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閑話④

会社施設紹介:プール&大浴場

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さて。今日は依頼が特には無いため、通常業務…だったのだけど、妙に暑いから社長共々軽く泳ぎにいくことに。

まあかなり自由な会社なため、書類作業もそんなにはないから問題ない。というかほとんど処理し終わったし。

ということで、今回の紹介施設は『プール』としよう。



水着を手に、社長と地下へと向かう。そこには、煌々と灯りがついた超広大水泳施設が。

何故地下にこんなものがあるのか、それには理由がある。

実はプールというのは名ばかりで、その本質は『水槽』。水の中で暮らすタイプのミミック…『海溝ダンジョン』に派遣したタコ足ミミックや『宝箱ダツ』などの子達の家でもあるのだ。

横幅も縦幅もそんじょそこらのプールとは比べ物にならないほど大きく、水深も何十mかはある。ぶっちゃけプールって言ってはいけない代物ではある。

だが、そんなことはお構いなし。ミミック達はそこで遊ぶ。一部の子を覗き、長時間でなければどのミミックも水中行動が可能なため、良い遊び場兼修行場になっている。

因みに、水は真水。水中型ミミック達は海水だろうが淡水だろうが問題ないのだ。たまに温水になったりもする。




「じゃぼーん!」
ドッパァーンッ

早速水着に着替え、宝箱型浮き輪と共に飛び込む社長。もう、まだ準備体操してないのに…。全身流体だから別にいいのかな…?

とりあえず私はしっかりとやろう。いっちに、さんし…と。終わり次第、私も飛び込み台から…えいっ!

バッシャーンッ


ぷはっ、冷たくて気持ちいい!  そうそう、説明しそびれていた。ここ、飛び込み台がある。宝箱大の小さいやつから、数mの高さがあるタワーまで。

だからか時折、飛び込み選手権というのも開催される。ミミックらしく着水までに宝箱を何度回転させられるか、どれぐらい捻りを加えられるかが競われている。

勿論、普通と同じようにどれだけ水飛沫を上げずに落ちれるかも肝になっている。社長なんかはやろうと思えば、ほんとに小さな音しか立てず飛沫も全く出さずに着水することもできるのだ。




暫く泳いで遊んでると、パシャパシャと社長が近づいてくる。

「アスト~あれ、やれる? 皆から許可とったわ!」

手を合わせおねがーいと頼んでくる社長。私はそれを快諾した。

「良いですよ。でも、どんな風にします?」

「そーね…。じゃあ『流れるプール』で!」

「はーい。 よっと」

翼を広げ、プールから浮き上がる。別に浸かったままでも良いのだけど、ちょっと上から全体を見渡した方がやりやすいし。

「――。――。」

軽く詠唱し、手を広げる。プールの表面全体が仄かに輝く。よし、じゃあ魔法発動っと。

「『水よ、我が意に従え』」

その一言と共に、手を円状にぐいっと回転させる。すると、プールの水がゆっくりと外周を回りだした。

「わーい、始まったー!」
「皆浮き輪に乗れー!」

下では皆の楽しそうな声。もうちょっとスピード出しても良いかな。それっ!

ザザザザザ…!

「おおおおお…流れるぅ…!」
「面白ーい!」


私の眼下では、プール全体を巻き込んだちょっとした渦が。そこで社長達がぐーるぐる。浮き輪や宝箱が浮いて流されている様子は、縁日で見た水流式のスーパーボール掬いの屋台みたい。

実を言えば、鍛錬用としてプールに渦や波を立たせる装置は元から備わっている。だけど、それは起動してから完成までに時間がかかってしまうのだ。

だから時折、私がこうして作ってあげている。こっちのほうが早くできるから。たまに業務中に水着姿のミミック達からせがまれることもあったりする。勿論快諾。


さ、これぐらいで良いかな。確認のためちゃぷっと足を…おっとっと、少し足取られた。速すぎた? まあ皆楽しんでるから大丈夫か。

「アストー!もっと渦大きくしちゃってー!えぇぇぇ…」

と、右から左へ流されながら社長が追加のお願いをしてきた。ドップラー効果。既にだいぶ激流気味だけど…。

「アストちゃんもっとー!おぉぉぉ…」
「真ん中に大渦出来るぐらいー!いぃぃぃ…」

なのに、次から次へと流しミミック達がお願いを重ねてくる。『宝箱ダツ』を始めとした下位の子達もそう訴えるようにパシャリパシャリと飛び跳ねる。

ならば承知。カリュブディス渦潮を作る魔物の如く、巨大なものを作り上げて見せましょう。

「そー…れっ!」

ザザザザザザ…ゴゴゴゴゴゴッ!

既に一般向けではなかった速度の流れるプールは、唸りを上げどんどん勢いを増していく。あっという間にマーメイドでも避けて通るぐらいの大渦の完成。

「「「いえーい!」」」

その上を社長達は勢いよく泳…いでるんじゃなく、やっぱ流されている。楽しそう…というには激しすぎる。自分で作っておいてなんだけど。

そして―、渦ということは引き込まれるわけで。社長達はどんどんとプールの中心に。あっという間に水底へと消え…。

バッシャアアンッッ!!

「「「ひゃっほーっ!!」」」

別のところから噴出してきた。箱で守られていないと絶対真似できない遊び方である。




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その後も散々遊んだ私達。社長は『海溝ダンジョン』にも派遣した海中移動式宝箱を使い、潜って遊んでもいた。スクリューとかついているから楽に泳げるため、泳ぎ苦手なミミックにも評判の一品である。


そして気づけば日暮れ。最も、地下だったから時計で判断したのだが。ご飯を食べる前に、冷えた身体をお風呂で温めることに。

…お風呂の様子なんて伝えて大丈夫なのか?と思ったのだが、社長から『別に良いんじゃない?』と言われたので良しとしよう。皆からも特に反対意見は出なかったし。

では、いつも通り社長とお風呂に向かいながら紹介を。





我が社の一角には大浴場がある。女所帯&下位ミミックなので、男湯とかの仕切りはない。

とはいっても、下位ミミックの子達…宝箱型や触手型、群体型などの彼らは基本的にお風呂に入らない。自分で毛づくろい…ならぬ箱づくろいをしていたりする。猫や犬、鳥のような動物に近いから。いやまあ群体型には鳥とか普通にいるんだけど。魚もいるし。

なので、下位で自分から入る子は珍しい。大体が遊びの一環として入る子とか。あと、寒い日にはちょっと増える。

あ、そうそう。他によく見かける例として、汚れまみれになった下位の子達を、上位ミミックが運んできてお風呂に入れてることもある。下位ミミック達も別にお湯が嫌いなわけじゃないので、その場合は甘んじて洗われている。

だから派遣先のダンジョンの方に風呂入れと言われれば入るし、たとえ設備がなくとも入りたい人はワープ魔法陣から会社に戻ってきて入浴するのだ。この間派遣した『秘湯ダンジョン』からは、上位下位問わず客がいないときに温泉を楽しんでいると報告が来た。


…まあ、上位ミミックにも風呂入らないor水浴びだけな人達はいるんだけど。それなのに全く匂わず、汚れてもしない。清潔そのものだったりする。

聞けば、気合入れれば汚れは全部勝手にとれる様子。あらゆるところに移動し潜むミミックだからこその能力らしい。羨ましい…。

だがその能力もかなり体力や魔力を使うようで、「それならお風呂入った方が楽だし気持ちいい」となっているのである。




中はどんな造りになっているかだが、魔族の私が通れるぐらい普通に大きい入口に『湯』と書かれた長い暖簾のれん、沢山棚が並んでいる広い脱衣所など、特にここまでは変わったところはない。普通の銭湯と同じ感じである。

…いや、変わっているのか。服を入れる棚は宝箱が入るぐらい大きく、並んでいる洗面台は総じて低め。私やドワーフの人達が使える普通サイズも端に幾つかある。

あとは、『ミミック湯桶』…簡単に言えばミミックが入る大きめ湯桶が仕舞ってある小部屋が付設されている感じか。うん、十分変わってた。

因みに、扇風機とかはあれどもマッサージ機は置いてない。ミミック達、基本肩とか凝らないから。羨ましい…(二度目)。



服を脱ぎ、タオルを手に。社長もミミック湯桶を取り出して乗り換えてきた。

実はあのミミック湯桶、社長用特注品。別に社長に限らず、自分専用の湯桶を持っている人はちらほらいる。マイ湯桶ってやつである。


一緒にプールを楽しんでいた上位ミミック達幾人かと、わいわいと話しながら大浴場へ。扉を開け、中に入る。

内部の様子は、これまた基本的な銭湯と同じ。かなり広めのタイル張りで、洗い場があって、大きい浴槽がある。

そうそう、浴場と言えば壁に描かれた絵が特徴的であろう。普通の銭湯では山が描かれていることが多いが、ここもしっかり山が描かれている。

ただし、財宝の山。たっぷりな金銀宝石の山の上で、ミミックが鎮座している絵である。

因みに絵は定期的に変わる。この間は山を登頂した宝箱の絵であったし、その前は小船に乗ったミミック達の絵。どれもこれも爽やかに仕上げられている。




勿論お湯に浸かる前にしっかり身体を洗う。据え置きのシャンプーリンスとかはあるが、勿論持ち込みOK。皆自分の湯桶や箱から思い思いのボディーソープや泡立てスポンジ、シャンプーハットを取り出し使用している。

中には、ブラシと洗剤を取り出しどこかに向かうミミックも。何に使うのかって? 箱の洗浄である。

実は湯桶に乗り換える以外にも、宝箱そのままで浴場に入ってくるミミック達は結構いる。その理由がそれ。


端の方を見て欲しい。シャワー個室のようなものが幾つも並んでいるであろう。そこは基本的に箱洗い場となっている。シャワーの水圧や散水モードを変えられるようになっているのだ。

何分ミミックにとって箱とは、服であり乗り物であり大切な相棒。良く乗っている箱には愛着もひとしお。ああやってピカピカに磨く子がほとんどである。

先程紹介したミミック湯桶置き場は実は乾燥場も兼ねており、浴場から直に繋がっているため重宝されている。…そこをサウナ代わりにしているミミックもいるとかいないとか。


なお洗い場は『箱工房』のほうにもある。そちらには自動で全身を洗ってくれる洗車機ならぬ洗箱機があるが、何分工具洗浄や出来立ての箱の耐久試験も兼ねているため、威力が強い。それでよければ洗箱機、大切に扱いたいのならば大浴場と使い分けがされている。





シャンプーの泡を綺麗に流し、ちゃぽんと湯船に。ちょっと熱めの、丁度いい温度。おっと…!

少し端に避け、持ってきたタオルと魔法で軽くバリアを作る。と、次の瞬間―。

「ひゃっほー!」
「わーい!」

シャアアアッ バシャアンッ!

勢いよくタイルを滑り、ジャンピングしながら飛び込み入湯してきた社長達。桶が湯面に叩きつけられ、飛沫が飛ぶ。

「楽しー!」
「ねー!」

バリアを解除すると、社長達はプカプカと浮きながらきゃっきゃと笑っている。たまにそうやって遊んでいるのだ。横にしっかりと昇り降りする坂道はあるのに。

「きゅーそくせんこー!」

あ、浮いていた湯桶達がお湯の中に消えていく…。今度は潜水して遊んでいるらしい。さっきのプール遊びの続きだろうか。そんなことを思っていたら…。


バシャッ! ペタッ

「アスト、マッサージしてあげる!」

「わっ! いつの間に背後に…!?」

びっくりした…! 目の前で潜っていったはずの社長が背中付近から浮上してきた…!相変わらずの隠密術である。

ん?マッサージ…? 嫌な予感…。

「いやー…良いですよぉ。それより社長をお揉みしましょうか?」

「何言ってんの、私達が基本身体凝らないの知ってるでしょ。箱の中に身体収められるほど柔らかいんだから。ほら、遠慮しないで!」

そう言い、社長は手を触手状にして私の肩と翼に。いや、社長一人でやってもらうのなら別に有難いのだけど…。

「じゃあ私は腕から先を揉んであげる!」
「それじゃ私は足ね」
「尻尾やるよー!」
「そうねぇ…その綺麗なお胸をマッサージしてあげるわ~」

やっぱり…!あれよあれよという間に周りの上位ミミック達が寄ってきて、全員腕を触手へと。そして―。

「「「そうれモミモミモミ~!」」」

「待っ…! ひゃっ! あっ…んんっ…!」

逃げる暇もなく絡めとられ、全身マッサージの開始である。お湯に浮く形で半固定され、至る所を触手が這いずり回る。

気持ちいい…気持ちいいのだけど…!くすぐったいし変な声が出る…! 悶えても抜け出せない…!

てか絶対、何人か私で遊んでるし…!だって揉み方おかしいんだもの…!特に胸担当! ちょっ…おッ…♡




はー…はー…ひ、酷い目に遭った…。なんか一ヵ月に一回は必ずあのお風呂マッサージやられてる気がする…。

でも、断るに断れない。だって、効果が高いのだもの…。凝りは確実に全部消えるし、されてから一週間ぐらいは肌や翼や尾が確実につやもちになるから。なんか納得がいかないけど。

でも、温かなお風呂に入りに来たのに、触手風呂と化すのは如何なものか。…まあ、身体は火照ったけども…
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