上 下
66 / 92
ロミオとジュリエットと時々、神父。

66話

しおりを挟む
 考えれば、考えるほど、社会人として情けなさ過ぎる。
 顔を上げるのも恥ずかしかったが、いつまでも高校生に首根っこをつかまれているのもさらに恥ずかしい。
「リョウ。女性に対して、その態度は、失礼ですよ。あなたらしくない」
 その言葉に、織部くんはわたしの首から手を放してくれた。
 でも、すぐにわたしの二の腕をつかんで引き寄せてしまう。まるで、聞き分けのない犬のリードを引っ張るみたいだ。
 不満と恥ずかしさに、相手の顔など見られる状況ではなかったけど、好奇心のほうが勝る。
 さっき織部くんは、この人のこと“神父”って呼んでたよね。
 織部くんの後ろから、恐る恐る様子をうかがうと、目の前にいたのは、黒い司祭服を着た神父だった。
 白いローマンカラー。首から下げられた大きな数珠みたいな珠を連ねた十字架。
 金髪碧眼の大柄な西洋人。
 声から想像していたよりも若く見えるのは、優しそうな面差しのせいかもしれない。
 学校で遠目に見た聖職者たちは、かなり年配で、きびしそうな雰囲気の人たちだったから。

「初めまして、お嬢さん。わたくしは、レオンハルト。神学を担当しております」
 外国人から丁寧なお辞儀をされて、わたしはあわてた。
 自己紹介をする前に、織部くんが答える。
「これは、志野。俺の婚約者です」
 ……え?
 完全にフリーズするわたしの横で、織部くんは、淡々と続ける。
「本来であれば受付を通してロビーで面会するべきでありましたが、面会時間外でもありましたので、こちらへ通しました」
 こ、……婚約?!
 いつ、どこで、婚約なんてしたっけ?
 わたしだって、できるのなら、織部くんと結婚したい……って思ってたけど……。
 いきなり婚約者なんて?!
 そもそも結婚なんて、話したこともないのに。
 わたしのことをからかって、楽しんでいるの?
 それとも便宜上、ここだけで言ってることなの?
 織部くんは、憎らしいほど落ち着きはらっている。
 わたしだけが、彼の言葉に振り回されているばかりだ。なんだか悔しい。

「彼女をこちらへ通したのは、俺の独断です。申し訳ありません」
「確かに、妙齢の女性がいらっしゃるのは、騒ぎになるかもしれませんね」
 そう言いながら神父は、目を細めてわずかに微笑んだ。
「特に、こんな仔猫のような可愛らしいお嬢さんであれば、なおのこと……」
 猫というのは、今のわたしの状況を言っているのだろうか。
 優しげなのは、その外見だけで、ずいぶんな皮肉屋だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アダルト漫画家とランジェリー娘

茜色
恋愛
21歳の音原珠里(おとはら・じゅり)は14歳年上のいとこでアダルト漫画家の音原誠也(おとはら・せいや)と二人暮らし。誠也は10年以上前、まだ子供だった珠里を引き取り養い続けてくれた「保護者」だ。 今や社会人となった珠里は、誠也への秘めた想いを胸に、いつまでこの平和な暮らしが許されるのか少し心配な日々を送っていて……。 ☆全22話です。職業等の設定・描写は非常に大雑把で緩いです。ご了承くださいませ。 ☆エピソードによって、ヒロイン視点とヒーロー視点が不定期に入れ替わります。 ☆「ムーンライトノベルズ」様にも投稿しております。

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

政略結婚かと思ったら溺愛婚でした。

如月 そら
恋愛
父のお葬式の日、雪の降る中、園村浅緋と母の元へ片倉慎也が訪ねてきた。 父からの遺言書を持って。 そこに書かれてあったのは、 『会社は片倉に託すこと』 そして、『浅緋も片倉に託す』ということだった。 政略結婚、そう思っていたけれど……。 浅緋は片倉の優しさに惹かれていく。 けれど、片倉は……? 宝島社様の『この文庫がすごい!』大賞にて優秀作品に選出して頂きました(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎) ※表紙イラストはGiovanni様に許可を頂き、使用させて頂いているものです。 素敵なイラストをありがとうございます。

スパダリな彼はわたしの事が好きすぎて堪らない

鳴宮鶉子
恋愛
頭脳明晰、眉目秀麗、成績優秀なパーフェクトな彼。 優しくて紳士で誰もが羨む理想的な恋人だけど、彼の愛が重くて別れたい……。

家族愛しか向けてくれない初恋の人と同棲します

佐倉響
恋愛
住んでいるアパートが取り壊されることになるが、なかなか次のアパートが見つからない琴子。 何気なく高校まで住んでいた場所に足を運ぶと、初恋の樹にばったりと出会ってしまう。 十年ぶりに会話することになりアパートのことを話すと「私の家に住まないか」と言われる。 未だ妹のように思われていることにチクチクと苦しみつつも、身内が一人もいない上にやつれている樹を放っておけない琴子は同棲することになった。

翠も甘いも噛み分けて

小田恒子
恋愛
友人の結婚式で、偶然再会した同級生は、スイーツ男子。 十年の時を経て、なんと有名パティシエに。 学生の頃、彼の作るスイーツを毎日のように貰って食べていた翠は、ひょんなことから再び幸成のスイーツを口にすることに。 伊藤翠(いとうみどり、通称スイ)28歳 高橋幸成(たかはしゆきなり)28歳 当時ぽっちゃり女子とガリガリ男子のデコボココンビの再会ラブストーリー 初出 ベリーズカフェ 2022/03/26 アルファポリス連載開始日 2022/05/31 *大人描写はベリーズの投稿分に加筆しております。 タイトル後ろに*をつけた回は閲覧時周囲背後にお気をつけてください。 表紙はかんたん表紙メーカーを使用、画像はぱくたそ様のフリー素材をお借りしております。 作品の無断転載はご遠慮ください。

初恋は溺愛で。〈一夜だけのはずが、遊び人を卒業して平凡な私と恋をするそうです〉

濘-NEI-
恋愛
友人の授かり婚により、ルームシェアを続けられなくなった香澄は、独りぼっちの寂しさを誤魔化すように一人で食事に行った店で、イケオジと出会って甘い一夜を過ごす。 一晩限りのオトナの夜が忘れならない中、従姉妹のツテで決まった引越し先に、再会するはずもない彼が居て、奇妙な同居が始まる予感! ◆Rシーンには※印 ヒーロー視点には⭐︎印をつけておきます ◎この作品はエブリスタさん、pixivさんでも公開しています

処理中です...