灰色の冒険者

水室二人

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第2法 裏編

武器を作ると決めたので

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 この先、果て無き迷宮に行くことは避けられない。

 魔物と戦うのは、ある程度割り切れるが、人と戦うのは不安がある。魔物は、ある程度パターン化しているみたいなので、準備をしっかりしていればいいだろう。

 問題は、人間を相手にする場合だ。地下の資源争いもあるみたいなので、最悪異世界人との戦闘もあるかもしれない。

 チート能力を持った異能者が複数いた場合、勝てる見込みが無い。争わないのが一番だが、どうなるか解らない。

 ある程度、選択肢を持つ必要がある。事前ポーションは、その一つだけど、それだけでは足りない。

「それで、これを利用するのかにゃ?」

「流石に、人の道を踏み出すのは覚悟がいりますね・・・」

「猫になりますにゃ?」

「猫の道でも、外道になりますよ」

「にゃにゃにゃ、刈谷さんは、外道ですにゃ」

「えぇ、悪魔に売る魂は、真っ黒なんでしょうね」

 私たちは、研究室の中で、密談中だった。

「魔力が0になると、気絶するとは思いませんでした」

「不用意に、人の部屋に入るからこうなるにゃ」

 目の前には、一人の少女が倒れている。正確には、部屋の中に倒れていたので、研究室につれてきた。解析機で解析して、個人情報は調べてある、現在の解析機は、人の情報だけでなく、ある程度の記憶も覗くことが出来るようになった。

 この子の名前は、黒兎02と言うらしい。賢者の国の、諜報員。異世界人の調査監視をしている。

 私の部屋に設置した、魔力ソーラーの改良型の側に倒れていた。魔力ソーラーは、大気中の魔力を集める装置だが、生き物が触った場合は、その生き物が持つ魔力を吸収する。黒兎02の魔力は、物凄く少ないので、少し触れた結果、気絶してしまったようだ。

 解析のために、研究室に連れ込んだのだが、この子に施されていた魔術は、色々と危険な物が多すぎた。

 情報を収集するための記憶力上昇。気配を遮断する術式や、自爆魔法。

 生存を知らせるビーコンも埋め込まれていたので、ここに入れた事典で、部屋の外に出すことは不可能となった。こちらの手の内を見せるわけには行かない。

「この子の持っていた魔方陣や魔道具は、こちらで全部もらう事にしよう」

「なら、この子には、光になってもうにゃ!」

 十色が叫ぶ。

「私の肉球が輝き叫ぶ!!」

 不気味な動きをしながら、十色は叫ぶ!

「必殺、シャイニくきゅう!」

膨大な魔方陣とともに叩きつけられた肉球は、黒兎02を光の粒へと変えていく。

「成功にゃ」

「沿うみたいだな」

 光が消え去ると、黒兎02だった少女は跡形も無く消えていた。

「えっと、私はどうなったのでしょうか?」

「精霊猫になったのにゃ」

「・・・」

「それと、私の助手になりましたよ。しばらくは、ここから出れません」

「それって、猫にする必要ありました?」

「半分は、趣味ですね。あのままの姿で、外に出られると困りますし、ビーコンを除去するために、光にする必要もありました」

「ねうっぅ・・・」

 黒兎02だった少女は、肉球魔法により、精霊猫にされてしまった。もっとも、十色の位が上がれば、元に戻すことが出来るらしい。

 黒兎02と言う名前は、諜報員のコードネーム的な部分も合ったらしい。子供のころから、訓練されていたので、本名は無くそれば名前でもあった。

「では、つーと呼ぶことにする」

「つーですか?」

 十色により、つーと名づけられた。彼女からは、色々と賢者の国の情報を聞き出そうとしたが、任務以外のことはほとんど役に立たなかった。訓練だけの日常なので、仕方ないのかもしれない。

 最初に任務で、失敗して猫にされたので、ある意味不幸な子なのかもしれない。

 ただ、諜報部のことを色々と聞けたのは収穫だろう。十色に、彼女の知識を学ばせれば、猫たちの問題解決に役立ちそうだ。

「され、私の助手にもなったのですから、働いてもらいますよ」

「は、はい」

 と言っても、これから行うのは武器作り。果て無き迷宮での使用を第一とした、魔道具を作らなければいけない。

「この世界に、鑑定能力のある道具はありますか?」

「この国には、ありません。鑑定能力は、危険な能力として、所持を禁止されています」

「迷宮で、敵を見つけるには、どうしています?」

「魔物をサーチする道具はあります」

「罠とかはありますか?」

「罠は、基本的にありません。毒の沼など、変わった地形はあります」

「宝箱は、どういう仕組み?」

「解析できていません。謎の存在です」

「ありがとう」

「にゃ?」

 十色が、外道と言った理由の一つに、つーには肉球魔法以外の魔法をかけてある。売店にあった初心は用の魔法書を解析したら、自分で色々と魔法が作れるようになっていた。

 演算機で編集すれば、簡単な魔方陣を書くことが出来た。その中の一つを、つーにかけてある。こちらの質問に答えるだけの簡単な魔法だけど、情報を聞きだせる意味は大きい。

 彼女は、任務失敗したことには落ち込んでいるが、猫になったことは仕方ないと思っているらしい。

「こうやって、主任の役に立てればいいです」

 ぺたぺたと、札状の紙に、魔方陣を刻む。彼女は、なぜか私のことを主任と呼ぶ。諜報部での上役の呼び方だそうだ。

「しかし、肉球魔法は色々t便利だな」

「刈谷さんの協力があってからですにゃ」

 攻撃魔法ようの魔方陣を、肉球魔法で描いてもらい、スタンプのように札に押す。これで、この札に魔力を流すと、攻撃魔法が発動する。

「解析機と、演算機のおかげだな。まさか、魔方陣の文面を解読して改良できるとは、思わなかった」

「反則球のチートですにゃ」

「何でも出来るわけじゃないからね。この火の札だって、初級のファイヤーボールの威力しかないからね」

「それだけなら、そうですにゃ。それに、この札をあわせたら、恐ろしいことになるにゃ。何でこんな非道なことを、思いつくのにゃ!」

「迷宮で戦うなら、効果あると思いますよ」

「ありすぎにゃ。考えただけで、恐ろしくて尻尾が逆立つにゃ!」

 世界の理を超えると、少しの発想が恐ろしい結果を生み出す。ゲームをしていて、もしもあの場所でこの武器があればもっと簡単だったのにと、何度も思ったことだろう。

 それらが作られることになった今、生き残るために自重はしない。ただ、色々と隠しておきたいことが多いので、偽装する必要もある。

「肉体の弱さは、これでサポート出来るといいが・・・」

 いつも来ている服に、魔方陣を刻み込む。各種のステータスを上昇させる効果があり、魔力を供給している間は効果がある。ただ、私自身の魔力は少ないので、魔力電池をこっそりと仕込んである。問題は、この手の仕組みを諜報部が気づくかということだったが、つーの協力により、ぎりぎり解らない範囲が判明したので、実践投入できることになった。




 私が生き残るために、一人の少女の運命を変えてしまった。外道と呼ばれても仕方ないだろう。これから、迷宮に行けば、人の命を奪う事もある。色々と、後戻りは出来ない。

「私のことなら、気にしないでください。これはこれで、素晴らしいです」

 研究室で、と色と一緒に楽しそうにTVを見ているつー。

 決心が鈍りそうだが、次のステップに進むことにしよう。




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 小説家になろうでも投稿中。
 なろうのほうが進んでいるので、こちらも順次投稿予定です。

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