上 下
20 / 42
4 夜の消失 

4-6.夜の消失

しおりを挟む
そういえば、服びしょびしょなんだけど。
悪魔がドアを開けて、中へどうぞと手を差し伸べる。
ソゴゥは促されるままに、部屋へ入り、そしてすぐに出てきてドアを閉めた。

「おい」
「おや、どうされましたか?」
「人間だよな?」
「人だったものですね、もう亡くなられてかなり経ちますし、魂だけだった彼らに、彼らの記憶を元にその姿を肉付けしてみたのですが、どうも鏡を見たことがない者や、自分であることをイトうあまり、姿を変えられているような方がほとんどのようです」
ソゴゥは深呼吸をして、心臓を叩いて、さらに両頬を手でたたき気合いを入れる。
「よし」
ドアを開け、数秒制止し、そして静かに閉める。
「俺、これ殺されるんじゃない?」
「まさか、たぶん大丈夫ですよ」
「完全に俺の事、食料と思っていそうなヤツいたけど、手に出刃包丁もっていたけど、ヨダレたらしていましたけど!」
「世界樹の使途シトを食べたいなんて、グルメですね、フフフ」
「ちょっと!」
「大丈夫、大丈夫。肉体が無くなったら、魂は私が食べて差し上げますので」
「大丈夫じゃなくない、それ!」
「まあ、いいからお入りください」
悪魔に背中を押されて、部屋に押しやられる。
七人の目がこちらに集まる。
ものすごい圧だ。
大きなテーブルの左右に三人ずつ、手前に一人座っている。
悪魔が奥の椅子を引き、そこへ座るように促される。
ソゴゥは無表情を取りツクロい、亡者の後ろを回って奥の椅子に座る。
ソゴゥが最初に見て、一番びびった相手がすぐ左隣にいる。
悪魔がソゴゥの後ろに立ち、そして七人に紹介を始める。

「こちらはイグドラム国からいらした方で、しばらくこの屋敷に滞在されます。まずは、自己紹介をお願いできますか」と悪魔はソゴゥに向かって言う。
「イグドラム国からきました、ソゴゥ・ノディマーです」
悪魔が「え、それだけですか?」と視線で訴えてくる。
ソゴゥは左側を見ないように、さらに声が震えないように続ける。
「五人兄弟の末っ子で、公務員をしています。趣味は読書と旅行、好きなものは毛並みのいい動物全般です」
これでいいかと、ソゴゥは悪魔を振り返る。
悪魔はソゴゥのボケを理解している様子もなく、少しだけ首をかしげてから七人に向かって言う。
「ここにいる皆さまには一人ずつ、交替で、この屋敷の案内や、皆さまが普段なさっていることをお見せしたり、お話したり、料理を振舞ったりしてソゴゥ様に喜んで頂けるよう、おもてなしをお願いします」
「それはいい、久しぶりにお客様をおもてなしさせていただけるとは、楽しみですな」
ソゴゥの正面、一番離れた場所に座る男が言った。
星や勲章クンショウがどっさりと付いた将軍が着るようなシワ一つない軍服を着ている。
背筋がきれいに伸び、口髭クチヒゲを蓄えていて押し出しの強い、この中ではだいぶ人間に近い風貌をしていた。
もう一人軍服を着ている者がいるが、こちらは、左側の男同様、あまり視線を向けたくない容貌だ。
足を行儀悪くテーブルに乗せ、黒い戦闘服には、赤かっただろう液体がカワいてこびりついている。眼球は赤く、瞳は黒い。顔にも返り血がそのままアザになったような、赤い模様が刻まれている。
その戦闘服の男の手前、ソゴゥの直ぐ左横の男は、終始ヨダレを垂らしている。

まずは、包丁をテーブルに置け、話はそれからだ。
ソゴゥは左隣の大きな体を丸めて座る、腕の数の多い白い巨人の息使いに辟易ヘキエキしていた。

「ああそうでした、決して、ソゴゥ様を傷つけたり、食べたり、殺したりなさらないでください」
取ってつけたような、悪魔の注意に、何か罰則を設けたり、絶対やってはいけないと念押しするなりしてくれよと、不安に思う。
「おもてなしの順番ですが、ソゴゥ様の直ぐ左のオーグルさんが最初です」
もう食人鬼オーグルって言っちゃっているじゃん。よりによって、一番最初とか。
ソゴゥは目に力を入れて、泣きそうになるのを堪える。
「その次がジキタリスさん」
ソゴゥの右隣の女性で、彼女は頭に馬の骨を被っていて、顔が見えない。
喪服のような首を覆う黒いドレスに、白い長い髪。黒い手袋をしていて、肌の一切が見えない。
そして、オーグルの奥の血まみれ戦闘服男、その向かいのクマの被り物を被った少女、紙のように体が薄くて手足の長い性別不明の人、美しい容貌なのだがバーチャルのような違和感がある。
あと1人は、身なりの良い青年。
仕立てのよいスーツに白いシャツ、赤いネクタイ。
奥の軍服の男同様、人間として違和感のない風貌だ。彼は真っ直ぐこちらを見ている。
悪魔が順番を言い終えると、各々は了承と取れる仕草でそれぞれに頷く。

「オーグルさんは明日、おもてなしの準備が出来ましたら、ソゴゥ様のお部屋に来てください。では、これで今日のところは解散としましょう。ソゴゥ様、お部屋へご案内いたします」
やっと、びしょびしょの服を脱げると、ソゴゥは部屋を辞して悪魔に続いた。
屋敷は広く、無意味な扉や階段を上がったり、クグったりした。
ソゴゥは建物正面からここまで、一人で来られる自信がまるでない。

「こちらをお使いください。比較的安全な部屋を選びました」
もう突っ込むのも面倒だと言わんばかりに、ソゴゥは黙って案内された部屋へと入る。
「ワーオ、何ここ殺人現場?」
「おや、おかしいですね。綺麗に片づけておいたのですが、イタズラされないように入り口も分かりにくくしておきましたが、効果がなかった様です。部屋を換えましょうか?」
「ここでいいよ、とりあえずベッドがあればいいし」
ソゴゥは空き巣に入られたような荒らされた部屋に入り、ひっくり返った椅子を起して、そこに脱いだ外套を掛けた。

部屋はかなり広いが、椅子やテーブルは倒れ、ベッドの布団やシーツはグシャグシャになり、クローゼットのドアや引き出しは開きっぱなしで、調度品は散らかり壁の絵も傾いている。
時計はすでに、いつもならソゴゥがそろそろ眠る時間を過ぎていた。

「ご夕食は、こちらの部屋にお持ちします」
「ありがとう、でも食料なんてあるの?」
「貴方をご招待するにあたり、私がよその国から買い付けました。水も、食料も害のある物ではございませんのでご安心ください」
「それならよかった」
「それでは、何かありましたらお気軽にお申し付けください。そちらの電話の受話器を上げていただければ、私に繋がりますので」
ソゴゥは後ろを振り返り、前世で見たレトロな電話機を確認した。
「それでは」
悪魔が出ていく。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

処理中です...