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第11章 プロジェクト

第16話 嘘から捻り出た真①

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 早速、砦でのイベント手配に走ります。というコーポラルさんと別れ、俺は地下施設のモックンを訪ねた。
 コーポラルさんには人間側だけの手配を頼み、エルフ側は俺が伝えると言ってある。エルフにも口裏を合わせてもらわないといけないからね。

『ようこそいらっしゃいました、エイジ様。今日は何かご用でしょうか』

 いつもながら堅苦しい挨拶をしてくるモックン。誰とでもこの口調だから、これがモックンの素なんだろうね。

「うん、ちょっと…いや、非常に困っててモックンに相談に来たんだ」
『我に出来る事でしたら、何なりとお申し付けください』
「ありがとう、助かるよ。相談というのはね、ベイビーズの事なんだ」
『我の子供達が如何いたしましたか』
「砦にいるベイビーズって、どうやったら進化するの?」

 先程までのコーポラルさんとの会話を話し、ベイビーズの進化条件を聞いてみた。もちろん衛星に関しては伏せてある。アッシュ達悪魔にも言ってないのにモックンにも言うわけにも行かない。

『やはり、我等も悪魔族の端くれですので、魂の摂取によって進化します。最下級の場合でもそれは同じです。この地下施設にいる子供達もスライムという餌を倒した際に、微々たる魂ではありますが魂を摂取しております。これだけスライムの餌が豊富にあり、際限なく繁殖を続けるスライムがいれば、微々たる魂でも量は相当になり最下級の我が子達程度なら第一進化できる程度にはなります』

 人間が出す汚水をスライムが餌とし、そのスライムをベイビーズが餌とするのか。そのベイビーズを人間達が上手く利用し、ベイビーズにこういった環境を提供する。
 上手く回ってるじゃないか。今のところは、だけど。
 心配なのはベイビーズが増えすぎて、進化した蜘蛛の魔物が溢れかえった場合だな。その場合はどうなるんだろう。蜘蛛の帝国とか築いたりするんだろうか。

 それは今度聞くとして、今は早急に進化をさせないといけない。
 そうしないと人間達からだけでなく、エルフ達からも不満の声が爆発しそうだ。
 自分達は言いつけ通り役割を果たしたのに、やってないと文句を言われるんだもん。そりゃ不満が爆発するだろうな。
 最悪のケースは、元から仲が悪かった人類とエルフが、これを機に戦争に発展しないかという事なんだ。
 心配し過ぎかもしれないけど、元のエルフを見る限り、強ち間違ってもいないと思う。

「進化条件は魂…か。やっぱり丸薬しかないかな。モックン、砦にいるベイビーズを森の奥で一箇所に集められる?」
『お安い御用で御座います。最北の砦から北へ向かった、モックントンネルに程近い所に巣を張っております。ゆくゆくはこれを南へと延ばし狩場兼餌場にする予定で御座いますが、そちらでよろしいでしょうか』

 何その計画! 最終的に森をグルリと蜘蛛の巣で囲っちゃうとかしないだろうね。エルフの支配してる森だと思ってたら、実は蜘蛛が支配してたとかなったら嫌だよ?

「うん、そこでいいかな。じゃあ、今晩そこに砦にいるベイビーズを全員集合させててくれる?」
『畏まりました』

 じゃあ、次はエルフのところだな。
 最近、結構ヒマにしてたのに、忙しくなると一気だな。
 モックンにベイビーズの事は任せて俺はエルフの中央都市に向かった。

 大樹が見えるところまで来ると、まだエランさんが守衛をやっていた。
 ここって門は無いんだけど大樹の影響で森との境がハッキリしてるし、その森も通路を何箇所か取ってるだけなんで区切りがハッキリしてるんだ。
 その通路の出口に守衛としてエルフが滞在してるんだけど、その守衛の一人としてエランさんが立っているのだ。

「エランさん」
「はっ! エイジ様ではありませんか。何かお忘れ物でしょうか」

 出したものは魔物の山だけなんで、この場合の忘れ物とは伝え忘れの事だろうね。

「忘れたわけじゃないんだ。町まで行ってら用事を頼まれたんで伝えに来たんだよ」
「なんと! エイジ様を伝言役に使うとは人族の者は恐れを知らぬのか」

 そんな大袈裟な。俺は自分のミスを自分で尻拭いして行ってるだけなんだよね。

「そんな大袈裟なもんじゃないよ。それでね、今晩、エルフ達を砦に招待したいって申し出があってね、是非来てもらえないかと誘いに来たんだよ。強制じゃないから断ってくれてもいいんだけど」

 できれば来なくていいからね。その方が少しでも小規模になるから。

「エイジ様からのお誘いを我がエルフが断るはずもございません! 皆、総出で向かわせて頂きます!」
「来るの?」
「はっ! この機会にハイエルフ様方も全員参加で向かわせて頂きます!」
「ハイエルフも!?」

 また面倒事が増えるじゃないか! あいつら高ビーなんで諍いの元なんだよ。こっちにも若ボンがいるしさ、絶対に何か起こるのが目に見えてるよ。

「はっ! ハイエルフ様方も女王様にお叱りを受けたようで、エイジ様のご命令には絶対に逆らわないと誓っておられます。エイジ様は何も心配なさる事は無いかと存じ上げます」

 花子さんが言ってくれたんだ。ただのキモ薬草フェチじゃなかったんだね。でも、俺にはそうかもしれないけど、人族に対してはどうなんだろ。

「人族も大勢いるんだけど問題を起こさない?」
「はっ! 問題ありません!」

 ホントかなぁ。ヒッジョーに心配なんだけど。
 まぁ、上手く行けば今後は更なる進展も見込めそうだし、まずは会わせてみるのも一つの手かな。何事も無いように願うばかりだよ。

「じゃあ、今夜、中央砦に来てくれるかな」
「はっ! お任せください!」
「花子さ……精霊女王は?」
「はっ、今朝方にも申し上げましたが、何人たりとも面会は出来ない状況でございます。手紙で連絡は致しますが、来れるかどうかは……」
「うん、分かったよ、それでいい。じゃ、今夜ね」
「はっ!」

 さてと。次はアッシュ達かな。できれば連れて行きたくないけど、イベントだから連れて行かないと後で拗ねそうだしな。

 そんな優しい気持ちでダンジョンを尋ねたが、これって……

「あのー……」
「なんだ! ダンジョンに入るのならルールを守って列に並べ!」

 入り口に長蛇の列が出来ていて、入門係の兵士に声を掛けたんだけど、そこ答えがこれだ。

「あの、いちおう僕はここの関係者なんですけど」
「ん? 関係者?」

 それに、結構町では不本意ながら名が売れたと自負してるんですけど、俺の事知らない?
 ジロジロと値踏みされるように睨まれて、そうして出した結論が。

「お前のような奴は知らん! 関係者が来ると連絡も入っておらん! 名を騙ると捕らえるぞ! ちゃんと列に並べ!」
「うぐ……」

 渋々列に並ぼうとした時に、また兵士から声を掛けられて。

「ちょっと待て」
「はい」

 もしかして入れてくれるの!

「初めて見る顔だが、講習は済ませているのか」
「講習?」
「やはり知らんようだな。あっちの建物で初回講習をやっておる。まずは講習を受けて、入門許可証を発行してもらってから列に並べ。分かったな」
「……はい」

 いつの間にかそんな事になってたのか。悪魔達のダンジョンが大盛況だと言ってたから、コーポラルさんが手回ししてくれたんだろうな。
 俺にも教えておいてくれよ!

 ここで無理を言って押し通る、なんて事は俺には無理だから大人しく言われた通りに指示された建物に向かった。

「すみません」
「はい、新人講習ですか?」

 建物に入り声を掛けると、受付のお姉さんにはこちらも見ずに下を向いたまま返事をされた。俺の前にいた人達の書類を整理しているみたいだ。
 ある程度、処理を終わらせてから次の人に対処すればいいのにね。周りを見ると忙しそうだから気持ちは分かるけど。
 そう同情してしまうほど建物の中は人が雑多に溢れ喧騒に包まれていた。

 これって新人研修や登録だけじゃないな。ダンジョンから出て来た人達の処理もしてそうだ。
 見ると、明らかにベテランと思える冒険者も結構いる。雑談をしてる人も多いから、パーティ内の誰かが代表して受付に行ってるか、何かの順番待ちなのかもしれない。

「えーと、ダンジョンには入りたいんですけど、別に魔物を倒そうとか宝箱を目当てとかそういうのはいらないんです」
「はい? でしたら、どんな理由でダンジョンに挑まれるんですか?」

 そこで漸く受付のお姉さんは顔を上げてくれた。

「いえ、ダンジョンには挑みませんよ。中にいる管理者に用があってですね……」
「あ、あなたは…いえ、貴方様はイージ様では……」
「はい、そうですね。ダンジョンに入るにはここで受付を済ませて来いと言われまして」
「もももも申し訳ございません! そのような対応をしたものは即刻クビに致します! すぐに手配を…いえ、このまま私がご案内致しますので少しだけお待ち頂いてもよろしいでしょうか!」
「待つのはいいですけど、クビは辞めて下さい。業務に忠実な対応をされただけなんで。僕はもう少し皆に知られてると思ってたので、ちょっとだけショックでしたが」

 そんな俺の言葉に再び「申し訳御座いません!」と頭を下げる受付のお姉さん。
 受付お姉さんはすぐに身支度を整え、カウンターから出てくると「ご案内致します」と態々案内を買って出てくれた。
 そこまでされるほどの身分でも無いんだけどな。と心の中で申し訳ない気持ちになった。
 とはいえ、この国でも受勲はしたし、砦の件でもそれなりに有名になった。ベイビーズの主人である事も発表したし、何よりこのダンジョンの管理をしているアッシュ達の主人格だと伝わってるはずだ。
 だから受付姉さんは俺の事を知ってたんだろうけど、入り口の兵士までは認知されてなかっただけなのだ。
 いや、名前は知ってても顔までは知らないってとこかな。あまりここには来ないしね。

「おー、メルメルじゃないか。どうした、いつも忙しすぎるってボヤいてんのに、今日はヒマなのか」

 入り口まで案内してもらうと、さっきの入場係の兵士が受け付け姉さんに気安い声をかけた。
 この受付姉さんはメルメルって言うんだね。

「あなた! こちらの方をご存じなかったのですか! こちらの方はイージ様なのですよ!」
「イージ様~!? じゃ、なにか? こいつ……いや、この坊主…じゃなかった、このお人がイージ様だってぇのか? 町を魔物の窮地から救って下さり受勲された救世主の? 町がどんどん清潔になっていってる根源となってるベイビーズの主人でもある英雄の?」
「そう! そのイージ様です!」

 細かな説明をありがとう。自分で言うのも恥かしいけど、人から言われるのも恥かしいもんだね。
 周りから注目されてるから恥かしさ倍増だよ。

「早く中へとご案内ください。イージ様はアシュタロト様達の主人でもあり、このダンジョンの最高責任者なんですから」
「はっ! メルメル軍曹よりの命令をラッツ上等兵が承りました!」

 そう言って敬礼をする入り口担当の兵士。
 受付姉さんの方が役が上だったんだね。でも、いつから俺がダンジョンの最高責任者になったんだろ。そういう報告は全くされてないんだけど。
 やたらと誇張されて伝わってる気がするなぁ。

 「私が先導役を担当します!」というラッツ上等兵には悪いと思ったけど、ここは一人で入っても問題ない場所だ。
 普段から問題ないと言えば問題ないんだけど、これだけ繁盛しているダンジョンに俺が入って魔物を一掃するわけには行かない。でも、ここのダンジョンはアッシュが喚んだ悪魔界の魔物”ザ・ファースト”だから、俺に敵意は向けて来ない。だから衛星に排除される事も無いのだ。
 それでも念の為と入ってすぐの一階層目に付いてきたラッツ上等兵に、俺に危険が及ばない事に納得してくれたので、一階層目でラッツ上等兵とはお別れした。

 彼にも入門係という業務があるからね。俺に付いて来る必要は無いんだよ。
 その後、最下層まで下りたんだけど、また十階層ほど増えてたよ。
 こいつらって、何処を目指してるんだろうね。

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