹ごなしらしい。
社長の号令に合わせ、おっきい雛たちが簡易トラックをとてとてぐるぐる。時折ジャンプでぽよんぽよん。ひよこレース。
なお、別に優勝云々とかは特にない。遊びだから当たり前だが。当然マテリ…クリスタルとかの商品もないのであしからず。
てか、ずるい…。社長、雛の頭の上に乗っかってる…羨ましい…。
私も背中とかに乗りたい。…背中どこだろ。羽毛モフモフでわからない。
「クルルル…」
と、私の横で座っていたルクさんが小さく唸る。本来ならば相手を射竦めるほど強い眼を、細ーくして。慈愛の眼である
おっと、忘れちゃいけないいけない…依頼で来てるのだ。社長が子守をしている間に、私が依頼内容を聞き出しておかないと…。
黄色毛玉に後ろ髪を引かれつつも、ようやく意識を改める。とはいえ、私は社長と違って直接はルクさん達の声はわからない。
ということで、翻訳魔法の出番。これさえあれば私でも言葉がわかる。詠唱してっと…。
「―ほんと、凄いもんだねぇ。アタイでも制御しきれないガキンチョ共を、こうも容易く手懐けるって。ハーピーの子らのアドバイス聞いて正解だったよ」
突如、誰かの声が聞こえる。しかしその声色は、ルクさんの鳴き声と同じ…。ということは―。
「うん? どうしたんだいアストちゃん、そんな呆けた面して。キュートな顔が台無しだよ?もっとスマイルスマイル。 あ、言葉わかんないか!」
こっちを見て、肩を竦めるように嘴を軽く動かすルクさん。間違いない、彼女の言葉だ。翻訳は見事成功しているらしい。
…いや、うん。そんな喋り方だとは思わなかった。もっと厳かな雰囲気かと…。
なんだろ、これ…。なんかロックンローラーみたいな話し方…。あ、ロック鳥だけに…?
「え、じゃあハーさん達が私達を推薦してくださったのですか!?」
「えぇそう。鳥魔物同士シンパシーが合ってねぇ。ちょくちょく顔合わせてんのよ。冒険者共の愚痴言いあったり、一緒に狩りしたり」
ルクさんと話してみると、まさかの事実。そこで繋がっていたとは。鳥のママ友同盟。ということは。
「子守オプションをつけるということで?」
「そのつもり。抜け羽とか折れた爪とかで代金OKなんだろ? それならたっくさんあるし」
ルクさんが嘴でクイっと示した先には、散らばった羽とかが山積み。中には卵の殻とかも。
「どうせ下に捨てるもんだから、好きなだけ持って帰っていいからね。 あ、新しいのいるかい?丁度痒かったんだ」
そう言いながら、羽繕いをするルクさん。私の目の前にふわさっと一本落ちてきた。
綺麗な色をしているそれは、私の羽よりも大きい。そして、鑑識眼に出たお値段も立派。流石。
「ご用命、確かに承りました。 因みに他にもご心配事があったりしますか?」
いつものごとく、別の問題が無いか探りを入れる。すると、ルクさんは大きく頷いた。
「あるある、バッドな悩みが。 てか子育てだけなら、依頼せずに自分でやってのけるよ」
笑いながらそう前置きをし、彼女は教えてくれた。
「最近、ちょこちょこ冒険者が侵入してくるようになってね。多分山を登ってきてるんだろうけど、そいつらが羽やら卵やらを盗っていくんだよ。アタイがいない時を狙ってね」
これまたハーピーの方々と同じ悩み。なら対処も同じで良さそう。そう思っていると、ルクさんは更に続けた。
「それとね…ガキンチョ共が狙われてるんだよ」
どういうことか。私が軽く首を捻っていると、それに答えるように社長の声が。
「こういうことよ、アスト」
振り向くと、社長を頭に乗せた雛がそこに。そのまま社長は、触手を伸ばしある箇所を指し示した。
「あれ…剥げちゃってる…!」
びっくり。なんと雛の身体の一部が、不自然に剥げてるではないか。というより、毟り取られたような…。
「あ…そういうことですか」
…理解した。実はロック鳥、雛の毛も高値で取引される。超高級羽毛布団とかに加工されるからだ。それを狙う冒険者もいるのだろう。
「うーん…。でも雛もこの巨体ですから、ミミック達の力なくとも冒険者を倒せる気がしないでも…」
ふと、思いついたことを口にしてしまう。すると―。
「ヘイ、この子にアタックかましてやんな」
「はーい!」
ルクさんの合図に雛は助走をつけ、たったったと私に突進してきたではないか。いや、ちょ…!こんな大きいのにぶつかられたら…!
モッファァ…
「あっ……」
至福のぶつかり心地…。じゃない、痛くない。うん…これは冒険者を倒せない…。
「ま、そういうことだよ。もうちょい成長すればイケるかもだけど、それまでにまだ何年もかかるしねぇ。ガキンチョ共に怪我させたくないし、頼んだよ」
「はひぃ…」
モフモフに埋もれた私は、そんな生返事しか返せなかった。
「ところで、おひとつ伺いたいことがあるんですけど」
と、社長。ひよこに押しつぶされた私を文字通り下目に、ルクさんへこんな質問をした。
「さっき皆にあげたおやつのお肉。毎回あんなふうに加工されて落ちてるんですか?」
社長の言う通り、さっき雛たちが美味しく食べた巨大肉は、この霊峰の麓に落ちていたもの。皮や細かい骨や内臓がとられ、お肉屋さんに卸せるような形で転がっていたのだ。
明らかに怪しいそれに私も社長も警戒してたのだが、ルクさんが持っていこうとしていたため、社長が箱に詰め搬送したというわけである。一応調べてみたけど、毒とか危険物の反応は全く無く、新鮮なお肉だった。
「あぁそうさ。たまに落ちてるんだ。獲物を狩る手間が省けるから有難く頂戴してるよ」
食物連鎖の頂点な余裕か、全く気にする様子はないルクさん。まあ確かに、ロック鳥は頑丈な魔物ではあるけど…。
そんな中、社長はちょっと顔を顰める。そして、問いを続けた。
「皆に聞いたのですが、それには時折紐みたいなのが巻かれていると?」
「そういやそうだね。あれがあると持ち上げやすくて楽なんだ。 …あれ、でも今日は無かったね?」
ルクさんは首をくりんと回す。すると社長は、言いにくそうに頬を掻いた。
「あー…。多分冒険者達、その紐に隠れてここまで登ってきてますね…。きっと、バレる直前で降りて。さっきの間に色々見せて貰いましたけど、それっぽい痕跡幾つか見つけましたし」
「え…! いやいや、そんなまさか…」
目をぎょろんと見開き驚いた様子のルクさん。しかしすぐさま沈黙。少し後、ゆっくり口を開いた。
「…被害があったの、確かに大体、肉を取ってきた日だわ…」
嬉しいプレゼントが一転、まさかの罠。よほど堪えたらしく、ルクさんは羽根を垂れさがらせる。ロック鳥の威厳が一気に失われてしまった。
「じゃあなんだい? もうあのお肉はとらない方が良いのかい…?」
凄く残念そうに、彼女はそう呟く。…しかし、社長はポスンと胸を叩いた。
「いえ、そのためのミミックです!ご安心を! とりあえず色々試してみましょうか! まず、雛たちにはなるたけ抵抗しないようにこんな風に…」
こそこそと相談を始めるお二方。でも…もう限界…!
「あ、あの…流石に息苦しく…!」
その間ずっと黄色毛玉の下敷きだった私は床岩をタップし、ようやく解放してもらえたのだった。
…良い羽毛布団だった…。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?
荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」
そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。
「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」
「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」
「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」
「は?」
さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。
荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります!
第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。
表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?
藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」
9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。
そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。
幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。
叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします
リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。
違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。
真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。
──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。
大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。
いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ!
淑女の時間は終わりました。
これからは──ブチギレタイムと致します!!
======
筆者定番の勢いだけで書いた小説。
主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。
処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。
矛盾点とか指摘したら負けです(?)
何でもオッケーな心の広い方向けです。
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる