上 下
35 / 46
5原始の森と温泉宿

5-6.原始の森と温泉宿

しおりを挟む
「皆エルフの一団のようです、目の退化した強大な土掻竜ドレイクに四五人ずつ、十騎に乗った五十人ほどの団体で、皆武装しております」とグレナダが言う。
「円盤状の金属の武器を携帯していなかった?」
「ありましたね、珍しい金属の武器が、あれは人間の作った武器でしょうか?」
「どうだろう、ただ、厄介な武器だよ。追尾機能があって、引力を操作して獲物を引き寄せて裂くようにできている。射程圏内に入らないようにするのが賢明だ」
よく考えれば、あの武器は有翼人を近付けないために作られたような武器だ。
「ところで」と、有翼人の一人が後ろの三人を見る。
「イセトゥアン様は、同行されていらっしゃらないのでしょうか?」
「ああ、イセトゥアンね、そんな人いたね、ここにはいないけれど」
脳内で、有翼人女子たちに絶大な人気を誇る兄の脹脛フクラハギにローキックを入れる。
「このウルサい鳥たちは何なのだ。道行を邪魔するのであれば燃やすか?」
「いや、どう見ても協力者だろうが。どうしたのお前? 白い翼に対抗意識があるの?」
「えっ」と女子たちがヨルを見て固まっている。凍り付いたように制止した彼女たちに、スパルナ族と悪魔は相性が悪かったのだろうかと、心配になる。
「ちょ、ヤバ」
「マジ、ヤバイ」
よくわからないが、ヤバイらしい。
グレナダが彼女たちを押しのける。
「ソゴゥ、とにかくこの先の噴煙フンエンの上がっている火山に、ソゴゥの探している集団が向かっていますよ、追うのですよね? ここからなら、飛んで行った方がいいと思うので、魔力を温存したいのでしたら、私たちが運んでいってもいいのですが、どうすしますか?」
グレナダの提案は、後ろの三人に向けられたものだった。
「我には必要ない」とヨルが黒い翼を広げる。
「ラサーヤナ族の方なのかしら?」
「いや、人に擬態した悪魔だ。あまり近づかないで、はいそこ、不用意に触らない!」
「悪魔だって、かっこいい」と女子たちは種族など気にした様子もなく、積極的にヨルの翼に触ったり、イセトゥアン派と、ヨル派で議論を繰り広げている。
「ブロン、ヴィント、二人はどうしますか? 彼女たちは俺の古い知り合いで、今回協力してくれます。彼女たちに、逃亡犯のところまで運んでもらいますか? 自力で飛行しますか?」
「自力で!」と二人が同時に応える。
「天使に運んでもらうなんて、オソれ多いです」
「いや、スパルナ族の方々であって、天使ではないから」
「女神・・・・・・・」とブロンが呟いている。
「あー、グレナダ、申し出は有難いけれど、皆こんな感じなんで、場所だけ案内してもらえるかな、何とかついて飛んでいくから」
「マスター」
「おい」
「ソ、ソゴゥは我が抱えて連れて行こうか? 有翼人より速く飛べるぞ」
「案内人を抜かしてどうすんの? 人を抱えて飛ぶときって、揚力ヨウリョクはどうなってんの? 翼やお腹の下に、体を浮かす風を作って飛んでいるんだよね、鳥って」
「我は鳥ではない」
「聞き捨てならないですね、私達有翼人より早く飛べると? ソゴゥ、私が抱えて飛んであげますよ、私の方がずっと速いですから」とグレナダさんが、腕をとって引き寄せてくる。
「いや、我の方が早いに決まっている」と反対側の腕をとってヨルが引っ張ってくる。
まさに、人間を正しい方へ導かんとする天使と、堕落ダラクソソノす悪魔の構図だが、内容はどちらが速く飛べるかだが。
「俺飛べるし、結構早いし、とりあえずあの手前の双子山の右側山頂まで、誰が一番最初に着くか競争する?」と提案してみる。
「ソゴゥに世界を教えてあげましょう!」
「マッ、ソゴゥ、翼ある者の真髄シンズイを見せてやろう」
ちょくちょく、マスターと言いそうになる締まらないヨルは置いておき、ブロンとヴィントもまた炯々ケイケイと目を光らせている。やる気だ。

二頭の馬を、二人の有翼人に任せて、エルフ勢足す悪魔と、グレナダを筆頭に有翼人の女子たちで双子山を目指すことになった。
馬を任せた二人に、飛翔の合図をお願いし、一斉にスタートする。
まあ、反則と言われようが、見える範囲なら瞬間移動ができる俺より早く辿り着く者は、同じ能力を保有する者だけなのだが。

案の定、クレームの嵐だ。
知っていました。
だが、俺は言った「誰が一番早く飛んでいけるか」ではなく「誰が一番最初に着くか」と。
ようやく追いついてきたブロンとヴィントが「流石、有翼人の方の本気の飛行は凄まじいですね」と、素直に負けを認めている。
ほぼ同時に到着したヨルとグレナダは、未だに俺に反則だとやり直しを要求してくる。
子供か。今はそれどころではない。
ここからなら、ティフォン・トーラスの一団を鳥瞰チョウカンできると思い、集まってもらったのだ。
「グレナダ、それで一団はどっちだ?」
「あのひと際高いコーナンカインズ火山の左側手前に、噴煙を上げている火山が見えますか?」
「ああ、あそこか。いるいる、間違いない」
顔に「イグドラシルを冒涜ボウトクしせし者」と印をつけた奴らを含む一団が見えた。
「彼らの目的が、ソゴゥの知らせてきた懸念の通りでしたら、このまま山頂に向かうでしょう。上空から攻撃して、壊滅させますか?」
「いや、彼らが持つ武器と有翼人とは相性が悪い。それに、上空からの攻撃を想定して耐魔法防御が厳重にされているとみるべきだ。俺ならそうする。ここは、俺たちだけで何とか・・・・・・・」
「私たちは、ソゴゥの役に立てることをずっと待っていたのです。貴方が来なければ、私たちはずっと閉じ込められたままだったのですから」
「そうです、あの時のソゴゥは、あんなに小さかったのに、誰よりも頼もしかった。あんなに小さかったのに」
「ね、めっちゃ子供だったよね、すごい小生意気だったけど、賢くて、あんな状況でパニックにもならずに、偉かったよね」
「そういうの、いいから」
耳が赤くなっているのが分かる。
彼女たちの中では、俺はまだあの小さい子供の印象のままなのだろうか、あれから二、三十センチは身長伸びたのに。

められているのか、揶揄カラカラわれているのか分からないが、ともかく戦闘にも協力してくれるというなら、できるだけ彼女たちを危険な目にあわせず、ティフォン・トーラス達を拘束する方法を考えよう。

「わかった、じゃあ、皆協力してくれ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

処理中です...