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4 夜の消失 

4-5.夜の消失

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バランスを崩し、空中に投げ出されて落下し、受け身を取ろうと地面を確認する間もなく、そのまま水柱を上げて水中に深く沈んだ。

水をいて、水面に顔を出すと、頭の上に何かが乗っかってきたが、手は水を掻くので精一杯のため払い落す事も出来ず明るい方に泳いで、岸を見つけて這い上がった。
頭の上に避難している魔獣を、頭を振って落とす。
魔法が使えないと服を乾かすこともできないと、びしょびしょの服をとりあえず外套ガイトウだけ脱いで力の限り絞って、また羽織った。

振り返ると、かなりの高さから落ちてきたようで、下が水でなかったら大怪我を負っていただろう。
それに、ここは地下であるが、まるで空があるように高く、天上は白く霞んでぼんやりと明るい。目指してきた明かりの方には、こちらもまた地下にあるには不自然な、ホテルの様な建物があり、その手前の広い庭園は塀で囲まれていた。
塀まで歩き、空いている所からそのまま庭に踏み入る。

「ようこそ」
背後からの声に、ソゴゥは振り返る。
「お出迎えせずに失礼いたしました。世界樹の聖隷セイレイ殿、貴方をお呼びしたのは私でございます」
ソゴゥは男を不審げに見つめる。
「悪魔が、俺に何の用なんだ?」
不意に、ついてきていた魔獣が男に飛び掛かりそうになったので、ソゴゥは空中でキャッチして、後方にリリースした。
「魔法を封じられて、よく私が悪魔だと瞬時に見抜けましたね」
「当てずっぽうで言っただけだ、本当に悪魔だったとは」
男は人の姿から、本性を現すように頭部に角と、ライオンの様な尻尾、蝙蝠コウモリの様な翼を出して、金色の目をスガめた。
「悪魔に女子はいないの?」
「おかしなことを言われる、悪魔に性別はありませんよ、人間の欲望を反映させる姿を取ることが主ですから、何でしたら女性の姿を取りましょうか?」
「悪魔に希望を述べて、言質を取られるのは勘弁だな。上辺だけの女子に興味はないし」
「用心深い事ですね。では、早速こちらの建物へご案内いたします。会っていただきたい亡者が、七名ほどおりますので。その七名にお会いになる前に、用件だけ、先ずはお伝え致します。歩きながらお話いたしますので、どうぞ付いて来てください」
悪魔は角や翼と尾を引っ込め、建物へソゴゥを案内する。
庭から建物までの道には真っ赤な絨毯ジュウタンが敷かれ、庭には池や東屋アズマヤ、石像の様なものが調和なくただ置かれている。
酷い趣味だと呆れながらも、口を出さずに悪魔について行く。
正面の扉が開かれ、建物の中へ入って絶句した。
ショッピングモールなどにあるカスケードのレベルを超えた、本物の滝が轟々と吹き抜けの最上部から、フロアの床に空いた穴に向かって落ちている。
轟音で、悪魔の声がまるで聞こえないばかりか、ただでさえびしょ濡れのところへ来ての、この湿気。
マイナスイオンなど皆無の、室内の不快指数爆上がりの設備だ。
悪魔はこのエントランスを滝の周囲を半周して、滝の裏の扉を開けて奥へと先導する。扉を閉めた途端、滝の音と湿気が無くなった。

「私の趣味ではないのですよ。亡者たちはもはや記憶が曖昧アイマイで、このように歪な空間が出来上がってしまっていますが、出来る限りユガみを削る努力はしているのです。しかし、生身の体では、ここはかなり危険ですので、移動の際は注意してください」
「はあ」
「さあ、この奥の客間に集めている亡者達に会われる前に、話しておきましょう。私はある者との契約で、七人の亡者のうち一人を救わなくてはならないのです。その亡者を、第三者に決めていただくため、世界樹が選んだ貴方ならと、亡国の母に頼んで招待させていただいたのです。と言いますのも、この七人の亡者は全て、亡国の戦争に関わった者達で、被害者であり加害者である者達なのです。ですので、この戦争と関わりのない者の視点で、彼らを見て、そして判断していただきたい、それが貴方に来ていただいた理由です」
「亡国の母に、ある者の力になって欲しいと頼まれたが、まさか悪魔の願いとは。まあ、協力をしてもいいが、選ばれなかった亡者はどうなる?」
何を当たり前の事を聞くのかと言わんばかりに、悪魔が作り物めいた顔に笑みを浮かべる。
「貴方に選ばれなかった亡者は、地獄へ送られます」
ソゴゥは腕を組み、宙に視線を漂わせ、やがて下から睨み上げるように瞳だけを悪魔へと向けた。
「どうして選べるのは一人だけなんだ?」
「そういう契約だからです。これは、私にも貴方にも変えることのできないルールです」
「救うとは、具体的にどういう事を指すのか、それと地獄へ送られるとどうなる?」
「救うとは、生き物の正しい死を与えるという事です。私は何度か経験しておりますが、捉え方は人にもよるでしょう。苦しみも寂しさもない、それどころか惑星の一部となり、壮大な記憶と、多くの生命を感じ、惑星創世記からの地殻変動や、海が姿を変える光景を目の当たりにしたり、時にその最中に放り込まれたり。エネルギーの一部であり、強大な力を感じたり、感動したりもしましたね。星はこんなにも生命に優しく、そして生命は惑星の一部だと感る。といった体験ができます。いわば、巡る、流れ続けるといったイメージでしょうか。そこには星蝉セイダンや、おおいなる優しいものの気配が常にあり、光と温もりがある。片や地獄とは、生物が感じる全ての苦しみが際限なく繰り返される世界といったところでしょうかね、知能をもつ生物がオチイる魂の牢獄ロウゴクのような場所です」
「そうか、俺なら地獄は願い下げだ。当然救われたいと願うね。それで、救うに値する亡者はいるのか?」
悪魔が片眉を上げ、驚きの表情をみせた。

「貴方の目で、貴方の思考で判断してください。こちらの部屋に亡者達がおります」
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