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【動き出す思惑】
16:信頼のために
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オルフはその日、朝から飛行場の周囲をただひたすらに走っていた。
ヤハールのパイロットに混じっての訓練ではあるが、そこにオルフ自身としては特に抵抗を感じていない。訓練メニューとしては妥当なところだと判断している。
実家では農作業をしながら鍛え、なるべく体が鈍らないようにはしていたつもりだが、それでも戦時中に比べれば衰えていると感じた。
だがここで、みっともない姿を晒す気にはなれない。例えブランクがあろうと、ミルレンシアの戦闘機乗りとして、栄えある首都防空隊の一員としてヤハールのパイロットには負けていられない。そう、オルフは己を叱咤した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
訓練が終わったら司令室に来るように言われ、オルフは出向いた。
部屋に入ると、ハクレは既にソファに腰掛けていた。
「やあ。よく来てくれたね。待っていたよ。まあ、座りなさい」
ハクレの促しに頷き、オルフは彼の対面の席へと向かい、着席した。
「早速なんだが。急に俺を喚んで、何の用だ?」
「せっかちだね。何、ちょっと様子を確認したいっていうだけだよ。身構えるような話じゃない」
「様子?」
「そうだよ。君の訓練の様子とか、新型戦闘機の開発の進み具合とか、彼らのことをどう思っているのかとか。そういう話を聞かせて欲しい」
「それは構わないが。何故、そんなことを?」
「重要なことだからだよ」
薄い笑みを浮かべ、ハクレは答えた。
「俺はね? 君達が造っている戦闘機の開発が成功するかどうかという話も、先の事件の真相解明という話も。すべては互いの信頼関係あっての話だと考えている」
そう言ってくるハクレに、オルフはうろんな視線を向けた。
そんなオルフに、ハクレは苦笑を浮かべる。
「やっぱり、君は嘘が吐けない男のようだね。ここで、そんなにありありと『疑わしい』って顔を浮かべるくらいだ」
「悪いが。これは、俺の性分だ」
憮然とした表情をオルフは浮かべる。
「うん。君がどう思っているかは知らないけれど。俺は君のそういうところは好ましく思っているよ。しかし、そんなにも胡散臭いかな? トキマにも言われるんだよ? これは流石に、少し傷付くね」
どこまで本気か分からない口調で、ハクレは肩を竦めた。
「ともあれ、そういう訳で、君達の話を聞かせて欲しいという訳だ。互いを知らないことには、信頼も何もあったものじゃないからね」
「言っていることはもっともだと思うが。何で俺なんだ? 後で、他の連中も、こうして呼び出すのか?」
「いいや? そのつもりはない」
ハクレは首を横に振った。
「君を選んだのは。君なら、俺達と彼らの間を上手く取り持ってくれそうだと考えたからだ」
「何でだ?」
「立場的に、君には何かを守らなければいけないような。そんな弱みが無い。だから、余計な先入観や気負いを持たずに俺達とも彼らとも接することが出来る。俺達は、彼らを。そうだな、語弊を招く言い方かも知れないが、相応の対応で処したい。過剰でも不足でもなく、公平にね。しかし、それを俺達が口で言ったって信じては貰えないようだ。それは、彼らにしたらそうだという話だろうけどね」
「それを言われて、そのまま俺が信じるとでも?」
「いきなり信じてくれるとまでは思っていない。そこまで自信過剰じゃないよ。だが、さっき言ったことは紛う事なき本心だ。そして、信頼を得られるように心がけるつもりだよ」
「分かった」
「その言葉を信用しよう」とはオルフは続けない。ただ、改めて見極めていこうとは思う。
「しかし、間を取り持つと言われてもなあ。俺は、そんな腹芸は出来ないぞ?」
「しなくていいよ。むしろ、やろうとしないで欲しい。多分、その方が上手くいきそうだ。こっちの味方をしてくれという話でもない。君はあくまでも、互いの話を聞いて、君が思う最善の行動をしてくれればいい。彼らの心を開く可能性があるとすれば、君の正直なところだろうからね」
「あんたに言われると、あんまり褒められているような気がしないのは何故なんだろうな?」
全くの悪い気がしないというのも我ながら考えものだと思うが。
「だが。だとすると、俺は連中の味方をして、徹底して隠し事をするかも知れんぜ?」
「それならそれで構わないよ」
「何?」
オルフはいぶかしんだ。
「君は、意味も無くそういう真似はしない。そういう男だ。隠すなら、それが最善だと判断してのことだろう。それを無理に暴き立てるつもりもない。いずれ、信頼を得た上で、話して貰う事にはなると思うけどね。だから、むしろ彼らの味方になって貰いたいくらいだ」
もし、それも本心だというのなら。この、ハクレ=シヨウという男も性根は甘いのかも知れない。自分の性分は自覚しながらも、オルフはそう思った。
ヤハールのパイロットに混じっての訓練ではあるが、そこにオルフ自身としては特に抵抗を感じていない。訓練メニューとしては妥当なところだと判断している。
実家では農作業をしながら鍛え、なるべく体が鈍らないようにはしていたつもりだが、それでも戦時中に比べれば衰えていると感じた。
だがここで、みっともない姿を晒す気にはなれない。例えブランクがあろうと、ミルレンシアの戦闘機乗りとして、栄えある首都防空隊の一員としてヤハールのパイロットには負けていられない。そう、オルフは己を叱咤した。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
訓練が終わったら司令室に来るように言われ、オルフは出向いた。
部屋に入ると、ハクレは既にソファに腰掛けていた。
「やあ。よく来てくれたね。待っていたよ。まあ、座りなさい」
ハクレの促しに頷き、オルフは彼の対面の席へと向かい、着席した。
「早速なんだが。急に俺を喚んで、何の用だ?」
「せっかちだね。何、ちょっと様子を確認したいっていうだけだよ。身構えるような話じゃない」
「様子?」
「そうだよ。君の訓練の様子とか、新型戦闘機の開発の進み具合とか、彼らのことをどう思っているのかとか。そういう話を聞かせて欲しい」
「それは構わないが。何故、そんなことを?」
「重要なことだからだよ」
薄い笑みを浮かべ、ハクレは答えた。
「俺はね? 君達が造っている戦闘機の開発が成功するかどうかという話も、先の事件の真相解明という話も。すべては互いの信頼関係あっての話だと考えている」
そう言ってくるハクレに、オルフはうろんな視線を向けた。
そんなオルフに、ハクレは苦笑を浮かべる。
「やっぱり、君は嘘が吐けない男のようだね。ここで、そんなにありありと『疑わしい』って顔を浮かべるくらいだ」
「悪いが。これは、俺の性分だ」
憮然とした表情をオルフは浮かべる。
「うん。君がどう思っているかは知らないけれど。俺は君のそういうところは好ましく思っているよ。しかし、そんなにも胡散臭いかな? トキマにも言われるんだよ? これは流石に、少し傷付くね」
どこまで本気か分からない口調で、ハクレは肩を竦めた。
「ともあれ、そういう訳で、君達の話を聞かせて欲しいという訳だ。互いを知らないことには、信頼も何もあったものじゃないからね」
「言っていることはもっともだと思うが。何で俺なんだ? 後で、他の連中も、こうして呼び出すのか?」
「いいや? そのつもりはない」
ハクレは首を横に振った。
「君を選んだのは。君なら、俺達と彼らの間を上手く取り持ってくれそうだと考えたからだ」
「何でだ?」
「立場的に、君には何かを守らなければいけないような。そんな弱みが無い。だから、余計な先入観や気負いを持たずに俺達とも彼らとも接することが出来る。俺達は、彼らを。そうだな、語弊を招く言い方かも知れないが、相応の対応で処したい。過剰でも不足でもなく、公平にね。しかし、それを俺達が口で言ったって信じては貰えないようだ。それは、彼らにしたらそうだという話だろうけどね」
「それを言われて、そのまま俺が信じるとでも?」
「いきなり信じてくれるとまでは思っていない。そこまで自信過剰じゃないよ。だが、さっき言ったことは紛う事なき本心だ。そして、信頼を得られるように心がけるつもりだよ」
「分かった」
「その言葉を信用しよう」とはオルフは続けない。ただ、改めて見極めていこうとは思う。
「しかし、間を取り持つと言われてもなあ。俺は、そんな腹芸は出来ないぞ?」
「しなくていいよ。むしろ、やろうとしないで欲しい。多分、その方が上手くいきそうだ。こっちの味方をしてくれという話でもない。君はあくまでも、互いの話を聞いて、君が思う最善の行動をしてくれればいい。彼らの心を開く可能性があるとすれば、君の正直なところだろうからね」
「あんたに言われると、あんまり褒められているような気がしないのは何故なんだろうな?」
全くの悪い気がしないというのも我ながら考えものだと思うが。
「だが。だとすると、俺は連中の味方をして、徹底して隠し事をするかも知れんぜ?」
「それならそれで構わないよ」
「何?」
オルフはいぶかしんだ。
「君は、意味も無くそういう真似はしない。そういう男だ。隠すなら、それが最善だと判断してのことだろう。それを無理に暴き立てるつもりもない。いずれ、信頼を得た上で、話して貰う事にはなると思うけどね。だから、むしろ彼らの味方になって貰いたいくらいだ」
もし、それも本心だというのなら。この、ハクレ=シヨウという男も性根は甘いのかも知れない。自分の性分は自覚しながらも、オルフはそう思った。
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