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第07章 チームエイジ

第20話 魔族達の扱い

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 宿に戻ると、予想通り四人の魔族が部屋で待っていた。
 予想はしていたが、いないといいなと淡い期待をしていたが、やはりいた。
 現実逃避がしたくて、一度部屋の扉を閉めて、再び開けなおしてみたが、状況は変わってなかった。魔族は消えずにそこにいた。

「お帰りなさいませ、お館様」
「お帰りなさいませ」
 四人とも既に拘束を解かれていて、二人の魔族が平伏して挨拶をくれた。レギオン族だと言ってた方だろう。
 お館様って呼んでるから間違いないと思う。

「助かりました、恩にきます」
「……」
 交渉してきたビランデルからはお礼が聞けたが、ヘリアレスは黙ったまま頭を下げただけだった。まだ鼻詰めの刑が効いてるのだろうか。
 結構、長く効くんだな。今後も技の一つとして覚えとこ。

「早速だけどビランデル…さん。この地図にダンジョンの場所を示せる? それができれば、もう自由でいいよ」
「え?」
「え?」
 ビランデルとヘリアレスの二人が呆気に取られていた。
 俺の前から早く一人でも多くの魔族を消したいんだよ。用事が終わればさっさと出て行ってほしい。

「何か問題ある? 修行を続けたいんじゃないの?」
「…そうですが……」
「……だな」
「だったら、この地図に印を付けてよ。大体でいいよ、たぶんそれで分かると思うから」
 ビランデルに衛星が描いてくれた地図を渡した。かなりの精度で描かれている地図だ。エルダードワーフの里を探す時にも役立った地図で、新たに同じものを作ってもらったのだ。

「はぁ……」と歯切れの悪い返事をして受け取るビランデル。
「凄ぇ……」
 隣からヘリアレスも地図を覗き込み、その精密さに驚いていた。

 地図を握り締めるビランデルは地図をしばらく見た後、俺に向き直って姿勢を正した。
「やはり、これだけでは取り引きになりません」
「なんでぃ。ビランデルは場所を忘れちまったのか? だったら俺が描いてやるぜ」
「お前は黙ってろ!」
「ちぇ…」

 横槍を入れるヘリアレスを一喝するビランデル。
 ビランデルとしては、自分達の方が過剰すぎる有利な取り引きに遠慮して言ってるのに、ヘリアレスが横槍を入れるので黙らせたのだ。

「なに、そんなにいい物が眠ってるダンジョンなの? だったら武器も付けようか。どれがいいかな……」
 さっきの説明でいい奴かもしれないと思ったが、魔族は魔族。悪い奴というイメージは中々抜けないものだ。
 エイジはビランデルの『これだけでは取り引きにならない』を魔族だから『たったこれだけでは取り引きにならない』と思ってしまった。
 ダンジョンにはそれだけの価値があるのかと思いつつ、さっさと悪魔と手を切りたいエイジは更に続けた。

「二人分の命とダンジョンの情報だから、そっちに有利な取り引きだと思ったんだけど、足りないのならこれも付けるよ」
 これでどうだ。と、エルダードワーフ産の剣や槍などの武器を各種出した。
 バーンズさんには販売ルート確保の為に一部渡してるだけだから、俺の収納の中にはまだまだ入っている。
 その一部を出しただけだが、ボッシュール領で見かけた二人の武器よりは良い物だと思う。目利きはできないけど、二人の持ってた武器は結構ボロボロだったと記憶している。

「え……」
「おっほー!」
 ヘリアレスは飛び上がって喜んだが、ビランデルはまだ無表情。

 これでも足りないの? どんだけ強欲なんだよ。
「だったら、これも付けるよ」

 次は居候のゼパイルさんが作った『封魔の剣』も出した。

「……」
「うおぉぉ!」
 雄叫びを上げて喜ぶヘリアレスとは対照的に口数が減っていくビランデル。
 まだ、吊り上げようってのか? 強欲すぎんだろ!
 あ、こいつらって三本ずつ持ってたか。同じ種類の剣が三本に槍が三本だったっけ? いや、槍は二本だったか。もう面倒だし、三本ずつ出してやれ。

「……」
「……」
 今度は二人とも黙ってしまった。
 まさか、粘ればもっと出すって思われてしまったか。早くお別れしたくてさっさと出しすぎてしまったようだぞ。失敗したなぁ。

 もう部屋中、剣と槍だらけになっている。剣だけでも五〇本以上出してるし、嵩張る槍も二〇本ぐらい出してる。
 宿代が高いから部屋は広いが、それでも広い部屋とはいえ、大人の男が五人に武器がこれだけ出てると、もう座る場所も無いほどだ。
 これでもオッケーが出ないのだ、魔族とはなんと強欲の塊なのだろうと感じてしまう。やはり魔族は信用ならないな。

「もう、これ以上は……あ、そうか、入れ物が無いのか。だったらこれも付けよう」
 サクっと衛星に収納バッグを二つ作ってもらって二人に手渡した。

「これ、収納バッグだから欲しいものを入れたらいいよ。それでどう?」
 首をブンブン振るビランデルとコクコクと肯くヘリアレス。
 どっちなんだよ!

 俺に言われ、では早速と手を伸ばすヘリアレスの手をガシっと掴んだビランデル。そのままヘリアレスの持つ収納バッグを取り上げ、スッと俺の前に差し出した。
 差し出された収納バッグを泣きそうな顔をして追いかけるヘリアレス。ちょっと手も出てる。

「報酬は十分に頂いております。我が命、そんなに軽いものではないと自負しておりますが、貴殿の我らに対する恩義もまた、それ以上に重いものと感じております。このような過剰な対価は必要ありません」
 きっぱりと言い切るビランデルの横では、涙を流しながらウンウン肯くヘリアレスがいた。右手が出ようとするのを左手で抑えてるようだが、こいつは何がしたいのか。魔族の考えてる事はわからん。

「だったら、どうしたら出て行ってくれるの?」
「恩義を全て返したと思えたその時に、我らはおいとまさせて頂きたく存じます」
「その…それは……こま…」
「勝手な言い分だとは思いますが、我らにはお返しするものがございません。どうか、お聞き届けください」
 いや、出て行ってくれるのが、一番のお返しになるんだけど。居座られるのが一番困るんだけど。

 土下座でお願いをするビランデル。その隣ではヘリアレスも神妙な顔になりビランデルに合わせるように土下座をした。
 だいたい、返すもんが無いって言ってんのにどうやって返すつもりなんだよ。

「えーと、整理しますね。僕があなた達をここに連れてきたので、あなた達は助かったんですよね?」
「はい、その通りです。その恩義をどうやったら返せるのか思いもつきません」
 そんなに重く考えなくてもいいんだよ。衛星が勝手にやった事だから。俺はなんもしてないし。

「うん、別に恩義に感じなくてもいいからさ、ダンジョンの場所を教えてくれるだけでいいよ。初めからそういう条件だったんだし」
「いや、しかし、それではあまりにも」
「ビランデルよぉ、だったら用心棒なんてどうだい。どうせ俺達にはそれぐらいしかできねぇしな」
 余計な事を言わなくてもいいんだよ、また鼻詰めの刑にすんぞ!
 俺には衛星が付いてるんだから用心棒なんかいらないんだよ!

「しかし、負けて捕らえられた私がこの方の用心棒が務まるかどうか。それはお前も同じだろヘリアレス」
「確かにそうだな。じゃあ、何するってんだよ。何か思いつくもんでもあんのかい」
「それが思いつかないから困っている」
「じゃあ、いっその事、奴隷のようにこき使ってもらって、それでチャラにしてもらうかい? どうせ俺らには肉体労働しかできねぇんだからよ」
「そうだな、それしかないか……」

 おいおい、勘弁してくれ。それってずっといるって言ってるのと同じだぞ? 俺はお前達に何処かに行ってもらいたいんだよ。

「「ちょっと待ったー!!」」
 今まで黙っていた二人の魔族がいきなり大声を張り上げた。
 そして、そのままマシンガンのように代わる代わる捲くし立ててきた。

「エイジ様、お話中に横槍を入れるご無礼をお許しください」
「今、聞き捨てなら無い事を耳にしましたので、失礼ながら具申させて頂きます」
「いえ、エイジ様に私共が意見するのではありません」
「当然です、そんな恐れ多い事は致しません。私共もそのぐらいは弁えております」
「この者達に一言物申したいだけなのです」

「「よろしいでしょうか!」」

「う、う、うん……」
 一言だけって、結構しゃべったけど、なんてツッコミはKYなんだろうね。
 二人の勢いに押されて、YESの返事をしたら、レギオン族の魔族二人は声を揃えてラングルド族の魔族二人に向かって怒鳴りつけた。

「「奴隷は私達二人で間に合ってる!」」

 ……
 ……
 ……いや、お前達もいらないんだけど……

「ふむ、奴隷か……」
 レギオン族の二人に言われた言葉を噛み締めるように思案するビランデル。
 そして、意を決して言葉にした。

「ヘリアレス、お前は武器を頂いて去れ。私はこのエイジ様の奴隷になってお前の分まで奉公しよう」
「……」
「……」
「……」
「……」

 ビランデルの言葉に全員が絶句した。

「い、いや、待って…」
「ダメだダメだ!」
「そうだ! 間に合ってると言ったではないか!」
「ちょっと待てビランデル! そういう事なら俺も一緒だ!」

 思惑の違う四人がそれぞれ再起動したが、反対三、賛成二、に思惑が分かれた。というか、俺に決定権は無いのか?

「エイジ様、と呼ばせてもらいてぇ。俺も武芸しか役立たねぇ無骨もんだが、あんたの役には立ってみせる! さっき見せてもらった武器だって、大体どれぐらいの価値があるもんかぐれぇは分かんだよ。剣は俺、槍はビランデルが得意なんだ。どうか奴隷にしてくれないか」
「他にも、私達二人は武芸ばかりをやってきた身ですが、それ故に教えるのも得意としています。魔物も相当な数を葬って来ましたから、弱点や生息地も詳しいのです。意外と役に立つと思います。どうか奴隷の末席にでも加えてください」

 自ら奴隷になりたいって、こいつら頭がおかしいんじゃないの? しかも魔族は流暢に俺の名前を話せるし。

「そこまで言うなら致し方なし! 認めよう!」
「異議なし!」

 だから、お前達が決めるんじゃない!

「いや、ちょっと待って! 君達は見た目が魔族なんだからすぐにバレるし、バレたら俺がタダじゃ済まなくなるんだよ」
「そんなら、フード被って隠せばいいじゃねーか」
「いや待て。町に入る時には顔をチェックされる場合もある。エイジ様に迷惑がかかるのは私達も本意では無い」

 そうそう、そうだよ。俺に迷惑が掛かるからね、諦めてくださいね。

「そういう事であれば、私がスキル【変身】を伝授しよう」
「そうだった、ガレンダと私は持っている。魔石(小)を百個使うが、すぐに教えられるだろう」
「おお! それは有り難い!」

 そういえば、レギオン族の二人は領主様と貴族っぽい奴に化けてたもんな。
 普段の魔族って、肌の色がちょっと緑っぽいだけで、人間とそんなに変わんないんだけど、目の色がねぇ。
 人間と白黒が逆だから、すぐ分かってしまうんだよ。以前倒したパシャックなんかは細目にしてて分かり辛くしてし、変身も持ってたか。目を真っ赤にする時は大きく見開くから、そうなるとすぐに分かるんだけどね。

 いやいや、そんな事を考えてる場合じゃない。こいつらさっきまで喧嘩しそうだったのに、なんで仲良く協力してんの?
 これって反対一、賛成四になってない? いやいや最終決定権は俺にあるんだろ? あるんだよな?

 ガラガラガラガラガラガラガラガラ……

 魔石が大量に出て来た。

『魔石(小)を二百個用意しました。これで変身も覚えられますし、断る理由も無くなりました。エルダードワーフとの商談のための目利きもできますし、レギオン族の二人は読み書きや算術も得意としています。腕も立ちますし奴隷ですから裏切る心配もありません。最後の用意も整えましたのでこれで後処理まで全て解決しました。【鑑定】して確認してください』

「こ、これは……」
「…魔石だよ。二百個あるって……」
「で、では、認めてくださるのですね」
「おお! よかったなビランデル!」
「ありがとう、ヘリアレス」
「よかったな、同志よ!」
「おめでとう!」

 認めるも何も、今【鑑定】したら、お前達二人は既に『エイジの奴隷』ってなってるよ。
 明日、王城で行なわれるパーティが終わったらバーンズさんのとこに向かうしかないな。
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