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7 終章 加護の森と百鬼夜行・改

7-1. 終章 加護の森と百鬼夜行・改

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豪華な内装の巨大客船の奥から、大きな犬のような何かが一心不乱に走って来て、ソゴゥに体当たりを喰らわせた。
主に精神力が限界だったソゴゥは、後方に弾かれ、ヨルが慌てて受け止める。

「ソゴゥ! お前大丈夫か! 怪我は? ってか何でそんなに弱っているんだ?」
「お前だよ! 怪我を心配する相手に体当たりを喰らわせてどうするよ、ちょっと腕を出せ、噛みついてやる!」
「ごめん、ごめん、ってソゴゥ目が! 血がついている!」
「拭ったんだけどな、まだ汚れてたか」
ヨドゥバシーが、ソゴゥの目に治癒魔法を宛てる。白い泡がするりとマブタに消えていき、ソゴゥは一息ついた。
ガイドに戻していた魔法鍵が突然光りだし、元の大きさになって、ソゴゥの手に収まる。
ソゴゥの意思とは関係なく、体が光りに包まれ、白銀の髪、ペリドットの瞳、エルフの耳に戻り、さらに手や顔に黄緑色の光が液体のように走り、光りながらそごうの両手を前へと上げさせた。
手と手の間に、光が集まり出し、やがて一冊の本が収まった。

「あら、それは貴族書ですわね。十三貴族のノディマー家が最初に持つのは、治癒の魔法書のようね、お父様に報告しなきゃ」
ヨドゥバシーが首が取れそうなほどの速さで振り返り、頭を下げて一歩下がった。
ソゴゥは手にした魔法書をヨドゥバシーに手渡す。
「イグドラシルの意思に代行して、この貴族書を十三貴族に仮に進呈シンテイする。正式にはイグドラム国王よりタマワるように」
ヨドゥバシーがウヤウヤしく魔法書を受け取ると、魔法書の装丁が変わり、ノディマー家の家紋が表紙に刻まれた。
「それを使い、ここに居る避難民の健康状態の管理を任せる。長い間飢餓状態にあり、急な食料の摂取に耐えられない者、体力のない幼子や、年齢の高い者を助け、これからの長旅で、ただの一人も欠けることが無いように役立てよとのことだ」
ヨドゥバシーは片膝をつき「承知致しました」と答える。
光りが引いて、いつものソゴゥに戻ると、ソゴゥは苦々しい顔でリンドレイアナ王女を見る。
「貴女がこちらにいらしたとは、貴族書は帰国したのち、王に私からお渡しする」
「貴族書の事は了承したわ。わたくしがここにいるのは物見遊山ではなくてよ、王族の者が最前線で避難民をお迎えするのは当然の事ですわ」
ソゴゥが大司書であった場合、その地位はゼフィランサス王と並ぶが、今はまだ第一司書のため、王女などの王の一親等と同等となる。
「とは言え、途中から飛行竜で食材と一緒にこの船に乗り込んだのですけれど、わたくしの厳選した胃に優しい食料を大量に用意しております。病人食のエキスパートに調理してもらい、イグドラムに帰り着くころには、彼らのあのガリガリの体を丸々とさせてみせますわ」
ソゴゥは王女の言葉に、思いのほか優しく微笑んだ。
王女が言葉を失い、王女の後ろにいたヨドゥバシーまでも固まっている。
「イセ兄さん越えの、キラースマイル」とヨドゥバシーが呟いている。
「あー、そっ、その第一司書のソゴゥ、わたくしのことを好きになったのですか?」
「え?」
リンドレイアナ王女の言葉に、ソゴゥは途端に顔を真っ赤にして「勘違いするな、バカ!」と叫びながら船の奥に走っていった。
「王族にバカとは」
ヨドゥバシーが呆れたように言う。
「貴方の弟、わたくしに気がありますわよね?」
「え、ああ、どうでしょう、異性にはいつもあんな感じなので、私にはちょっとわかりませんね、ちょうど異性というものを認識し出した七歳の子供のままのような感性なのです」
「まあ、ご長男はあんなに浮名を流しているというのに」
「え? イセトゥアンが浮名を?」
「あら、ご存じなかったの?」
「とりあえず、帰ったら家族会議を開きます。そしてしかるべき処罰を下します。貴族として品性を疑われる行為は、家長として見過ごせませんので」
ヨドゥバシーは暗い目をして、イグドラシルより賜った貴族書に、イセトゥアンの異性を異常に惹きつけるフェロモンを抑制する魔法がないかを割と真面目に探した。
「リンドレイアナ王女がいらしたのですね」
司書のセダムとクラッスラが、ヨドゥバシーと王女を遠巻きに確認してソゴゥに言った。
「ああ、王女たちの手伝いを頼む。私は、他の船の様子を見てくる。場合によっては、向こうに滞在することになるので、こちらは頼むぞ」
「はい、向こうはジキタリスさんお一人ですから、どうか島の人達を安心させてあげてください」
「わかった、ヨル、行くぞ」
ソゴゥはヨルを連れて客船の甲板に出ると、隣の船に移動しようとまずは周囲を確認した。

「ん?」
どうせ、ゼフィランサス王が手を回していると思い、後回しにしていた問題が、今まさに上空から滑空して降りてくる。
本来なら砲撃されれてもおかしくないのだが、カデンの召喚獣である白い怪鳥であることを客船の周囲を護衛している戦艦からミトゥコッシーが確認したため、無事ソゴゥの目前の甲板に着陸して来た。
「ソーちゃん!」
「母さん!」
母子が感激の再開を果たす中、カデンがヒャッカの後ろに並び、順番を待つように手を広げている。
ソゴゥはそれを華麗にスルーして、ヨルが慰めるようにカデンの肩に手を置く。
全部で、三頭の怪鳥が甲板に飛来した。
「あれ、トリヨシの他にも鳥増えた?」
「ああ、いつの間にか結婚して子供が出来ていた。あっちの角が小さめなのが、嫁のトリタケで、まだ角がないのが子のトリセイだ」
「そうなんだ。召喚獣って、契約した獣に家族ができると契約が拡張されるの?」
「そうなんだよ、父さんも知らなかったがな、トリヨシを呼んだら、あとの二頭もついてきたんだ」
「へえ、お得だね」
のんびりと家族の会話をしているところへ、ヨドゥバシーの再来かと思うほどの体当たりを喰らった。腰のあたりに、大の大人が二人しがみ付いている。
ブロンとヴィントだ。
「ソゴゥ様! ご無事で良かった!」
「連絡が取れなくなり、島へは近寄れず心配しておりました!」
その後ろでセアノサスが、二人の王宮騎士に若干引き気味で「館長、ご無事でようございました」と声を掛けてくる。
「ああ、皆の事はあまり心配していなかった。そっちの戦力は十分だったからね、たとえ魔力を封じられても、ブロンとヴィントそれに武闘派なセアノサスと父さんがいたから」
「ええ、人間の国で軟禁されていたのだけれど、ホテルの部屋はスタンダードからロイヤルスイートに格上げされたし、私とカルミアにはスパのサービスもあって割と快適だったわ」
「そうなんだ、良かったね。俺もめっちゃもてなされたよ、極東で、めっちゃもてなされたんだよ、極東で」ソゴゥが壊れたように繰り返す。
「気をしっかり持つのだ」
側で見ていたヨルは、気の毒なソゴゥを励ましに掛かる。

ソゴゥは最後に怪鳥から降りてきた二人を目にとめると、隣の船についてくるように言った。
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