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第3章 西の大陸

第21話 黒幕達

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 ほんと不定期ですみません。

――――――――――――――――――――――――――――

 出て来たのは男性と呼ぶには背も低く、まだ男の子と言った方が似合ってる中一ぐらいの少年だった。


 【鑑定】

 名前: ケンジ
 年齢: 16
 種族: 人族
 加護: なし
 状態: 混乱(魅了)
 性別: 男
 レベル:13
 魔法: 火(2)・水(2)・土(1)・風(2)・氷・雷・闇・光・召喚(5)
 技能: 剣(3)・槍(1)・弓(1)・錬成(9)・研究(7)・採集(1)・解体(1)・回避(2)・遮断(2)
 耐性: 熱・風・木・水・雷・
 スキル:【収納BOX】6【鑑定】2【勧誘】Max【再生】2
 ユニークスキル:【盗む】
 称号: 南の元勇者
 従者: ゴーレム ゴブリンキング オークキング リザードキング オーガロード レッドワイバーン ダグロス 


 !!
 この子がケンジ!? ……こんな少年だったとは。
 だが、待て。状態が混乱(魅了)となってるではないか。誰かに操られてるのか?
 従者欄を見る限り、ここのダンジョンのフロアボスは全てこのケンジの従者だったようだ。

 !!
 勇者!? 南の元勇者の称号……この少年が元勇者とはどういう事だ。しかも魅了で操られているという事は他に元締めがいるのだろうか。
 ……しかしレベルが低すぎやしないか? 元勇者でレベル13はおかしい気がするのだが。いや、勇者ならレベル13でもチート能力があればどうとでもなるのが異世界小説の定番だったか。
 普通はこれだけ従者がいれば何とかなるのかもしれない。


「だれ……?」
「あ、失礼。私はタロウ…冒険者です」

 あ…反射的に答えてしまった。自分が侵入者である事は自覚していた。だが、このケンジの容姿を見て油断というか、警戒心が薄れてしまっていたのもかもしれない。
 日本の男の子。周りが欧州系の人たちを見慣れていて、懐かしさのある少年に気持ちが緩んでしまったのだ。

 つい、気軽に返事をしてしまったのは仕方がないだろう。しかも冒険者と答えてしまうなんて。そう長くはやってないのだが、異世界という環境が私にも影響を及ぼしてるのかもしれないか。
 今までの私だと咄嗟に出る言葉としては、『〇〇部の佐藤です』や、部署名を名乗る代わりに会社名を出すぐらいだったのにな。環境の変化で私自信も変化してるのかもしれない。
 
 それはさておき、どうしたものか。魅了されていても話は通じるのだろうか。
 相手は少年だ。できれば更正をさせるように持っていくべきだろう。先ほど見張りを手にかけた時には何ら感じるものは無かったが、この子は少年だ。しかも日本の。できれば更正させたい。

「タロウ? 名前はいちいち覚えてないけど、お前は今、冒険者じゃないだろ! それより今の振動はなんだよ、報告に来てくれたのか?」

 下にいた護衛の部下と間違われてるのだろうか。侵入者だとは思われて無いような口振りだが……

「あー、どう言えばいいのか……君、お母さんは? 誰か保護者の方はいらっしゃらないか?」
「はぁん? お母さん? そんなもの! いない方が清々するよ! ってか、なんでお前がそんな事を聞くんだよ、今の地震の報告じゃないのか? お前を雇ってるのは俺だぞ!」

 イチイチ声を大きくして答えるケンジ。相手が少年なので、つい保護者の確認をしてしまった。いや、失敗失敗。
 だが、やはり私の事を部下だと思ってるようだな。なんとか誤魔化せるかもしれない。
 しかし、母親に何かトラウマでも抱えてるのか? だからと言って人攫いはダメだが。しかし、魅了されてる状態でもあるわけだ、誰かに操られているのも否定できない。

 さて、どうしたものか……今ならまだ部下と間違われてるようなので上手く誤魔化せそうな気がするのだが。
 さっきの短い会話では、母親という言葉だけで異常な反応していたな、挑発にも乗りやすいと見ていいだろう。その辺りから探りを入れるか。
 クレーム処理で培った交渉術にはまぁまぁ自信がある。ただ、子供相手には交渉した経験が無い。そうは言ってもクレーマーというのは子供の駄々と変わらないところがあるし、何とかなるのではないか?
 落とし所としては、ある程度内情を聞いた上で自首を勧めればいいか。出来れば拘束まで持って行きたいところだな。

「あー、すまんすまん。ちょっと君への伝言をことづかっていてね。それで大人がいないかと尋ねたのだよ」
「伝言? 今はダメだ、地震の事が気になるから後にしてよ」
「さっきの地震か。それはそうだが心配する必要はない、ただの地震だろう。かなり揺れたが、この屋敷も頑丈そうだし倒壊の心配も無さそうだ」

 確かに揺れは激しかったが、ここの調度品を見ても倒れたり壊れているものはない。問題ないだろう。
 原因はうちのにありそうだが、これ以上無茶はしないだろうしな……しないだろ? するんじゃないぞ?

「そりゃ、この屋敷もダンジョンの一部だからね、倒壊はしないさ。僕が気になってるのは何が原因で揺れたかなんだよ。お兄さん調べて来てよ」
「……」

 屋敷がダンジョン? そうだったのか。

「……おいっ! 無視するなよ!」
「はっ…私の事か。すまんすまん、まだ慣れて無くてな」

 そうだった、今の私は若いのだった。こんな少年からお兄さんと呼ばれるのは未だに慣れないな。

「慣れる?」
「いや、こっちの話だ。それより、もしかしたらレッドワイバーンが暴れたのかもな。ならばすぐに報告が来るだろう」
「はんっ、レッドワイバーンが暴れる? ありえないね、レッドワイバーンは僕の支配下にあるんだ。僕が大人しくしてるように命令してるんだから絶対に暴れるはずがない。お前だってそれぐらい知ってるだろ、もう忘れたのか?」
「いやいや、そうだった。私も揺れが大きくて動転してたようだ。確かにそうだったな」

 やはり従者なら命令遵守なのだな。なら、火龍に見せかけたレッドワイバーンでの襲撃もケンジの命令だったのか。
 レッドワイバーンのせいで何人も犠牲者が出てる事を考えれば、話によっては少しお灸をすえないといけないか。

「ケンジ? まだ行ってなかったの?」
「あ、シューラッド。このお兄さんがさ、訳の分からない話をするんで行けなかったんだよ。今、このお兄さんに命令したから、もう僕が行く必要は無くなったけどさ」
「そう。ではそこの傭兵さん、お願いしましたわよ」

 この女性がシューラッドなのか……もしや!
 
【鑑定】

 名前: シューラッド
 年齢: 31
 種族: 人族
 加護: なし
 状態: 普通
 性別: 女
 レベル:13
 魔法: 火(2)・水(6)・土(6)・風(2)
 技能: 剣(1)・槍(2)・弓(3)・錬成(6)・研究Max・採集(8)・解体(8)
 耐性: 熱・風・水
 スキル:【誘惑】Max
 ユニークスキル:
 称号: なし
 従者:

 三一歳か…見た目からいってもっと若いかと思ったが意外と行ってるのだな。女性は見た目じゃ分からない場合が多いからな。
 それよりも! 【誘惑】! これでケンジを魅了してそうだ。熟練度もMaxである事からも、可能性が非常に高いな。黒幕はこの女か。


「ほら傭兵さん、早く行きなさいな。あなた達を雇っているのはこの私なのよ? 私の一存でいつでも解雇できるんだから、ちゃんと命令を聞きなさい」

 三一歳の小娘が…と思わなくも無いが、ここは今まで培って来た窓際根性でグッと堪える。
 対社内でも対社外でも怒ったら負けなのだ。怒りを感じても、まずは冷静になって第三者的視線で物事を見るのがコツなのだ。

「わかりました。では、様子を見て来ます」
「そう、素直な態度は大事よ。お願いね」

 様子を見に行く気は無いが、一度ここを離れて仕切り直そうと返事をすると、お褒めの言葉を頂いた。
 

「あっ! そう言えば伝言があるとか言ってたよね。僕が行く必要は無くなったみたいだし、ここで聞いておくよ」
 確かにそんな出まかせを言ってしまってたな。ふむ、何とでもなるか。

「それは…下のボスが来て欲しいと……」
「ダグロスの奴か。用があるならお前が来いと言っておけ。どうせ酒の催促だろ、こっちは色々と忙しいんだよ」

 さっきの私の相手した奴はダグロスと言うのか、ケンジの従者の中にも名前があったな。下にいた連中の中では一番強かったが、私が一撃で倒してしまったので大した奴ではなかったのだが。
 仕切り直すには丁度いいと思い、扉に向かうと、私が出るより先に勢いよくココアが扉から入って来た。

「ご主人様!」

 むぅ、タイミングが悪い、これはさすがに言い逃れができないぞ。

「「ご主人様?」」
 ケンジとシューラッドの疑問の声が重なる。

「ご主人様! ソラさんが、ソラさんが酷いのです」
「ちょ、ちょっとココア、少し待ちなさい」

 そんな私達の様子を見て、シューラッドが問い掛けて来る。

「これはどういう事でしょう。雇った傭兵に主従関係の者はいなかったはずだけど?」
「僕も知りたいな。僕の部下にはご主人様と呼ばれる者はいなかったよ、女子もね」
「い、いや……」

 何とか言い逃れをしようと考えを巡らしていると、代わりにココアが答えてくれた。最悪の返事を。

「ご主人様があなたの部下? ありえません! ご主人様は崇高な…そう! この世界に君臨するお方なのです!」

 そんなわけあるかい! と、若者だったらツッコむところだろう。
 だが、私はそんなツッコミの技術も度胸も持ち合わせていない。だが、穴があったら入りたい心境にはなった。
 恥かしさもMAXだが、他人のフリをするために。

「世界に君臨する? 何を言ってるの! 世界に君臨するのはうちのケンジよ! バカな事を言わないでちょうだい!」

 こっちにもバカがいた。今のは張り合うとこなのか? 私が相手の立場だったら『正体を明かせ!』などと問い質すところだが、今の若い者達は視点が違うのだな。
 ゆとり世代の教育係も担当したが、ここまででは無かったな。

「ご主人様ー」
「ソラ?」
「また増えた?」
「今度は誰?」

 またタイミングの悪い時にタイミングの悪い奴が……もう開き直るしかないか。
 それと、ケンジ君。今度は誰とか言ってるが、君はまだ私とココアの事も把握してないのだぞ。

「ソラ? さっきのは……?」
「必殺技三号ー」

 なぜに、ソラはドヤ顔なんだ?

「そうなんです。ご主人様、ソラさんが酷いんです」
「ココア?」
「大きな赤トカゲを見た途端、いきなり叫んで攻撃を放ったんです」
「それって…レッドワイバーンじゃ……ソラ?」
「必殺技三号~?」

 なぜ疑問系なんだ。しかも答えになってないぞ。

「なんなんだよ、お前達は! 一体誰なんだよ!」
「そうね、あなた達は何者? いえ、今は答える必要はないわ。すぐに自分から全てを言いたくなるから」

 私達のやりとりを苛立たしげに見ていたケンジが怒鳴り出すと、それを諌めるようにシューラッドが言葉を足した。
 シューラッドには何やら思惑があるように見えた。


―――シューラッドより精神攻撃『魅了』を受けました。無視しますか? 跳ね返しますか? 別の者に受け流しますか?

 むっ、やはり『魅了』の使い手だったか。早速仕掛けて来たか。
 だが【那由多】の余裕な口振りから私は大丈夫のようだと分かるが、受け流すとソラやココアが『魅了』されてしまうのではないか?

―――タロウの従者はタロウとの繋がりの影響が大きく、他者に『魅了』される事はありません。

 ならば何処へ受け流すと言うのだ、ここには他に誰もいないだろうに。まぁいい、何もしなくていいから無視してくれ。


「さぁ言いなさい。あなた達は何者? 目的を言いなさい」

 私が『魅了』に掛かったと疑いもしなかったのだろう、シューラッドが私に白状しろを命令を出した。
 だが私には通用しなかった。ならばここは平気なフリをして動揺を誘うか。それとも掛かったフリをして油断させて色々と聞き出すか……
 いや、私の下手な演技などすぐにバレるだろうし、前者で行くとしよう。

「目的か。私たちの目的はレッドワイバーンを倒し、その操っている者も見つけ出して倒す事だ。どうやらここに来て正解だったようだが、まさかレッドワイバーンを操っている者を、更に操っている者がいたとは予想外だったが」
「なっ! 何故それを……」

 レッドワイバーンはケンジの従者だった。だがそのケンジも、このシューラッドに操られていたようだ。
 という事は黒幕はシューラッドという事になるのか。だが、何のために。目的は何なのだ。
 いや、目的など知らなくてもいい。どんな目的があろうとも子供を攫っていいわけが無いし、罪も無い人の住む村を蹂躙するなどしていいわけが無い。
 私は警察でも裁判官でも無いが、目の前の悪を諌められる力がある今の私なら、その力を行使して裁くのも力ある者の義務なのかもしれない。

 但し、私はただの元サラリーマンだ、人を裁くための勉強などした事は無い。ならば、新人教育を施した時のように、教育で導いてやるしかないだろう。

「まさか、私の『魅了』が効いてない!?」
「うむ、私には効かないようだ。なので、今度はこちらから聞きたい。貴女の目的はなんだ。火龍を装い町や村を襲撃し子供達を攫う理由はなんだ」
「それは……でも、何故『魅了』が……はうっ」

 私に『魅了』が効かない事を訝しむように考え込んだシューラッドが妙な反応を示した。

 なんだ!? 私は何もしてないぞ。彼女は何に反応したのだ?

―――『魅了』に関して何もするなとの指示でしたが、放たれた『魅了』がタロウに効かず術者に跳ね返されました。精神系のスキルや術は強大な相手に掛けて効かなかった場合は倍々返しで跳ね返されるのです。

 なっ! だが、さっきの選択肢に『跳ね返す』も入ってたと思うんだが。

―――先ほどの『跳ね返す』の場合は十倍返しでした。ですが、何もしなかった結果、タロウの周囲で増幅されたものが仕掛けた術者に返され、同様の結果になったようです。

 じゅ、十倍って……大丈夫なのか? 攻撃された者に気遣う必要は無いのだろうが、さすがに十倍と聞くと心配になってしまう。
 しかし、相手に効かないと跳ね返されるとは、呪い返しのようなものなのか?


「……理由ですね、ウヒ。簡単な話です、私とケンジ南の国―――エンダーク王国、ヒャハ。から逃亡した者です、ウヒャ。ケンジは勇者として召喚された者、ヒヒヒ。私はそこの研究員、ケケケ。二人で力を溜めてエンダーク王国に復讐を……ヒャッヒャッヒャッヒャ」

 壊れた…のか? 様子がおかしいが、『魅了』の影響か?

「変なひとー」
「ご主人様、お下がり下さい。様子が変です」

 首を傾げてシューラッドを指差すソラに対し、私の前に出て庇おうとするココア。
 お前達は何処にいてもブレないんだな。
 それに対して私は動揺してしまってたようだ。ココアに護ってもらうなど、情けない話だ。
 そう反省してると、ケンジが大声で怒鳴って来た。

「お前ら! シューラッドに何をしたー!」

 こいつも初めからブレない奴だ。大声を出さなければ話ができないのか?

「私は何もしていない。やったのはその女だ」
「その女!? 何を分からない事を言ってるんだ! こんな変なシューラッドなんて見た事が無い! 自分でこんな風にするわけないだろ!」

 それはそうだろう。『魅了』を跳ね返された経験など無いのだろうから。いや、あったかもしれないが、この少年の前では無かっただけかもしれないが。

「そう! そうなのよ! エヒ。エンダーク王国など、ヒャッヒャ、滅ぼしてしまえばいいんだわ! キャハハハハー」
「そうだよ、エンダーク王国は僕達で滅ぼすんだ! だから正気に戻るんだ!」

 流石にシューラッドの様子がおかしいのは誰も目にも明らかだ。ケンジもシューラッドの両肩を掴んで揺さぶるが、ケンジの言葉は彼女には届かず、焦点の定まらない視線は中空を見つめたままだった。
 口許はニヤけていて、涎も垂れている。完全にイッてる状態にしか見えなかった。

「キャハハ……ヒャハ? ……ヒグッ」

 バターン!

 シューラッドは首を傾げてケンジを見た後、息が詰まったようにシャックリをすると、そのまま白目を剥いて後ろに倒れてしまった。
 まさかの行動にケンジも反応できず、シューラッドは受身も取らずに後頭部をしこたま床に打ち付けた。


「シューラッド―――!!シューラッド、シューラッドー!」

 ケンジが叫ぶ。

「おーまーえーらー! 僕のシューラッドに何をしたー!」

 何をしたもなにも、ただの自爆なのだが。
 だが、今のケンジに何を言っても無駄だろう。完全に頭に血が上ってる。私が何を言っても聞く耳を持ってくれないだろう。
 目も血走り、髪も逆立っている。歯も剥き出しにして涎を流し、口の横から泡も吹いている。

 ん? 何かおかしな雲行きではないか?
 目が血走ってるのを通り越えて白目部分が真っ赤になってるぞ? まるで狂犬…いや、魔物のようだ。
 顔色も赤を通り越えてドス黒くなってきたし、口から牙が生えて来てないか?

 レベルも低いし見た目が少年という事もあり余裕をもってケンジを観察していたのだが、これはヤバくないか?

「ココア? これはどういう事かわかるか?」

 近くにはソラとココアしかいない。ならばココアに聞くしかないだろう。

「分かりませんが、問答無用で向かって来る魔物に似た感じに見えます」
「魔物……?」
「まものー? 必殺技~?」

 ソラがまた変な事を言い出したが、ここは無視だ。変に答えるとソラのペースに巻き込まれかねん。
 しかし、ケンジが魔物に似た雰囲気とココアが言ったが、確かに私もそう感じるな。
 ここまで多数の魔物を倒して来たから分かるが、確かに似ている。

【鑑定】

 むっ! 状態が【混乱(魅了)】から【混乱(暴走)】に変わってるぞ!
 これは……

 ブンッ! ブンッ!

 ケンジが振るってくる拳を避ける。
 レベル13とは思えないほど迫力のあるパンチだが、これぐらいなら問題ない。当たれば少しは痛いだろうが、大したスピードでも無いので軽く避けていなした。
 それでも次々とパンチを繰り出して来るので、その両手を掴み、後ろ手にケンジを拘束し動けなくした。

「ココア。この少年…ケンジというのだが、ケンジの状態が【暴走】になっている。治める方法はないだろうか」
「【暴走】ですか! それは非常に危険です! 【暴走】状態が長く続くと魔物になってしまいます!」
「なっ! 魔物になってしまうのか!?」
「はい、以前、長老の所にやって来た人間が【暴走】状態から魔物になってしまったのを見た事があります。何人かでグループを組んで長老を倒しに来たのですが、その内の一人が操られて壁役をやっており、長老が操ってた人間を倒した後【暴走】し、魔物に変化しました」

 仲間内で操ってたのか? いや、肉壁の壁役なら奴隷かなにかだったのかもしれない。それで操っていた者が先に倒され【魅了】状態が解けずに逆に【暴走】したのかもしれない。
 正に、今のケンジと同じ状況ではないか。
 操っていたシューラッドが倒れケンジが【暴走】。しかし、シューラッドは死んではいないだろう。何故ケンジが【暴走】するのだ?

「治す方法は?」
「申し訳ありません」

 知らないか。当然と言えば当然だが、ココアならと思ったのだが。

「この人死んでるよー」
「なに!?」

 倒れているシューラッドをソラがツンツンして確認していた。
 倒れた時の打ち所が悪かったのか、それとも精神が耐えられなかったのか。
 それにしても呆気ない。勝手に精神攻撃を仕掛けてきておいて、跳ね返されると死んでしまうだなんて、正に自爆だな。

 それよりも今はケンジだ。このまま放っておけば魔物になってしまう、かもしれない。
 いや、ココアが言うのだ。このままだとケンジは魔物になってしまうのだろう。
 何か手立てはないものか……そうだ!

「ソラ! ソラの薬でケンジを元に戻せないか?」
「この子ー?」
「そうだ、この子の状態を元に戻せないか?」
「うーん……むりー」

 ダメか。ソラの意味不明な薬でも無理だとなると、魔物になるのを黙って見ているしかないのか。
 少しずつだがケンジの力が増して来ている。拘束している分には問題ないが、このまま指を銜えて見ているしかないのか。

 それとも、人間でいる間に引導を渡してやるべきだろうか。
 自分を何様だと思っているのか、と自分でも思わないでもない。初めて出会った少年の命を何だと思ってるのかと。
 しかし、こんな少年が魔物になるのを黙って見ているのも辛い。救えるものなら救いたい。だが、現状ではその救う手立ても無い。
 ならば、誰かが悪役になってでも魔物になるのを止めてやるべきではないか。人間のまま死なせてやるべきではないか。
 今、それができるのは我々三人だけだ。それなら、主人格である私がやるべきだろう。

「ココア、やはりこの少年は魔物になってしまうのだろうか」
「はい、間違いないと思います」
「そうか……」

 最後に念の為、ココアに確認してみたが、やはり予想は覆らないようだ。

「わかった……スマンな、ケンジくん。あの世で私を恨んでくれても構わないからな」

 ケンジから返事はなかった。
 私はケンジの手を離すと、すぐに刀を抜き、ケンジの背中に刀を突き立てた。
 ケンジは口から血を吹き出し、膝から崩れ落ち、力尽きた。

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