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第06章 伝説の剣

第20話 下交渉

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 ユーと共に牢から地上に上がると、クラマとマイアが戻ってくる姿が見えた。
 だが、少し様子がおかしかったので、ユーと顔を見合わせると、急いでクラマとマイアの元に走って向かった。

「クラマ? マイア?」
 青いドワーフ達の出迎えに囲まれた二人は、肩を組んでフラフラしながら歩いていた。
 もしや、調査に行った先で事故で負傷したのか。魔物にやられるような二人ではないが、強力な魔物が潜んでいたのかなど心配したのだが、強烈な酒の匂いでその考えが間違っている事に気が付いた。
 すんごく酒臭かったのだ。
 初めは周りのドワーフ達かと思ったが、その酒臭さは間違いなく二人から放たれていた。


「クーラーマー! マーイーアー!」
「おお! これに見えるはエイジなのじゃ! ヒック!」
「あら、エイジが増えた? あはは」
 三人もエイジがいる~と上機嫌のマイアといつも以上に堂々としているクラマ。
 完全に出来上がってるのが一目でわかった。俺が怒ってる事など、なーんも気にしちゃいない。
 ま、いつも通りといえば、そうなんだけどね。

「それで? 原因は分かったのか?」
「もちろんじゃ! 万事解決じゃ! ヒック!」
「そうよ~、すんごく疲れたわ~、えへへ」
「マイア殿は飲んでただけなのじゃ! ヒック!」
「それが大変だったんじゃないのよ~、うふふ」

 ダメだこれは。会話にならないかもしれない。
「解決ってどういう事?」
 俺も二人なら解決までしてくるんじゃないかと思ってたけど、この様子だとダメだったんだろうな。
 それでも原因究明ぐらいはしてくれたんじゃないかと信じたい。今の二人を見る限り、信用はゼロだけど。

「言うたままじゃ。もう、泉の酒は回復したのじゃ。ヒック」
「そうよ~、あれだけ飲んであげたのに、もう満タンになってたもの。おほほ……うっぷ」
「味も、前より美味くなってたのじゃ! ヒック!」
「そうね~、ちょっとは美味しくなってたかな~。でも、エイジのくれるお酒の方が美味しいわよ~、あはは」
「そうじゃ! たしかにそうなのじゃ! エイジ! さっさと出すのじゃ! ヒック!」
「そうだ! 出せ~、出すのだエイジ~! きゃはは~」

 ダメだ、完全に絡み酒になってるよ。そんなになるまで飲んでてまだ飲み足りないのかよ!
 この二人に暴れられると里が崩壊する恐れもあるので、リクエストされた芋焼酎とブランデーを出してあげた。
 但し、場所はユーが捕らえられていた地下牢で。
 こいつらの、ついウッカリで里を壊滅されても困るからね。
 ここまで酔う二人を見るのは初めてだし、酔っ払って暴れないとも限らないからね。

 地下牢に二人を入れ、酒類とおつまみを少しを出して閉じ込めておいた。これで明日まではもつような気はする。たぶん、すぐに寝そうな気もするしね。
 その間に、色々と話を詰めようと思って広報係のコウホウさんじゃなかった、七長老の一人のコウホウさんを探していると、路上で他のエルダードワーフと話し込んでるコウホウさんを発見した。
 この人も色々と急がしそうだね。里の厄介事はこの人が全部フォローしてんじゃない?

「おお、それは流石ですね。これで里も安泰というわけですね」
 なにやら報告を受けていたようだ。
 クラマとマイアが行った件かな? 良さそうな報告だったようだし、だったらいいなと思いながらコウホウさんに声をかけた。

「コウホウさん、少しいいですか?」
「え? あ、リーダー殿でしたか。こちらもちょうど終わった所なので結構ですよ」
 一緒にいたエルダードワーフに手を上げ別れを告げると、こちらに向き直って改めて答えてくれた。

「はい、何かご用ですか?」
「はい、用はあるんですが、今の人は泉の件の報告ですか?」
「ええ、流石は迦具土様と豊受姫様ですね。もう解決して頂けたようです」
 おっ! さっきの話はやっぱりそういう事だったんだ。二人の様子からして残念な結果しか思い浮かばなかったけど、上手く解決できてたんだな。

「それなら良かったです。二人してだいぶ酔ってたみたいなんで心配してたんです」
「私も拝見しましたが、非常にご機嫌だったご様子。でも、報告では酒の泉の水位は元に戻ってますし、より上質な酒になってると受けています。まさか一日で解決されるとは思ってもみませんでした。しかも、想定していた以上の好結果に感謝の言葉もございません」

 クラマとマイアの解決の早さも驚きかもしれないけど、その報告の早さの方が二人を知ってる俺としては驚きだよ。マイアとクラマの二人なら解決できるだろうと思ってたから。
 例えば、解決後も二人で飲んでたとか……ありえそうだな。うん、あるな。
 しかも報告する者が、千鳥足の二人を追い越して来たなんて普通に考え着くな。
 それでも、解決してきたんなら許せる範囲か?

 許容範囲が広いのは仕方が無い。そうでもしないと俺の方がもたないんだから。
 ま、解決したのならそっちはいいか。こっちは別の話をさせてもらおう。

「コウホウさん。クラマとマイアの二人は地下牢で酒盛りをさせてますので、明日までは放っておいてくださいね」
「地下牢ですか? なんでまた……」
「なんかヒンヤリして気持ちがいいって言ってましたよ。邪魔されると怒るかもしれないので放っておいた方がいいと思います」
 あんなに酔った二人は初めて見たし、暴れださないとも限らないから放置が一番だと思うんだよ。

「そうなのですか、変わった所がお好きなんですね。分かりました、皆にもそのように伝えておきます」
「ありがとうございます。それで、話は変わるんですが、コウホウさんにお願いがあるんですが」
「はい、なんでしょうか」
「さっき貰った武具は売ってもいいんですよね?」
「ええ、もちろん結構です。酒代の代わりでもある訳ですし、どうぞ売ってください」

 よし! 了承は得られたな。それだけでも十分な儲けにはなりそうだけど、続けないと意味が無い。
 だって、エルダードワーフ達って絶対貧乏だよな。王様も『金は無い!』って言ってたしね。栄えさせようとまでは思ってないけど、もうちょっと人並みな生活をさせたいよな。食事が酒だけって可哀相だよな。
 向こうは望んでないかもしれないけど、作った武器だって放置してるだけなんて勿体無いしね。
 俺も商人だったはずだ。ここは商売させてもらう事にしよう。

「ありがとうございます。それで、さっき倉庫に入れた材料でまた武具を作るんですよね?」
「ええ、もちろん作りますよ」
「だったら、今度はそれを売ってもらえないですか?」
「売る? んですか? 私たちエルダードワーフの作った武具は売れるのですか?」

 そこからか! そりゃ、他とはまったく交流がない状態が何百年と続いているのならそう思うかもな。
「ええ、非常に高く売れると思います。逆に高すぎて買い手が付かないかも」
「それで、高く売れるとどうなるんですか?」

 おっ? ちょっと食いついた? でも、その先が分からない訳ね。お金ぐらいは知ってる? よね?
「高く売れるとですね、そのお金で高いお酒が買えます。それに、酒に良く合う食べ物も買えます」
「おおお! それは、なんと! 夢のようなお話ですね! それでお金とは?」

 やっぱりかい! それに夢のような話なんかでも無いんですけど、普通なんですけど。
 俺は手持ちの金貨や銀貨を見せて説明した。

「ほぅ、お金とは便利なものなのですね。では、早速作らせましょう」
「へ?」
 いやいやいやいや、それ偽造だから。一度やった俺が言うのも説得力が無いかもしれないけど、重犯罪だから!

「作るのはダメなんです! 犯罪になってしまいますから」
「そうでしたか、失礼しました」
「そこで、コウホウさんもそうですけど、そういう商売ができる人がいませんよね?」
 ほとんど口下手しかいないもんね。閉鎖的な里でもあるしね。

「ええ、残念ながらいませんね」
「でしたら窓口要員だけ用意してください。流通のための手配は僕がしますから」
 
 ハイグラッドの商人のバーンズさんに任せればいいだろ。あの人から情報をもらったんだし、武器の事も好きそうだったしね。偶には俺だって誰かに丸投げしたいんだよ!

「あっ! ここって部外者に場所が知れるとダメなんでしたっけ?」
「そうですね、その為に警備で見回りもしていますし、ずっとこの里の伝承として伝わってきた事ですから知れ渡るのは困ります」
 それはちょっと困ったぞ。何か妥協案は無いかな。

「だったら、僕が信用している者がこの森の入り口辺りまで来て、こちらの人とそこでやり取りするって出来ないですか?」
「そのぐらいでしたら目立たないですしいいかもしれませんね。長老部で議題にあげてみましょう」
 あ、コウホウさんって七長老の一人だって言ってたっけ。エルダードワーフの里にもあるんだね、そういう執政機関が。
 皆、口下手なのに会議になるのか? 口下手というか無口なんだけど。

「じゃあ、その件は決まったら教えてください。あと、もう一つ作ってほしいものがあるんです」
「はい、どのようなものでしょうか」
「馬車です」
「馬車? 馬車とはどのようなものなのでしょうか」

 馬車も知らないのか。そりゃ森の中で隔離された里にいるんなら知らなくても仕方が無いか。
 説明するより実際に見てもらった方が早いと思い、収納していた馬車を出した。フィッツバーグ様から頂いた黒塗りの馬車だ。
 俺が出した馬車にコウホウさんは興味津々のようだ。やはりモノづくり種族の血が疼くのだろうか。

「このままでもいいんですが、ちょっとスピードが出すぎると中の座席の振動が激しくて、とても乗ってられないんです。僕もアイデアを提供しますので作ってもらえないですか?」
 天馬達って速いから、ちょっとスピードを出すと中が凄いことになるんだよ。

「ほ~、面白そうですね。これはお借りしてもよろしいのですか?」
「はい、作ってもらえるのならお貸ししますので、どうぞ参考にしてください」
 衛星に魔改造してもらってもいいんだけど、これを何台も作ってもらって、それも商売に繋げられないかと思ったんだよね。

「わかりました。こういうものが好きな者もおりますので、そちらに預けてみましょう」
「それと、中の空間も魔法か何かで広くすることはできませんか?」
 収納アイテムがあるぐらいなんだ、そういうのもあるだろ?

「空間魔法ですね。うちの里の者で得意にしている者はいませんね。うちの里では収納バッグぐらいしか作れませんから」

 ……ん?
「それって作れるって事じゃないの?」
「いえいえ、バッグと馬車では全然違います。収納バッグに生きてる者を入れれば死んでしまいますから」

 あー、なんかそういうルールがあったな。生きてるものは収納不可って。
 でも、収納バッグが作れるんだ。だったらそっちを作ってもらおうかな。何気にエルダードワーフって流石ってとこを見せるね。ニートなのにね。
 ま、ニートって専門知識が凄かったり、ずっと一つの事に没頭できたりするからかもな。
 もう俺の中ではエルダードワーフ=ニートドワーフだな。無口だし。

「じゃあ、そういうのが作れる人を知らない? それと収納バッグってこういうのが作れるって事でいいですか?」
 ニートだから知らないかもしれないけど、職人だからこそ知ってる情報もあると思ったので聞いてみた。
 収納バッグは俺がいつも持ってるものを渡して確認してもらった。

「作れそうな人ですか……そうですね……エンシェント・ドワーフ…いえ、エンシェント・エルフかエンシェントドラゴンぐらいでは無いでしょうか。あと、魔族の上位階位なら作れるでしょうね」
 聞いた事ない種族ばかりなんですが……魔族は知ってるけど、上位階位ね。今まで出会った魔族よりずっと強い存在なんだろうな。

 でも、よくそんな事まで知ってるよな! 物知りなんだねぇ。やはりニートは侮れないな。

「では、拝見致します……」!!!!
 答え終わり、俺が渡した収納バッグを検証したコウホウさんの動きが止まった。

「こ……こ、これは……ななななんじゃこりゃ~!!」

 ……だれ? コウホウさんだよね?

「リーダー殿! いやさリーダー! これをどこで手に入れたー!」

 だから誰? キャラ変わりすぎじゃね?
 猛烈な勢いでコウホウさんに胸倉を掴まれた。痛みは全く無かったが、珍しく衛星が反応しなかったのが不思議だった。
 さっき、ユーに締め付けられた時も反撃しなかったよな。なにか設定が変わったんだろうか。特に指示は出して無いんだけどな。

 そんな事を考える余裕はあったが、コウホウさんの興奮は更に過熱し、俺の胸倉を掴んだまま揺さぶり始めた。

 チッ!

 あっ! それはダメだったんだ。
 衛星がコウホウさんの顎を掠め、コウホウさんが崩れるように俺に寄り掛かってきた。目は……白目になってるね。

 無駄に上がってるレベルのお陰で簡単にコウホウさんを支える事ができた。
 コウホウさんって細身とはいえ、それは他のエルダードワーフに比べてってだけで、十分重いと思う。
 身長は俺より低いのに幅は俺の二倍はあるもん。他のエルダードワーフは俺の四倍はあるけどね。

 貴重な情報は得られたけど、コウホウさんが気絶しちゃったら、何に興奮してたか分かんないし、目覚めるのを待つしか無いね。
 まだ、交渉も煮詰まってないし、一旦地下牢にでも行くか。俺達の寝床は用意してくれてないから、落ち着けるところは地下牢しか思い浮かばない。

 コウホウさんを抱えて、ユーに先導してもらって、クラマとマイアが酒盛りをしてる地下牢へと向かうのだった。
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