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第08章 魔王

第01話 思い出の地へ

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 翌朝、ビランデルとヘリアレスの二人だけが朝の挨拶にやって来た。ガレンダとタレランの姿は見えない。恐らく、夜は山頂の館には戻らず居住区に向かったんだろう。
 非常にやる気なのは有り難いと言えば有り難いんだけど、ちょっと暴走気味な気がするな。変な方向に走らなきゃいいんだけどね。

「これを預かっています」
 ビランデルが差し出したのは地図だった。衛星ほどじゃないけど、まぁまぁ精密で、位置関係も分かりやすい地図だった。

「これは?」
「はい、昨夜の別れ際に、ガレンダからエイジ様に渡すように言われました。魔族領にある鉱物資源がよく取れるダンジョンの位置です。宝箱からも魔物ドロップからもいい鉱石が取れるダンジョンです」

 これね、前に言ってたダンジョンは。でも、場所がねー。

「クラマとマイアは魔王って知ってるの?」
「魔王とは魔族の王でもあり、魔物の王でもあるのじゃ。当然知っているのじゃ」
 前に、スカウトされたって言ってたっけ。

「だったら魔王の強さも知ってるの?」
「もちろんじゃ。流石にわらわでも勝てんのぅ。魔王の強さは規格外じゃ」

 おー、クラマにそこまで言わせるのか。絶対に魔王には近寄らないぞ!

「マイアは?」
「私は会った事はありませんが、噂では精霊女王様でも勝てないと言われています。私は精霊女王様の足元にも及びませんから、あまり近寄りたくない方ですわね」

 マイアもか。うちの両翼で歯が立たないんだったら誰も敵わないな。ユーでも無理だろうな。

「それで、この地図の意味するところは何か分かる?」
 俺の問いかけに目を逸らすビランデル。ヘリアレスなんて既に【星の家】の子供達の所に行ってしまってる。関わりになりたくないのが、ありありと分かるよ。まったく…また鼻詰めの刑にしてやろうか。

「魔族領ね。クラマもマイアも乗り気じゃないし、俺も行く気は無いからね。ガレンダにもそう言っといてね」
「……はい」
 なんで、そんなに残念そうなんだよ。お前も俺を行かせたかったのか。ホント魔族は信用ならないなぁ。

「昨夜も言ったけど、俺達は当分帰って来れないから、後の事は頼んだよ」
「はい、お任せください。でも、素材も一回分は頂いてますが、それ以降はどうしますか? 魔物の素材という手もありますが」
「魔物の素材?」
「ご存知ありませんか? 武器や防具には魔物の素材を鉱物に混ぜたり、魔物の素材のみで作ったりすると、特殊級ユニークの武器できるのです。作れるものは限られていますが、エルダードワーフならば何人かは作れる者もいるのではないでしょうか」

 特殊級ユニーク!? なんか異世界っぽくていいじゃん!

「それって、どんな武器ができるの?」
「まず、強くて折れない武器で、しかも何か特殊な発動技を持っています」
「……発動技? それって……」
 凄く嫌な過去がよぎったけど、まさか……

「声に出すだけで技が発動するのです。魔王様も当然持っています」
 ……俺も、それ持ってるよ。声に出して発動するやつだろ? 剣と弓を持ってるよ。
 あんなの人がいるとこで言えないって。
 エア・スラッシュにマルチプレックス・スプリットだったか。覚えてるけどね、人がいなければやってやるさ。でもね、人がいるとこでは絶対にやらないから。恥かしすぎてやれないって。

 魔王って毎回やってるんだろうか。いや、恥かし過ぎるだろ! 魔王って別の意味でも無敵かもしれない。

「ま、それで時間が稼げるんなら、エルダードワーフ達と相談して素材をあげればいいんじゃない? 素材は何がいいか知ってるの?」
「はい、魔物が強ければ強いほど、強力な武具になるそうです。例えば龍ですとか」
 龍? 龍は無理だろ。絶対強いって!

「そんなの誰が倒せるの。絶対無理じゃん」
「なにを言っておるのじゃ。漆黒大蛇ピュートーンを倒しておるではないか。あれも龍じゃぞ」
「え? そうなの?」
「ま、下位ではあるが、あれでも立派な龍なのじゃ」

 見てないからどうこう言えないんだけど、でも俺も倒してるもんね。衛星が、だけど。
 クラマも倒してるんなら、龍ってそれほどでも無いのかな。

「一応、言うておくが、ユーでギリギリじゃったぞ。キッカなどは三人でキリギリじゃったな」
 おー、それはいい比較になる。ユーはまだまだ強くなってるから、いつ頃のユーか分からないけど、キッカは単独じゃ無理だったんだな。
 それって結構強いじゃん! だったらクラマ達がってより、衛星って無敵じゃん! まぁ、そのクラマやマイアも押さえつける衛星だからね、今更だけど強いのは知ってたよ。でも、実感は無いんだよね、ドロップ品や素材は見てるけど、魔物を倒すところは見てないし、魔族だって”チッ!”で終わりだから。

 ま、あえて怖い思いをする必要もないし、安全ならその方がいいんだよ。
 ビランデルから貰った地図も、一応は持っておく。だって、近付きたくないんだから、持っておいた方がいいと思うんだ。知らずに行ってしまったって事にならないように、場所は知っておいた方がいいしね。

 出発前に時間を食ってしまったけど、クラマとマイアを引きつれ、三頭の天馬に跨り出発した。
 行き先は南だ。今まで行ったのはこの国の中央周辺だけ。初めに行ったハイグラッドの町周辺でも、国の南に位置するが、東西で言うと中央に近い。今回は、まずレッテ山から真っ直ぐ南へ行き、ハイグラッドの街の南側を抜けて西へ渡り、王都の更に西側を北上して、エルダードワーフの里を横切るように東へ戻って来て、レッテ山の真北から南下してくるルートを予定している。
 この国の外緑を大きく右回りで回って来ようという計画だ。

 八枚の地図がある位置を、衛星に国の全体地図を作ってもらって示してもらった。
 南東に二つ、南西に二つ、最西に一つ、北西に一つ、北東に二つ。そして、なぜか最後の紙質が非常にいい地図だけは示してくれなかった。最後に行けという事なのだろう。
 最後の地図はアップすぎて周辺に何があるのか分からなくて、俺には位置特定ができないから、衛星が教えてくれないのなら先に八つの地図を攻略してやろう。
 結局全部行くつもりなんだから、順番がどうでも関係ない。楽しみは後に取っておくのは、俺の性格にも合ってると思う。そんなに拘ってるわけじゃないけど、好きなものは後で食べる主義だから。
 因みに魔族領は西方の一つ国を跨いだ向こうだそうだから、今回間違って行くような事にはならないだろう。

「じゃあ、本当にこれで出発だ。行くよ」
 出発前にこれだけグズグズしたのは初めてだな。

「待ってー!」
「なに? まだなんか……」
 走ってきたのはユーだった。

「私も行くー!」
 今までどこに行ってたのか知らないが、走ってきたユーはそのまま俺の後に飛び乗った。
 ま、いいか。断る理由も無いし、ユーなら歓迎だ。
 またこのメンバーかと思わなくもないが、魔族達といた時と比べると百万倍いい。夜の自由時間が減るけど、それはご愛嬌だ。なにより、暑苦しい野郎どもから質問攻めされるより百億万倍いい。
 自分が男であった事を再認識させられたな。

 出発してまずヨウムの下へ向かった。初めに向かう南西の二つは、ヨウムに送ってもらえないか確認するためだ。
 わざわざ行かなくても話はできるし、場所も伝えられるんだけど、いつも頑張ってくれてるからね。偶には顔を見せてあげようと思ってね。

「エイジ……このテンションの高い樹は何?」
「えっと…ヨウムだけど…」
「そんな事は知ってるの! なんでここまでテンションが高いのかって言ってるの!」

 俺の顔を見た途端、
「久し振りご尊顔を拝謁する栄誉に賜りましたる事、身に余る光栄に存じます!」
 おおおおおおおおおおおおおおおおおお!
 ってやってて、こっちの話なんか聞いてくれない。
 どうやら、俺の周りに集まる男? は、暑苦しい奴ばかりのようだ。天馬もそうだしね。

 このまま待ってても埒が明かないので、ヨウムは放置で天馬達に飛んでもらった。
 天馬達なら一日も掛からず行けるから問題ないだろ。あのまま待ってたら一日経っても話が出来ないかもしれないからね。ヨウムって妖精樹だから植物だけあって気が長そうなんだよね。

 例の如く樹のすぐ上辺りを飛んでもらって南を目指した。
 一つ目の地図の近くに来た時に見覚えのある場所に気付いた。

「あ! ノワール! ちょっとそっちに降りて!」
 そこは大きな綺麗な池だった。俺が初めて衛星と出会った場所。エア・スラッシュを初めて発動させた場所でもあった。

「どうしたの? ここが目的地?」
「いや、ここでね、初めて衛星に出会ったんだ。俺の思い出の場所だよ。こんなにすぐに来れる場所にあったんだな」
 あの時は徒歩だし、今は天馬という違いもあるけど、時間が掛かるから来なかったのではなく、思い出したくないものがあるから来なかったんだと思う。
 久し振りに思い出した。死体の山の事と、集落で見張りの人を殺してしまった事を。

 一つ目の目的地までは、もう近くまで来てるし、明日はどうなってるか寄り道して見てみようかな。

「ほ~、ここでエイジが呪いにかかったのじゃな?」
「清らかな所ですが、あちら側に邪気を感じますわね」
「そうじゃな、呪いと言ってもあながち間違いでも無い感じじゃの」

 まだ呪いって言ってるよ。からかってるんじゃなかったの? 今の物言いだと、本当に呪いみたいじゃん! やめてくれよな。

「うーん、私も感じるものがある。なんだろ、こんな感覚初めてかも」
 ユーまでもそんな事言うんだ。衛星は絶対呪いなんかじゃないからね!

「どうするのじゃ? 抜け駆けは厳禁じゃぞ?」
「そうですね。久し振りに揃ってるのですから、皆で行きますか?」
「私はそれでいいけど、エイジと行ったら何も出ないんじゃないの?」
「そうじゃった! ならばエイジは留守番なのじゃ!」
「私は何も出なくてもエイジと一緒であればいいのです。元々そう思ってましたから」
「マイアさん、なんかズルい! 点数稼ぎですか?」
わらわもエイジと一緒に行くのじゃ」
「なんですかそれ! クラマさんは、エイジさんに留守番って言ってたじゃないですか!」

 賑やかだけど、こういうのはいいね。顔がニヤついてくるよ。やっぱり野郎だけの時とは華やかさが違うね。

「エイジ! 何をニヤニヤしておるのじゃ!」
「そうだよ! エイジの事を言ってるんだよ!」
「私は、初めからエイジと一緒と決めてましたから」
「マイアさんまた! さりげなくプッシュするのは反則です!」

 思い出の場所に来たけど、思い出に浸る暇は無かったけど、姦しい女性陣に囲まれ満足感に包まれていた。
 探索は明日にしようっと。


――――――――――――――――――――――

なんと驚いた事に68位でした。
投票いただき感謝です!
昭和のおっさんタロウも146位で健闘中でしたし、感謝の言葉もございません。
ファンタジー小説大賞は今月一杯のようですので、投票頂ければ幸いです。
よろしくお願いします。
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