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女人禁制の部屋。

53話

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 織部くんの目がうっすらと細められた。
 やばい……。またしても、織部くんの背後で暴風雪ブリザードが吹きすさんでいる。
 気分は真冬の昭和基地だ。
 南極ではマイナス30度にもなると、吐いた息が凍るらしい。
「そ、そ、そそそ、それは……」
 落ち着け自分。ここで弱気になるな。
 向こうだって、執事カフェでバイトしていたんだ。お互いさまだろう。
 そうだ。南極の動物と植物は保護されている。
 確か、南極条約というルールの下で、南極は世界の国々が平和的に利用しているはずだ。
 負けるな、わたし。
「い、伊万里に誘われて、ちょっとお茶しに行った……だ、だけよ。な、な、何もおかしなことはないはずレしょ」
 ダメだ。呂律が回っていない。
「あそこが、ああいう店だと気づかずに入ったとでも?」
 織部くんの声のトーンが、いっそう低くなる。
 そんなにすごまなくったっていいのに。
 いつものアナタも、じゅうぶん怖いですから、迫力ありすぎですから。
 高校生に見えませんから、黙ってたら、ほぼ管理職ですから。
「き、きき、気がつきませんでした」
 まともに、織部くんの顔が見られない。
 ひたすら怖い。
 ブリザードに耐えるペンギンか、シロクマになったみたいだ。
 あ、シロクマって南極じゃなくて北極に住んでるんだっけ?
 オーロラの幻さえ見てくる。

「嘘を言うな」
「はひっ?」
 びくんと背が伸びた。
「店に予約が入っていたぞ。お前が来るのは先刻承知だ」
「だ、だって、だって、織部くんだって」
 しっかりしろ。わたし……ペンギンは“世界でもっとも過酷な子育てをする鳥”なんだ。
 白クマにいたっては、クマの中で最も肉食性が強いんだぞ。
 ちょっと年下の彼に睨まれたくらいで怯むな。

「他の女の子にかしずいて、お世話してたんじゃない。わ、わたし以外の女の子に……」
 わたし以外の女の子……。
 あれ、今の自分の言葉で、自分が傷ついた。
 あそこって、隣に座ったらほぼホストクラブみたいなんだ。彼の執事姿があんまり格好よかったから、忘れてたけど。
 織部くんの執事に萌えてる場合じゃなかったのよ。
「コーヒーにミルクを入れてかき混ぜたり、お料理にふーふーして冷まして食べさせたり、お客が帰る時には“行ってらっしゃいませ、お嬢様”なんて言ったりしてたんだ!」
 そうだよ。この人だって、わたし以外の女の子の膝にナプキンかけたり、トイレまで案内したり、別料金でおしゃべりしたり、ゲームなんてことまで。
「“金毘羅ふねふね”とか“野球拳”とか“とらとら”なんて、やってたんだ」
「……それ、もしかして祇園のお茶屋遊びか。俺は舞妓や芸妓じゃないぞ」
 ものすごく冷静に織部くんがツッコミを入れるけど、今のわたしはそれどころではなかった。
 妄想が突っ走りすぎて、わたしの中でどんどん大きくなっていく。
 お店の男の子にハグとかしちゃってる人も見た。
 まさか、織部くんが誰か他の女の人とそんなことしてたら……いやだ。いやだ。いや、いや、絶対にいやっ!
 どうして人間って考えたくないことほど、考えてしまうんだろう。
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