【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

ロミオとジュリエットと時々、神父。

68話

　――やられた！

　わたしは、恨みがましく織部くんを睨みつけてやった。
　だけど、織部くんはわたしのことより、目の前の神父のことでいっぱいらしい。
　思いっきり無視されている。
　確かに、そんな場合じゃない……そうなんだけど。
　中途半端なところで、放り出されたままのわたしのほうは余裕がない。
　いったい、どうしてくれるのよ！

　このドＳ！！
　さっきのごたごたで、膝下まで降ろされたストッキングごとショーツも一緒に脱がされたらしい。
　もっとも、そんなことに気づかない自分がいちばん間抜けているのだ。
　いくら気が動転しているからって、織部くんのなすがままに任せて、服を着せられて、下着だけを抜き取られるなんて……。自分のバカさ加減に泣けてくる。
　あの短時間で脱がしてしまう彼の手際のよさが腹立たしい。
　この人、どれだけ女慣れしてるの。
　さっきのアレだって、かなり……あの……なんていうか……その……。
　絶対に、普通の高校生のすることじゃない。
　エロい中年男ならまだしも、この人ってまだ18歳でしょ？

　もう一度、わたしは織部くんを見上げた。
　身長差があるので、どうしても下から見上げる形になってしまうのだ。
　背が高いから、着丈が膝まであるフロックコートがやけに似合う。
　立衿シャツとアスコットタイ。ベストの 釦ボタンに懐中時計の鎖がぶら下がっている。
　我が恋人の男っぷりに、ぞくぞくしてしまう。
　フロックコートは、結婚式の時に新郎がよく着ているものだ。小柄だったり肩幅が狭いとどうしても貸衣装っぽくなってしまうのに、まだ十代の彼がこれ以上はないというほど、見事に着こなしている。
　あの執事カフェでも、こんなに礼装の似合う男の子はいなかった。
　思春期の男子特有の汗臭さがない。現実離れしているほど端正な顔立ち。
　それでいて立派な大人を骨抜きにしちゃうなんて、絶対に変でしょ。
　普通にあり得ない。

　確かに、わたしは経験なかった。
　この歳までまるっきり、哀しいくらい何もなかった。
　だからって、ご都合主義なAVじゃないのよ。
　わたしだって、そんな敏感すぎるとかって、そんな特異体質なわけじゃないんだから、なんで高校生に翻弄されちゃってるの。
　伊万里が言うところの“スパダリ”なのか。
　あれって、BL用語だっけ。
　頭脳明晰、容姿端麗、高身長、高収入……ってのは、高校生だから、よく判らない。
　年齢のわりに大人の余裕に包容力まである。まったくもって、非の打ち所がないんだけど……。

　でも、やってることは、エロ中年？
　やっぱり老け顔だから、中身もエロオヤジになっちゃうんだよ。