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第02章 目指せレベル10
第07話 商業ギルド
しおりを挟む馬の件があるから、商業ギルドの場所を教えてもらって尋ねてみる事にした。
何も思いつかなかったら、あんなにたくさんの馬を維持できるはずも無いから売る事になるだろうね。
商業ギルドは冒険者ギルドと同じぐらいの大きさの建物だった。
でも、中に入ってみると、だいぶ雰囲気が違う。イカツイおっさんはいないし、静かだ。
窓口は全部で四つあるけど、奥は小部屋が多くあるみたいだな。
冒険者のように装備を着けた人なんて一人も見当たらないね。俺だけだよ。
ちょっと恥ずかしいなと思いながら窓口へ。ここも受付は全員お姉さんだ。
確かに、賭けをしていた冒険者の言ってた事を思い出したね。一番入り口から近い左端の窓口に行っちゃったもんね。
「すみません」
「はい、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「はい、少し相談がしたくて」
「相談でございますね。どのコースにされますか?」
「コース?」
「はい、三十分、一時間、時間無制限とございます。三十分は銀貨一枚、一時間は銀貨二枚ですが飲み物が付きます。時間無制限は銀貨五枚でございます」
相談だけでお金を取るんだ。しっかりしてるね。
飲み物は別にいらないし、三十分でいいね。
「じゃあ、三十分でお願いします」
「かしこまりました。今、担当の者も手が空いてるようですので、すぐに迎えに来させます。先に銀貨一枚をお支払い頂いて、そちらの席でお待ち頂けますか」
「わかりました」
と、銀貨一枚を受付のお姉さんに渡して、交換に割符を渡され支持された席で待った。
すぐに担当と思われるお姉さんがやってきた。
目が合ったので割符を見せると、お姉さんが持っていた割符と合わせ、符号する事を確認してくれた。
そのまま奥に誘導され、個室に入った。
そこには四人掛けのテーブルがあり、椅子も四つあった。
奥の席へと促され、奥へと行くと挨拶をしてくれた。
「改めまして、ようこそ商業ギルドへ。今回担当させていただきます、ダンバードルと申します」
丁寧な挨拶をしてくれた男性はダンバードルと名乗り、お辞儀をしてくれた。
「はい、僕はエイジ・ホシミと言います。最近、この町に来た所で、冒険者登録をしたばかりです」
「エイージ・ホッシミ様ですね。どうぞお掛けください」
やっぱり俺の名前はそうなるのか。言い難そうだし、もうイージでいいって自分から言っちゃおうか。
「今日はどのようなご相談ですか?」
席に座ると早速問いかけられた。と、その前に。
「はい、相談というのは馬の事なんですけど、その前に、僕の名前が呼びにくければイージで結構ですから。皆がそう呼びますので」
「では、お言葉に甘えまして、イージ様とお呼びいたします。ご配慮感謝いたします。それで、馬の事でのご相談というですが、どのような事でしょうか」
「はい。今回、盗賊団を捕まえた事で、馬が十四頭手に入ったんですが、その馬を使って何かできる商売は無いかと思いまして相談に来ました」
「え!? 失礼ですが、今盗賊団を捕まえたとおっしゃいましたか?」
「はい……」
あれ? 食いついた? 言ったらマズかったかな?
「それは先日捕らえられたトコトコ団の事ですか?」
プッ! 通り名って、通用してたんだ。
「はい、それですね」
俺がトコトコ団って口から出すと吹いちゃいそうになるから自重したよ。顔はニヤついていると思うけど。
「あれをあなたがねぇ……」
ええ、わかってますよ。弱そうなんでしょ。確かにレベル1ですよ!
「信じられないですよね。でも、馬があるのは本当なので、それで何か商売ができないかと相談に来たんです。何も無ければ売るだけですが、勿体無いと思いまして」
「いいですね、その勿体無いという考えは商人向きな発想です。そしてそのために新しい事を考える。あなたは冒険者より商人に向いているのかもしれませんね」
そうかもしれないけど、今は仲間もできたしダンジョンにも行きたいんだよね。
戦う商人か。どっかにいたね、正義のアナログ計算機を持ってた丸い身体のヒゲおじさんが。
ただ、ケンとヤスの出来次第では、すぐに商業ギルドに切り替える事も考えないといけないけどね。
「それで、何かありませんか? 思いつくものといったら、荷物や人を運ぶ運搬ぐらいしかなくて。あ、馬車も五台あります」
「そうですね、馬車での仕事というと確かに運搬しかありませんね。あとは農耕か」
やっぱりそうだよなぁ。でも、農耕って、もう少し捻ると何か出てきそうなんだけどなぁ。
「あと、私が思いつくところでは屋台でしょうか。いずれにせよ、この町で商売をされる時には商業ギルドでご登録ください。登録をされなければ闇業者として処罰対象になりますからご注意ください」
「処罰!?」
「はい、この商業ギルドは領主と関係が深いギルドです。店を出すにも商売を始めるにも税金を納めていただかなければいけません。その管理を任されているのが商業ギルドなのです」
ほー、そうだったんだ。知らなかったよ、来てよかったね。知らなきゃ勝手に屋台とか出してたかもしれないよ。それを聞けただけでも来た甲斐があるよ。
ダンジョンは冒険者ギルドで商売は商業ギルドね。覚えとこ。
あれ? 買い取りって商業ギルドっぽいんだけど、どうなんだろ。
「始める場合の登録の件は分かりました。ありがとうございます。それとは、少し違うかもしれませんが、買い取りってどうなってるんでしょう。魔物の素材や薬草は冒険者ギルドで買い取ってもらったんですが」
「買い取りですね。確かに魔物の素材や薬草は冒険者ギルドが得意としていますね。ただ、私共商業ギルドも買い取りはしておりますが、魔物の素材と薬草以外ですね。その分野では冒険者ギルドには負けていますので、余程の大口で無ければお断りさせて頂いております。最近、大口の薬草買い取りがあったと噂を聞きましたが、こちらで買い取りさせて頂ければと残念に思っていた所です」
ドキッ! 薬草の件は噂になってたんだね。
でも、それ以外だと何があるの?
「他の買い取りってどんなのがあるんですか?」
「他では代表的な所で魔石や宝石ですね。他にも料理の素材や調味料、家の売買に人材の斡旋なども手掛けております」
お、買い取り品も興味をそそるものばかりだけど、人の斡旋ってどういう人を斡旋してくれるんだろ。
「人の斡旋って、どういう人を紹介してくれるんですか?」
「様々ございますね。建設現場の職人から料理屋の料理人、八百屋の売り子から服屋の計算係など、少々割高ではありますが、皆様に喜ばれております」
人材派遣業までやってるんだ、幅広いね。でも、計算をできる人を斡旋してもらえばケンとヤスでも商売はできるかもね。
そういや魔石って見た事ないんだけど、俺のチート知識だと魔物から取れる核みたいなもんじゃなかったっけ? それなら衛星が持ってるんじゃないの?
ちょうどいいから今聞いてみようか。どうせ日本語なんて分からないだろうし、ここで出しても問題ないだろ。一応、小さな声で。
《衛星、魔石を持ってるなら平均的な大きさの物を一個出してくれない?》
コロン
目の前のテーブルの上に宝石を荒くカットしたような黒い石が出てきた。大きさとしては縦五センチ幅三センチぐらいの六角形のような感じの石だ。綺麗だけど荒削りって感じだな。
「お!? それは魔石ですか? どこから出したんですか?」
「んー……収納バッグから出しました」
「おお! 収納バッグもお持ちなんですね」
なんとかごまかせた? このまま話を進めてごまかそう。
「これって魔石だと思うんですが、これでいくらで買い取ってくれますか?」
「魔石の買取ですね。これでしたら大きさとしては(中)になりますし、傷も無く程度も非常にいいですから、金貨一枚ですね」
「(中)ですか?」
平均的な大きさのものって言ったからね。
「はい、魔石の大きさは(特大)(大)(中)(小)(クズ)と五段階ありまして、この大きさですと(中)に当たりますね」
そろそろ三十分ですが、今日は後もつかえてませんし延長できますよ。と言われたが、断って出した魔石を一個売って金貨一枚もらって商業ギルドから出た。
商業ギルド登録はお早めにって言われたけど、登録するかどうかも分かんないしね。
商業ギルドを出ると、ちょうど馬車が来た。
別に轢かれそうにはならなかったけど、見た事のある馬車だったので、誰が降りてくるのか見ていた。
だって御者には知ってるネコ耳が座ってんだもん。
あれって盗賊から助けたターニャで間違いないと思うんだよな。
黒塗りの豪華な馬車は商業ギルド前で止まると、中から女の剣士と大人の男女、最後に女の子が降りて来た。俺は馬の少し前にいるから向こうからも見えてると思うんだけどな。
あれも女剣士のケニーだし、フィッツバーグって名乗った女の子だろ? やっぱり町にいたんだ。
でも、俺から逃げるように消えたわけだし、声を掛けていいもんか迷うね。
「みゃー! エイージなのニャ! ケニー、エイージがいたのニャ!」
え? なに? これって逃げなきゃヤバい展開とかじゃ無いよね?
「なに! エイージがいただと? どこだ!」
なんかケニーが凄い形相で戻って来るんだけど、まさか俺に剣を向けて来たりしないよね。
ちょっと怖いんですけど。
《衛星達ー、全力で俺を守ってよ。かなりヤバい気がするんだよ》
『Sir, yes, sir』
凄い形相のまま、ケニーは馬車を通り過ぎ、俺の方まで全力で走って来る。
俺は何してるかって? そりゃ、足がすくんで動けないんですよ。はは
俺に向かって走って来るケニー。
動けない俺。
みゃーみゃーうるさいターニャ。
俺を確認したケニーは、迷うこと無く俺を目指している。
その全力疾走の勢いのまま、俺に向かってダーイブ!
怖ぇ~
ゴンゴンゴンゴン! ドサッ
ケニーは衛星に迎撃され、後僅かな所で俺に届かなかった。
この音ってよく聞くね。人間に対しての迎撃した音だったんだね。そういやケニーに始めて会った時にも聞いたね。
額・喉・鳩尾の三点攻撃。今回は一つ多かったね、あー、上からの攻撃で地面に叩き落としたんだな。
あれ? キッカも同じとこを怪我してたね。……? いつ迎撃されたんだ?
取り敢えず、ここは逃げた方がいいよね。俺のビビりセンサーが、そう警告してるよ。
ケニーの凄い形相の呪縛から解けた俺は、動けるようになった。
あの顔は怖かったもんね。
馬車に背を向け逃げようとした時、二つの声が掛かった。
「エイージ! 待つのニャー!」
「待ってください!」
一つはターニャの声だな。もう一つは、女の子の声って事は……
振り返るとフィッツバーグって名乗ってた少女が馬車の横まで戻って来ていた。
ネコ耳ターニャや怖い形相の女剣士ケニーと違って、俺の事を捕まえるって雰囲気じゃないな。
でも、警戒は解かずにおこう。
衛星の全力守護のお願いを解かずに相手の出方を待つ事にした。
俺は半身を振り返った状態で、いつでも逃げられる体勢のまま、少女の言葉を待った。
「エイージ! 待ってください! ずっと探してたんです。どうかお願いです、逃げないでください」
探してた? 俺を? なんで? 君達が俺から逃げたんじゃないの?
そう思ってると、さっき馬車から降りた大人の男女も少女の後ろにやって来た。商業ギルドの警備員も連れている。
やっぱヤバそうだ。逃げよ。
俺は逃げた。
レベル1だから遅いけどね。
でも、衛星の補助もあり、逃げ切ったよ。
衛星の一つが俺を誘導してくれて、逃走経路を教えてくれる。幾つかの衛星は落とし穴とか作って、追跡を妨害してくれた。
衛星の誘導通り、真っ直ぐ宿には向かわずに、遠回りをして宿に戻った。
なんだったんだろう。
なんであんなに必死で捕まえに来たんだろう。口封じか? なんの?
白昼堂々と来るとは思えないけど、フィッツバーグって、ここの領主の名前だとも言ってたし、その所縁の者なら証拠隠滅とかも簡単にできそうだよな。
しばらくは商業ギルド方面に行くのは辞めておこう。
少し待つと、キッカ達も帰って来た。
三人とも凄く嬉しそうな顔で帰って来た。
真新しい装備を着けてるね。革の装備みたいだけど、俺から見ても三人供、格好いいよ。
「おかえり。三人供、凄く格好いいよ。まるで冒険者みたいだよ」
「「「冒険者だよ!」」」ってツッコまれた。
別にボケたつもりは無かったんだけどね。
今からだと、町の外に行っても何も出来ないし、今日はゆっくり休んで明日から魔物討伐に行く事にした。
一応ね、パーティを組むんだから一度は一緒に討伐に行ってみたいじゃないか。
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