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第1章 冒険者ギルドの契約職員なのです!

冒険者ギルド、とは。 ――その4

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 ここで現状解説です。
 混乱しているアイコさん。
 一方、「テンプレ通り」みたいな顔をしているタロウ会長。
 以上です。
 タロウ会長が頭の後をポリポリとかいて。
「ここで立ち話ってのもなんだな。俺もお前ェらをずっと見上げてるのも首が痛ェし。蕎麦でもかっ喰らいながら話をすることにしようぜ」
 その提案にわたしは即答します。
「タロウ会長、まことに申しにくいことですが、わたしは現在物資弾薬が尽きている状況です!」
「あー、これ以上面倒なことを言うな、ふたりまとめて俺のおごりだ」
 タロウ会長、さすがです。一食分浮きました。

 アルカディアの飲食店は様々です。わたしたちの世界には存在しなかった料理を異世界人が次々と紹介し産み出しつくったためです。
 蕎麦もその一つ。
 わたしが来ているここ、キタ蕎麦は「早い、安い」がモットー。店主はヒューマン、アオイさん。10年前にこの世界にやって来てお店を開き繁盛店にした女傑です。年齢は……ぐむむ。
「ティア、『その話』でそれ以上口を開いたら、アンタの勘定だけ倍だよ」
 ……あ、はい。こういう感じでアオイさんは「とても素敵なおねえさん」なのです。
 ちなみにいつもきれいに整頓されているキタ蕎麦の壁には小さな張り紙、ポスターって言うのです? があります。

『当方は未熟ゆえお客様各位が懐かしむ『あのお店』には未だ及びません。よって二番目に高い山の名前をつけ、修行を続けます』

 どうにも意味がわかりませんが、ヒューマンの人たちには「わかる人もいる」、んだそうです。ニホンで一番高い山は「フジ」なのはわたしも知ってるんですけどねえ。
 ちなみにキタ蕎麦は漢字で書くと「喜多蕎麦」、と書くそうです。

 店の形式は「立ち食いそば」というらしいです。実際いそがしい人はカウンターで蕎麦をかき込んでいきます。
 でも種族間で背丈がバラバラなアルカディアですから、「ボックス席」と呼ばれる机、椅子席があります。

 って、ことを考えているうちに蕎麦が来ました。さすが「早い、安い」の看板に偽りはありません。
 鮭節でとったいいダシのにおいが食欲をそそります。
 アイコさんはなんか不思議そうな顔をしてますけど。
 もしかしたらアイコさんは鹿節派なのかなー?
 わたしは鹿節も好きですけど濁りがない鮭節のほうが好きなのですが。

 ダシの好みでの対立は「キノタケ論争」って言うらしいのですよ。なんでも異世界では世界を二分する戦いまで繰り広げられたらしいです。
 異世界、怖いですね。食べもの好みで戦争だ、なんて。
 あ、最近は「コブだし」というのもあります。ドワーフさんたちが浜辺に砂利を敷いて、ウンディーネさんたちが海藻を採ってきて、干してます。
 船に乗った人が長い棒を海に突っ込んで、海藻を巻き付け引き上げます。
 船から降ろしたら、一斉に総出で干します。
 わたしも一度お手伝いしましたが海水に濡れたコンブ、重いです。
 天気が悪くなったらすぐに引き上げて乾燥機の中にいれなきゃいれません。
 それが終わったら選別し、長さをそろえてカットする作業があります。
 波が高いと船は出せません。波が良くても天気が悪いと干せません。
 まさに海と天気と人の労力の、三つが重なってようやくできる高級品の中の高級品です。
 とてもとても、わたしたちのような庶民の口には入りません。
 面白いのはヒューマンの皆さんは「こんなにとんでもない労力がいるとは考えもしなかった」って全員言うんです。
 ちょっと不思議です。
 これは余談でした。
 現在、タロウ会長がアイコさんに説明をしている真っ最中です。

「つまりだな。冒険者ってェのは自営業なんだ」
 アイコさんはタロウ会長の話を真剣に聞いてます。
「お前ェさんは前の世界で子供扱いしかされてなかった、としても冒険者になったら大人として扱われる。やらなきゃならねェ義理はしこたまできるが、同時に権利やら恩恵ってェのもできるわけだ。たとえば『冒険者同士の助け合い』って奴、とかな」
 ここでタロウ会長が懐から封筒を取り出しました。
 この世界に来た異世界人の中でも、冒険者になると決めた人にだけ渡される準備金というものです。

「中には20万円入っている。これでいろいろ準備してもらう、って寸法だ」

 20万円は大金です。わたしのアパートの家賃が2万3千円ですから。食費はひと月3万円あれば三食きちんと食べられます。

「あげるわけじゃねえぞ。冒険者ギルドで仕事を、依頼をこなせば自動的に返してもらってる、って類いだ」

 冒険者が依頼を達成すると依頼人から報酬を得ます。この内冒険者ギルドは3割天引きします。残り7割を冒険者で分け合うのです。
 冒険者ギルドの取り分が高すぎる?
 そうかもしれませんね。自分が冒険者の立場なら命張ってるのに、と思うでしょう。
 でも、わたしの斡旋料は3割のほうから出されるわけで……、こっちが減るとですね。わたし、路頭に迷うのですよ。

「もちろん、これを受け取らねぇ、冒険者をやらねェ、って選択もある。その場合、農村や漁村に行く、商店の手伝いをする、いろいろ生きていく道はある」

 あくまで「アルカディアから出て行くのなら」という条件での話ですけどね。
 アルカディアの街にいる商人や技術者、生産者は冒険者として登録しているのがふつうです。

「だけどよ。どっちの道に進もうと結局。この世界に生きる以上、常に魔獣の脅威にはさらされる。ただ『アルカディア』は魔獣との戦いの最前線、って話よ」

 前にも話したかも知れませんが。
 アルカディアは元々魔獣の巣窟だった場所にできた街です。
 そして現在もその状況は変わっていません。
 わたしたちの世界にも王家、貴族領など「あるにはある」んですがアルカディアの一帯は、百年前に現れた魔獣の侵攻で大打撃を受けました。
 遷都が行われ、貴族は決死の覚悟で砦で踏ん張り。残された村や街の人たちは戦々恐々として生きてきました。
 義勇軍が出征し、足りなくなって長男以外の男に徴兵が繰り返され。
 どこの街、どこの村でも同じです。
 わたしが生まれた18年前まではわたしの村も同じく、だったそうです。

 その状況が一転したのが18年前に突如起こった異世界人の流入、大転移からです。
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