上 下
12 / 24
第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者の悩みを聞くのもお仕事なのです―その5

しおりを挟む
「ふむふむー。こーれーはー、契約職員さんがー、とってきた依頼、ですねー。その『ふんどし』というの、とってもすてきですー」

 唐突にわたしに声をかけてきた人物。
 人気サークル「百花繚乱」のリーダー、『一丈青』のミユキ様がそこにいました。
 あ、「きょうのミユキ様」を教えろ、ですか。
 きょうのミユキ様の装いは。あれはたしか「三角びきに」という服のはずです。
 黒の三角びきに。
 真っ白の毛並みで灰色縞のミユキ様に、よく似合っているのです。
 なにより、三角びきにが可哀想になるほど布の悲鳴が聞こえてきそうです。
 はちきれんばかりです。
 たゆんたゆん、なのです。

 では「きょうのミユキ様」情報はここまでで、あとは話を続けてもよろしいでしょうか?
 
 はい、話を戻しますです。
 まったく気配を感じなかったのに、わたしはいつの間にか、ミユキ様にうしろをとられていました。
 ミユキ様。
 口調はのんびり、というかのんびりどころの話じゃないくらい、のんびり屋さんなのですけど……。

 ミユキ様にわたしを襲う気があるなら百回やって百回成功させてます。
 わたし、これでもこの世界の「ふつうの人」に比べたらはだいぶ強いのです。
 それでもまったく勝ち目なんて想像もできません。

 さすが冒険者さんです。
 その冒険者の中でもミユキ様のような「二つ名」持ちは、中堅以上の人になるのです。
 わたしの「契約職員・一般」みたいな便宜上の呼び名とはわけが違いますです。

 汗が出てきます。
 ほんとに、汗が。
 汗が……。

 ……あの。ミユキ様?
 なんで先ほどからずっと、しゃがみ込んで。
 わたしのおしりをガン見してるのでしょう?
 先ほどより汗が噴き出て止まりません、なのです。

 わたし、現在下半身はふんどし一丁なのです。
 いくらミユキ様が女性とはいえ、ほぼすべてをさらしているおしりをガン見されると……。

 え、だからって前に回ってガン見してもいい、って言ってるわけじゃないんですミユキ様!
 むしろ状況がもっと困った感じになってますのです!
 「この前に垂れてるの、めくっていい?」って、そんなの「いい」と言えるわけないですミユキ様!
 わたしは、わたしを「見られて喜ぶタイプ」だと思っているんですかミユキ様!
 ぜーはーぜーはー。

「親からーもらった体ー。その美しさをー、世に披露するー。虎人の誇りにふさわしいーアウターですねー」

 ようやくわたしを解放してくれたミユキ様はコクコクとうなづいています。

 ん、アウター?
 ふんどしはインナーですよ。

「なーにーをー言ってるのですかー。これ以上ないくらいのアウターですよー、これはー」

 そうですか。
 ミユキ様にはふんどしがアウターにしか見えないのですね。
 虎人は身分が高くなるほど、カリスマ性を持つほど、露出面積が増えるべしの価値観ですし、ふんどしの上に何かを重ねるなんて論外、なのですね。
 わたしが半ば脱力という名の諦観、達観をしていると。
 一目散にこちらにやってくる人がいます。

 あれは……誰でしょう?

「そうかそうか。俺っちの世界のふんどし、わかってくれるヤツが他種族にもいたか。おうさ、この依頼。俺っちも参加するぜ!」

 かかか、と快活に笑って登場したのは180センチのミユキ様に劣らぬ長身のマッチョマンさんでした。
 背中と四肢が虎毛で覆われている虎人は長身の人が多いです。
 同じく長身の異世界人がいます。それはウンディーネ。

 ウンディーネの世界のニホンはショーグン様という王様が治めているんだそうです。ヒューマン族の異世界ニホンは「300年前にはショーグンがいた」というのですが。
 ヒューマンの異世界ニホンでは「エド時代」になるらしい、ウンディーネのニホン。
 ふんどし一丁で働く人が多かったんだそうです。
 地の肌は藍色っぽい色なのですが、日焼けした肌は深い黒の褐色になるようです。
 またウンディーネは肉体労働者が多く「ウンディーネの失敗焼け」が代名詞にまでなっています。
 しかし当のウンディーネは「失敗焼け」を「働き者の証」と考えるので気にしません。
 むしろ誇ります。

 ちなみにアルカディアのウンディーネはその肉体能力を活かして防御を固めてます。
 盾持ちの戦士や騎士スタイルの人が多いイメージです。

 なので、露出が少ないイメージなのがウンディーネの特徴なのです。
 なのですが……。
 ちらっ……。

 こほん。
 ええと、ちょっと待って下さいね。
 順に状況を解説します。
 まず依頼参加に名乗りを上げて下さったウンディーネさんのことです。

 お名前は……。

「お。俺っちか。あちゃー。俺っち、まだ知名度低いんだな。名はジョータ、二つ名は『大漁旗』。『大漁旗』のジョータだ。以降よろしくな、契約職員どの!」

 『大漁旗』のジョータさんは口上のようにスラスラと自己紹介をして、わたしと握手。
 そのままブンブンとわたしの腕を振ってきます。
 ジョータさんの身長、190センチくらいでしょうか。
 大柄の男性に握手ホールド、手を振られてます、わたし。
 いえ、痛くはないです。
 一般人だったら天井に飛ばされそうな勢いですけどそれはいいのです。
 ええと、ジョータさん。
 わたしも極力見ないようにしているのですけど。
 ずっと揺れて、いるのが。
 視界の下に入って、くるの、ですが。

 ……先ほど。
 ウンディーネは露出が少ないと申しました。
 申しましたがジョータさんの装いなのですが、なぜなのでしょう。
 水着姿なのです。
 それも最近発売されたばかりの、「ぶーめらんぱんつ」というきょーえー水着、なのです。

 最近、ちょっと思うのですが、こういうシチュで動揺、悶絶するわたし、って。
 もしかしたら。
 えっちぃ、のでしょうか。
 アリーちゃんはぜんぜん、平然としてますし。

 あ。違った。
 まりあさんも顔を手で隠してますけど指の間からガン見してるわ。
 わたしだけではないのですね。
 よかった。堂々と言えます。
 ワタシハ、ヘンタイデハナイノデス。

 あれ、わたしがジョータさんの揺れ……ごほごほ。
 ぶーめらんぱんつ姿に動揺している間に。
 ミユキ様の姿が見えなくなっていました。

 もしかして、ジョータさんの「ぶるんぶるん」に気後れして。
 依頼から逃げました?

「ん、『一丈青』のお嬢さんだったら『ほーかーのー、仲間にもー、声をかけてー、きますー』って言って、さっき出て行ったぜ」

 ジョータさん、その姿でミユキ様の真似は止めて下さいお願いします。
 おふたりとも、露出度合いだけは差がないので、余計にタチが悪いです、なのです。


 あれ?
 先ほどからじーっと、視線を感じます。
 くるっと見回して。わかりました。
 先ほどまでミユキ様、ジョータさんと高身長の人たちと話していたので気付かなかった、みたいです。
 わたしの前に、いつの間にか人がいました。
 わたしの背の、半分くらいの人が。

「契約職員、いまボクを失礼な目線で見た。言っておく。ボクはドワーフのフィメールおんなの中では背が高い」

 見下ろすなんて、そんな失礼なことをしていないのです、なのです!
 ということで今、わたしの前にいるのはドワーフさんなのです。
 身長は60センチちょい。
 コロボックルとあまり変わりませんので間違えられそうなものですがコロボックルは黒髪で白い肌が特徴。
 一方、ドワーフは赤褐色で赤毛や茶髪、金髪の人が多いです。
 ちなみにコロボックルとドワーフが住んでいた異世界ニホン。
 それをヒューマンのニホンを例に説明すると、コロボックルの住んでいたニホンは縄文時代に似ているそうで、ドワーフの住んでいたニホンは昭和復興期、町工場が元気だった頃のニホンに似ているんだそうです。

「ボクはドワーフとして思う。虎人、ウンディーネが肉体美を誇る大会に参加。ここにドワーフが参加せず後れをとるのはゆゆしきこと」

 このドワーフさんってば「ボクっ子」さんなのですね。
 なんというか、カワイイいきものなです。

「ん? また失礼な目線を感じた。ボクは愛玩動物ではない。それにボクは成人のフィメールだ。わかりやすく言えば立派なレディだ。それも契約職員のように貧乳ではない。刮目せよ、というか刮目しなくても気付け」

 ドワーフさんがその場でぴょん、とジャンプしました。
 か、カワイイ……と思ったのもつかの間。
 どすん、と体重が乗った音が響くと同時に金属製のブレストアーマーがどすん、がちゃんと上下に揺れました。
 ええと、運動エネルギーは質量かける速度、とエルフ先生に聞きましたが。
 つまり、その装甲の中にはさらに質量がある重装甲がある、とでも。

「ふふふのふ。おののいたか。そこなヒューマンがたしか『脱いだらすごい』と言っていた。だが見せてやろうではないか。本物の、『脱いだらすごい』というものを、な」

 準備に一週間くらいかかりそうな言葉を発しているドワーフさんですが、あのぅ、失礼ですがお名前は?

「ほんとに失礼、契約職員。ボクの名前は『合法』のサチコだ。ほんとに知らないのか、有名だぞ!」

 あー、その二つ名なら。
 わたしも聞いたことはあります。
 有名ですよね。非常に。「ある界隈」では。
 たしか冒険者カード初刷り版の取引で、最高価格を更新したとか伝説の……。
 動く二次元、という裏二つ名持ちでもある……。

「しかし困った。『一丈青』が本気を出す、ということは『智多星』も来るだろう。ボクにもブレインが必要。ならば連れてくるッ。刮目して待て、次回ッ!」

 『合法』のサチコさんはシュタッ、と手を振り飛び出して行きました。
 あー、言うだけあって確かに鎧が上下してるわー、です。
 すげー、なのです。

 だんだんカオスの様相を見せ始めたこの依頼。
 果たして「まだ」何か起こるのか。
 サチコさんの言葉ではありませんが「待て、次回」なのです!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

わがまま妃はもう止まらない

みやちゃん
ファンタジー
アンロック王国第一王女のミルアージュは自国でワガママ王女として有名だった。 ミルアージュのことが大好きなルーマン王国の王太子クリストファーのところに嫁入りをした。 もともとワガママ王女と知れ渡っているミルアージュはうまくルーマンで生きていけるのか? 人に何と思われても自分を貫く。 それがミルアージュ。 そんなミルアージュに刺激されルーマン王国、そして世界も変わっていく 「悪役王女は裏で動くことがお好き」の続編ですが、読まなくても話はわかるようにしています。ミルアージュの過去を見たい方はそちらもどうぞ。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...