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第03章 20枚の地図~護衛依頼編

第03話 マイアの従者

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 北の畑に薬草を植えた夜、明日の予定を考えていた。

 まずは道だな。俺が通るには快適な道なんだけど、【星の家】の人達が安心して通れるようにしてあげたいな。
 前回のように魔物が入れないようにすると、魔物の通り道を塞いでしまうみたいなんで、別の方法を考えないとね。

 次に、買い物だね。農器具全般を買って来ないとな。あと、薬草から薬に精製する道具もね。
 あと、買い取ってくれる所も探さないとな。それだと商業ギルドか。商売を始める時って商業ギルドに登録しないと闇商人に認定されるんだったよな。でも……前回の事があるから、ちょっと行き辛いんだよね。
 商業ギルド自体は問題無かったんだけど、その後に追いかけられたんだよな。
 あれは領主の娘と従者だったという事も分かったし、もう追いかけるなって約束もしてくれたから大丈夫だと思うんだけど、追いかけられた時って商業ギルドの警備員が追いかけて来たんだよな。
 だったら俺が行くと、また追いかけられたりしない? ちゃんと伝えてくれてるかなぁ。

 今やる事としたらそれぐらいかな。後は、この地図だよ。
 20枚の地図を出して眺める。

 一つはそこの池の地下にあるダンジョンだと分かった。
 他にもダンジョンの場所を示す地図が多いけど、他のも人間が管理していないダンジョンなのかな。一度ダンジョンに一人で行ってみようかな。
 この町の管理するダンジョンなら入る許可は貰ってるし、今はレベルも上がってるから他所のダンジョンでも入れるはずだ。
 ダンジョンがどんなものなのか一度しっかりと把握しないとな。楽しい所だったら次も行きたいと思うけど、つまらない所だったら行く必要も無いもんな。

 でも、この20枚の地図。名前が書いてある物がダンジョンの場所の地図なんだろうな。○○迷宮って書いてあるから、たぶんそうだと思う。他の名前が書いてない物は何の地図なんだろう。一枚だけある紙の地図も何の地図か書いてないな。
 なんでこの地図だけ紙なんだろうね。他のは紙とは明らかに材質の異なる獣か魔物の皮だったり、樹を薄くいたものだったりなのに。なんでだろうね、もしかして凄い秘密の隠された地図だとか……ないない。だって盗賊団のアジトにあった地図だよ、そこまで凄い地図があるわけ無いじゃん。

 ……でも、人間が管理してないダンジョンの地図も実際にあったわけだし、もしかすると本当に凄い地図なのかも。
 でも、確かめるのは後だな。まずは明日の事が終わってからだな。
 クラマの尻尾に埋もれて寝るとするか。


 翌日は朝食を終えると、クラマがキッカ達を連れてさっさと出て行った。「昨日の復讐じゃ!」って物騒な事を言いながら出て行ったよ。
 リベンジって言ってくれよ。なんかクラマが復讐なんて言うと、沢山の死人が出そうな気がして怖いよ。誰への復讐なんだよ、まったく。
 昨日行った『漆黒大蛇迷宮ピュートーンダンジョン』に行くだけだよな。
 今日は、俺がいないから魔物も出ると思うよ。

 マイアはしばらくマンドラゴラとアルラウネから離れる事ができないと言って、昨夜から出て行って、まだ帰ってきてない。当分帰れませんので、毎日寄ってください。とは言われている。
 近くだし、頑張ってくれてるんだから、様子は見に行こうとは思ってるよ。


 じゃあ、今日は一人で町までだね。先にマイアのとこでも寄ってから行くかな。またトラブルでもあって帰って来れなかったらマイアに怒られそうだもんね。

 厩舎担当の子供に馬を出してもらって、マイアの所まで乗って行く。
 北の薬草畑に『日』の字のように作った道を通って行く。外周と真ん中に一本、道を通して薬草の種類も道を挟んで分けている。馬車がゆっくり一台通れる程度の幅だけど、十分な広さだと思う。
 町への道と同様に、真っ平になった綺麗な道。馬車で通っても跳ねないだろうね。

 池の畔にマイアが作った隔離ゾーン。柵は無いけど、結界を施してあるそうだ。
 俺には結界は見えないけど、俺は通れるようにはしてくれてるから見えなくてもいいんだけど、馬が入れなかった。
 ゴン! って結界に当たった馬は、ちょっとダメージ食らってた。俺も馬から落ちかけたし。

 結界の中に俺だけ入って、マイアに馬も通れるようにしてもらった。
 さっき見えない何かにぶつかったから、馬が警戒して中々こっちに来てくれなかったけど、ぶつかった場所さえ過ぎれば、後はスムーズだった。

「今から町に行ってくるよ。こっちは順調? いつまで見てないといけないの?」
「いつという事は無いんです。代わりの者を呼び寄せれば私はいなくてもいいのですが、今はこの可愛らしいマンドラゴラとアルラウネを見ているのが楽しくて。見つけて頂いてありがとうございます」
 んー、こんなキモいベビー人面樹が可愛いね。……俺には分からん。

「……喜んでもらえてるみたいで良かったよ。じゃあ、俺は行くね」
「ちょっと待ってください」
「なに?」
「町へ行くのですよね?」
「そうだけど」
「では、魔樹トレントロードまで私も行きます」
 魔樹トレントロード? あ、トレントが沢山いてカモフラージュしてくれてるから?
 命名しちゃったのね。

「見送りに来てくれるの?」
「はい、それもあるのですが気になる事もありまして」
 なんだろ? トレントが気になるの?

「気になる事?」
「はい、行ってみないと分からないものですから」
「ふーん」
 なんだろね?


 マイアと馬に二人乗りで【星の家】の前から始まる、マイアが命名した”魔樹道トレントロード”の入り口にやって来た。

 ”魔樹道トレントロード”の入り口に来ると、マイアは馬から降り、入り口から道に入って行く。俺も馬から降りて、馬を引いて後を付いて行く。

「マイア、どうし……」
 マイアに話しかけようとしたら、手を上げて止められた。
 前方を見ると、三人の女性が道の真ん中でこちらに平伏していた。

「どうですか?」
 マイアから三人の女性に話し掛けた。
 マイアの言葉に、真ん中の女性が顔を上げずに答えた。

「はい、伺っていた通り、ここは魔物の通り道になっているようです。ここにいるトレントだけでは役不足かと思います」
「どうにかできそうですか?」
「はい、私達三人も必要ありませんが、まだすべてを把握した訳ではございませんので、今しばらく三人でいた方がいいと思います」
「わかりました。では、私は池の畔の畑にいますので、何かあったら呼びに来てください」
「「「はい」」」

 えーと、この方達は誰なのかな? マイアの子分?
「えーと……」
「あ、これは失礼しました。この者達は私が従者として召喚した下位の精霊の者達です。左から樹のドライアド、光のサンフェアリー、氷のフラウ。この者達なら一人でも大丈夫でしょうが、クラマさんが心配するほどの魔物が現れるようですので、念のため三人を召喚しました。この者達が、この道を守ってくれるでしょう」

 下位精霊って事は妖精よりは上位の存在なんだよね? その人達がずっと平伏したままって……マイアって実は凄い精霊だったの?
 確かにステータスは凄かったけど、こんなにとは思わなかったよ。
 下位とはいえ、精霊召喚って……普通、俺の精霊召喚のイメージって、精霊と契約して、出て来てもらって何かしてもらうと還って行くって感じで思ってたんだけど、この感じって明らかに主人と従者だよね。

 実は俺にも従者が二人いたんだけど、二人共こんな感じではないよね。ま、今更クラマとマイアがこんな感じになったら逆に引くけどね。

「君たちが、この道を守ってくれるんだ。俺はエイジって言うんだ、よろしくね」
「エ…エイ……イー…エい…イージ」
「え……じ…い…え…」
「エ……様…イ…エ…イー…ジエ…」

 もうそのネタはいいから! 

「……イージでいいです」
「何をおっしゃいます、エ・イ・ジ様。素敵な名前ではございませんか。三人共、この方が私のあるじのエ・イ・ジ様です。粗相のないようにお願いします」

「「「おおお!」」」

 なんで歓声を上げたんだ? どっちだ? 俺があるじって方か? 目線から言ってマイアが名前を言った方だな? 言えてないからね。マイアもそのドヤ顔は認めないから。

「この弱そうなお方がマイアドーランセ様のご主人様でございますか」
「この貧乏そうなお方がマイアドーランセ様のご主人様でございますか」
「このもてないお方がマイアドーランセ様のご主人様でございますか」

 もういい! 既に瀕死状態だよ。それに、もてなさそうじゃなくて、もてない確定なんだね。
 残念ながら合ってるよ…グスン


 さっき思いついて頼みたい事ができたんだけど、今日は無理だな。…主に俺が。
 帰りまでに回復してたら頼んでみよう。

「じゃあ、マイア。行って来るよ」
「はい、お気をつけて」

 三人で俺のお供を譲り合ってるね。
「あ、俺の護衛は必要ないから、君達は他にする事があったら、そっちを優先して」

「「「ホッ…」」」

 なんだよ! それは。そんなにホッとする事ないじゃないか! 本人が目の前にいるんだぞ!
 ダメだ、もう帰って来たく無くなって来た。だって、帰りもこの道を通るんだぞ。

 ……別のとこから帰って来よ。

 まだ昼にも全然遠いのに、この疲れ方は一日の終わりの様だ。もう町に行くの辞めよかなぁ。
 いやいや、これは俺の悪い所だ。明日明日と引き延ばしてもいい事なんて一つも無いんだ。今日できる事は今日やる! 気力を振り絞って町へ行くんだ。

「あの名前がいいにくい人、帰りも通るのかしら?」
「そりゃ通るでしょうね」
「「え―――」」

 だから聞こえてるって。
 もうダメだ。馬よ、頑張って俺を町まで導いてくれ。俺は今から現実逃避のために寝る!
 頼んだぞ! 馬!
 帰りは絶対この道は通らないぞー!

 町への道のりは、いつも以上に遠かった。

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