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第12章 二つ目の地域制覇へ
第24話 ヘルファン入り
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さて、思わぬ寄り道になってしまったけど、やり切ってしまわないと後々問題が起きそうだ。
なので、一度ヘルファンの町へ戻って、誰かを輸送係に任命しないとね。
あとは、こっちへ持って来るものも考えて、初めは物々交換ぐらいから始めればいいか。
はて、俺はなんでこんな漁村まで来ていたんだろう。
んん! そうだった! 地図だよ! 衛星の地図巡りに来てたんだよ。
そのためにユーまで怒らせたのに、色々予想外の事がありすぎて忘れちゃってたよ。
でもなぁ、先にこっちの件をやっておかないと、だよな。さすがに『ここからは勝手にやってよ』ってわけには行かないもんな。
「じゃあ、一度近くの町を経由してヘルファンの町に行って来ますので、こちらはこちらで準備しておいてください」
「んだ、こっちの事は任せるだべ。海神様も、例の件、くれぐれもよろしくづら」
「ああ、下着なんかの衣服の件だね。特に女性物だったよね」
「シーッ! 声が大きいだべ! オラは服が欲しいと言っただけだべ!」
どれぐらいの価格で売りたいかなどの相談をした時、まったく想像できないと言うので、欲しい物との交換を提案すると、衣服の話になり、そこから派生した下着の話になり、最後は「男もんの乳バンドは無ぇんだべか?」と興味津々に問われたりした。
この村ではブラジャというものが存在していないため、女性物の下着があるというだけで村長の取り巻きの男達は皆、下着の話しかしなくなった。
そして最後の村長の変態発言。何故に自分がブラジャをしたくなったのかは知らないけど、他の男衆も同意してたように見えた。
うん、今日からこの漁村を『変態村』と呼ぼう。
そういう一幕があったのだから、女性物の下着を熱望してるのかと思って聞いたんだけど、村長には拒否されてしまった。
年を食ってても恥かしかったようだ。
「そうだべ! 村長はただのスケベじゃねぇんだべ!」
「んだんだ、村長は筋金入りのスケベなんだべ!」
「村一番だべさ!」
取り巻き達が村長を庇う発言をする。
それって、庇ってないよね? 逆に貶してない?
「まんづ~それほどでも、あるづら?」
え? 褒められてたの? 絶対褒められてないと思うよ?
「んだんだ」と肯く男衆。
ダメだ、この村の常識にはとても付いて行けない。
俺もスケベは自覚してるけど、他人にスケベを称えられても喜べないって。女子からならご馳走だったりする場合もあるけどね。
村長とその取り巻き(ほぼ漁師達)に見送られ漁村を後にした。
もちろん移動は天馬のノワールにユーと二人乗りだ。
一応、空は飛んで行くけど、衛星が作ってくれた街道の上を低空で飛んでもらう。
ユーが来る時は低く飛んだんだから帰りは高く飛べとゴネたが、街道の出来を見るためだと言って渋々我慢してもらった。
うん、良い言い訳があってよかったよ。
それでもノワールに高速で飛んでもらったからヘルファンの町まで一日も掛からず辿り着いた。
漁村近くの町? 途中の町? 知らねーよ、一瞬で通り過ぎちゃったから街道の良し悪しすら分かんなかったよ。
ヘルファンの町に着くと、まずは入門のための行列に驚いた。
臨時で人用に三列、馬車用に二列取ってるみたいだけど、全然追いついてない。列の最後尾が霞んで見えないよ。
これに並ぶのー? こんなのに並んでたら今日中に入れないんじゃない?
「エイジ、もう飛び越えちゃおうよ」
いやいや、俺はここでは結構顔が売れてるからすぐにバレちゃうでしょ! 後でどんな罰が待ってるか分かんないし、別の意味で勇者の称号がもらえちゃうレベルだと思うぞ?
「それはダメでしょ! それって犯罪だろ?」
「入門って身分証明と、持ち物検査だけでしょ? それってエイジにいるの?」
「そう言われてみればそうかもしれないけど……」
「でしょ? だったら飛び越えちゃってもいいよね? だって、あんなに並んでらんないよ」
「でも、貴族だって順番抜かしはするかもしれないけど、ちゃんと門から入るのに」
「それは壁を飛び越えられないからじゃない。ノワールだったらひとっ飛びよ! ね、ノワール!」
『御意! 然らば飛び越えて見せましょう』
「いやいや見せなくていいから。それにノワールのってジャンプじゃなくてフライの方だからね」
何気に脚力自慢してるけど、ただ飛んでるだけだから。
たしかに脚力も凄いとは思ってるけど、それとこれとは違うでしょ。
「イージ卿!」
列に並ぶかどうかユーと揉めてると、一人の門兵が気付いたようで、声を掛けられた。
その声で一斉に注目が集まる。
一気に全員がこちらを向くって、凄い圧があるよな。結構ビビるぜ。
「イージ卿! 入門されるのですか?」
「う、うん、そのつもりなんだけど、これって入れるまでの予想時間って何時間なの?」
馬上から失礼だとは思ったけど、このまま列の最後尾まで行くのに歩いて行くのは辛いので、そのままノワールに乗ったまま話をした。
「やや! お久し振りのお越し、僭越ながら皆を代表して大歓迎いたします。ささ、こちらへどうぞ! あ、馬からは降りなくて結構です、そのまま私に付いて来てください。しかし、いつ見ても立派な馬ですなぁ」
「え? このまま?」
「はい、イージ卿がお忙しい方なのは周知の事実。誰も咎める者などおりません。逆に、下馬させたとあっては、私が罰を受けてしまいます」
確かに忙しいけど、そこまでしてもらうのも躊躇っちゃうな。
何度も馬だ馬だと言われてノワールの機嫌が少し悪くなってるけど、町に入る時は毎度の事なので慣れては来ているようだ。
実際は天馬だけど、羽も無いから少し大きい馬ぐらいにしか認識されてない。
そんなノワールの不機嫌な様子も分からないほど、戸惑ってしまった。
「でも、皆並んでるのに…いいの?」
「エイジ! せっかく並ばなくてもいいって言ってくれてるんだから、さっさと入りましょうよ」
「でも……やっぱり悪いよ」
「壁を越えるよりは悪くないと思うわよ?」
「うぐっ…でもそれを言い出したのは……」
「ほら! 呼んでるわよ。早く行こうよ!」
言いだしっぺはユーなのに、何故か俺のせいにされてる。ふっ、さすが勇者だな。
これだけ注目を集め、多くの視線に晒されるのはキツかったので、ユーの言うように門兵さんを追いかけた。
「でも、本当にいいの?」
「当然です! イージ卿はこの町の者、引いてはこの国の者達の大恩人なのです。スタンピードから砦を護り、救助・復興に尽くされ、町の下水問題を解決され、食糧事情を改善、更にケーキなどの嗜好品なども手掛け、あの気位が高く気難しいエルフを手懐け、ダンジョンを作り冒険者ギルドにも貢献、風呂や温泉宿にも従事され、町のマスコット的守護神のモックン様の主人でもあらせられる。それほどの殊勲者であるイージ卿が優先的に入門されたからと言って文句を言う者など一人もおりません。ここでイージ卿を見落として列に並ばせる事になってたらと思うとゾッとします」
そうなってたら自分は良くて左遷、悪ければ追放処分だったのではないかと胸を撫で下ろしてる門兵さん。
それはいくらなんでも大袈裟すぎるだろう、と思ってたけど、見える範囲の門兵や、列に並んでる人達が全員一斉にウンウンと肯いてるのを見て、そう大袈裟でも無いんだと納得させられた。
自分で思ってたより、物凄く有名になってたんだな。
いい意味での有名人だから安心したけどね。
それから門を潜るまで、門兵は俺の貢献度順位を自分の自慢のように語ってくれた。
一位はマヨネーズで、二位はケーキなんだそうだ。一位と二位は僅差で甲乙付け難く、他の下水処理や食糧問題を大きく突き放してるのだとか。それが兵や住民の総意だとか、意味が分からん。
門兵をやってるって事は、領兵か王国兵なんだろ? 住民はともかく、兵隊さん達がそんな考えでいいのか?
冒険者ギルドカードなどの身分証も見せずに、ユー共々顔パスで町へと入った。
何度も「どもすみません」的にウッスウッスと頭を下げるその姿からは、誰もエイジの事を英雄と呼ばれている者だとは思わないだろう。身バレはしてるので、その姿さえも尊いと思って見ている者も中にはいるようだが、完全なる勘違いなのである。
威厳も何も無い所作だが、そこはビビリの小心者だから仕方が無い。周りから崇拝されるような実績はあっても、それは自分の実力ではなく、衛星によるものなのだからエイジには堂々と誇れる自信に繋がってないのだ。
「それで何処に行くの?」
「うん、行き先は目の前だよ」
ユーに聞かれて行き先を指差した。
その示された場所―――門を入ってすぐ目の前の行列を見て、ユーが溜息をついた。
「せっかく並ぶのを免除してもらったのにー」
【星大食堂】は本日も大盛況のようだ。
確かにあの行列には並びたくない。
「あの列には並ばないって。行き先は、その裏にある大倉庫だよ」
「並ばなくていいの!? でも、あれだけ大盛況って事は美味しいんでしょ? ちょっと食べたいかも!」
「うん? いつも食べてる物の方が美味しいんだけど。あの店のメニューは全部いつも食べてる料理の劣化版だよ?」
「いいの! 所変われば味も変わるの! お店で食べたいって言ってるの!」
そういうものなのか? う~む、BBQなんかだとそうかもしれない。お店ではお金を払うんだし、美味しいものの方がいいと思うんだけどな。女子的な考えなんだろうか。
「分かったよ、後で店の中で食べられないか聞いてみるよ」
「ホント!? エイジ、ありがとう!」
「ぐうぅぅ……ギブギブ……」
テンションの上がったユーに抱きつかれるのは嬉しいんだけど、力の入れ加減をもう少し調整してほしい。
ユーの手をパンパンとタップしてギブアップの意思を示した。
これってカップルの行動としてはどうなのかと思ってしまうのは俺だけだろうか……
ユーのベアバッグ的な抱擁から逃れ、息を整えてから大倉庫に入った。さすがにノワールからは下馬している。
「お疲れ様ー、カミラさんはいるかな?」
商業ギルド職員で俺の担当であるカミラさんなら、今回の漁村との取り引きに丁度いい人材だと思って探してみたが、食堂の方に行ってるのか、ここにはいないようだった。
その代わりに声を掛けてきた人が何人かいた。
「エイジ様! おかえりなさいませ!」
「お疲れ様です! エイジ様!」
「こっちは順調ですよ!」
「イージ卿、もう旅はお済みですか? 予定より随分早いようですが」
「イージ卿! 新しいメニューを思いついたのですか!?」
エルフトリオのトンチンカンと、倉庫に常駐してる商業ギルドの二人、査定官のサティさんと会計係兼務のアセスさんが出迎えてくれた。
トンチンカンは普通に出迎えてくれたのに、サティさんはまだ普通の出迎えだけど、アセスさんの新メニューって。食堂はいっぱいいっぱいなんじゃないの?
五人の声に反応して、三十台の大型オーブンの前にいるパン職人や、料理待ちのエルフもこちらに気付いて挨拶を投げかけて来た。
それぞれに反応するように手を挙げて答えてたんだけど、気が付いたらユーがいない。
「彼女はお連れ様ですか?」
「え? あっ! ユー!」
サティさんに言われ、ユーを見つけたが、時既に遅し。
ユーはあちこちでツマミ食いをしてた。
ここは試食コーナーか! と言いたくなるぐらい、蜂蜜たっぷりパンケーキや出来上がって来る料理をツマミ食いしてた。
もちろん試食コーナーでは無いのでガッツリと一皿あるのだが、そんなの関係ないとばかりに何皿も受け取っていた。
会計係でもあるアセスさんに、あの分は支払いますのでとお詫びをし、五人に向かって漁村との交易について相談するのだった。
なので、一度ヘルファンの町へ戻って、誰かを輸送係に任命しないとね。
あとは、こっちへ持って来るものも考えて、初めは物々交換ぐらいから始めればいいか。
はて、俺はなんでこんな漁村まで来ていたんだろう。
んん! そうだった! 地図だよ! 衛星の地図巡りに来てたんだよ。
そのためにユーまで怒らせたのに、色々予想外の事がありすぎて忘れちゃってたよ。
でもなぁ、先にこっちの件をやっておかないと、だよな。さすがに『ここからは勝手にやってよ』ってわけには行かないもんな。
「じゃあ、一度近くの町を経由してヘルファンの町に行って来ますので、こちらはこちらで準備しておいてください」
「んだ、こっちの事は任せるだべ。海神様も、例の件、くれぐれもよろしくづら」
「ああ、下着なんかの衣服の件だね。特に女性物だったよね」
「シーッ! 声が大きいだべ! オラは服が欲しいと言っただけだべ!」
どれぐらいの価格で売りたいかなどの相談をした時、まったく想像できないと言うので、欲しい物との交換を提案すると、衣服の話になり、そこから派生した下着の話になり、最後は「男もんの乳バンドは無ぇんだべか?」と興味津々に問われたりした。
この村ではブラジャというものが存在していないため、女性物の下着があるというだけで村長の取り巻きの男達は皆、下着の話しかしなくなった。
そして最後の村長の変態発言。何故に自分がブラジャをしたくなったのかは知らないけど、他の男衆も同意してたように見えた。
うん、今日からこの漁村を『変態村』と呼ぼう。
そういう一幕があったのだから、女性物の下着を熱望してるのかと思って聞いたんだけど、村長には拒否されてしまった。
年を食ってても恥かしかったようだ。
「そうだべ! 村長はただのスケベじゃねぇんだべ!」
「んだんだ、村長は筋金入りのスケベなんだべ!」
「村一番だべさ!」
取り巻き達が村長を庇う発言をする。
それって、庇ってないよね? 逆に貶してない?
「まんづ~それほどでも、あるづら?」
え? 褒められてたの? 絶対褒められてないと思うよ?
「んだんだ」と肯く男衆。
ダメだ、この村の常識にはとても付いて行けない。
俺もスケベは自覚してるけど、他人にスケベを称えられても喜べないって。女子からならご馳走だったりする場合もあるけどね。
村長とその取り巻き(ほぼ漁師達)に見送られ漁村を後にした。
もちろん移動は天馬のノワールにユーと二人乗りだ。
一応、空は飛んで行くけど、衛星が作ってくれた街道の上を低空で飛んでもらう。
ユーが来る時は低く飛んだんだから帰りは高く飛べとゴネたが、街道の出来を見るためだと言って渋々我慢してもらった。
うん、良い言い訳があってよかったよ。
それでもノワールに高速で飛んでもらったからヘルファンの町まで一日も掛からず辿り着いた。
漁村近くの町? 途中の町? 知らねーよ、一瞬で通り過ぎちゃったから街道の良し悪しすら分かんなかったよ。
ヘルファンの町に着くと、まずは入門のための行列に驚いた。
臨時で人用に三列、馬車用に二列取ってるみたいだけど、全然追いついてない。列の最後尾が霞んで見えないよ。
これに並ぶのー? こんなのに並んでたら今日中に入れないんじゃない?
「エイジ、もう飛び越えちゃおうよ」
いやいや、俺はここでは結構顔が売れてるからすぐにバレちゃうでしょ! 後でどんな罰が待ってるか分かんないし、別の意味で勇者の称号がもらえちゃうレベルだと思うぞ?
「それはダメでしょ! それって犯罪だろ?」
「入門って身分証明と、持ち物検査だけでしょ? それってエイジにいるの?」
「そう言われてみればそうかもしれないけど……」
「でしょ? だったら飛び越えちゃってもいいよね? だって、あんなに並んでらんないよ」
「でも、貴族だって順番抜かしはするかもしれないけど、ちゃんと門から入るのに」
「それは壁を飛び越えられないからじゃない。ノワールだったらひとっ飛びよ! ね、ノワール!」
『御意! 然らば飛び越えて見せましょう』
「いやいや見せなくていいから。それにノワールのってジャンプじゃなくてフライの方だからね」
何気に脚力自慢してるけど、ただ飛んでるだけだから。
たしかに脚力も凄いとは思ってるけど、それとこれとは違うでしょ。
「イージ卿!」
列に並ぶかどうかユーと揉めてると、一人の門兵が気付いたようで、声を掛けられた。
その声で一斉に注目が集まる。
一気に全員がこちらを向くって、凄い圧があるよな。結構ビビるぜ。
「イージ卿! 入門されるのですか?」
「う、うん、そのつもりなんだけど、これって入れるまでの予想時間って何時間なの?」
馬上から失礼だとは思ったけど、このまま列の最後尾まで行くのに歩いて行くのは辛いので、そのままノワールに乗ったまま話をした。
「やや! お久し振りのお越し、僭越ながら皆を代表して大歓迎いたします。ささ、こちらへどうぞ! あ、馬からは降りなくて結構です、そのまま私に付いて来てください。しかし、いつ見ても立派な馬ですなぁ」
「え? このまま?」
「はい、イージ卿がお忙しい方なのは周知の事実。誰も咎める者などおりません。逆に、下馬させたとあっては、私が罰を受けてしまいます」
確かに忙しいけど、そこまでしてもらうのも躊躇っちゃうな。
何度も馬だ馬だと言われてノワールの機嫌が少し悪くなってるけど、町に入る時は毎度の事なので慣れては来ているようだ。
実際は天馬だけど、羽も無いから少し大きい馬ぐらいにしか認識されてない。
そんなノワールの不機嫌な様子も分からないほど、戸惑ってしまった。
「でも、皆並んでるのに…いいの?」
「エイジ! せっかく並ばなくてもいいって言ってくれてるんだから、さっさと入りましょうよ」
「でも……やっぱり悪いよ」
「壁を越えるよりは悪くないと思うわよ?」
「うぐっ…でもそれを言い出したのは……」
「ほら! 呼んでるわよ。早く行こうよ!」
言いだしっぺはユーなのに、何故か俺のせいにされてる。ふっ、さすが勇者だな。
これだけ注目を集め、多くの視線に晒されるのはキツかったので、ユーの言うように門兵さんを追いかけた。
「でも、本当にいいの?」
「当然です! イージ卿はこの町の者、引いてはこの国の者達の大恩人なのです。スタンピードから砦を護り、救助・復興に尽くされ、町の下水問題を解決され、食糧事情を改善、更にケーキなどの嗜好品なども手掛け、あの気位が高く気難しいエルフを手懐け、ダンジョンを作り冒険者ギルドにも貢献、風呂や温泉宿にも従事され、町のマスコット的守護神のモックン様の主人でもあらせられる。それほどの殊勲者であるイージ卿が優先的に入門されたからと言って文句を言う者など一人もおりません。ここでイージ卿を見落として列に並ばせる事になってたらと思うとゾッとします」
そうなってたら自分は良くて左遷、悪ければ追放処分だったのではないかと胸を撫で下ろしてる門兵さん。
それはいくらなんでも大袈裟すぎるだろう、と思ってたけど、見える範囲の門兵や、列に並んでる人達が全員一斉にウンウンと肯いてるのを見て、そう大袈裟でも無いんだと納得させられた。
自分で思ってたより、物凄く有名になってたんだな。
いい意味での有名人だから安心したけどね。
それから門を潜るまで、門兵は俺の貢献度順位を自分の自慢のように語ってくれた。
一位はマヨネーズで、二位はケーキなんだそうだ。一位と二位は僅差で甲乙付け難く、他の下水処理や食糧問題を大きく突き放してるのだとか。それが兵や住民の総意だとか、意味が分からん。
門兵をやってるって事は、領兵か王国兵なんだろ? 住民はともかく、兵隊さん達がそんな考えでいいのか?
冒険者ギルドカードなどの身分証も見せずに、ユー共々顔パスで町へと入った。
何度も「どもすみません」的にウッスウッスと頭を下げるその姿からは、誰もエイジの事を英雄と呼ばれている者だとは思わないだろう。身バレはしてるので、その姿さえも尊いと思って見ている者も中にはいるようだが、完全なる勘違いなのである。
威厳も何も無い所作だが、そこはビビリの小心者だから仕方が無い。周りから崇拝されるような実績はあっても、それは自分の実力ではなく、衛星によるものなのだからエイジには堂々と誇れる自信に繋がってないのだ。
「それで何処に行くの?」
「うん、行き先は目の前だよ」
ユーに聞かれて行き先を指差した。
その示された場所―――門を入ってすぐ目の前の行列を見て、ユーが溜息をついた。
「せっかく並ぶのを免除してもらったのにー」
【星大食堂】は本日も大盛況のようだ。
確かにあの行列には並びたくない。
「あの列には並ばないって。行き先は、その裏にある大倉庫だよ」
「並ばなくていいの!? でも、あれだけ大盛況って事は美味しいんでしょ? ちょっと食べたいかも!」
「うん? いつも食べてる物の方が美味しいんだけど。あの店のメニューは全部いつも食べてる料理の劣化版だよ?」
「いいの! 所変われば味も変わるの! お店で食べたいって言ってるの!」
そういうものなのか? う~む、BBQなんかだとそうかもしれない。お店ではお金を払うんだし、美味しいものの方がいいと思うんだけどな。女子的な考えなんだろうか。
「分かったよ、後で店の中で食べられないか聞いてみるよ」
「ホント!? エイジ、ありがとう!」
「ぐうぅぅ……ギブギブ……」
テンションの上がったユーに抱きつかれるのは嬉しいんだけど、力の入れ加減をもう少し調整してほしい。
ユーの手をパンパンとタップしてギブアップの意思を示した。
これってカップルの行動としてはどうなのかと思ってしまうのは俺だけだろうか……
ユーのベアバッグ的な抱擁から逃れ、息を整えてから大倉庫に入った。さすがにノワールからは下馬している。
「お疲れ様ー、カミラさんはいるかな?」
商業ギルド職員で俺の担当であるカミラさんなら、今回の漁村との取り引きに丁度いい人材だと思って探してみたが、食堂の方に行ってるのか、ここにはいないようだった。
その代わりに声を掛けてきた人が何人かいた。
「エイジ様! おかえりなさいませ!」
「お疲れ様です! エイジ様!」
「こっちは順調ですよ!」
「イージ卿、もう旅はお済みですか? 予定より随分早いようですが」
「イージ卿! 新しいメニューを思いついたのですか!?」
エルフトリオのトンチンカンと、倉庫に常駐してる商業ギルドの二人、査定官のサティさんと会計係兼務のアセスさんが出迎えてくれた。
トンチンカンは普通に出迎えてくれたのに、サティさんはまだ普通の出迎えだけど、アセスさんの新メニューって。食堂はいっぱいいっぱいなんじゃないの?
五人の声に反応して、三十台の大型オーブンの前にいるパン職人や、料理待ちのエルフもこちらに気付いて挨拶を投げかけて来た。
それぞれに反応するように手を挙げて答えてたんだけど、気が付いたらユーがいない。
「彼女はお連れ様ですか?」
「え? あっ! ユー!」
サティさんに言われ、ユーを見つけたが、時既に遅し。
ユーはあちこちでツマミ食いをしてた。
ここは試食コーナーか! と言いたくなるぐらい、蜂蜜たっぷりパンケーキや出来上がって来る料理をツマミ食いしてた。
もちろん試食コーナーでは無いのでガッツリと一皿あるのだが、そんなの関係ないとばかりに何皿も受け取っていた。
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