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顧客リスト№28 『シルフィードの風の谷ダンジョン』
人間側 とある重鎧冒険者への敵機
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「相変わらず歩きにくいなぁ…!」
ゴウゴウと吹き付ける風の中、俺らはダンジョンの奥へと進み続ける。一歩踏み出すのにもかなりの労力がいるが、そんなもの、得られるものを考えれば…!
俺らパーティ―は、今『風の谷ダンジョン』というところに来ている。常に強風で荒れているここの奥には、『ウインドジュエル』という高値がつく魔法石が大量に生成されているからだ。
だが、ここは風精霊シルフィードの棲み処。侵入した俺らを見つけるや否や、強風で追い出そうとしてくる。
ふっ、そうはいかない。強い風を浴びせてくるなら、耐え切れば良いだけの事。ここに来る時のパーティーは特殊編成だ。
ガタイが良い奴、太ってる奴…とにかく目方が重い奴を集め、重鎧や盾や重しを身に着けて侵攻する。これに尽きる。
ちょっと残念なのが、そういう奴は大抵戦士で、魔法使いがいないってことだ。いればウインドジュエルの爆破解体につかう爆弾代が浮くんだが…。
今のとこ、運よくシルフィードに見つからずに進めている。見つかると風を強くされたり、切り刻もうとしてきたり面倒だから有難い。
ま、その対策を兼ねた重装甲だから問題ないんだが。無視して奥まで進んでウインドジュエルの鉱脈に着いてしまえばこちらのもんだ。
「…? おい、あれなんだ?」
と、仲間の1人が道の端を指さす。俺も盾の後ろから顔を出し確認してみる。
「他の冒険者の装備だな…」
そこには盾やらバッグやらが転がっていた。シルフィードに襲われ、装備を捨て逃げ帰った後だろうか?
「ん? ここいら、焦げている…?」
よく見ると、周囲には爆発痕。焦げ付いた鎧とかも転がっている。ははぁ…持ってきた爆弾が誤爆でもしたのだろう。それで全滅とか悲しすぎるな。俺らも気をつけないと。
と、そんな感じで警戒しながら来たおかげが、無事に到着。ダンジョン最奥、ウインドジュエルの鉱脈。
どこかしこをみても、緑に輝く鉱物の絶景。俺は魔法を使わないから、エメラルドが針山のように成っている様にも見える。
さあ、そこらへんに転がる欠片を拾い集めるなんてせせこましいことなんかせず、持ってきた爆弾で大きいのをドカンと…!
と、近くのウインドジュエルの鉱脈へ駆け寄った時だった。
「あ…」
「「あ」」
風が巻き上げた砂で見えなかったのか、同じ緑で見えなかったか、それとも俺の不注意か。その鉱脈の前でバッタリと、シルフィード二匹と出くわしてしまった。
こりゃマズい…! 慌ててガチャリと武器を構える。少し遅れてきた仲間達も気づき、一斉に戦闘態勢に。
まさに一触即発、かかってこい。俺らはそう力む。
…が、思わぬことが起きた。
「な、なんにもいないわ! なんにもいないったら!」
シルフィードの一匹が、後ろのジュエル鉱脈を隠すように立ち、そう叫んだではないか。
何言ってるんだこいつ…? 眉を潜めていると、もう一匹のシルフィードに引っ張られ、どこかへと逃げていった。
戦闘にならなかったのは有難い。相手は2匹、こちらは4人。戦力差があったのが理由だろう。とはいえ、援軍を呼ばれちゃ敵わない。さっさと回収して撤退しよう。
「うし、じゃあ爆弾しかけるぞ」
仲間の1人がバッグから爆弾を取り出す。ふと、俺はさっきのシルフィードの言葉が気になった。
『なんにもいない』? 何かが『いた』、または『いる』ってことか? 一応目を凝らして辺りを確認してみるが…うーん、何もいない。
まあいいか。起爆はそいつに任せて、俺らは爆弾のダメージ食らわないようにガードしないとな。
「点火…と! この瞬間がたまんないぜ…!」
設置した爆弾の導火線にシュッと火をつけ、いそいそとこちらに戻ってこようとする仲間。と、その時だった。
パカッ ニュルッ グルッ!
「えっ…? ぐえっ…?!」
な…!? 爆弾を設置したウインドジュエル鉱脈の端にある岩が開き、中から触手が伸びてきただと…!?!?
仲間はあっという間にグルグル巻きにされ、岩の中に。俺らはそれを盾の裏から唖然と見送るしかなかった。
あいつも盾を持って、重装備を着ていたんだが…しかも太ってたし…。それを、数秒かからず簀巻きにし、明らかに普通じゃ入れない小さな岩の中に引き込んだ…。まさか…!
「ミミックか!」
俺の声に『正解』というように、岩はすいいっと動く。ウインドジュエルを至る所に生やした…いや装飾しているのか…? ともあれ、間違いなくミミックだ。
その岩ミミックは再度パカッと開き、何かをペイっと吐き出す。それは、今さっき食べられた仲間の盾や鎧…。うわぁ…。
と、そんな間にも―。
シュウウウウウ…
「おい、あれ…」
「あぁ、爆弾がまだ生きている…!」
火がついた導火線は音を立て刻一刻と短く。しかも丁度ミミックの真横にある。仲間の仇だ、それで吹き飛んじまえ…!
ニュルッ ヒョイッ
「「「は…?」」」
…え、なにしてんだあいつ…? 触手で、爆弾を持ち上げた…? まさかこっちに投げてくる気か!?
慌ててガードを固める俺ら。しかし、ミミックはそれを投げることはせず―。
パクンッ
「「「ええええぇ…!?」」」
食べた。
ボンッ!
数瞬後、くぐもった爆裂音が響く。俺らは思わず再度顔を盾裏に隠した。やったか…!? 恐る恐る覗いてみると…。
プス…プス…
そこには、岩の隙間から黒煙を上げるミミックの姿が。爆散はしてないが、死んだだろう。全く、爆弾を食べるなんて馬鹿なことを…。
パカッ
…!? 岩が、また開いた…! それに、纏っているウインドジュエルも仄かに輝いたような…。
ブオオオッ…!
「わっ…! ゲホッ…!」
「なんだぁ…!? 煙がこっちに…!」
「あの野郎…! 風で…ゲホゲホッ、ウェッホッ…!」
ミミックが吐いた黒煙が、ウインドジュエルの風に流されて俺らのとこに…! 爆弾は煙草じゃねえんだぞ…!?
「一回この場から離れるぞ…!」
俺は慌てて指示を出し、急ぎその場から逃げ出した。
「はぁ…はぁ…何であんな場所にミミックが…?」
「わからん…でも、追って来てはないみたいだな…」
走りに走り、道中まで戻ってきた。重い装備だったが、不思議にもあれだけ纏わりついて来ていた風が背中を押してくれた。帰れってか。
後ろを見ても、追いかけてくるミミックやシルフィードはいない。ふう、と息をつく。
「で、どうする…? もう一回ジュエルを取りに行くか?」
仲間の1人がそう提案する。確かに、復活魔法の代金ぐらいは稼いでいきたい。だが、またミミックに襲われると思うと…。
そんな感じにうむむと悩んでいると、別の仲間がハンッと跳ね飛ばした。
「なら手あたり次第に爆弾を投げちまえば良いだけだろ! 沢山持ってきてあるんだからよ」
そうか、その手があったか。爆弾をばら撒きまくって、混乱の内にジュエルを拾い集めればいい。よーし、それでいこう。
シルフィードにもミミックにも吠え面をかかせてやる。そう心に決め、またもや奥地へと一歩を踏み出した―、その瞬間…
「ん?」
「あれ?」
「風が…?」
ずっと耳を占めていた風の轟音が突如収まった。打ちつけてくる風も、かなり少なく。
何事だ…? ん…? どこからか、違う音が…。
ヒュィイイイイイ…
「なんだ…?」
「シルフィードの歌声か?」
辺りを警戒しながら、眉を潜める仲間達。確かにこのダンジョンでは、時折シルフィードの透き通った歌声が風に乗って耳に入ってくる。
だが、違う。そんな音じゃない。何かの風切り音、またはサイレンのような…。
「おい、あれなんだ!?」
と、1人が空を指さす。太陽の光をバックに、何かが複数飛んでいるではないか。
「んー? カモメか?」
「こんなところにカモメが飛ぶわけないだろ…」
俺は的外れの予測をする仲間を窘める。だが…鳥ではあるだろう。翼っぽいのが広げられているし…
「お、おい…! こっちに向かってくるぞ!?」
は…? 空を飛んでいた推定鳥が、ぐいっと曲がってこちらに落ちてくる…!? しかも、緑色の閃光を尾のように煌めかせながら…!
え、いや、ちょ…! これ完全に激突コース…!
「飛行部隊『箱風』、とつげーき!」
ヒュィイイイイイ!
「「「うおおっ!!?」」」
誰かの声と共に、空から落ちてきた存在は俺らの頭上を勢いよく掠める。身を竦めていなければ、思いっきし激突していただろう。
「な、なんだありゃあ! 大きい…!」
「で、でも鳥じゃねえぞ! 竜でもねえ!」
仲間達が悲鳴をあげる。…俺は見てしまった。そのわけのわからない正体を。
鳥、じゃない。だが、なんといえばいいのだろうか…。そのまま言えば…『宝箱に、固い翼がついたもの』だった…!
自分でも何言ってるかわからない…。だが、確かにそうだったのだ。側面に作り物な翼をつけ、蓋には幾つものウインドジュエルが嵌めこまれた、宝箱。それが、飛んできたのだ。
「おいもう一回来るぞぉ!?」
仲間の声にハッとし見ると、飛んでいった方向から再度空飛ぶ宝箱が突撃してきている。慌てて俺は指示を飛ばした。
「盾でガードを固めろ!」
急ぎ全員で盾を構える。意味不明な敵だが、身を守ればとりあえずはやり過ご…!
グオッ!
「う、うおおっ!」
「た、盾が…!」
嘘だろ…!空飛ぶ宝箱が真上を通過していくと同時に、手にしていた盾が力づくでもぎ取られた…!?
一体どうやって…。目を見開きながらどこかへと飛んでいく宝箱を見ると、盾を…咥えている…!
僅かにしか見えなかったが…箱が開き、中から牙や舌、触手、女魔物の姿が。まさか…あれもミミックだというのか…!? 空飛ぶミミックなんて聞いたこと無いぞ…!
「くっ…盾が奪われたなら剣で叩き切って…!」
「俺もボウガンがある…! 撃ち落としてやる…!」
混乱しながらも、俺らは武器を手に取る。これなら奪い取られかけても一矢報いれる。が、その時だった。
「シルフィード1、現着!」
別の方向から、何かが飛来してくる。それもまた、空飛ぶ宝箱。ただし、違うのは…宝箱の蓋の真上に手すりがついていて、そこにシルフィードが掴まっているということ…!
「こうげーき!」
飛んできながら、シルフィードは片手をこちらへと向ける。すると、風の弾丸のようなものが勢いよく撃ち出されてきたではないか。
「ひいいい…!」
それにより剣やボウガンは手から弾き飛ばされる。なす術無し…! こうなったら残るは…!
「爆弾だ! 爆弾で応戦するぞ!」
「お、おう! …あ、あれ…?」
俺の言葉に頷いた仲間が爆弾を取り出そうとするが、見つからない様子。辺りを見回しても、転がってはいない。どこに…
「お探しのは、これ?」
と、いつの間にそこにいたのか、風を纏った宝箱が目の前に浮遊していた。そこから姿をみせていたのは女魔物…上位ミミック。そして、抱えられているのは…。
「「「ば、爆弾…!!」」」
「爆破でウインドジュエルを砕こうなんて、もうしないことね。これは返すわ」
そう言ったミミックは、箱の端で導火線にシュっと火をつけた。嫌な予感…!
「とうっ!」
ブオッ!
そのまま勢いよくミミックは飛び上がる。そして…
「爆弾の痛み、その身で味わいなさいな! 急降下爆撃!」
ヒュィイイイイイ!
まるで悪魔が鳴らすのサイレンの如き降下音と共に、爆弾が投下され…! あっ…
カッッ!!
「はっっ!」
気がつけば、復活魔法陣の上。先に食べられた奴も合わせて、仲間全員いる。全滅したらしい。
そうか、今更わかった…。道中で見た爆破痕、あれは粗忽な奴が誤爆させたんじゃなく、俺らと同じ目に遭った冒険者達のものだったのか…。
しかし、なんだったんだ…あれは…。空飛ぶ宝箱、いや空飛ぶミミックなんて悪夢以外の何物でもないじゃないか…。
くそ…だけど…なんか格好良かった…。男の子の浪漫がくすぐられるというか…。
特に途中からきた、シルフィードが乗った飛行ミミック。本体も翼も純白だった。あれに乗って風の谷を駆ける…カモメみたいに気持ち良く飛べそうだ。
…今から平謝りしに行ったら乗せてもらえないだろうか…。身体重いから無理かな…。てか、ミミックに食われるのがオチかも…。
ゴウゴウと吹き付ける風の中、俺らはダンジョンの奥へと進み続ける。一歩踏み出すのにもかなりの労力がいるが、そんなもの、得られるものを考えれば…!
俺らパーティ―は、今『風の谷ダンジョン』というところに来ている。常に強風で荒れているここの奥には、『ウインドジュエル』という高値がつく魔法石が大量に生成されているからだ。
だが、ここは風精霊シルフィードの棲み処。侵入した俺らを見つけるや否や、強風で追い出そうとしてくる。
ふっ、そうはいかない。強い風を浴びせてくるなら、耐え切れば良いだけの事。ここに来る時のパーティーは特殊編成だ。
ガタイが良い奴、太ってる奴…とにかく目方が重い奴を集め、重鎧や盾や重しを身に着けて侵攻する。これに尽きる。
ちょっと残念なのが、そういう奴は大抵戦士で、魔法使いがいないってことだ。いればウインドジュエルの爆破解体につかう爆弾代が浮くんだが…。
今のとこ、運よくシルフィードに見つからずに進めている。見つかると風を強くされたり、切り刻もうとしてきたり面倒だから有難い。
ま、その対策を兼ねた重装甲だから問題ないんだが。無視して奥まで進んでウインドジュエルの鉱脈に着いてしまえばこちらのもんだ。
「…? おい、あれなんだ?」
と、仲間の1人が道の端を指さす。俺も盾の後ろから顔を出し確認してみる。
「他の冒険者の装備だな…」
そこには盾やらバッグやらが転がっていた。シルフィードに襲われ、装備を捨て逃げ帰った後だろうか?
「ん? ここいら、焦げている…?」
よく見ると、周囲には爆発痕。焦げ付いた鎧とかも転がっている。ははぁ…持ってきた爆弾が誤爆でもしたのだろう。それで全滅とか悲しすぎるな。俺らも気をつけないと。
と、そんな感じで警戒しながら来たおかげが、無事に到着。ダンジョン最奥、ウインドジュエルの鉱脈。
どこかしこをみても、緑に輝く鉱物の絶景。俺は魔法を使わないから、エメラルドが針山のように成っている様にも見える。
さあ、そこらへんに転がる欠片を拾い集めるなんてせせこましいことなんかせず、持ってきた爆弾で大きいのをドカンと…!
と、近くのウインドジュエルの鉱脈へ駆け寄った時だった。
「あ…」
「「あ」」
風が巻き上げた砂で見えなかったのか、同じ緑で見えなかったか、それとも俺の不注意か。その鉱脈の前でバッタリと、シルフィード二匹と出くわしてしまった。
こりゃマズい…! 慌ててガチャリと武器を構える。少し遅れてきた仲間達も気づき、一斉に戦闘態勢に。
まさに一触即発、かかってこい。俺らはそう力む。
…が、思わぬことが起きた。
「な、なんにもいないわ! なんにもいないったら!」
シルフィードの一匹が、後ろのジュエル鉱脈を隠すように立ち、そう叫んだではないか。
何言ってるんだこいつ…? 眉を潜めていると、もう一匹のシルフィードに引っ張られ、どこかへと逃げていった。
戦闘にならなかったのは有難い。相手は2匹、こちらは4人。戦力差があったのが理由だろう。とはいえ、援軍を呼ばれちゃ敵わない。さっさと回収して撤退しよう。
「うし、じゃあ爆弾しかけるぞ」
仲間の1人がバッグから爆弾を取り出す。ふと、俺はさっきのシルフィードの言葉が気になった。
『なんにもいない』? 何かが『いた』、または『いる』ってことか? 一応目を凝らして辺りを確認してみるが…うーん、何もいない。
まあいいか。起爆はそいつに任せて、俺らは爆弾のダメージ食らわないようにガードしないとな。
「点火…と! この瞬間がたまんないぜ…!」
設置した爆弾の導火線にシュッと火をつけ、いそいそとこちらに戻ってこようとする仲間。と、その時だった。
パカッ ニュルッ グルッ!
「えっ…? ぐえっ…?!」
な…!? 爆弾を設置したウインドジュエル鉱脈の端にある岩が開き、中から触手が伸びてきただと…!?!?
仲間はあっという間にグルグル巻きにされ、岩の中に。俺らはそれを盾の裏から唖然と見送るしかなかった。
あいつも盾を持って、重装備を着ていたんだが…しかも太ってたし…。それを、数秒かからず簀巻きにし、明らかに普通じゃ入れない小さな岩の中に引き込んだ…。まさか…!
「ミミックか!」
俺の声に『正解』というように、岩はすいいっと動く。ウインドジュエルを至る所に生やした…いや装飾しているのか…? ともあれ、間違いなくミミックだ。
その岩ミミックは再度パカッと開き、何かをペイっと吐き出す。それは、今さっき食べられた仲間の盾や鎧…。うわぁ…。
と、そんな間にも―。
シュウウウウウ…
「おい、あれ…」
「あぁ、爆弾がまだ生きている…!」
火がついた導火線は音を立て刻一刻と短く。しかも丁度ミミックの真横にある。仲間の仇だ、それで吹き飛んじまえ…!
ニュルッ ヒョイッ
「「「は…?」」」
…え、なにしてんだあいつ…? 触手で、爆弾を持ち上げた…? まさかこっちに投げてくる気か!?
慌ててガードを固める俺ら。しかし、ミミックはそれを投げることはせず―。
パクンッ
「「「ええええぇ…!?」」」
食べた。
ボンッ!
数瞬後、くぐもった爆裂音が響く。俺らは思わず再度顔を盾裏に隠した。やったか…!? 恐る恐る覗いてみると…。
プス…プス…
そこには、岩の隙間から黒煙を上げるミミックの姿が。爆散はしてないが、死んだだろう。全く、爆弾を食べるなんて馬鹿なことを…。
パカッ
…!? 岩が、また開いた…! それに、纏っているウインドジュエルも仄かに輝いたような…。
ブオオオッ…!
「わっ…! ゲホッ…!」
「なんだぁ…!? 煙がこっちに…!」
「あの野郎…! 風で…ゲホゲホッ、ウェッホッ…!」
ミミックが吐いた黒煙が、ウインドジュエルの風に流されて俺らのとこに…! 爆弾は煙草じゃねえんだぞ…!?
「一回この場から離れるぞ…!」
俺は慌てて指示を出し、急ぎその場から逃げ出した。
「はぁ…はぁ…何であんな場所にミミックが…?」
「わからん…でも、追って来てはないみたいだな…」
走りに走り、道中まで戻ってきた。重い装備だったが、不思議にもあれだけ纏わりついて来ていた風が背中を押してくれた。帰れってか。
後ろを見ても、追いかけてくるミミックやシルフィードはいない。ふう、と息をつく。
「で、どうする…? もう一回ジュエルを取りに行くか?」
仲間の1人がそう提案する。確かに、復活魔法の代金ぐらいは稼いでいきたい。だが、またミミックに襲われると思うと…。
そんな感じにうむむと悩んでいると、別の仲間がハンッと跳ね飛ばした。
「なら手あたり次第に爆弾を投げちまえば良いだけだろ! 沢山持ってきてあるんだからよ」
そうか、その手があったか。爆弾をばら撒きまくって、混乱の内にジュエルを拾い集めればいい。よーし、それでいこう。
シルフィードにもミミックにも吠え面をかかせてやる。そう心に決め、またもや奥地へと一歩を踏み出した―、その瞬間…
「ん?」
「あれ?」
「風が…?」
ずっと耳を占めていた風の轟音が突如収まった。打ちつけてくる風も、かなり少なく。
何事だ…? ん…? どこからか、違う音が…。
ヒュィイイイイイ…
「なんだ…?」
「シルフィードの歌声か?」
辺りを警戒しながら、眉を潜める仲間達。確かにこのダンジョンでは、時折シルフィードの透き通った歌声が風に乗って耳に入ってくる。
だが、違う。そんな音じゃない。何かの風切り音、またはサイレンのような…。
「おい、あれなんだ!?」
と、1人が空を指さす。太陽の光をバックに、何かが複数飛んでいるではないか。
「んー? カモメか?」
「こんなところにカモメが飛ぶわけないだろ…」
俺は的外れの予測をする仲間を窘める。だが…鳥ではあるだろう。翼っぽいのが広げられているし…
「お、おい…! こっちに向かってくるぞ!?」
は…? 空を飛んでいた推定鳥が、ぐいっと曲がってこちらに落ちてくる…!? しかも、緑色の閃光を尾のように煌めかせながら…!
え、いや、ちょ…! これ完全に激突コース…!
「飛行部隊『箱風』、とつげーき!」
ヒュィイイイイイ!
「「「うおおっ!!?」」」
誰かの声と共に、空から落ちてきた存在は俺らの頭上を勢いよく掠める。身を竦めていなければ、思いっきし激突していただろう。
「な、なんだありゃあ! 大きい…!」
「で、でも鳥じゃねえぞ! 竜でもねえ!」
仲間達が悲鳴をあげる。…俺は見てしまった。そのわけのわからない正体を。
鳥、じゃない。だが、なんといえばいいのだろうか…。そのまま言えば…『宝箱に、固い翼がついたもの』だった…!
自分でも何言ってるかわからない…。だが、確かにそうだったのだ。側面に作り物な翼をつけ、蓋には幾つものウインドジュエルが嵌めこまれた、宝箱。それが、飛んできたのだ。
「おいもう一回来るぞぉ!?」
仲間の声にハッとし見ると、飛んでいった方向から再度空飛ぶ宝箱が突撃してきている。慌てて俺は指示を飛ばした。
「盾でガードを固めろ!」
急ぎ全員で盾を構える。意味不明な敵だが、身を守ればとりあえずはやり過ご…!
グオッ!
「う、うおおっ!」
「た、盾が…!」
嘘だろ…!空飛ぶ宝箱が真上を通過していくと同時に、手にしていた盾が力づくでもぎ取られた…!?
一体どうやって…。目を見開きながらどこかへと飛んでいく宝箱を見ると、盾を…咥えている…!
僅かにしか見えなかったが…箱が開き、中から牙や舌、触手、女魔物の姿が。まさか…あれもミミックだというのか…!? 空飛ぶミミックなんて聞いたこと無いぞ…!
「くっ…盾が奪われたなら剣で叩き切って…!」
「俺もボウガンがある…! 撃ち落としてやる…!」
混乱しながらも、俺らは武器を手に取る。これなら奪い取られかけても一矢報いれる。が、その時だった。
「シルフィード1、現着!」
別の方向から、何かが飛来してくる。それもまた、空飛ぶ宝箱。ただし、違うのは…宝箱の蓋の真上に手すりがついていて、そこにシルフィードが掴まっているということ…!
「こうげーき!」
飛んできながら、シルフィードは片手をこちらへと向ける。すると、風の弾丸のようなものが勢いよく撃ち出されてきたではないか。
「ひいいい…!」
それにより剣やボウガンは手から弾き飛ばされる。なす術無し…! こうなったら残るは…!
「爆弾だ! 爆弾で応戦するぞ!」
「お、おう! …あ、あれ…?」
俺の言葉に頷いた仲間が爆弾を取り出そうとするが、見つからない様子。辺りを見回しても、転がってはいない。どこに…
「お探しのは、これ?」
と、いつの間にそこにいたのか、風を纏った宝箱が目の前に浮遊していた。そこから姿をみせていたのは女魔物…上位ミミック。そして、抱えられているのは…。
「「「ば、爆弾…!!」」」
「爆破でウインドジュエルを砕こうなんて、もうしないことね。これは返すわ」
そう言ったミミックは、箱の端で導火線にシュっと火をつけた。嫌な予感…!
「とうっ!」
ブオッ!
そのまま勢いよくミミックは飛び上がる。そして…
「爆弾の痛み、その身で味わいなさいな! 急降下爆撃!」
ヒュィイイイイイ!
まるで悪魔が鳴らすのサイレンの如き降下音と共に、爆弾が投下され…! あっ…
カッッ!!
「はっっ!」
気がつけば、復活魔法陣の上。先に食べられた奴も合わせて、仲間全員いる。全滅したらしい。
そうか、今更わかった…。道中で見た爆破痕、あれは粗忽な奴が誤爆させたんじゃなく、俺らと同じ目に遭った冒険者達のものだったのか…。
しかし、なんだったんだ…あれは…。空飛ぶ宝箱、いや空飛ぶミミックなんて悪夢以外の何物でもないじゃないか…。
くそ…だけど…なんか格好良かった…。男の子の浪漫がくすぐられるというか…。
特に途中からきた、シルフィードが乗った飛行ミミック。本体も翼も純白だった。あれに乗って風の谷を駆ける…カモメみたいに気持ち良く飛べそうだ。
…今から平謝りしに行ったら乗せてもらえないだろうか…。身体重いから無理かな…。てか、ミミックに食われるのがオチかも…。
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