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第11章 プロジェクト

第12話 三族会議①

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 さてと。家も建てたし下水道も順調だし、今はする事が無い。
 モックンの子供達をお披露目してから一ヶ月経ったけど、今は様子見をしてるだけ。
 ま、俺が暇なだけで、他の皆は超多忙のようだけどね。コーポラルさん然り、ザガンとダンタリアンの悪魔達然り、モックン達然り。
 暇なのは俺と…アッシュぐらいか。こいつって、全部部下任せで自分では何にもやらないんだ。
 俺も人のことを言えた立場じゃないけど、こいつには負けると思う。

 もうダンタロスはダンジョン管理で何日寝てないかしれないし、ザガンは岩宿ホテルの拡張工事でヘトヘトだ。
 モックンは地下道を五つの砦と繋ぐトンネル工事をしつつ、子供達の管理も怠らない。
 アッシュの部下達はもうヘトヘトなのだ。
 それに引き換えアッシュは、最近俺といつも一緒にいる。もう少し手伝ってやればいいのにと思うよ。

 でも、その中で一番忙しいのはコーポラルさんだ。
 下水道は出来てるけど、地上の工事はまだまだ終わらない。
 汚水を地下道へ繋ぐために家の構造から変えないといけないんだから時間はまだまだ掛かるだろう。
 それ以外にも若ボン関係や王都関係で色々と暗躍してるみたいだ。本人がそう言ってたんだから、そうなんだろう。
 そんな裏事情を俺に話してもいいのかね。と思わなくもないんだけど、俺の場合、知ってしまうとお節介を焼きたくなるから、その辺を読まれてるんだろうね。
 直接的な世話焼きじゃなくても、裏で手を貸したりするからね。

 そんなコーポラルさんの奮闘もあって、ヘルファンの町は非常に住みやすくなってきている。
 家には風呂と水洗トイレが完備されていき、人口も徐々に増え出している。
 それと共に領兵の数も補充され、砦兵も徐々に補充されていっている。

 モックンの子供達も大活躍だ。
 町中には常に100匹を放っている。
 害獣を退治してレベルアップを続け、進化すれば砦に送られる、そして減った分は地下から補充して、常に100の数を保っている。地下のモックンの子供達も、増え続けるスライムを倒して食べてるからレベルは上がるんだけど、スライムだとアップ率は低いようで進化までは至らないみたいだ。
 進化したモックンの子供達は砦に送られると、魔物退治に大活躍しているようだ。
 その分、またレベルアップを続け、出会った頃のモックンのように化石蜘蛛になる日も近いかもしれない。

 そのモックンは今、次の町で地下施設を作っている最中だ。
 コーポラルさんには『次は王都で』とお願いされたが、本当に魔物を連れて行って大丈夫なのかという心配が先に立ったので、もう一つの町を開発して、更に実績を作ってからにしてもらった。
 保険は多いに越した事は無いからね。もしも王様のお膝元でもある王都で失敗なんてしてしまったら、と思うと怖くてGOを出せなかったんだ。

 そして今、俺達は俺の家に集まり、今後の展望について会議を開いていた。
 メンバーは人に偽装した悪魔の三人、コーポラルさん、花子さんだ。
 花子さんも呼んだのは、今後エルフ達の協力が不可欠になると思ったからだ。

「忙しい中、時間を取ってもらってすみません。町で集まれば負担も少なかったんですが、町に行けない事情もあるので無理を言って来てもらいました」
「いえ、私の方は割りと手が空くようになって来ましたので問題ありません。事情というのはその方ですね」

 コーポラルさんに挨拶がてら謝罪をすると、コーポラルさんも事情を察してくれたようだ。

「はい、エルフは森からそんなに長く離れられない事情がありますので、コーポラルさんが忙しいのは重々承知していたのですが無理を言ってすみませんでした」
「いいえ、イージ卿の頼みとあれば何処へでも馳せ参じます。我が王国の救世主の頼みなのですから」

 救世主って…下水道事業を町ひとつやっただけなんだけど。
 その前の事も含めて言ってるんだろうけど、砦の件はマッチポンプに近いからね。自覚は無かったけど。
 俺のせいで逃げた魔物が砦を潰して行って、それの後処理をしただけだから。
 聞くたびに心が痛む、早く忘れたい過去の案件だよ。

 まずは花子さんを紹介し、皆を花子さんに紹介して行った。

「ほんで? うちは何したらよろしおすのや?」
「うん、花子さんには追い立て役をお願いしたいんだ。もちろんその見返りは用意するよ」
「追い立て役? そら何ですのん?」
「この森にいる魔物を砦の方に追い立ててほしいいんだよ」

 俺が忘れたい一件を、あえてエルフにやってもらおうと思ってるんだ。もちろん勝算があっての話なんだけど、まずはその確認からだな。
 もう、砦にいるモックンの子供達―――第一段階は地下施設にいる子供達。第二段階は町で進化するまで。第三段階は砦の防衛兼砦の補修。第四段階は砦の防衛兼地下トンネル作成。―――は、森の魔物の中では上位に位置する存在となっている。

 第三段階の状態だと敵わない魔物もいるみたいだけど、数が多いから第三段階でも多数で囲んで糸で中距離攻撃のあと、麻痺毒で仕留めるので、森ではほぼ無敵状態だ。
 第四段階なら単体でも、森を無人の野の如く闊歩できるようだし、第五段階で化石蜘蛛になる。
 現在、化石蜘蛛まで進化した個体は二体だと聞いている。この化石蜘蛛に丸薬を与えるとモックンと同じ種族までなってしまう。

 うん、これ以上は手控えたいところだけど、地下でモックンが管理してくれるのは助かるんだよな。そのモックンと同じ存在が各町にいれば楽だと考えてしまうんだよな。人類的には大いなる脅威なんで、今日はその相談もあるんだ。

「これはコーポラルさんにも意見を聞きたいんですけど、砦に前回と同規模の魔物の襲撃があった場合、現状戦力で対処できると思いますか?」
「はい、中央と最北と最南では対処できますね。あとの二つに関しては第四段階のベイビーズがまだ配置されてませんので、何とか持ちこたえられるという程度でしょうか」

 いきなり話を振ったにも関わらず、即座に答えてくれるコーポラルさん。相変わらずの優秀な人だな。
 でも、ベイビーズって……そんなに可愛い見た目の奴らじゃないんだけどね。町にいる小さい奴らは兎も角、デカい蜘蛛って普通はキモイと思うんだけど。
 それでも、砦の防衛戦力は前回の襲撃に耐えられるほど上がってるんだな。名前はアレだけど、ベイビーズ様々だね。

「それと、人口も爆発的に増えて来てるって聞いてますけど」
「そうなんです。非常に喜ばしい事なんですが、それによって食料不足問題なども起こり始めています。今のところ、近隣の領地から取り寄せたりしていますが、焼け石に水ですね。食事は毎日しますからね。他にも失業問題ですね。今のところは建設ラッシュという事もあって失業率は低いですが、領地拡張が落ち着いた時にどうなるか、今から心配しています」

 食料不足問題のために魔物の収穫を考えてたんだよね。そっちは行けそうだけど、他にも問題があったんだな。
 でもそこは色んな業種が出てくるんじゃないの? 人がいれば衣食住は絶対必要なんだから”住”が減っても他は増えるだろ?
 そりゃいきなり職業を変更するのは大変だろうけど、全員で一気に変わるわけでもなし、建築業に残る人も必要なわけで。

「人が増えれば農地開拓や食品加工業もあるし、運送業や不動産業だってあるよ。領兵だって増やさないといけないだろうし、武具ももっと作らないといけない。食堂や宿以外にも職種は色々とあるよ。失業率の心配なんていらないんじゃないですか?」
「さすがはイージ卿、将来の展望がよく見えてらっしゃいます。そこでお願いしたいのが農地開拓なのです。今のままだとすぐに土地不足になります。早くて二年、遅くとも五年の内には土地不足になり、失業者はおろか食料自給率も大幅に不足する事になるでしょう」

 人口が増えれば土地が足りなくなるのは分かるけど、農地開拓こそ、そういう職にあぶれた人がやればいいんじゃないの?

「皆さん同じことを考えてらっしゃると思います。お考えはごもっとも、仕事が無ければ食えない、食えないなら苦手でも安くても仕事をしろとおっしゃりたいのですよね? 当然のお話です。しかし、人はやりたくない仕事には身が入らないものなのです。ではどうするか。やりたくない仕事でも、面白い仕事に変えてやれば彼らは喜んで働くのです」

 そんな美味い話があるのかなぁ。

「方法は色々とありますが、その一つとしてイージ卿には農地開拓にご協力頂きたいのです」
「う~ん、どうやってやる気を出させるのかは分からないのでそこはコーポラルさん任せになりますけど、農地開拓ぐらいならザガンかモックンが出来るんじゃないかな? な、ザガン」
「はっ! 私にお任せください! モックン如きに遅れは取りません!」

 おお! ザガンはやる気だ!
 そんなザガンのやる気に水を差したのが花子さんだ。

「ちょぉ待ちぃ。あんたはんは農業経験はあるますのかえ? 宅地開拓やのぉて、農地開拓なんえ? わかってまんのか?」

 え? 違うの? 畑って荒地を更地にして耕せばオッケーじゃないの?

「宅地の場合は更地にすればよろしおまっしゃろ。でも農地の場合はそやない、土地に生きる力を持たさなあきまへんのや。エイジはん、その仕事、うちがやらせてもらいまひょ」
「花子さんが? そりゃ、植物のスペシャリストの花子さんがやってくれるなら願ってもない事だけど、いいの?」
「うちにかて利益はおます。今までは食えもしまへん魔物を退治してきましたけど、それを追い立てるだけでよろしいのでっしゃろ? ほしたら、その分お返しもせなあきまへん。魔物退治にはエルフにもまぁまぁ被害がおましたからなぁ」

 面倒な森の魔物の追い立て役だけでも凄く助かるのに、農地開拓まで名乗り出てくれるとは……花子さんって実は良い人だった?

「エイジはんとこの畑程度でよろしおまんねやろ?」
「えっ!? 俺の畑って【星の家】の畑の事? マイアに作ってもらった」

 俺の畑と言われて浮かんだのはそれだけだ。他で畑は作ってない。

「はいな。マイアドーランセはうちの教え子だす。この前かて、うちに挨拶も無しに通って行きよるさかい、どやしつけたったんや。そん時に色々聞かせてもらいましたえ。エイジはんとええ仲やそうやないか」
「いい仲って…それほどでも……えっ! 教え子!? マイアは花子さんの教え子だったの?」
「なんや、知らんかったんか。マイアドーランセの封印もエイジはんが解いてくれはったそうやないか。そろそろ解放したろ思てたから、ちょうど良かってんけどな。あんまり勝手したらあきまへんえ」
「す、すみません。でも、それって、花子さんがマイアを封印してたって事ですか? たしか五百年って言ってたような……でも封印って事は、花子さんが精霊女王?」

 確か、そうだったよな。マイアって精霊女王の怒りにふれて五百年ぐらい封印されてたって言ってたっけ。人間と関わりすぎたとかだったよな。
 でも、マイアと会ったの? 俺のとこには来てないよ?

「そう呼ばれてた時期もおましたけど、今はただの花子や」

 ”ただの”じゃないよね。エルフの頂点の人だよね? しかも精霊女王って…この人一体いつ転生して来たんだろ。
 ジロッと睨まれたので年齢を考えるのは放棄した。

「あの子はな、人間の味方してエルフに挑んで来よったんや。軽~くお仕置きしたろ思てたら、何人かのエルフが殺られてしもてな。精霊とエルフやさかい種族も違うよってに色々と対立もあったさかいな。あの時はあの子も必死やったんやろうけど、あのままやったらあの子を処刑せな誰もが納得せんかったよって、しゃあないさかい封印したんよ。他の精霊と一部の妖精も追放処分やな。場所はうちが用意したってんけどな」
「五百年……人とエルフの戦い……大樹の戦役ですか!」

 コーポラルさんが大仰に叫んだけど、大樹の戦役ってなに? 俺としては人間VSエルフより、精霊とエルフの関係の方が気になるんだけど。

「人類側にはかなりの被害が出たとされていて、そのため言い伝えでしか伝わってないのですが、昔…五百年ほど前に人とエルフの戦争があり、人類が滅亡の危機の際、一人の精霊が人類を守ったと伝承されています。今では色々とアレンジされ本にもなっていますし、イージ卿もご存知かと思いますが王都には像も建ててあります」

 像なんてあったの? 俺は受勲やらなんやらで、それどころじゃなかったから見てないよ。
 でも、それならマイアがこっちに来れなかったのは花子さんのせい? じゃあ、花子さんは俺の敵?
 あれ? あれ? どうなってんの?
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