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零章 第四部『加速と収束の戦場』
七十九話 「RD事変 其の七十八 『冷美なる糾弾④ 女尊世界』」
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ビシュナットとルヴァナットは、二人で一つの存在。それゆえに複座式のリヴァイアードも、見事に操ることができる。その彼らは現在、二人でアピュラトリスの南西部分でルシア軍と戦っている。
であれば、南東でダマスカス軍と戦っているリヴァイアードに乗っているのは、いったい誰なのか。そのリヴァイアードも当然、二人乗りとして設計されているはずである。
南東のリヴァイアードは、ナット兄弟が乗っている真っ黒なカラーリングと違い、ラーバーンの機体としては珍しく【白】を基調とした色合いになっていた。
ラーバーンが服や機体の色を黒にするのは、死者に対する【喪】であるからだ。数多くの人間を焼く必要がある改革において、犠牲は付き物。たとえ人間の霊が不滅とはいえ、その痛みは簡単に消えるものではない。
その咎を引き受ける覚悟がある者だけがラーバーンの一員となり、喪に服する資格を得るのである。自らも痛みを受けることを受け入れ、それでもなお闘える者だけが漆黒を身につけるのだ。
しかし、この喪は強要されるものではない。バーンとはいえ、誰もが怒りだけで動いているわけではない。その根幹に宿された怒りはあれど、その先にある未来に想いを馳せるがゆえに闘う者たちもいる。
【彼女たち】は、機体の色を選ぶ時に、迷わず白を選んだ。
白は黒とは反対の存在。神聖さや純潔、清純さを示す色である。それらは、めでたい席や結婚式でよく見られる色だ。そう、だからこそ彼女たちは白を選んだのだ。
なぜならば、この戦いは【祝福】以外の何物でもないからである。
「お姉様、あいつら何かやってきますよ?」
白いリヴァイアード・リリスに乗っている褐色黒髪の少女が、周囲に展開しているリフレクターからの情報を受け、ダマスカス軍の動きを感知する。
褐色の少女の名は、クマーリア。
二十四歳、女性。
少し短めの髪の毛は、ぱっと見ればボサボサで、手入れがされていないように見えるが、これは単純に癖毛。生まれもってのものなので、どんなパーマをかけてもすぐに戻る仕様である。
黒い半袖のシャツから覗く褐色の肌は健康的で、服の中にも痣なく広がっているために、彼女の地の色であることがうかがえる。加えて瞳も漆黒なので、まるで全身が太陽の下で育ったように黒い印象を受ける。
小柄で愛嬌のある顔は、まるでぬいぐるみか、お人形のように愛らしい。まさにマスコットのような女の子である。
「クマーリア、あまり見ると目を壊すわ。醜いものは、極力見てはいけないの」
声の主は、リヴァイアード・リリスに乗る、クマーリアに【お姉様】と呼ばれたもう一人の女性のもの。
ナサリリス。三十歳、女性。
艶やかな長いアイスブルーの髪は柔らかくも、まるで氷の彫像かのように、見る者に冷たい印象を与える。ブルーの瞳に宿された強い嫌悪の色も、そうした印象を助長させているようだ。
肌は、病的なまでに真っ白。百合が描かれた純白の戦闘用スーツよりも白く、漂白したような印象さえ受けるほどに白い。目鼻立ちはよく整っており、すべてが流れるようにすらっとしている。こうした欠点らしい欠点が何一つない様子は、まさに美人と呼ぶに相応しい。
正直、恐るべき美貌である。
あまりに完成された美しさに、男性は性的欲求を感じる隙すらないかもしれない。まるで彫像。生気を感じさせない女性。おおよそ生きているとは思えないほどに、すべてが冷たく静止した雰囲気をまとっている存在である。
しかし、スーツに抑えられてもなお豊かな胸は、動くたびに激しい自己主張を繰り返しており、彼女が作り物ではない立派な生命であることを、机を叩いて大声で叫びながら主張していた。
両者は、まるで正反対。南国で太陽をふんだんに浴びて育ったような全身真っ黒なクマーリアと、一度も外に出たことがないように真っ白なナサリリス。
当然、両者は姉妹ではない。別の国で育った人間同士であるが、何よりも【強い絆】で結ばれていた。
「でもお姉様、リフレクターを見ないと相手の位置が…」
「駄目よ。駄目。それでも駄目よ。あなたの目が潰れてしまったら、私は哀しみに打ちのめされてしまうわ。あなたの目は、私の目。あなたの心は、私の心ですもの」
「お姉様、なんてお優しいお言葉!!」
もしクマーリアが目の前にいたら、ナサリリスは力の限り抱きしめ、その愛らしい黒髪を撫で続けていたことだろう。クマーリアの癖毛は独特がゆえに、撫でると手に不思議な余韻が残るので、ナサリリスは何度でも撫でたくなるのである。
ただ、リヴァイアードのコックピットは複座なれど、残念ながらそれなりに離れている構造である。ナサリリスは抱きしめるふりをするしかないが、そのせいでリヴァイアードの腕も、不自然にわきわき動くことになる。
「ああ、タオも残酷なことをするものね。どうして一緒じゃないのかしら」
ナサリリスは、リヴァイアードの開発中に複座について意見を申した。それはもう、恐るべき回数の意見書を出した。しかし、タオには「構造上、無理なんだなー」の一言で片付けられていたのだ。
タオの唯一まともな点は、MGに関することである。奇抜であっても基本は忘れない。できないものはできない。無理なものは無理とわきまえているところだ。なので、あっけなくリヴァイアードも離れた複座にされている。
「タオったら、可愛い顔をしてなんて強情な子。でも、そんなところも…」
「お姉様、違う女のことを考えているなんて、ひどいですぅ!」
「ああ、違うのよ!! これはちょっとした過ち! 心の揺らぎ! そう、ちょっとした、ア・ヤ・マ・チなのよ!」
「うわぁあーん、お姉様のばかぁあああ!」
クマーリアの叫びとともに、リヴァイアードの手から戦弾が発射される。放出された戦気が誤作動して起こった事故だが、戦弾は準備中のダマスカス軍にも及び、一時は「先手を取られたか!?」と騒ぎになったほどである。まさか彼らも、原因が痴話喧嘩とは思うまい。
「クマーリア、あなたほどの可愛い子は、この世にいないわ。ああ、私の可愛い子…!」
「本当ですか、お姉様!?」
「ああ、見て。私だけを見て。私もあなたしか見ないから。その漆黒の目で私を見て!」
「お姉様…、はい、見ます! ああ、お姉様の美しい深い空色の瞳が、私を包んで…あああ! このままじゃ、また! また私!」
「いいのよ! もっと私を感じて! そして、何度でも羽ばたいて! いって、いって、イクのよ!!」
「ああ、お姉様ぁあああああ!」
……………………
……………………………………
お互い、通信越しの映像でこの状態である。
これは今に限ったことではない。最初からこうなのだ。
ナサリリスがクマーリアとラーバーンに来た時、あまりの美貌に誰もが一瞬動きを止めた。ここに来る者は色恋など求めておらず、そもそも生体エネルギーである戦気を燃やす武人は、性欲を制御できる者も多い。それだけエネルギーを戦いで使い果たすからである。
どんなに性欲が強い人間でも、全力を尽くして活動すれば、「そんな気が起きない」ものである。ただただ休みたくなり、泥のように眠るわけである。
もちろん、エネルギーを発散しなければ、そういった欲求も抱くわけだが、ラーバーンの武人はそこまで暇ではない。任務がないときも日々鍛錬で忙しく、毎日死にそうになるほど戦っているのである。
だからこその異常事態。
そんな彼らでさえ惹きつけてしまう美貌が、おかしいのである。その美しさは、男性という種に対して作用する毒薬かのように、見る者を氷漬けにしていく。
しかしながら、ナサリリスはもっと違う意味で、彼らを氷漬けにすることになった。
そう、見ての通りの【同性愛者】である。
クマーリアとのやり取りは、演技でもなんでもない。単純に恋人同士がイチャついているだけである。それだけならばまだしも、ナサリリスにはもう一つの大きな欠点が存在している。
「それに比べて、なんて醜いのかしら。あの蛆虫どもは」
ナサリリスの目に、圧倒的な侮蔑の光が宿る。
軽蔑、嫌悪、憎悪、嘲り。まるで台所でゴキブリと遭遇してしまった時に見せる視線。か弱な女性ならば、恐れおののくところであるが、ナサリリスはそのような女ではない。自ら率先して殺しにかかる性格である。
そんな彼女が宿す光は【殺意】。
ナサリリスは、男性に対して激しい殺意を持っていた。加えて彼女には、バーンになるだけの力量があり、人を焼くことにもためらいはない。これがどういう意味を持つかわかるだろうか。
なんとナサリリスは、ラーバーンの男性陣を排除しようと動いたのである。
きっかけは、恋人のクマーリアの一言。「男にいやらしい目で見られた」である。たったそれだけで行動に移るなど、実に恐るべき女性である。
実際は、新しく入ったクマーリアに対し、バーン序列三十五位のマルカイオが「あん? 新入りか? なめられるわけにはいかねえな!」くらいの気持ちでガンを飛ばし、それにクマーリアが怯えただけなのだが(マルカイオはチンピラ顔)、その後が最悪であった。
恋人を辱められ、激高したナサリリスが、ガチでマルカイオを殺しに来たので、ランバーロが一時戦場と化したのだ。ランバーロは巨大戦艦に改造されているため、小都市にも等しいスペースがある。存分に暴れられるとはいえ、そこが戦場になれば大惨事である。
ちなみにマルカイオであるが、身長は百九十センチくらいの長身なのだが、基本ポケットに手をつっこみ、背を丸ませながら肩を揺らして歩く癖がある。
茶髪ロン毛に加え、大きく開けた黒いシャツの胸元には金の鎖をちゃらちゃら垂らすという、まさにステレオタイプのチンピラを彷彿させる容貌である。当然、目つきも悪い。常にガンを飛ばす。
思考回路や言動もチンピラなので、受け答えは「あ?」を連呼する。「あ?(了解)」「あ?(それ何だ?)」「あ?(飯はまだか)」といったように、彼にとって「あ?」は、まさに多様な意味を含んだ便利な言語なのである。
が、そんなことを知る由もないクマーリアは、「目と言葉で犯された」とナサリリスに陳情。それによって、この戦争は勃発したのである。
「蛆虫が!! お前を殺す! 切り刻む!!」
「新入りがぁあ!! 上等だ!! どっちが上か、思い知らせてやんよぉお!!」
まさに上か下かのチンピラ的発想で、マルカイオも反撃を開始。
マルカイオの序列は、三十五位。バーンの中でも五十位以下の下位バーンを圧倒する、中位バーンの力量を持っている。口も態度も悪いが、実力を伴った男なのは間違いない。
彼の戦闘力は、オロクカカを凌駕する。剣技は我流だが、それなりに本気を出したホウサンオー相手に、模擬戦ならば数分はもちこたえられるといえば、彼の実力がわかるというものだろう。
もし彼がホウサンオーの代わりに雪騎将二人と戦っても、かなり時間はかかるが勝利できただろう実力者である。
が、理由もわからずいきなり攻撃された側と、準備と覚悟をもって攻撃する側の違いは明白であった。ナサリリスは氷のような冷徹な攻撃を、彼の【玉】に集中してきたのである。
これにマルカイオは戦慄。
(こいつ、マジで玉をとりにきやがった!!)
この恐怖は、男ならば誰しも理解できるものであろう。ナイフを取り出して威圧したチンピラに対し、相手はガチで玉を狙ってくる鉄砲玉。こうなったら序列の上下など無意味である。マルカイオも逃げるしかない。
数十分後、血塗れになったマルカイオが、司令室に逃げ込んできたところで事態が発覚。大騒動に発展する。
「ゼッカー、おい! あいつ、やべええよ!! た、玉…、玉とりにきやがった!! お前も男なら、わかるだろう!? た、助けろ! いや、助けてくれ!!」
このようにマルカイオが泣きつき、ゼッカーの仲介によって場はなんとか収まるも、この「マルカイオ、フルボッコ玉狩り未遂事件」をきっかけに、ナサリリスが反男性同盟を発足。
日頃デリカシーのない男どもに不満を抱いていた女性陣が賛同し、ラーバーン創設半年で、最初の壊滅の危機を迎えることになる。
※タオとルイセ・コノは作業に没頭していたので、事件そのものを知らない。バーン序列十五位のシルキュラは、ゼッカーの護衛のため参加していない(最初から、そのつもりもない)。その他、何人かの女性も不参加。
その後の詳細は痛ましくて伏せるが、何人かのチンピラバーンが多大な被害(フルボッコ)を受けたことと、ナサリリスの性癖に女性陣がついていけず、最終的には同盟は二週間で解散している。
しかし、この時にマルカイオが放った言葉は、今でもラーバーン内部では語り継がれている。
「どうしてここには、残念な女しかいないんだ!!」
タオは美人である。が、頭がおかしい。
ルイセ・コノは可愛い。が、頭がおかしい。
ナサリリスは絶世の美女である。が、頭もおかしい。
この事件のあと、何人かの男性は極度の女性不信に陥り、癒しを求めて、なぜかメラキ序列二位のレイアースのもとに通うことになる。
一応、齢三百歳を超えるらしいが、とりあえず彼女の見た目は幼女である。しかも、慈母の如く慈悲深い性格で、あらゆる生命に愛情を注ぐような女性である。彼らが救いを求めるのも当然かもしれない。
結果として違う性癖(幼女、母親、姉好き属性)が目覚めそうな彼らであったが、ひとまず事態は収拾したのである。
ちなみに、もう一つ逸話がある。
最初のマルカイオ襲撃の際、ナサリリスはガガーランドにも危害を加えていた。ホウサンオーとの模擬戦の帰り、たまたま通路を歩いていたところ、逃げ惑うマルカイオの盾にされて、ナサリリスに左目を抉られている。
ナサリリスは何も気にせずにマルカイオを追ったが、目を抉られたガガーランドは、こう言って大声で笑ったという。
「このかすかな痛み…。見事だ。お前に凍眼鬼の名を与えよう! ここも少しは面白い場所になってきたではないか!! 愉快、愉快だ!!」
これは抉った場所がナサリリスの凍気で凍結したことで、傷の修復に少し時間がかかったことに由来する名であるが、ガガーランドがそのような振る舞いをすることは珍しい。かすかとはいえ痛みを感じて、よほど機嫌が良かったらしい。目を抉られて喜ぶ男も問題であるが。
この事件は、バーンにも戦慄を与える。上位バーンであるガガーランドに手傷を負わせるなど、中位バーンの実力でも簡単にはできない。しかも目を抉るなどと…。それだけ彼女の気迫が、異常であったことがうかがえるエピソードである。
今、ダマスカスが対峙しているのは、こういった【アブナイ相手】なのである。そして、目の前には軍隊で汗まみれになっている男(うじむし)ども。ナサリリスの殺意は、急激に膨れ上がっていた。
ただし、クマーリアの見立て通り、ダマスカス軍の動きは今までと違っていた。南西のルシア軍がやっているように、足場を破壊しようと新しい作戦が開始されたのである。
リュウもまた、ハブシェンメッツの案(アルザリ・ナム案)同様に、相手が何かしらの土台を使っていると考えていた。ただし、彼の場合はとてもシンプルである。
「馬鹿野郎。機体が簡単に浮くわけないだろう」
という、至極当然の考えによって導き出されたものである。MG開発に携わっていると、機体を空に浮かせることが、いかに難しいかを思い知る。
ミサイルがある以上、機体そのものを飛ばすことはそう難しくない。戦気も利用すれば、機体をミサイルのように飛ばすことはできる。だが、やはりそれが精一杯である。だいたい地表二百メートルくらいいくと揚力を失い、あとは落下するだけとなるのだ。
それを知るリュウは、相手が足場を作っていることをすぐに見破った。それしか方法がないからである。が、見破ったからといって、相手が強力な敵であることには変わりない。そのためすぐには動けず、バクナイアとイルビリコフの交渉を待たねばならなかった。
話はまとまり、両国がそれぞれ別個に対応すると決まった。
それまではいい。
(ったく、受身すぎるんだよな)
そうリュウがぼやくのも無理はない。交渉の結果、結局ルシア側に、ミサイルランチャー、ML-S8を奪われてしまったのだ。
そこはさすが青空位のイルビリコフ。穏やかな口調であれこれ難癖つけながら、ものの数分の交渉で使用権を奪ってしまった。それは即座にハブシェンメッツに渡され、土台破壊に使用されることになる。
バクナイアもやり手の政治家であるが、彼は戦略家であっても戦術家ではない。大まかな道筋を示すことは得意であっても、細かいやり取りは官僚たちの専門である。文官の彼らを戦場近くの基地内に呼ぶことは難しく、やり手のイルビリコフに対抗することはできなかった。
とはいえ最初の交渉で、一度ルシアに任せた指揮権を一部ながらも強引にもぎ取るあたり、バクナイアの手腕も相当なものである。ルシア側がかなり街に被害を出していることを口実に、南東エリアの指揮権を取り戻したのである。
その後のことを考えるのは、リュウの仕事である。さきほど見せた悪知恵をカーシェルに買われ、作戦立案を任せられているわけだ。彼は今、どうやって足場を破壊しようか迷っていた。
(ドライカップは、ほとんど使っちまったし…どうすっか)
土台破壊にはML-S8が一番適切であるものの、ないものは仕方ない。単純な砲撃でも崩せなくはないが、当然相手の反撃があるので、MG部隊を前面に出すわけにはいかない。また、いきなり砲台を出しても潰されるかもしれない。
となれば、リュウが思いつく方法は一つである。
「お姉様、何か来ます!」
リヴァイアードのリフレクターが、アピュラトリスに向かってくる存在を感知。距離があるので詳細な形状はわからないが、移動しているのは間違いない。この大きさで動くとなれば、車かMGかである。
「穢らわしい!!」
リヴァイアードは、ニードルガンを発射。ナット兄弟のリヴァイアードには、ビームガトリングガンが装備されているが、リリス型にはニードルガンが装備されている。
これは圧縮弾倉から抽出した素材を、螺旋状の針に加工して撃ち出す武器である。通常の弾丸は炸薬を使うが、ニードルガンは風圧によって撃ち出す。これも風のジュエルを大量に使うので、なかなか贅沢な武装である。
ニードルガンの特徴は、その貫通力である。弾丸よりも長く細いニードルは、相手を串刺しにすることに長けている。刺さったあとも身体や機体に残ることが多いので、倒しきれなくても相手の行動を阻害することができる。風のジュエルを使うことも意味があり、これによって弾丸より長距離の攻撃が可能となる優れものである。
そのナサリリスのニードルガンが、向かってきた何かを一瞬で串刺しにする。
そして、爆発。
穿たれたものが爆発し、激しい爆風で周囲の煙を吹き飛ばす。
「これは…爆弾? 車に載せたの?」
クマーリアは、リフレクターからの情報を収集して、それが爆弾であることを確認する。
リュウお得意の【トラック爆弾】である。
ミサイルが手元にない以上、使えそうなものは砲台か爆弾である。が、最初に砲台を出せば潰されるのは間違いないので、一番困らない方法を考えると、安易なトラック爆弾という結論に達する。
「なんだか、こっちがテロリストみたいな気分だが、やっぱり使えるよな」
車に爆弾を仕掛けるのはテロリストの十八番だが、手軽で安易がゆえに使わない手はないだろう。当然、車両は自動運転にしてあるので、人的被害もない。リュウは効果に納得顔である。
しかし改めて見ると、両者ともに南西側とは違って大味な対応である。ナサリリスは「汚い」という理由であっさりと迎撃するし、リュウもトラック爆弾を攻撃されても「まあ、そうだよな」くらいにしか思っていない。非常に雑な戦場ともいえる。
べつにそれが悪いわけではない。心理戦とは、相手がそれに相応しいだけの【普通の精神構造】をしていることが条件である。そもそも心理などを気にしない人間に対しては、それ自体に意味がないのである。
ナサリリスもリュウも、あまり細かいことを気にしない。お互いに直情的な性格なのである。このような読み合いではなく、単純な感情同士の戦いの場合、物を言うのが【勢い】である。
「砲台とトラックを同時に出してくれ! 相手を引きずり出す!!」
リュウの指示(を受けたバクナイアの指示)で、ダマスカスは物量作戦に出る。基地の砲台で牽制しつつ、大量のトラック爆弾を展開。
「なんて見苦しい姿!!! 背筋が凍るわ!!」
ナサリリスは絶叫。その姿は、わらわらと向かってくる蛆虫の群れ。大量の蛆虫が這い寄るさまは、おぞましいの一言である。
「潰すのよ!! あんなものを近づけてはいけない!」
「わかりました!」
ナサリリスはトラックを次々と潰していくものの、その量が増えるごとに間に合わなくなっていく。次々と出現するトラックに際限はなく、近場の工業地帯から何百台も持ってきたのではないかと思えるほどである。
「なんてしつこいの!?」
あまりの粘着質に、ナサリリスも舌を巻く。こうなったときのリュウをなめてはいけない。粘り強く、何度でも執拗に嫌がることをやってのけるのが彼なのである。
人間の構造を知れば関節の可動域を知るように、MGの構造をよく知るということは、限界を知ることができるということ。さまざまな角度から大量のトラックを出立させたリュウの作戦は、実にいやらしかったのだ。
リュウは、相手がリフレクターを使っていることは知らなかったが、そもそもMG一機ならば、おのずと限界が生まれるものである。自動運転にいくつかのフェイントやフェイクを仕込むことで、相手のタイミングをずらしながら、少しずつ押し込んでいく作戦をとった。
ナサリリスがいかに優れた射手であれ、ダマスカス軍からの弾幕もある中、トラックだけを射抜くのは至難の業である。徐々に押されていく。
そして、拮抗してから五分後、リュウが奇襲として、違う入り口から出したトラック爆弾が凝固材を直撃。それを目標にトラックが殺到し、ついには足場が崩壊。
リヴァイアードは、ついに大地に引きずりだされることになった。
蛆虫だらけの醜くおぞましい地上へ。
リヴァイアードは、徐々に低い足場に移りながらも、やはりビルの上に着地。とりあえず高い場所に乗るのはスナイパーの習性なのだろうか。しかし、そこはまさに彼女たちにとっては地獄であった。
「「いやああああああああああああああ!」」
ナサリリスとクマーリアの絶叫が、戦場にこだまする。
「お姉様、ここ臭いです!」
「男の臭い!! なんて不潔で不愉快な油の臭い!!」
「うう、呼吸が…! 息ができません!」
「クマーリア!! ああ、その可愛い口を今すぐ塞いでしまいたい! 私の吐息で、すべてを満たしてあげたいのに! ここは、なんて恐ろしい空気なの!? 死ぬ、このままでは二人とも死ぬわ!!」
周囲に満ちた男の臭いが、二人に襲いかかる。リヴァイアードは機密性に優れているので外の臭いは感じないはずだが、ここまで病状が進むと、もう雰囲気だけで駄目らしい。
そして、ついには激怒。
「もう許さない!! どうなっても知るものか!!」
ナサリリスがあまりの男の気配に我を失い、暴走モードに入る。そして、ビシュナット同様、一般回線で宣言する。
「醜き男ども、よくお聴きなさい!! 今から私たちは、お前たちを【絶滅】させるわ!!」
この宣言を聴いた中には、頭に「?」を浮かべ、何度か聴き直した者も多かったとか。
―――絶滅させる
そう、ここが注目ポイントである。
男どもを排除する、でもなく、復讐する、でもなく、「絶滅させる」である。絶滅、それは文字通りの言葉である。
「私はここに、女性の楽園の創造を宣言します!!! すべての女性よ、私とともに世界に反旗を翻すのです!!」
「そうなのです!! 私とお姉様が中心となって、この世界の歪な構造を変えるのです!!」
「女だけの世界を!!」
「女が優れている世界を!!」
―――「「【女尊の世界】を創りましょう!!」」
ついには二人の声は重なり合い、見事なハーモニーを生み出す。その声にはいっさいの不純物もなく、まさに美しいソプラノの高い高い世界。志も高ければ、ちょっと考えていることもぶっ飛んで高すぎる世界が降臨する。
「ただ、私たちも鬼ではありません。女性に憧れるものは生きることを許しましょう」
おそらくまた「?」を浮かべた者も多いだろうが、これを要約すると―――
―――「玉、とってやんで!!」
となる。
古来より、高貴な女性に仕える男性たちは、去勢をする習慣がある。万一の過ちが起きないようにであるが、これと同じように彼女たちの世界にも、男が唯一生きる道があるわけだ。
「玉を献上せよ。玉を献上せよ。玉を献上せよ!!!」
この瞬間、マルカイオは震えた。
ヨハンの一件でランバーロで入院中のマルカイオが、この宣言を聞いているわけもないが、彼はたしかに背筋が凍った思いをしたのである。相当な修羅場を経験したバーンである彼でさえ、その宣言には恐怖を覚えたのだ。
「やつらは何も変わっちゃいねえ。古い慣習に縛られた悪魔どもだ!!」
ゼッカーがカーリスに言いそうな内容の台詞であるが、マルカイオの切実たる思いが凝縮された言葉である。ナサリリスは、女性同盟を諦めたわけではなかったのだ。より巨大で、より恐ろしい形で継続しようとしている。
若干ラーバーンとは無関係なところで。
当然この宣言は、リアルタイムでゼッカーたちも聞いていた。この瞬間は、いかに冷静なマレンとて思わず股間を押さえたという。その他の男性陣も脂汗を浮かべたことだろう。
ただ、それに関してはゼッカーから何の発言もなかったため、主宰が黙認しているのだから、その僕であるメラキやバーンが口を出すことではないということで、特に問題にされることはなかったという。
唯一ザンビエルだけが「対応を誤ると世界が滅びかねない」と呟いていたのが若干気になるが。
「ダマスカスの女性よ、今が立ち上がる時!! 男などに支配される時代は終わったのです!」
「お姉様の言う通りです!! これからは女性の時代なのです!」
誰も止めないのをいいことに、二人は過熱する一方である。ここぞとばかりに、ダマスカスの女性に向けて決起を促す。
といっても、市民は避難するので必死であるし、一般回線とはいえ、受信設定をしていなければ聴こえないので、聴いているのは周囲の人間が大半である。
「あいつら、さっきから何を言ってやがる?」
ショウゴ・伊達は、予想していなかった事態に呆然として、タバコをふかすしかなかった。それは他の兵士も同じで、相手を引きずり出して浮かれているダマスカス軍を、一瞬で沈黙に陥れていた。
「伊達さん、どうします、あれ?」
「思った以上にヤバイ団体かもしれん。あまり関わらないほうがいいかもな…」
ダマスカスにも似たような圧力団体があり、女性に対する社会問題が発覚すると、猛烈な勢いで国会に押しかける困った人たちがいる。
彼女たちの頭には常に「男性に抑圧されている女性」の図があるようで、まるで獣のように猛々しく衛兵に襲いかかるのである。彼女たちにとってすれば、女性のために振るう暴力は正当化されるらしいので、かなり過激なこともやってのける。
二年前、公務員による女性へのセクハラ問題が発覚した際などは、リュウがやったようにトラックに爆弾を搭載し、門に突撃。その後、小銃を使って威圧するなど、この平和なダマスカスでテロか、と騒がれたほどの大きな事件に発展したものである。
この時は、愛妻家で有名なバクナイアが作った「公僕による愛妻家の会」の説得で穏便に事を済ませたが、女性の血走った目を見たバクナイアは、しばらく寝込んだくらいである。何日かは「妻が襲ってくる」とうわ言を繰り返して悪夢に苛まれたそうな。
それだけ女性は恐ろしいのである。
そのパワーは、男性の比ではない。
まさに世界創造の力を秘めた強力なものなのだ!!
「ゼッカーは言ったわ。この先の世界を生み出すのは、女性だと。女が世界を導くべきだと。だから私は、バーンになったのよ!!」
「お姉様、私もしっかり聞きました!! 録音もしました!」
「ゼッカーは男だけど、その点だけは評価できるわ。それだけの力がある。それだけの器がある。私に力をくれたものね!!」
かろうじてゼッカーは、彼女たちの標的から外れているようである。単純に周りの男ほど臭くないというのもあるが、契約を交わした相手には一応敬意を払ってくれるらしいので、ゼッカーの余裕はそこからくるのかもしれない。
それとホウサンオーのような翁や、ガガーランドやケマラミアのような人外は放置の対象らしい。そこは彼女たちなりの妥協点だとか。それも当然か。彼女たちの目的は破壊ではなく、その後に来る【創造の世界】なのだから。
「お前ら、いったい何を言っているのだ!!」
そこに登場したのは、強化外装を外したブリキ壱式に乗る、アミカ・カササギである。
基礎フレーム状態のブリキ壱式は、まさに鎧を脱いだ武者である。屈強な武士という印象は大きく薄れ、腕や足も細くなっているので、少し弱々しい印象を受けるかもしれない。
しかし、ブリキ壱式は不思議なことに、古来ダマスカスの和服である直垂を着たように、ふわりふわりと浮いた光の粒子をまとっていた。それが見事に連なって服のように見えるのである。
「おい、アミカ。なんだそれ?」
伊達が、ブリキ壱式のあまりの変わりように思わずツッコむ。外装を外したところまでは見たが、その時にはこんなものはなかった。
(むう、どいつもこいつも呼び捨てにするな。ふん、もう好きにしろ)
すでにどうでもよくなったアミカは、呼び捨てにされても気にしないことにした。男とはこういうものだと、よく知っているからだ。リュウが言うように「ちゃん」付けされるよりはましである。
「起動させたら勝手に出てきたのだ。故障ではないと…思う」
最初はアミカも、まさか壊れているのではと驚いた。が、とりあえず動くようなので問題ないと思っているのだが。
「気にするな。そいつは強化外装との接着に使っている粒子だ」
そこにリュウが回線に割り込む。これは説明にあったように、強化外装と基礎フレームの隙間を埋めて、両者を結合させるための粒子である。今は外装がないため、周囲に漂っている状態なのだ。
「問題ないのか?」
「たぶんな」
「お前は整備士であろう!? たぶん、とはなんだ!」
「うるせーな。わからないことがあるから試作機なんだよ!! ごたごた言わずに、とりあえず試してみろ!」
「なんていい加減なやつだ!!」
さきほどのやり取りの通り、アミカはリュウのことが嫌いであった。実にいい加減で雑なのが気に入らないのである。リュウも細かいことは嫌いなので、両者の相性はあまり良くないのは明白である。
「あら、この匂い。お姉様、お気づきになって?」
「ええ、クマーリア。匂う、匂う、匂うわ。腐ったチーズの中に、香しい本物が交ざっているわね」
ナサリリスたちは、戦場に漂う汗臭い男臭の中にあって、それとは違う匂いを放つ存在、女性であるアミカを的確に嗅ぎ分ける。
アミカは専用回線を使用しているので、会話は周囲に漏れていない。それにもかかわらず嗅ぎ分けるとは、実に恐るべき能力である。震えるほどに。
「そこのあなた!! 女性なのでしょう!? ならば、私たちに賛同なさいな!」
「そうです! そこのお姉様も、ともに花園を作りましょう!」
さりげなくクマーリアの特殊能力が発動。相手が年上であるかを一瞬で見極める能力である。それに意味があるかは別として、絶対命中の特殊な技能である。
「………」
「さあ、さあ!」
「………」
「おい、あんたのことだぞ。たぶん」
「え? え? 私!?」
アミカはしばらく傍観していたが、伊達に指摘されて自分のことであると、ようやく気がついた。しかし、状況はまるで呑み込めていないようである。
「何のことだか、わからないのだが…」
「私にはわかるのよ。あなたは、男を嫌っている!!」
「えっ!?」
「いいの。わかるのよ。あなたも同じなのね。男なんかに騙されて、こんなにボロボロになるまで利用されるなんて…かわいそうに!!」
ぶわっとナサリリスの美しい顔が崩れ、とめどなく涙が溢れ出る。それを拭うことなく、大量の涙を流しながら彼女はアミカに同情する。「いいから」「わかっているから」を連呼するので、話がまったく見えてこない。
(これは…どういう状況なのだ?)
ブリキの調整に時間のすべてを注いでいたアミカは、彼女たちのイカれた発言をよく聞いていなかった。ようやくパージして出た頃には、戦場が謎の空気に包まれていたのだ。
唯一わかるのは、敵が女性だということ。
まさか女性が乗っているとは思わなかったので、アミカも相当に動揺しているらしい。さきほどから挙動不審である。
「あー、あいつの相手は新型がやる。ハイカラン部隊は、逃がさないように周囲を固めるだけでいい」
そんなアミカを見放すように、リュウが部隊に通達を出す。これは当初から決まっていた段取りである。
が、アミカはぎょっとする。
「待て、待て待て待て!! 何か変だ!! おかしい!」
「何を言っている。もともと変な相手だろうが」
「あれは違う! 今までと違う! さっきのと違う!」
アミカは、バイパーネッドに負けたことは悔しかったが、改めて考えてみれば相手の気迫は相当なものであった。その気質は、まさにサムライのもの。自分が死んでも相手を倒すという決死の覚悟。そこにはアミカも、感じ入るものがあったのだ。
悔しい。だが、相手のほうが上手だった。
だからこそリベンジを誓ったのであるが、目の前にいる敵からは、そうした気迫を感じない。むしろなんというか、まとわりつく何か、執念や妄執のようなものを強く感じる。
一目見た瞬間から、「あれはヤバイ」という感じがしてならない。当然、それはアミカだけではなく、関わっている全員が思ったことであるが。
「ブラックワンよりは、ましだろう。なんとかがんばれ。死んでも倒せ。いいな」
「あっ、待て!!」
アミカの抗議もむなしく、リュウが回線を打ち切る。同時に伊達のハイカラン部隊も、まるで関わりたくないという意思表示のように、距離を取っていった。
「おい、伊達!! 置いていくな!!」
「そんなこと言われても、命令だしな」
「伊達! 伊達大尉殿! 頼む! 武士の情けだ!!」
「俺、あんたらと違って武士じゃないからさ。命令に絶対服従の軍人なのよね。なんつーか、公僕の悲しい性ってやつだよ。それじゃ」
「ああ、待って! 待って! お願いだ!!」
アミカの懇願など、めったに見られるものではない。それだけ切羽詰っていたのだろう。しかし、どんなに泣き叫んでも現実は変わらないのだ。
「男に懇願するなど、女としてあってはならぬこと。もうおやめなさい」
「そうです。男など、踏んづけるくらいでちょうどよいのです!」
男に懇願するアミカを、女性の弱い部分の発露だと思ったナサリリスたちが諭す。
「あなたも感じているでしょう。男たちの傲慢を! あの蛆虫どもは、今まで女性を搾取することしか考えてこなかった。なんておぞましい存在!! 呼吸することも許しがたい!! 切るのです! 遠慮なく切り取りなさいな!」
「ああ、その…、いや、そこまでは…」
「さあ、さあ!! さあ!!」
何が「さあ」なのかわからないが、リヴァイアードはビルの上から手をわきわきさせて叫んでいる。
アミカも男性に対して対抗心は湧くが、そこまで嫌悪しているわけではない。むしろ、男性的な側面に憧れているのかもしれない。男に打ち勝つ腕力を持つ紅虎や、男性より強いシャーロンを見ると興奮するのは、それすなわち男への憧れであるのだ。
しかし、ナサリリスは、完全に男を敵視している。それだけにとどまらず、下等な生物として見下している。そこに激しい違和感を覚えるのである。彼女と対しているだけで、女性であるアミカにも悪寒が走るほどに。
「訳がわからん!! 私は勝たねばならないのだ!!」
このような茶番に付き合ってはいられない。せっかく一騎討ちのチャンスが舞い込んだのだ。ここで相手を仕留めなければならない。今の壱式は防御力が相当低下している。相手から攻撃してこない今こそ、最大のチャンスであった。
ブリキ壱式は、先手を取るために標的に向かってダッシュ。
(軽い)
アミカは、今までの機体との差に驚く。まさに重苦しい鎧を脱いだ時のように、なんと軽やかな足取りなのだろう。羽が生えたような軽さである。
駆ける際に感じるサスペンションのしなやかさ。膝の関節がすべての衝撃を吸収し、それが反発してバネになる感覚。これは、さきほどまではなかったものだ。
強化外装のメリットは、当然ながら強固さである。銃弾で撃たれても、あるいは剣の攻撃をもらっても耐えられる防御力にある。その強みを生かした戦いは豪胆で、恐れを知らぬ姿は、男性的な側面を強く意識させる。
MGに乗る人間の多くは、男性である。これは男女差別ではなく、単純に役割と比率の問題でそうなっているにすぎない。駅の改札口が、右手用に出来ているのと同じ仕組みだ。右利きのほうが多いからである。
それと同じく、戦いは男の担当なのである。相手を滅するという性質上、男性的な破壊のエネルギーを使うからだ。よって、兵器の大半は【男性的】と呼んで差し支えない。
しかし、MGの元祖である神機には、男女の性質が明確に存在しているし、男性が女性型のAIを入れることが多いことからも、女性だから戦いに向いていないというわけではない。
すべては性質と役割、その扱い方の問題なのである。
つまり、女性には女性の戦い方があるのだ。
女性であるアミカが男性的な装いで戦っても、それはそれで趣があるかもしれないが、やはりどこかで無理が出てしまう。いつも以上に重い太刀を使って戦った、さきほどの戦闘などはよい例である。
それは、知らずのうちにアミカが、男性的な外見だった壱式に引かれて男性的に戦ってしまったからである。しかも周囲が男だらけの軍隊にいたせいで、いつも以上に女性であることを意識した。そのギャップによって、ちぐはぐな動きになってしまったのである。
だが、今のブリキ壱式は、男女どちらでもない印象を受ける。この基礎フレームは、いろいろな外装を取り付けることを想定しているので、なるべく癖をつけないようにされているためだと思われた。
すべてがニュートラル。
今の壱式は、アミカが乗ることによって【女性的】になったのだ。それにより、動き全体がしなやかになっていく。本来の自分の形になっていく。
「これならばやれる!」
手応えを得たアミカは、さきほどまでの動揺が嘘のように、気分が高揚するのを感じる。ぶっつけ本番だが、この感触ならばいける。そう思えたのだ。
ブリキ壱式は、凄まじい速度でビルまで駆け寄ると、窓を蹴破り足場にして跳躍。一気に屋上まで駆け上がる。
「一撃で決める!!」
今ブリキ壱式が持っているのは、太刀よりも少し軽めの刀である。これはブリキの汎用予備装備の一つで、メイクピークのゼルスワンが使っていたリンドウと同タイプのものである。
太刀に振り回されていたアミカを見たリュウが、外装を取り替える暇はないがせめて剣だけでも、と用意してくれたものだ。威力は落ちるが、それだけ速く刀を振るうことができる。
(私の特徴は速度!! 急所に素早く打ち込めば!!)
アミカは、スピードに自信を持っていた。相手が誰であろうと、速度に関して劣ったことは少ない。せいぜい最速の剣技である神刃と競り合った時くらいなものである。
アミカの放った剣撃は、高速。
間違いなくアミカにとって、自信のある一撃であった。
しかも相手はビルの屋上という、ほとんどスペースのない場所にいる。この状態で外すほうが難しい。されど、アミカはまだ知らない。目の前にいる存在が何者で、なぜバーンと呼ばれているのかを。
リヴァイアードは、非常に大きな機体だ。ブリキ壱式よりも遥かにかさばる。砲撃をするためには、ある程度の大きさが必要だからだ。ただ、そうであるのに、どうしてリヴァイアードは、こうも簡単に敵陣に姿を晒すのか。本来ならば、もっと距離を取ろうとするのではないか。
いいや、そんな必要はないのである。
ブリキ壱式の刀が、リヴァイアードに接触する瞬間―――
―――その姿が消えた
目標を失った刀はビルの屋上に叩きつけられ、コンクリートに深く突き刺さる。
「―――っ!」
アミカは、何が起こったのかわからなかった。最速の剣がかわされたショックを受ける前に、現状が理解できなかったのだ。
もちろん、リヴァイアードは消えたのではない。そのような瞬間移動をする装置をMGに搭載などできない。だから単純に「かわした」のだ。
リヴァイアードは、その巨体に見合わずに素早く身体を回転させ、アミカの攻撃を回避した。防御ではない。完璧にかわした。
実際、リヴァイアードはまだビルの屋上にいる。アミカの攻撃をかわし、その真横に移動しているのだ。巨体が高速で動くなど、それ自体かなり奇妙な光景である。だが、それは事実であり、認めねばならない現実である。
リビアルにとって最大の弱点であったのは、その機動性。砲撃能力に長けたぶん巨大になり、簡単に足元に潜り込まれる弱点があった。一方、ガヴァルの弱点は火力。強みである機動力を完全に生かしきれていない攻撃力の低さ。両者は正反対の存在であった。
その二つの長所を組み合わせたのが、リヴァイアードである。
まさに今使ったのは、ガヴァルの機動性にほかならない。この巨体が、これほど素早く回り込めるだけの小回りを持つ。それはアミカの最速の剣すらよける速度。
スピード勝負に出た戦いにおいて、この事実は致命的。
アミカは、いきなり自身のアドバンテージを失ったのだ。
駆動系を担当しているクマーリアは、暗殺者タイプの武人である。その彼女からすれば、アミカの一撃は素早いが、けっしてかわせない速度ではなかった。可愛い姿に騙されがちであるが、彼女もまた一流の武人なのだ。そして、バーンである。
「お姉様に手を出すなんて!!」
クマーリアは、アミカの行動に憤慨していた。せっかく解放してあげようとしたのに、恩を仇で返される気分である。といっても、まだ何の恩も与えていないので、彼女の勝手な思い込みであるのだが。
それより敬愛するナサリリスを攻撃したことが許せなかったようで、ぷりぷりと怒っている。そんな顔も可愛いと思いつつ、ナサリリスは、やんわり諌める。
「いくら尊き女性とはいえ、蛆虫の中で育つと臭いが移るものよ。寛容の心が必要だわ」
「でも、お姉様!!」
「あなたの私を想う心は嬉しいの。でも、その愛を、どうか少しでも他の女性に与えてあげてくれないかしら。愛は、等しく与えられるべきものではなくて? 私たちが目指す世界は、すべての人が愛し合える素晴らしい世界なのよ」
「お、お姉様…わ、わたし、感動です!!」
公衆の面前でイカれた発言をしたとは思えないほど、慈愛に満ちた言葉である。その愛ある言葉に、クマーリアは感動を隠せない。しかし、その愛はあくまで女性にのみ向けられるものである。
「あのMG、男の臭いがします!」
「そうね。それが原因かしら。この世のすべてのMGは、タオが造ったものでなければならないわ。なら、まずは汚い服から剥ぎ取ってあげましょう」
リヴァイアードは、ニードルガンを発射。
鋭い針状の弾丸が六発、ブリキ壱式に襲いかかる。
(この体勢では!)
至近距離で放たれた弾丸に、アミカは青ざめる。銃の最大の利点は、力を入れなくてよいこと。刀のように振るという動作が必要ないことだ。どの体勢で撃っても威力は同じなのだ。
現在の壱式は、攻撃をかわされた直後であり、しかも死角に回りこまれている絶望的な状況。相手は完全にこちらを捕捉している。この状態で外せというほうが無理である。
(諦めたら、そこで終わりだ! 学んだはずだろう!」
アミカはダメージを覚悟しつつも回避運動をとり、力一杯跳躍する。もう間に合わない。アミカ自身もそう思っていた。それでも、バイパーネッドとの戦いから学んだのだ。最後の最後まで諦めない。その気迫こそ、勝負を分ける重要な要素であると。
だから必死にジャンプした。
それゆえかわからないが―――
―――機体は、彼女の予想を超える
アミカの強い意思を受けたブリキ壱式は、力強くしなやかな動きでニードルガンをかわすと、非常に狭いビルの屋上の隅に着地する。その際にもまったく機体は揺れず、振り回されることもなかった。
「こ、これは…!? そ、損傷は!! ―――ないのか!?」
アミカは無傷であったことに驚愕。念のためにチェックしてみたが、損傷はなかった。
「へえ、素敵ね」
その動きには、ナサリリスも感嘆。かわせる間合いではなかった一撃を、見事にかわしたアミカに興味をそそられる。しかも、周囲に展開している粒子がふわりとゆらめき、まるで羽衣のように見えたので、その優雅な動きにうっとりと表情を緩めまでしている。
多少手加減したとはいえ、ナサリリスの攻撃は甘くない。生身同士の戦いだったならば、今の攻撃で確実に致命傷を負っていた。壱式の性能が、少しずつ目覚めてきたのだ。今回はそれに救われた。
「いいわ、あなたのこと、欲しくなってきたわ。私の世界に加える最初の女性にしてあげる」
「お姉様、最初は私です!」
「ああ、そうね。ごめんなさい! 二人目の女性ね! いつも言葉足らずでごめんなさいね、クマーリア」
「いえ、いいのです。お姉様はお優しくてお美しいから、私が独占するなんて畏れ多いこと」
「何を言うの、クマーリア! 私はあなただけのもの!! さあ、遠慮しないで! もっと奪って!!」
「ああ、お姉様!! やっぱり私だけのお姉様でいて!!」
「もちろん、もちろんよ!!」
この瞬間、アミカには百合の花びらが舞う光景が見えたそうな。
それは錯覚だったとは言いきれない。
ダマスカス軍の男たちも、その光景を見たからである。
何はともあれ―――
バーン序列五十三位、ナサリリス組
女尊の世界を強烈に思い描く、恐るべき相手である。
ビシュナットとルヴァナットは、二人で一つの存在。それゆえに複座式のリヴァイアードも、見事に操ることができる。その彼らは現在、二人でアピュラトリスの南西部分でルシア軍と戦っている。
であれば、南東でダマスカス軍と戦っているリヴァイアードに乗っているのは、いったい誰なのか。そのリヴァイアードも当然、二人乗りとして設計されているはずである。
南東のリヴァイアードは、ナット兄弟が乗っている真っ黒なカラーリングと違い、ラーバーンの機体としては珍しく【白】を基調とした色合いになっていた。
ラーバーンが服や機体の色を黒にするのは、死者に対する【喪】であるからだ。数多くの人間を焼く必要がある改革において、犠牲は付き物。たとえ人間の霊が不滅とはいえ、その痛みは簡単に消えるものではない。
その咎を引き受ける覚悟がある者だけがラーバーンの一員となり、喪に服する資格を得るのである。自らも痛みを受けることを受け入れ、それでもなお闘える者だけが漆黒を身につけるのだ。
しかし、この喪は強要されるものではない。バーンとはいえ、誰もが怒りだけで動いているわけではない。その根幹に宿された怒りはあれど、その先にある未来に想いを馳せるがゆえに闘う者たちもいる。
【彼女たち】は、機体の色を選ぶ時に、迷わず白を選んだ。
白は黒とは反対の存在。神聖さや純潔、清純さを示す色である。それらは、めでたい席や結婚式でよく見られる色だ。そう、だからこそ彼女たちは白を選んだのだ。
なぜならば、この戦いは【祝福】以外の何物でもないからである。
「お姉様、あいつら何かやってきますよ?」
白いリヴァイアード・リリスに乗っている褐色黒髪の少女が、周囲に展開しているリフレクターからの情報を受け、ダマスカス軍の動きを感知する。
褐色の少女の名は、クマーリア。
二十四歳、女性。
少し短めの髪の毛は、ぱっと見ればボサボサで、手入れがされていないように見えるが、これは単純に癖毛。生まれもってのものなので、どんなパーマをかけてもすぐに戻る仕様である。
黒い半袖のシャツから覗く褐色の肌は健康的で、服の中にも痣なく広がっているために、彼女の地の色であることがうかがえる。加えて瞳も漆黒なので、まるで全身が太陽の下で育ったように黒い印象を受ける。
小柄で愛嬌のある顔は、まるでぬいぐるみか、お人形のように愛らしい。まさにマスコットのような女の子である。
「クマーリア、あまり見ると目を壊すわ。醜いものは、極力見てはいけないの」
声の主は、リヴァイアード・リリスに乗る、クマーリアに【お姉様】と呼ばれたもう一人の女性のもの。
ナサリリス。三十歳、女性。
艶やかな長いアイスブルーの髪は柔らかくも、まるで氷の彫像かのように、見る者に冷たい印象を与える。ブルーの瞳に宿された強い嫌悪の色も、そうした印象を助長させているようだ。
肌は、病的なまでに真っ白。百合が描かれた純白の戦闘用スーツよりも白く、漂白したような印象さえ受けるほどに白い。目鼻立ちはよく整っており、すべてが流れるようにすらっとしている。こうした欠点らしい欠点が何一つない様子は、まさに美人と呼ぶに相応しい。
正直、恐るべき美貌である。
あまりに完成された美しさに、男性は性的欲求を感じる隙すらないかもしれない。まるで彫像。生気を感じさせない女性。おおよそ生きているとは思えないほどに、すべてが冷たく静止した雰囲気をまとっている存在である。
しかし、スーツに抑えられてもなお豊かな胸は、動くたびに激しい自己主張を繰り返しており、彼女が作り物ではない立派な生命であることを、机を叩いて大声で叫びながら主張していた。
両者は、まるで正反対。南国で太陽をふんだんに浴びて育ったような全身真っ黒なクマーリアと、一度も外に出たことがないように真っ白なナサリリス。
当然、両者は姉妹ではない。別の国で育った人間同士であるが、何よりも【強い絆】で結ばれていた。
「でもお姉様、リフレクターを見ないと相手の位置が…」
「駄目よ。駄目。それでも駄目よ。あなたの目が潰れてしまったら、私は哀しみに打ちのめされてしまうわ。あなたの目は、私の目。あなたの心は、私の心ですもの」
「お姉様、なんてお優しいお言葉!!」
もしクマーリアが目の前にいたら、ナサリリスは力の限り抱きしめ、その愛らしい黒髪を撫で続けていたことだろう。クマーリアの癖毛は独特がゆえに、撫でると手に不思議な余韻が残るので、ナサリリスは何度でも撫でたくなるのである。
ただ、リヴァイアードのコックピットは複座なれど、残念ながらそれなりに離れている構造である。ナサリリスは抱きしめるふりをするしかないが、そのせいでリヴァイアードの腕も、不自然にわきわき動くことになる。
「ああ、タオも残酷なことをするものね。どうして一緒じゃないのかしら」
ナサリリスは、リヴァイアードの開発中に複座について意見を申した。それはもう、恐るべき回数の意見書を出した。しかし、タオには「構造上、無理なんだなー」の一言で片付けられていたのだ。
タオの唯一まともな点は、MGに関することである。奇抜であっても基本は忘れない。できないものはできない。無理なものは無理とわきまえているところだ。なので、あっけなくリヴァイアードも離れた複座にされている。
「タオったら、可愛い顔をしてなんて強情な子。でも、そんなところも…」
「お姉様、違う女のことを考えているなんて、ひどいですぅ!」
「ああ、違うのよ!! これはちょっとした過ち! 心の揺らぎ! そう、ちょっとした、ア・ヤ・マ・チなのよ!」
「うわぁあーん、お姉様のばかぁあああ!」
クマーリアの叫びとともに、リヴァイアードの手から戦弾が発射される。放出された戦気が誤作動して起こった事故だが、戦弾は準備中のダマスカス軍にも及び、一時は「先手を取られたか!?」と騒ぎになったほどである。まさか彼らも、原因が痴話喧嘩とは思うまい。
「クマーリア、あなたほどの可愛い子は、この世にいないわ。ああ、私の可愛い子…!」
「本当ですか、お姉様!?」
「ああ、見て。私だけを見て。私もあなたしか見ないから。その漆黒の目で私を見て!」
「お姉様…、はい、見ます! ああ、お姉様の美しい深い空色の瞳が、私を包んで…あああ! このままじゃ、また! また私!」
「いいのよ! もっと私を感じて! そして、何度でも羽ばたいて! いって、いって、イクのよ!!」
「ああ、お姉様ぁあああああ!」
……………………
……………………………………
お互い、通信越しの映像でこの状態である。
これは今に限ったことではない。最初からこうなのだ。
ナサリリスがクマーリアとラーバーンに来た時、あまりの美貌に誰もが一瞬動きを止めた。ここに来る者は色恋など求めておらず、そもそも生体エネルギーである戦気を燃やす武人は、性欲を制御できる者も多い。それだけエネルギーを戦いで使い果たすからである。
どんなに性欲が強い人間でも、全力を尽くして活動すれば、「そんな気が起きない」ものである。ただただ休みたくなり、泥のように眠るわけである。
もちろん、エネルギーを発散しなければ、そういった欲求も抱くわけだが、ラーバーンの武人はそこまで暇ではない。任務がないときも日々鍛錬で忙しく、毎日死にそうになるほど戦っているのである。
だからこその異常事態。
そんな彼らでさえ惹きつけてしまう美貌が、おかしいのである。その美しさは、男性という種に対して作用する毒薬かのように、見る者を氷漬けにしていく。
しかしながら、ナサリリスはもっと違う意味で、彼らを氷漬けにすることになった。
そう、見ての通りの【同性愛者】である。
クマーリアとのやり取りは、演技でもなんでもない。単純に恋人同士がイチャついているだけである。それだけならばまだしも、ナサリリスにはもう一つの大きな欠点が存在している。
「それに比べて、なんて醜いのかしら。あの蛆虫どもは」
ナサリリスの目に、圧倒的な侮蔑の光が宿る。
軽蔑、嫌悪、憎悪、嘲り。まるで台所でゴキブリと遭遇してしまった時に見せる視線。か弱な女性ならば、恐れおののくところであるが、ナサリリスはそのような女ではない。自ら率先して殺しにかかる性格である。
そんな彼女が宿す光は【殺意】。
ナサリリスは、男性に対して激しい殺意を持っていた。加えて彼女には、バーンになるだけの力量があり、人を焼くことにもためらいはない。これがどういう意味を持つかわかるだろうか。
なんとナサリリスは、ラーバーンの男性陣を排除しようと動いたのである。
きっかけは、恋人のクマーリアの一言。「男にいやらしい目で見られた」である。たったそれだけで行動に移るなど、実に恐るべき女性である。
実際は、新しく入ったクマーリアに対し、バーン序列三十五位のマルカイオが「あん? 新入りか? なめられるわけにはいかねえな!」くらいの気持ちでガンを飛ばし、それにクマーリアが怯えただけなのだが(マルカイオはチンピラ顔)、その後が最悪であった。
恋人を辱められ、激高したナサリリスが、ガチでマルカイオを殺しに来たので、ランバーロが一時戦場と化したのだ。ランバーロは巨大戦艦に改造されているため、小都市にも等しいスペースがある。存分に暴れられるとはいえ、そこが戦場になれば大惨事である。
ちなみにマルカイオであるが、身長は百九十センチくらいの長身なのだが、基本ポケットに手をつっこみ、背を丸ませながら肩を揺らして歩く癖がある。
茶髪ロン毛に加え、大きく開けた黒いシャツの胸元には金の鎖をちゃらちゃら垂らすという、まさにステレオタイプのチンピラを彷彿させる容貌である。当然、目つきも悪い。常にガンを飛ばす。
思考回路や言動もチンピラなので、受け答えは「あ?」を連呼する。「あ?(了解)」「あ?(それ何だ?)」「あ?(飯はまだか)」といったように、彼にとって「あ?」は、まさに多様な意味を含んだ便利な言語なのである。
が、そんなことを知る由もないクマーリアは、「目と言葉で犯された」とナサリリスに陳情。それによって、この戦争は勃発したのである。
「蛆虫が!! お前を殺す! 切り刻む!!」
「新入りがぁあ!! 上等だ!! どっちが上か、思い知らせてやんよぉお!!」
まさに上か下かのチンピラ的発想で、マルカイオも反撃を開始。
マルカイオの序列は、三十五位。バーンの中でも五十位以下の下位バーンを圧倒する、中位バーンの力量を持っている。口も態度も悪いが、実力を伴った男なのは間違いない。
彼の戦闘力は、オロクカカを凌駕する。剣技は我流だが、それなりに本気を出したホウサンオー相手に、模擬戦ならば数分はもちこたえられるといえば、彼の実力がわかるというものだろう。
もし彼がホウサンオーの代わりに雪騎将二人と戦っても、かなり時間はかかるが勝利できただろう実力者である。
が、理由もわからずいきなり攻撃された側と、準備と覚悟をもって攻撃する側の違いは明白であった。ナサリリスは氷のような冷徹な攻撃を、彼の【玉】に集中してきたのである。
これにマルカイオは戦慄。
(こいつ、マジで玉をとりにきやがった!!)
この恐怖は、男ならば誰しも理解できるものであろう。ナイフを取り出して威圧したチンピラに対し、相手はガチで玉を狙ってくる鉄砲玉。こうなったら序列の上下など無意味である。マルカイオも逃げるしかない。
数十分後、血塗れになったマルカイオが、司令室に逃げ込んできたところで事態が発覚。大騒動に発展する。
「ゼッカー、おい! あいつ、やべええよ!! た、玉…、玉とりにきやがった!! お前も男なら、わかるだろう!? た、助けろ! いや、助けてくれ!!」
このようにマルカイオが泣きつき、ゼッカーの仲介によって場はなんとか収まるも、この「マルカイオ、フルボッコ玉狩り未遂事件」をきっかけに、ナサリリスが反男性同盟を発足。
日頃デリカシーのない男どもに不満を抱いていた女性陣が賛同し、ラーバーン創設半年で、最初の壊滅の危機を迎えることになる。
※タオとルイセ・コノは作業に没頭していたので、事件そのものを知らない。バーン序列十五位のシルキュラは、ゼッカーの護衛のため参加していない(最初から、そのつもりもない)。その他、何人かの女性も不参加。
その後の詳細は痛ましくて伏せるが、何人かのチンピラバーンが多大な被害(フルボッコ)を受けたことと、ナサリリスの性癖に女性陣がついていけず、最終的には同盟は二週間で解散している。
しかし、この時にマルカイオが放った言葉は、今でもラーバーン内部では語り継がれている。
「どうしてここには、残念な女しかいないんだ!!」
タオは美人である。が、頭がおかしい。
ルイセ・コノは可愛い。が、頭がおかしい。
ナサリリスは絶世の美女である。が、頭もおかしい。
この事件のあと、何人かの男性は極度の女性不信に陥り、癒しを求めて、なぜかメラキ序列二位のレイアースのもとに通うことになる。
一応、齢三百歳を超えるらしいが、とりあえず彼女の見た目は幼女である。しかも、慈母の如く慈悲深い性格で、あらゆる生命に愛情を注ぐような女性である。彼らが救いを求めるのも当然かもしれない。
結果として違う性癖(幼女、母親、姉好き属性)が目覚めそうな彼らであったが、ひとまず事態は収拾したのである。
ちなみに、もう一つ逸話がある。
最初のマルカイオ襲撃の際、ナサリリスはガガーランドにも危害を加えていた。ホウサンオーとの模擬戦の帰り、たまたま通路を歩いていたところ、逃げ惑うマルカイオの盾にされて、ナサリリスに左目を抉られている。
ナサリリスは何も気にせずにマルカイオを追ったが、目を抉られたガガーランドは、こう言って大声で笑ったという。
「このかすかな痛み…。見事だ。お前に凍眼鬼の名を与えよう! ここも少しは面白い場所になってきたではないか!! 愉快、愉快だ!!」
これは抉った場所がナサリリスの凍気で凍結したことで、傷の修復に少し時間がかかったことに由来する名であるが、ガガーランドがそのような振る舞いをすることは珍しい。かすかとはいえ痛みを感じて、よほど機嫌が良かったらしい。目を抉られて喜ぶ男も問題であるが。
この事件は、バーンにも戦慄を与える。上位バーンであるガガーランドに手傷を負わせるなど、中位バーンの実力でも簡単にはできない。しかも目を抉るなどと…。それだけ彼女の気迫が、異常であったことがうかがえるエピソードである。
今、ダマスカスが対峙しているのは、こういった【アブナイ相手】なのである。そして、目の前には軍隊で汗まみれになっている男(うじむし)ども。ナサリリスの殺意は、急激に膨れ上がっていた。
ただし、クマーリアの見立て通り、ダマスカス軍の動きは今までと違っていた。南西のルシア軍がやっているように、足場を破壊しようと新しい作戦が開始されたのである。
リュウもまた、ハブシェンメッツの案(アルザリ・ナム案)同様に、相手が何かしらの土台を使っていると考えていた。ただし、彼の場合はとてもシンプルである。
「馬鹿野郎。機体が簡単に浮くわけないだろう」
という、至極当然の考えによって導き出されたものである。MG開発に携わっていると、機体を空に浮かせることが、いかに難しいかを思い知る。
ミサイルがある以上、機体そのものを飛ばすことはそう難しくない。戦気も利用すれば、機体をミサイルのように飛ばすことはできる。だが、やはりそれが精一杯である。だいたい地表二百メートルくらいいくと揚力を失い、あとは落下するだけとなるのだ。
それを知るリュウは、相手が足場を作っていることをすぐに見破った。それしか方法がないからである。が、見破ったからといって、相手が強力な敵であることには変わりない。そのためすぐには動けず、バクナイアとイルビリコフの交渉を待たねばならなかった。
話はまとまり、両国がそれぞれ別個に対応すると決まった。
それまではいい。
(ったく、受身すぎるんだよな)
そうリュウがぼやくのも無理はない。交渉の結果、結局ルシア側に、ミサイルランチャー、ML-S8を奪われてしまったのだ。
そこはさすが青空位のイルビリコフ。穏やかな口調であれこれ難癖つけながら、ものの数分の交渉で使用権を奪ってしまった。それは即座にハブシェンメッツに渡され、土台破壊に使用されることになる。
バクナイアもやり手の政治家であるが、彼は戦略家であっても戦術家ではない。大まかな道筋を示すことは得意であっても、細かいやり取りは官僚たちの専門である。文官の彼らを戦場近くの基地内に呼ぶことは難しく、やり手のイルビリコフに対抗することはできなかった。
とはいえ最初の交渉で、一度ルシアに任せた指揮権を一部ながらも強引にもぎ取るあたり、バクナイアの手腕も相当なものである。ルシア側がかなり街に被害を出していることを口実に、南東エリアの指揮権を取り戻したのである。
その後のことを考えるのは、リュウの仕事である。さきほど見せた悪知恵をカーシェルに買われ、作戦立案を任せられているわけだ。彼は今、どうやって足場を破壊しようか迷っていた。
(ドライカップは、ほとんど使っちまったし…どうすっか)
土台破壊にはML-S8が一番適切であるものの、ないものは仕方ない。単純な砲撃でも崩せなくはないが、当然相手の反撃があるので、MG部隊を前面に出すわけにはいかない。また、いきなり砲台を出しても潰されるかもしれない。
となれば、リュウが思いつく方法は一つである。
「お姉様、何か来ます!」
リヴァイアードのリフレクターが、アピュラトリスに向かってくる存在を感知。距離があるので詳細な形状はわからないが、移動しているのは間違いない。この大きさで動くとなれば、車かMGかである。
「穢らわしい!!」
リヴァイアードは、ニードルガンを発射。ナット兄弟のリヴァイアードには、ビームガトリングガンが装備されているが、リリス型にはニードルガンが装備されている。
これは圧縮弾倉から抽出した素材を、螺旋状の針に加工して撃ち出す武器である。通常の弾丸は炸薬を使うが、ニードルガンは風圧によって撃ち出す。これも風のジュエルを大量に使うので、なかなか贅沢な武装である。
ニードルガンの特徴は、その貫通力である。弾丸よりも長く細いニードルは、相手を串刺しにすることに長けている。刺さったあとも身体や機体に残ることが多いので、倒しきれなくても相手の行動を阻害することができる。風のジュエルを使うことも意味があり、これによって弾丸より長距離の攻撃が可能となる優れものである。
そのナサリリスのニードルガンが、向かってきた何かを一瞬で串刺しにする。
そして、爆発。
穿たれたものが爆発し、激しい爆風で周囲の煙を吹き飛ばす。
「これは…爆弾? 車に載せたの?」
クマーリアは、リフレクターからの情報を収集して、それが爆弾であることを確認する。
リュウお得意の【トラック爆弾】である。
ミサイルが手元にない以上、使えそうなものは砲台か爆弾である。が、最初に砲台を出せば潰されるのは間違いないので、一番困らない方法を考えると、安易なトラック爆弾という結論に達する。
「なんだか、こっちがテロリストみたいな気分だが、やっぱり使えるよな」
車に爆弾を仕掛けるのはテロリストの十八番だが、手軽で安易がゆえに使わない手はないだろう。当然、車両は自動運転にしてあるので、人的被害もない。リュウは効果に納得顔である。
しかし改めて見ると、両者ともに南西側とは違って大味な対応である。ナサリリスは「汚い」という理由であっさりと迎撃するし、リュウもトラック爆弾を攻撃されても「まあ、そうだよな」くらいにしか思っていない。非常に雑な戦場ともいえる。
べつにそれが悪いわけではない。心理戦とは、相手がそれに相応しいだけの【普通の精神構造】をしていることが条件である。そもそも心理などを気にしない人間に対しては、それ自体に意味がないのである。
ナサリリスもリュウも、あまり細かいことを気にしない。お互いに直情的な性格なのである。このような読み合いではなく、単純な感情同士の戦いの場合、物を言うのが【勢い】である。
「砲台とトラックを同時に出してくれ! 相手を引きずり出す!!」
リュウの指示(を受けたバクナイアの指示)で、ダマスカスは物量作戦に出る。基地の砲台で牽制しつつ、大量のトラック爆弾を展開。
「なんて見苦しい姿!!! 背筋が凍るわ!!」
ナサリリスは絶叫。その姿は、わらわらと向かってくる蛆虫の群れ。大量の蛆虫が這い寄るさまは、おぞましいの一言である。
「潰すのよ!! あんなものを近づけてはいけない!」
「わかりました!」
ナサリリスはトラックを次々と潰していくものの、その量が増えるごとに間に合わなくなっていく。次々と出現するトラックに際限はなく、近場の工業地帯から何百台も持ってきたのではないかと思えるほどである。
「なんてしつこいの!?」
あまりの粘着質に、ナサリリスも舌を巻く。こうなったときのリュウをなめてはいけない。粘り強く、何度でも執拗に嫌がることをやってのけるのが彼なのである。
人間の構造を知れば関節の可動域を知るように、MGの構造をよく知るということは、限界を知ることができるということ。さまざまな角度から大量のトラックを出立させたリュウの作戦は、実にいやらしかったのだ。
リュウは、相手がリフレクターを使っていることは知らなかったが、そもそもMG一機ならば、おのずと限界が生まれるものである。自動運転にいくつかのフェイントやフェイクを仕込むことで、相手のタイミングをずらしながら、少しずつ押し込んでいく作戦をとった。
ナサリリスがいかに優れた射手であれ、ダマスカス軍からの弾幕もある中、トラックだけを射抜くのは至難の業である。徐々に押されていく。
そして、拮抗してから五分後、リュウが奇襲として、違う入り口から出したトラック爆弾が凝固材を直撃。それを目標にトラックが殺到し、ついには足場が崩壊。
リヴァイアードは、ついに大地に引きずりだされることになった。
蛆虫だらけの醜くおぞましい地上へ。
リヴァイアードは、徐々に低い足場に移りながらも、やはりビルの上に着地。とりあえず高い場所に乗るのはスナイパーの習性なのだろうか。しかし、そこはまさに彼女たちにとっては地獄であった。
「「いやああああああああああああああ!」」
ナサリリスとクマーリアの絶叫が、戦場にこだまする。
「お姉様、ここ臭いです!」
「男の臭い!! なんて不潔で不愉快な油の臭い!!」
「うう、呼吸が…! 息ができません!」
「クマーリア!! ああ、その可愛い口を今すぐ塞いでしまいたい! 私の吐息で、すべてを満たしてあげたいのに! ここは、なんて恐ろしい空気なの!? 死ぬ、このままでは二人とも死ぬわ!!」
周囲に満ちた男の臭いが、二人に襲いかかる。リヴァイアードは機密性に優れているので外の臭いは感じないはずだが、ここまで病状が進むと、もう雰囲気だけで駄目らしい。
そして、ついには激怒。
「もう許さない!! どうなっても知るものか!!」
ナサリリスがあまりの男の気配に我を失い、暴走モードに入る。そして、ビシュナット同様、一般回線で宣言する。
「醜き男ども、よくお聴きなさい!! 今から私たちは、お前たちを【絶滅】させるわ!!」
この宣言を聴いた中には、頭に「?」を浮かべ、何度か聴き直した者も多かったとか。
―――絶滅させる
そう、ここが注目ポイントである。
男どもを排除する、でもなく、復讐する、でもなく、「絶滅させる」である。絶滅、それは文字通りの言葉である。
「私はここに、女性の楽園の創造を宣言します!!! すべての女性よ、私とともに世界に反旗を翻すのです!!」
「そうなのです!! 私とお姉様が中心となって、この世界の歪な構造を変えるのです!!」
「女だけの世界を!!」
「女が優れている世界を!!」
―――「「【女尊の世界】を創りましょう!!」」
ついには二人の声は重なり合い、見事なハーモニーを生み出す。その声にはいっさいの不純物もなく、まさに美しいソプラノの高い高い世界。志も高ければ、ちょっと考えていることもぶっ飛んで高すぎる世界が降臨する。
「ただ、私たちも鬼ではありません。女性に憧れるものは生きることを許しましょう」
おそらくまた「?」を浮かべた者も多いだろうが、これを要約すると―――
―――「玉、とってやんで!!」
となる。
古来より、高貴な女性に仕える男性たちは、去勢をする習慣がある。万一の過ちが起きないようにであるが、これと同じように彼女たちの世界にも、男が唯一生きる道があるわけだ。
「玉を献上せよ。玉を献上せよ。玉を献上せよ!!!」
この瞬間、マルカイオは震えた。
ヨハンの一件でランバーロで入院中のマルカイオが、この宣言を聞いているわけもないが、彼はたしかに背筋が凍った思いをしたのである。相当な修羅場を経験したバーンである彼でさえ、その宣言には恐怖を覚えたのだ。
「やつらは何も変わっちゃいねえ。古い慣習に縛られた悪魔どもだ!!」
ゼッカーがカーリスに言いそうな内容の台詞であるが、マルカイオの切実たる思いが凝縮された言葉である。ナサリリスは、女性同盟を諦めたわけではなかったのだ。より巨大で、より恐ろしい形で継続しようとしている。
若干ラーバーンとは無関係なところで。
当然この宣言は、リアルタイムでゼッカーたちも聞いていた。この瞬間は、いかに冷静なマレンとて思わず股間を押さえたという。その他の男性陣も脂汗を浮かべたことだろう。
ただ、それに関してはゼッカーから何の発言もなかったため、主宰が黙認しているのだから、その僕であるメラキやバーンが口を出すことではないということで、特に問題にされることはなかったという。
唯一ザンビエルだけが「対応を誤ると世界が滅びかねない」と呟いていたのが若干気になるが。
「ダマスカスの女性よ、今が立ち上がる時!! 男などに支配される時代は終わったのです!」
「お姉様の言う通りです!! これからは女性の時代なのです!」
誰も止めないのをいいことに、二人は過熱する一方である。ここぞとばかりに、ダマスカスの女性に向けて決起を促す。
といっても、市民は避難するので必死であるし、一般回線とはいえ、受信設定をしていなければ聴こえないので、聴いているのは周囲の人間が大半である。
「あいつら、さっきから何を言ってやがる?」
ショウゴ・伊達は、予想していなかった事態に呆然として、タバコをふかすしかなかった。それは他の兵士も同じで、相手を引きずり出して浮かれているダマスカス軍を、一瞬で沈黙に陥れていた。
「伊達さん、どうします、あれ?」
「思った以上にヤバイ団体かもしれん。あまり関わらないほうがいいかもな…」
ダマスカスにも似たような圧力団体があり、女性に対する社会問題が発覚すると、猛烈な勢いで国会に押しかける困った人たちがいる。
彼女たちの頭には常に「男性に抑圧されている女性」の図があるようで、まるで獣のように猛々しく衛兵に襲いかかるのである。彼女たちにとってすれば、女性のために振るう暴力は正当化されるらしいので、かなり過激なこともやってのける。
二年前、公務員による女性へのセクハラ問題が発覚した際などは、リュウがやったようにトラックに爆弾を搭載し、門に突撃。その後、小銃を使って威圧するなど、この平和なダマスカスでテロか、と騒がれたほどの大きな事件に発展したものである。
この時は、愛妻家で有名なバクナイアが作った「公僕による愛妻家の会」の説得で穏便に事を済ませたが、女性の血走った目を見たバクナイアは、しばらく寝込んだくらいである。何日かは「妻が襲ってくる」とうわ言を繰り返して悪夢に苛まれたそうな。
それだけ女性は恐ろしいのである。
そのパワーは、男性の比ではない。
まさに世界創造の力を秘めた強力なものなのだ!!
「ゼッカーは言ったわ。この先の世界を生み出すのは、女性だと。女が世界を導くべきだと。だから私は、バーンになったのよ!!」
「お姉様、私もしっかり聞きました!! 録音もしました!」
「ゼッカーは男だけど、その点だけは評価できるわ。それだけの力がある。それだけの器がある。私に力をくれたものね!!」
かろうじてゼッカーは、彼女たちの標的から外れているようである。単純に周りの男ほど臭くないというのもあるが、契約を交わした相手には一応敬意を払ってくれるらしいので、ゼッカーの余裕はそこからくるのかもしれない。
それとホウサンオーのような翁や、ガガーランドやケマラミアのような人外は放置の対象らしい。そこは彼女たちなりの妥協点だとか。それも当然か。彼女たちの目的は破壊ではなく、その後に来る【創造の世界】なのだから。
「お前ら、いったい何を言っているのだ!!」
そこに登場したのは、強化外装を外したブリキ壱式に乗る、アミカ・カササギである。
基礎フレーム状態のブリキ壱式は、まさに鎧を脱いだ武者である。屈強な武士という印象は大きく薄れ、腕や足も細くなっているので、少し弱々しい印象を受けるかもしれない。
しかし、ブリキ壱式は不思議なことに、古来ダマスカスの和服である直垂を着たように、ふわりふわりと浮いた光の粒子をまとっていた。それが見事に連なって服のように見えるのである。
「おい、アミカ。なんだそれ?」
伊達が、ブリキ壱式のあまりの変わりように思わずツッコむ。外装を外したところまでは見たが、その時にはこんなものはなかった。
(むう、どいつもこいつも呼び捨てにするな。ふん、もう好きにしろ)
すでにどうでもよくなったアミカは、呼び捨てにされても気にしないことにした。男とはこういうものだと、よく知っているからだ。リュウが言うように「ちゃん」付けされるよりはましである。
「起動させたら勝手に出てきたのだ。故障ではないと…思う」
最初はアミカも、まさか壊れているのではと驚いた。が、とりあえず動くようなので問題ないと思っているのだが。
「気にするな。そいつは強化外装との接着に使っている粒子だ」
そこにリュウが回線に割り込む。これは説明にあったように、強化外装と基礎フレームの隙間を埋めて、両者を結合させるための粒子である。今は外装がないため、周囲に漂っている状態なのだ。
「問題ないのか?」
「たぶんな」
「お前は整備士であろう!? たぶん、とはなんだ!」
「うるせーな。わからないことがあるから試作機なんだよ!! ごたごた言わずに、とりあえず試してみろ!」
「なんていい加減なやつだ!!」
さきほどのやり取りの通り、アミカはリュウのことが嫌いであった。実にいい加減で雑なのが気に入らないのである。リュウも細かいことは嫌いなので、両者の相性はあまり良くないのは明白である。
「あら、この匂い。お姉様、お気づきになって?」
「ええ、クマーリア。匂う、匂う、匂うわ。腐ったチーズの中に、香しい本物が交ざっているわね」
ナサリリスたちは、戦場に漂う汗臭い男臭の中にあって、それとは違う匂いを放つ存在、女性であるアミカを的確に嗅ぎ分ける。
アミカは専用回線を使用しているので、会話は周囲に漏れていない。それにもかかわらず嗅ぎ分けるとは、実に恐るべき能力である。震えるほどに。
「そこのあなた!! 女性なのでしょう!? ならば、私たちに賛同なさいな!」
「そうです! そこのお姉様も、ともに花園を作りましょう!」
さりげなくクマーリアの特殊能力が発動。相手が年上であるかを一瞬で見極める能力である。それに意味があるかは別として、絶対命中の特殊な技能である。
「………」
「さあ、さあ!」
「………」
「おい、あんたのことだぞ。たぶん」
「え? え? 私!?」
アミカはしばらく傍観していたが、伊達に指摘されて自分のことであると、ようやく気がついた。しかし、状況はまるで呑み込めていないようである。
「何のことだか、わからないのだが…」
「私にはわかるのよ。あなたは、男を嫌っている!!」
「えっ!?」
「いいの。わかるのよ。あなたも同じなのね。男なんかに騙されて、こんなにボロボロになるまで利用されるなんて…かわいそうに!!」
ぶわっとナサリリスの美しい顔が崩れ、とめどなく涙が溢れ出る。それを拭うことなく、大量の涙を流しながら彼女はアミカに同情する。「いいから」「わかっているから」を連呼するので、話がまったく見えてこない。
(これは…どういう状況なのだ?)
ブリキの調整に時間のすべてを注いでいたアミカは、彼女たちのイカれた発言をよく聞いていなかった。ようやくパージして出た頃には、戦場が謎の空気に包まれていたのだ。
唯一わかるのは、敵が女性だということ。
まさか女性が乗っているとは思わなかったので、アミカも相当に動揺しているらしい。さきほどから挙動不審である。
「あー、あいつの相手は新型がやる。ハイカラン部隊は、逃がさないように周囲を固めるだけでいい」
そんなアミカを見放すように、リュウが部隊に通達を出す。これは当初から決まっていた段取りである。
が、アミカはぎょっとする。
「待て、待て待て待て!! 何か変だ!! おかしい!」
「何を言っている。もともと変な相手だろうが」
「あれは違う! 今までと違う! さっきのと違う!」
アミカは、バイパーネッドに負けたことは悔しかったが、改めて考えてみれば相手の気迫は相当なものであった。その気質は、まさにサムライのもの。自分が死んでも相手を倒すという決死の覚悟。そこにはアミカも、感じ入るものがあったのだ。
悔しい。だが、相手のほうが上手だった。
だからこそリベンジを誓ったのであるが、目の前にいる敵からは、そうした気迫を感じない。むしろなんというか、まとわりつく何か、執念や妄執のようなものを強く感じる。
一目見た瞬間から、「あれはヤバイ」という感じがしてならない。当然、それはアミカだけではなく、関わっている全員が思ったことであるが。
「ブラックワンよりは、ましだろう。なんとかがんばれ。死んでも倒せ。いいな」
「あっ、待て!!」
アミカの抗議もむなしく、リュウが回線を打ち切る。同時に伊達のハイカラン部隊も、まるで関わりたくないという意思表示のように、距離を取っていった。
「おい、伊達!! 置いていくな!!」
「そんなこと言われても、命令だしな」
「伊達! 伊達大尉殿! 頼む! 武士の情けだ!!」
「俺、あんたらと違って武士じゃないからさ。命令に絶対服従の軍人なのよね。なんつーか、公僕の悲しい性ってやつだよ。それじゃ」
「ああ、待って! 待って! お願いだ!!」
アミカの懇願など、めったに見られるものではない。それだけ切羽詰っていたのだろう。しかし、どんなに泣き叫んでも現実は変わらないのだ。
「男に懇願するなど、女としてあってはならぬこと。もうおやめなさい」
「そうです。男など、踏んづけるくらいでちょうどよいのです!」
男に懇願するアミカを、女性の弱い部分の発露だと思ったナサリリスたちが諭す。
「あなたも感じているでしょう。男たちの傲慢を! あの蛆虫どもは、今まで女性を搾取することしか考えてこなかった。なんておぞましい存在!! 呼吸することも許しがたい!! 切るのです! 遠慮なく切り取りなさいな!」
「ああ、その…、いや、そこまでは…」
「さあ、さあ!! さあ!!」
何が「さあ」なのかわからないが、リヴァイアードはビルの上から手をわきわきさせて叫んでいる。
アミカも男性に対して対抗心は湧くが、そこまで嫌悪しているわけではない。むしろ、男性的な側面に憧れているのかもしれない。男に打ち勝つ腕力を持つ紅虎や、男性より強いシャーロンを見ると興奮するのは、それすなわち男への憧れであるのだ。
しかし、ナサリリスは、完全に男を敵視している。それだけにとどまらず、下等な生物として見下している。そこに激しい違和感を覚えるのである。彼女と対しているだけで、女性であるアミカにも悪寒が走るほどに。
「訳がわからん!! 私は勝たねばならないのだ!!」
このような茶番に付き合ってはいられない。せっかく一騎討ちのチャンスが舞い込んだのだ。ここで相手を仕留めなければならない。今の壱式は防御力が相当低下している。相手から攻撃してこない今こそ、最大のチャンスであった。
ブリキ壱式は、先手を取るために標的に向かってダッシュ。
(軽い)
アミカは、今までの機体との差に驚く。まさに重苦しい鎧を脱いだ時のように、なんと軽やかな足取りなのだろう。羽が生えたような軽さである。
駆ける際に感じるサスペンションのしなやかさ。膝の関節がすべての衝撃を吸収し、それが反発してバネになる感覚。これは、さきほどまではなかったものだ。
強化外装のメリットは、当然ながら強固さである。銃弾で撃たれても、あるいは剣の攻撃をもらっても耐えられる防御力にある。その強みを生かした戦いは豪胆で、恐れを知らぬ姿は、男性的な側面を強く意識させる。
MGに乗る人間の多くは、男性である。これは男女差別ではなく、単純に役割と比率の問題でそうなっているにすぎない。駅の改札口が、右手用に出来ているのと同じ仕組みだ。右利きのほうが多いからである。
それと同じく、戦いは男の担当なのである。相手を滅するという性質上、男性的な破壊のエネルギーを使うからだ。よって、兵器の大半は【男性的】と呼んで差し支えない。
しかし、MGの元祖である神機には、男女の性質が明確に存在しているし、男性が女性型のAIを入れることが多いことからも、女性だから戦いに向いていないというわけではない。
すべては性質と役割、その扱い方の問題なのである。
つまり、女性には女性の戦い方があるのだ。
女性であるアミカが男性的な装いで戦っても、それはそれで趣があるかもしれないが、やはりどこかで無理が出てしまう。いつも以上に重い太刀を使って戦った、さきほどの戦闘などはよい例である。
それは、知らずのうちにアミカが、男性的な外見だった壱式に引かれて男性的に戦ってしまったからである。しかも周囲が男だらけの軍隊にいたせいで、いつも以上に女性であることを意識した。そのギャップによって、ちぐはぐな動きになってしまったのである。
だが、今のブリキ壱式は、男女どちらでもない印象を受ける。この基礎フレームは、いろいろな外装を取り付けることを想定しているので、なるべく癖をつけないようにされているためだと思われた。
すべてがニュートラル。
今の壱式は、アミカが乗ることによって【女性的】になったのだ。それにより、動き全体がしなやかになっていく。本来の自分の形になっていく。
「これならばやれる!」
手応えを得たアミカは、さきほどまでの動揺が嘘のように、気分が高揚するのを感じる。ぶっつけ本番だが、この感触ならばいける。そう思えたのだ。
ブリキ壱式は、凄まじい速度でビルまで駆け寄ると、窓を蹴破り足場にして跳躍。一気に屋上まで駆け上がる。
「一撃で決める!!」
今ブリキ壱式が持っているのは、太刀よりも少し軽めの刀である。これはブリキの汎用予備装備の一つで、メイクピークのゼルスワンが使っていたリンドウと同タイプのものである。
太刀に振り回されていたアミカを見たリュウが、外装を取り替える暇はないがせめて剣だけでも、と用意してくれたものだ。威力は落ちるが、それだけ速く刀を振るうことができる。
(私の特徴は速度!! 急所に素早く打ち込めば!!)
アミカは、スピードに自信を持っていた。相手が誰であろうと、速度に関して劣ったことは少ない。せいぜい最速の剣技である神刃と競り合った時くらいなものである。
アミカの放った剣撃は、高速。
間違いなくアミカにとって、自信のある一撃であった。
しかも相手はビルの屋上という、ほとんどスペースのない場所にいる。この状態で外すほうが難しい。されど、アミカはまだ知らない。目の前にいる存在が何者で、なぜバーンと呼ばれているのかを。
リヴァイアードは、非常に大きな機体だ。ブリキ壱式よりも遥かにかさばる。砲撃をするためには、ある程度の大きさが必要だからだ。ただ、そうであるのに、どうしてリヴァイアードは、こうも簡単に敵陣に姿を晒すのか。本来ならば、もっと距離を取ろうとするのではないか。
いいや、そんな必要はないのである。
ブリキ壱式の刀が、リヴァイアードに接触する瞬間―――
―――その姿が消えた
目標を失った刀はビルの屋上に叩きつけられ、コンクリートに深く突き刺さる。
「―――っ!」
アミカは、何が起こったのかわからなかった。最速の剣がかわされたショックを受ける前に、現状が理解できなかったのだ。
もちろん、リヴァイアードは消えたのではない。そのような瞬間移動をする装置をMGに搭載などできない。だから単純に「かわした」のだ。
リヴァイアードは、その巨体に見合わずに素早く身体を回転させ、アミカの攻撃を回避した。防御ではない。完璧にかわした。
実際、リヴァイアードはまだビルの屋上にいる。アミカの攻撃をかわし、その真横に移動しているのだ。巨体が高速で動くなど、それ自体かなり奇妙な光景である。だが、それは事実であり、認めねばならない現実である。
リビアルにとって最大の弱点であったのは、その機動性。砲撃能力に長けたぶん巨大になり、簡単に足元に潜り込まれる弱点があった。一方、ガヴァルの弱点は火力。強みである機動力を完全に生かしきれていない攻撃力の低さ。両者は正反対の存在であった。
その二つの長所を組み合わせたのが、リヴァイアードである。
まさに今使ったのは、ガヴァルの機動性にほかならない。この巨体が、これほど素早く回り込めるだけの小回りを持つ。それはアミカの最速の剣すらよける速度。
スピード勝負に出た戦いにおいて、この事実は致命的。
アミカは、いきなり自身のアドバンテージを失ったのだ。
駆動系を担当しているクマーリアは、暗殺者タイプの武人である。その彼女からすれば、アミカの一撃は素早いが、けっしてかわせない速度ではなかった。可愛い姿に騙されがちであるが、彼女もまた一流の武人なのだ。そして、バーンである。
「お姉様に手を出すなんて!!」
クマーリアは、アミカの行動に憤慨していた。せっかく解放してあげようとしたのに、恩を仇で返される気分である。といっても、まだ何の恩も与えていないので、彼女の勝手な思い込みであるのだが。
それより敬愛するナサリリスを攻撃したことが許せなかったようで、ぷりぷりと怒っている。そんな顔も可愛いと思いつつ、ナサリリスは、やんわり諌める。
「いくら尊き女性とはいえ、蛆虫の中で育つと臭いが移るものよ。寛容の心が必要だわ」
「でも、お姉様!!」
「あなたの私を想う心は嬉しいの。でも、その愛を、どうか少しでも他の女性に与えてあげてくれないかしら。愛は、等しく与えられるべきものではなくて? 私たちが目指す世界は、すべての人が愛し合える素晴らしい世界なのよ」
「お、お姉様…わ、わたし、感動です!!」
公衆の面前でイカれた発言をしたとは思えないほど、慈愛に満ちた言葉である。その愛ある言葉に、クマーリアは感動を隠せない。しかし、その愛はあくまで女性にのみ向けられるものである。
「あのMG、男の臭いがします!」
「そうね。それが原因かしら。この世のすべてのMGは、タオが造ったものでなければならないわ。なら、まずは汚い服から剥ぎ取ってあげましょう」
リヴァイアードは、ニードルガンを発射。
鋭い針状の弾丸が六発、ブリキ壱式に襲いかかる。
(この体勢では!)
至近距離で放たれた弾丸に、アミカは青ざめる。銃の最大の利点は、力を入れなくてよいこと。刀のように振るという動作が必要ないことだ。どの体勢で撃っても威力は同じなのだ。
現在の壱式は、攻撃をかわされた直後であり、しかも死角に回りこまれている絶望的な状況。相手は完全にこちらを捕捉している。この状態で外せというほうが無理である。
(諦めたら、そこで終わりだ! 学んだはずだろう!」
アミカはダメージを覚悟しつつも回避運動をとり、力一杯跳躍する。もう間に合わない。アミカ自身もそう思っていた。それでも、バイパーネッドとの戦いから学んだのだ。最後の最後まで諦めない。その気迫こそ、勝負を分ける重要な要素であると。
だから必死にジャンプした。
それゆえかわからないが―――
―――機体は、彼女の予想を超える
アミカの強い意思を受けたブリキ壱式は、力強くしなやかな動きでニードルガンをかわすと、非常に狭いビルの屋上の隅に着地する。その際にもまったく機体は揺れず、振り回されることもなかった。
「こ、これは…!? そ、損傷は!! ―――ないのか!?」
アミカは無傷であったことに驚愕。念のためにチェックしてみたが、損傷はなかった。
「へえ、素敵ね」
その動きには、ナサリリスも感嘆。かわせる間合いではなかった一撃を、見事にかわしたアミカに興味をそそられる。しかも、周囲に展開している粒子がふわりとゆらめき、まるで羽衣のように見えたので、その優雅な動きにうっとりと表情を緩めまでしている。
多少手加減したとはいえ、ナサリリスの攻撃は甘くない。生身同士の戦いだったならば、今の攻撃で確実に致命傷を負っていた。壱式の性能が、少しずつ目覚めてきたのだ。今回はそれに救われた。
「いいわ、あなたのこと、欲しくなってきたわ。私の世界に加える最初の女性にしてあげる」
「お姉様、最初は私です!」
「ああ、そうね。ごめんなさい! 二人目の女性ね! いつも言葉足らずでごめんなさいね、クマーリア」
「いえ、いいのです。お姉様はお優しくてお美しいから、私が独占するなんて畏れ多いこと」
「何を言うの、クマーリア! 私はあなただけのもの!! さあ、遠慮しないで! もっと奪って!!」
「ああ、お姉様!! やっぱり私だけのお姉様でいて!!」
「もちろん、もちろんよ!!」
この瞬間、アミカには百合の花びらが舞う光景が見えたそうな。
それは錯覚だったとは言いきれない。
ダマスカス軍の男たちも、その光景を見たからである。
何はともあれ―――
バーン序列五十三位、ナサリリス組
女尊の世界を強烈に思い描く、恐るべき相手である。
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私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
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※架空のお話です。
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