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顧客リスト№24 『海賊王の宝島ダンジョン』
魔物側 社長秘書アストの日誌
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富、名声、力。かつてこの世の全てを手に入れた伝説の海賊王がいた。彼の死に際に放った言葉は全世界の人々を海へと駆り立てた。
『俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる…。探せ! この世の全てをそこに置いてきた!』
冒険者達は、浪漫を求め、夢を追い続ける。世はまさに―!
「はい社長、それ以上はいけません!」
「えー! なんでよー! カッコいいでしょー?」
「いや、格好いいですけども…。なんか駄目な気が…権利的に…」
ブー垂れる社長に、私はしどろもどろながら説明する。と、一つツッコミを加えた。
「というか探すも何も、場所ここじゃないですか」
本日私と社長が来ているのは、絶海のとある孤島。火山や岩地、ジャングルに沢山の洞窟、広く深い湖に誰が作ったかすらわからない風化した遺跡群…エトセトラエトセトラ。
総敷地面積はちょっとした街幾つか分ほどは間違いなくあるだろう。下手したら、小国の首都並みにはあるかも…。
当然、至る所に狂暴な魔物魔獣は沢山。周囲を囲む海にも魔物がいっぱい。さっき海が見える崖からチラリと確認してみたら、明らかに船より大きい魚みたいなのが居たし。
故にここは冒険者ギルドに登録されているダンジョンの中でもトップクラスの危険度に設定されている。来るのも大変、ダンジョンに入るのも大変。
まあそれでも皆来るから、岬の方にちょっとした冒険者村が出来ているんだけど…。
そう、ここはダンジョン。ではどんな魔物が主なのか?それは…あの島の中心に聳え立つ巨大火山の側面を見てもらえばわかる。
岩肌にべっとりと塗られたるは、島から離れていても見えるほどに大きな大きな白い髑髏。その真下には同じ大きさの、バッテンマークな太い骨。
もうお分かりだろう。皆さんご存知、『海賊のマーク』である。ここの主は、海賊。それも『海賊王』なのだ。
え? 何故私達ミミック派遣会社が人間である海賊に手を貸すのか? いやいや、色々と勘違いしている。
仮に依頼主が人間であろうと、しっかりと規約を守りミミックを大切にしてくれる人達ならば喜んで派遣する。その見極めのために私達がわざわざ出向いているのだから。
そして、海賊を生業にしているのは人間だけではない。魔族で海賊をしている者も勿論いるのだ。
まあその『海賊王』自身は人間だったのだけど。
話は戻るが、冒頭の社長の語りは嘘ではない。かつて、この世界には『海賊王』と呼ばれた海賊がいた。七つの海を股にかけて、他の海賊を打ち破り、海軍を嘲笑い、各地の宝物を集めに集めた伝説の存在。
その名を『ジョリー・ロジャー』。口を覆い胸元まである髭をカラフルに染めていたことから『虹髭』とも呼ばれていたらしい。
だが、彼ら虹髭海賊団はある時捕らえられ、全員が処刑された。その今際の際、放った言葉が冒頭のそれである。
そして、その宝が隠してある場所はすぐさま見つかった。というか周知の事実+本人達が広めたのだけど。
そこがここ、ギルド登録名称『宝島ダンジョン』。彼ら虹髭海賊団が拠点としていた島なのである。
…死人に口なし。海賊団は全滅しているのに、誰が私達に依頼をしたか? あぁ、それはごもっとも。だが、依頼をしてくれているのは海賊ご本人達である。
なに、そう複雑に考える必要はない。どういうことかというと―。
「ヨー ホー! いようミミン社長、アスト嬢ちゃん! 我らが島の探検は順調かい?」
豪放磊落な声と共に、どこからともなく私達の前に現れたのはガタイの良い男性。髑髏が描かれた海賊帽に、海賊コートを肩にかけた如何にも船長然とした人物。ズボンにはカトラスやフリントロックピストルが幾本も刺さっている。
そして、特徴的なのは虹色に染め上げられた髭。…で、その全身は薄く透け、宙にふわりと浮いている。
彼…ジョリーさんは今や『ゴースト』なのである。
別に彼だけではない。虹髭海賊団は処刑直後全員がゴーストになり、拿捕されていた愛船を奪い返し拠点であるここまで戻ってきたのだ。
そして今は、宝探しに来た冒険者達を相手取って楽しんでいるというわけである。
実は、ジョリーさん達は私達にとって古くからのお得意様。上位下位問わず、多数のミミック達を派遣させて貰っている。彼ら曰く、宝探しといえば宝箱、宝箱といえばミミックだからという理由らしい。
だから私達が今日来た理由も、契約の更新や派遣されている子達の様子見。それも特に問題なく済んだため、せっかくだから探検させてもらっているというのが事の顛末である。
「ピュウッ! ミミン社長、その格好似合ってるじゃねえか!」
「でしょー! せっかくここに来たんですし、やっぱり海賊っぽく着替えないとですもん!」
ジョリーさんに褒められ、社長はふふんと胸を張る。彼女はジョリーさんのような海賊船長っぽい恰好しているだけでなく、眼帯をつけ、片手をフック(触手)に変えてもいる。
私もそんな社長に合わせ、ボーダータオルを頭に巻き、胸結びシャツへそ出しボロ服ルックという下っ端の恰好をセレクト。流石海賊服、動きやすい。
そんな姿でジャングルや洞窟を幾つか巡ってきたところなのだ。結構罠とかもあって楽しかった。勿論、ミミック達もしっかり冒険者を仕留めていた。
しかし、私には気になることがある。正確には、一番初めにジョリーさん達と契約したときからずっと思っていた。何かというと、今社長が手にしている物である。
「良い宝剣ですねこれ! 宝石のカットが星みたい!」
「おーそれか! 確かとある南の国で、海の魔物退治の礼として貰ったモンの一つだ。俺達ゃメシを狩ってただけだったんだがな!」
星型の宝石による装飾が施されたその金色の短剣は、先程洞窟の奥にある宝箱から見つけた物。それはジョリーさんが言う通り、彼ら虹髭海賊団がどこかから得てきたお宝なのである。
別段凄い奥深くに隠されていたわけではない。多少手間だが、ある程度の腕を持った冒険者ならたどり着ける場所にあった。
因みにその洞窟だけじゃない。この島の各所の奥地、下手すれば子供でも見えやすい位置に、こんな宝物が入った宝箱が転がっているのだ。勿論、ミミック混じりで。
そう。彼らジョリーさん達は、このダンジョンに挑戦する者を増やすため宝物をばら撒いているのだ。ミミック達の派遣料金も、そのお宝から出しているというのに。
「今更ですけど…お宝無くなったりしないんですか?」
良い機会なので、聞いてみることに。すると、ジョリーさんは自慢の虹髭をわっさわっさと揺らし笑った。
「ウアッハッハ! アストちゃん、俺らを舐めちゃいけないぜ? 世界を周りに回って集めた財宝だ。まだまだ山ほど、あの火山ほどある!」
ビシリと自らの海賊旗が描かれた火山を指さすジョリーさん。その自信満々な彼の姿は、聳え立つ山よりも大きく見えるほどであった。
「ですけど…」
私は少し食い下がる。すると、ジョリーさんはニマニマと私の顔を覗き込んできた。
「言いてえことはわかるぜアスト嬢ちゃん。勿体ない、だろ?」
「う…はい…」
せっかく集めたお宝を、こうもばら撒いていいのだろうか。『鑑識眼』で見る限り、どれもこれも貴重な代物。それに、思い出も籠っているはず。そう考えた私を、ジョリーさんは笑い飛ばした。
「構わねえさ! 死んで骨だけ…どころか魂だけとなった俺らには、宝なんて何の意味もありゃしねえ! 思い出は一欠けらも残さず胸の中。なら宝はまだ生きてる連中にあげた方が役に立つってもんだ。勿論、奪いにこれる度胸があるやつにな!」
ウアッハッハと再度笑ったジョリーさん。と、彼は髭をさすりさすり。
「てかよ、ぶっちゃけると…。別に俺ら、生前から宝物にそんなに興味は無かったんだぜ?」
「そうなんですか?」
くねんと首を捻る社長。どうやら社長にとっても予想外の回答だったらしい。その拍子にちょっと帽子がずり落ちかけた。
ジョリーさんはその社長の帽子を片手で直してくれながら、「おうとも」と頷いた。
「俺らが心の底から欲したのは、宝の地図を確かめに洞窟に潜るあのワクワク感! 未知なる敵と交戦する時のひりつくスリル! そして、友と共にどこまでも続く蒼海を駆けるという熱く騒がしい旅路! おぉ! ヨー ホー!」
昂ったのか、銃を空に向け撃ちながら吼えるジョリーさん。興奮冷めやらぬ様子で彼は言葉を続けた。
「俺らは浪漫を追い求め続け、果たし、楽しく死んでいった。残ったのは主失くした宝物だけ。 だからゴーストとなった今はそれを活かし、他の連中に『宝探しの浪漫』を味合わせてやるのが至上の楽しみなんだぜ!」
「それによ、万一宝が無くなっても問題ない。アレが…『悪魔の果実』があるからな。浪漫ある冒険者連中はそれを目当てに来てるんだ。心配しなくとも、まだまだミミック達にはお世話になるぜ!」
うーん…気を利かしてくださっちゃった。我が社の心配をしたゆえの質問ではなく、純粋な疑問だったのだけど。
さて、今話に挙がったワードがある。『悪魔の果実』―。彼、虹髭を、ジョリー・ロジャーを『海賊王』たらしめていたものは、少年と大人の両側面を持った愉快な心、あらゆる人を虜にする度胸とカリスマ、それに惹かれた腕っぷし最強の船員達…だけではない。
ジョリー・ロジャーは所謂『スーパー能力』を持っていたのだ。詳細不明な謎の果物『悪魔の果実』を食べたことで身に着けた、様々な力を。
存命時はその力で迫る敵はおろか、海神すらぶっ飛ばしたと言い伝えられている(尚、事実らしい)のだが、処刑された時に能力は果実となって身体から転がりでたということらしい。それが、この島の何処かに隠されているのである。
そして、巷ではこう囁かれている。『見つけ、食べた者が次代の海賊王となる』と。ジョリーさんもそれを認めているらしく、豪快に肩と髭を揺らした。
「俺らが成仏する時は、宝が無くなり、果実を引き継いだ奴が『海賊王』に相応しい器になったのを確認し島を譲った時だ。あぁ、楽しみだな…! ヨー ホー!!」
「よー ほー!」
「お! 社長も乗ってくれるか! なら歌おう!歌と酒は海賊にはつきものだ! ヨー ホー! ウィー アー!」
「うぃー あー!!」
ほっといたら肩を組み歌い出しそうな2人。私は慌てて社長を止めた。
「社長、丁度ジョリーさんが姿を見せてくださったんですし、あのことをお伝えしては?」
「あっ、そうだったわね! ジョリーさん、実はさっき、岬にある冒険者村で面白い物見つけたんです。ほらこれ!」
そう言いながら、社長は自らが入った箱から何かを取り出す。それは、先程買ったとある玩具。ジョリーさんがモデルとなっているのが一目でわかる。
「これ面白いですし、我が社の技術を使ってミミック箱にしてみましょうか?」
「ウアッハッハ! 流石社長だ、良い発想してるぜ! 頼む!」
「かしこまりましたー! よー ほー!」
「ヨー ホー!」
「ほら、アストも一緒に!」
「え! よ、 よー ほー…!」
「「ヨー ホー!!!」」
『俺の財宝か?欲しけりゃくれてやる…。探せ! この世の全てをそこに置いてきた!』
冒険者達は、浪漫を求め、夢を追い続ける。世はまさに―!
「はい社長、それ以上はいけません!」
「えー! なんでよー! カッコいいでしょー?」
「いや、格好いいですけども…。なんか駄目な気が…権利的に…」
ブー垂れる社長に、私はしどろもどろながら説明する。と、一つツッコミを加えた。
「というか探すも何も、場所ここじゃないですか」
本日私と社長が来ているのは、絶海のとある孤島。火山や岩地、ジャングルに沢山の洞窟、広く深い湖に誰が作ったかすらわからない風化した遺跡群…エトセトラエトセトラ。
総敷地面積はちょっとした街幾つか分ほどは間違いなくあるだろう。下手したら、小国の首都並みにはあるかも…。
当然、至る所に狂暴な魔物魔獣は沢山。周囲を囲む海にも魔物がいっぱい。さっき海が見える崖からチラリと確認してみたら、明らかに船より大きい魚みたいなのが居たし。
故にここは冒険者ギルドに登録されているダンジョンの中でもトップクラスの危険度に設定されている。来るのも大変、ダンジョンに入るのも大変。
まあそれでも皆来るから、岬の方にちょっとした冒険者村が出来ているんだけど…。
そう、ここはダンジョン。ではどんな魔物が主なのか?それは…あの島の中心に聳え立つ巨大火山の側面を見てもらえばわかる。
岩肌にべっとりと塗られたるは、島から離れていても見えるほどに大きな大きな白い髑髏。その真下には同じ大きさの、バッテンマークな太い骨。
もうお分かりだろう。皆さんご存知、『海賊のマーク』である。ここの主は、海賊。それも『海賊王』なのだ。
え? 何故私達ミミック派遣会社が人間である海賊に手を貸すのか? いやいや、色々と勘違いしている。
仮に依頼主が人間であろうと、しっかりと規約を守りミミックを大切にしてくれる人達ならば喜んで派遣する。その見極めのために私達がわざわざ出向いているのだから。
そして、海賊を生業にしているのは人間だけではない。魔族で海賊をしている者も勿論いるのだ。
まあその『海賊王』自身は人間だったのだけど。
話は戻るが、冒頭の社長の語りは嘘ではない。かつて、この世界には『海賊王』と呼ばれた海賊がいた。七つの海を股にかけて、他の海賊を打ち破り、海軍を嘲笑い、各地の宝物を集めに集めた伝説の存在。
その名を『ジョリー・ロジャー』。口を覆い胸元まである髭をカラフルに染めていたことから『虹髭』とも呼ばれていたらしい。
だが、彼ら虹髭海賊団はある時捕らえられ、全員が処刑された。その今際の際、放った言葉が冒頭のそれである。
そして、その宝が隠してある場所はすぐさま見つかった。というか周知の事実+本人達が広めたのだけど。
そこがここ、ギルド登録名称『宝島ダンジョン』。彼ら虹髭海賊団が拠点としていた島なのである。
…死人に口なし。海賊団は全滅しているのに、誰が私達に依頼をしたか? あぁ、それはごもっとも。だが、依頼をしてくれているのは海賊ご本人達である。
なに、そう複雑に考える必要はない。どういうことかというと―。
「ヨー ホー! いようミミン社長、アスト嬢ちゃん! 我らが島の探検は順調かい?」
豪放磊落な声と共に、どこからともなく私達の前に現れたのはガタイの良い男性。髑髏が描かれた海賊帽に、海賊コートを肩にかけた如何にも船長然とした人物。ズボンにはカトラスやフリントロックピストルが幾本も刺さっている。
そして、特徴的なのは虹色に染め上げられた髭。…で、その全身は薄く透け、宙にふわりと浮いている。
彼…ジョリーさんは今や『ゴースト』なのである。
別に彼だけではない。虹髭海賊団は処刑直後全員がゴーストになり、拿捕されていた愛船を奪い返し拠点であるここまで戻ってきたのだ。
そして今は、宝探しに来た冒険者達を相手取って楽しんでいるというわけである。
実は、ジョリーさん達は私達にとって古くからのお得意様。上位下位問わず、多数のミミック達を派遣させて貰っている。彼ら曰く、宝探しといえば宝箱、宝箱といえばミミックだからという理由らしい。
だから私達が今日来た理由も、契約の更新や派遣されている子達の様子見。それも特に問題なく済んだため、せっかくだから探検させてもらっているというのが事の顛末である。
「ピュウッ! ミミン社長、その格好似合ってるじゃねえか!」
「でしょー! せっかくここに来たんですし、やっぱり海賊っぽく着替えないとですもん!」
ジョリーさんに褒められ、社長はふふんと胸を張る。彼女はジョリーさんのような海賊船長っぽい恰好しているだけでなく、眼帯をつけ、片手をフック(触手)に変えてもいる。
私もそんな社長に合わせ、ボーダータオルを頭に巻き、胸結びシャツへそ出しボロ服ルックという下っ端の恰好をセレクト。流石海賊服、動きやすい。
そんな姿でジャングルや洞窟を幾つか巡ってきたところなのだ。結構罠とかもあって楽しかった。勿論、ミミック達もしっかり冒険者を仕留めていた。
しかし、私には気になることがある。正確には、一番初めにジョリーさん達と契約したときからずっと思っていた。何かというと、今社長が手にしている物である。
「良い宝剣ですねこれ! 宝石のカットが星みたい!」
「おーそれか! 確かとある南の国で、海の魔物退治の礼として貰ったモンの一つだ。俺達ゃメシを狩ってただけだったんだがな!」
星型の宝石による装飾が施されたその金色の短剣は、先程洞窟の奥にある宝箱から見つけた物。それはジョリーさんが言う通り、彼ら虹髭海賊団がどこかから得てきたお宝なのである。
別段凄い奥深くに隠されていたわけではない。多少手間だが、ある程度の腕を持った冒険者ならたどり着ける場所にあった。
因みにその洞窟だけじゃない。この島の各所の奥地、下手すれば子供でも見えやすい位置に、こんな宝物が入った宝箱が転がっているのだ。勿論、ミミック混じりで。
そう。彼らジョリーさん達は、このダンジョンに挑戦する者を増やすため宝物をばら撒いているのだ。ミミック達の派遣料金も、そのお宝から出しているというのに。
「今更ですけど…お宝無くなったりしないんですか?」
良い機会なので、聞いてみることに。すると、ジョリーさんは自慢の虹髭をわっさわっさと揺らし笑った。
「ウアッハッハ! アストちゃん、俺らを舐めちゃいけないぜ? 世界を周りに回って集めた財宝だ。まだまだ山ほど、あの火山ほどある!」
ビシリと自らの海賊旗が描かれた火山を指さすジョリーさん。その自信満々な彼の姿は、聳え立つ山よりも大きく見えるほどであった。
「ですけど…」
私は少し食い下がる。すると、ジョリーさんはニマニマと私の顔を覗き込んできた。
「言いてえことはわかるぜアスト嬢ちゃん。勿体ない、だろ?」
「う…はい…」
せっかく集めたお宝を、こうもばら撒いていいのだろうか。『鑑識眼』で見る限り、どれもこれも貴重な代物。それに、思い出も籠っているはず。そう考えた私を、ジョリーさんは笑い飛ばした。
「構わねえさ! 死んで骨だけ…どころか魂だけとなった俺らには、宝なんて何の意味もありゃしねえ! 思い出は一欠けらも残さず胸の中。なら宝はまだ生きてる連中にあげた方が役に立つってもんだ。勿論、奪いにこれる度胸があるやつにな!」
ウアッハッハと再度笑ったジョリーさん。と、彼は髭をさすりさすり。
「てかよ、ぶっちゃけると…。別に俺ら、生前から宝物にそんなに興味は無かったんだぜ?」
「そうなんですか?」
くねんと首を捻る社長。どうやら社長にとっても予想外の回答だったらしい。その拍子にちょっと帽子がずり落ちかけた。
ジョリーさんはその社長の帽子を片手で直してくれながら、「おうとも」と頷いた。
「俺らが心の底から欲したのは、宝の地図を確かめに洞窟に潜るあのワクワク感! 未知なる敵と交戦する時のひりつくスリル! そして、友と共にどこまでも続く蒼海を駆けるという熱く騒がしい旅路! おぉ! ヨー ホー!」
昂ったのか、銃を空に向け撃ちながら吼えるジョリーさん。興奮冷めやらぬ様子で彼は言葉を続けた。
「俺らは浪漫を追い求め続け、果たし、楽しく死んでいった。残ったのは主失くした宝物だけ。 だからゴーストとなった今はそれを活かし、他の連中に『宝探しの浪漫』を味合わせてやるのが至上の楽しみなんだぜ!」
「それによ、万一宝が無くなっても問題ない。アレが…『悪魔の果実』があるからな。浪漫ある冒険者連中はそれを目当てに来てるんだ。心配しなくとも、まだまだミミック達にはお世話になるぜ!」
うーん…気を利かしてくださっちゃった。我が社の心配をしたゆえの質問ではなく、純粋な疑問だったのだけど。
さて、今話に挙がったワードがある。『悪魔の果実』―。彼、虹髭を、ジョリー・ロジャーを『海賊王』たらしめていたものは、少年と大人の両側面を持った愉快な心、あらゆる人を虜にする度胸とカリスマ、それに惹かれた腕っぷし最強の船員達…だけではない。
ジョリー・ロジャーは所謂『スーパー能力』を持っていたのだ。詳細不明な謎の果物『悪魔の果実』を食べたことで身に着けた、様々な力を。
存命時はその力で迫る敵はおろか、海神すらぶっ飛ばしたと言い伝えられている(尚、事実らしい)のだが、処刑された時に能力は果実となって身体から転がりでたということらしい。それが、この島の何処かに隠されているのである。
そして、巷ではこう囁かれている。『見つけ、食べた者が次代の海賊王となる』と。ジョリーさんもそれを認めているらしく、豪快に肩と髭を揺らした。
「俺らが成仏する時は、宝が無くなり、果実を引き継いだ奴が『海賊王』に相応しい器になったのを確認し島を譲った時だ。あぁ、楽しみだな…! ヨー ホー!!」
「よー ほー!」
「お! 社長も乗ってくれるか! なら歌おう!歌と酒は海賊にはつきものだ! ヨー ホー! ウィー アー!」
「うぃー あー!!」
ほっといたら肩を組み歌い出しそうな2人。私は慌てて社長を止めた。
「社長、丁度ジョリーさんが姿を見せてくださったんですし、あのことをお伝えしては?」
「あっ、そうだったわね! ジョリーさん、実はさっき、岬にある冒険者村で面白い物見つけたんです。ほらこれ!」
そう言いながら、社長は自らが入った箱から何かを取り出す。それは、先程買ったとある玩具。ジョリーさんがモデルとなっているのが一目でわかる。
「これ面白いですし、我が社の技術を使ってミミック箱にしてみましょうか?」
「ウアッハッハ! 流石社長だ、良い発想してるぜ! 頼む!」
「かしこまりましたー! よー ほー!」
「ヨー ホー!」
「ほら、アストも一緒に!」
「え! よ、 よー ほー…!」
「「ヨー ホー!!!」」
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