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執事のいるカフェ。
47話
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「俺のほうだ」
耳もとでそっと囁く声に、わたしは驚いて織部くんを見た。
少し腕を緩めてくれたので、あわてて息をつく。
うっすらと細められた眼に、まるで心をすくいとられるようだ。
いつもは不機嫌そうなしかめっ面なのに、ときどきこうして、びっくりするほど優しい表情をする。
思えば、あたしがいちばん最初に心惹かれたのは、この顔ではなかったのか。
いつもの奇麗な彼の顔ではない。
普段は見せない優しい笑顔。
完璧すぎるほどのポーカーフェイスのせいで歳より老けて見える彼なんだけど、ちょっとだけ垣間見えるもうひとつの顔。
「俺が優衣を抱いているんだ。お前は被害者だ」
まるで子供をなだめるように、あたしの頭を優しく撫でながら織部くんは言った。
あれ。いつの間にか立場が逆転してる。
この身長差のせい?
気が付いたら、いつも彼のほうが上なんですが。
「ひ、被害者って……そっちのほうが変よ」
「変か?」
ちょっと笑いを堪えたような様子で、織部くんが答える。
ああ、この顔も好き。
でも、いつもの不機嫌そうな、世の苦悩を一身に背負ったみたいな顔も好き。
結局のところ、わたしは織部くんのどんな表情も好きなんだけど……。
本当にいろいろ好きで困る。
やっぱり深刻な恋愛依存症かもしれない。心療内科に行くべきかしら。
「やはり、俺は変なんだな」
「べ、別に織部くんが変だなんて……」
そういい終わらないうちに、織部くんの顔が近づいてきた。
「あ……ちょ、ちょっ……ぅんぐ」
唇が触れる瞬間まで、しゃべっていたから変な声がでちゃった。
恥ずかしいと思うより先に、唇は強く押し付けられて激しいくちづけに変わる。
息もできないほど乱暴なのに、もっと欲しいと望んでしまう自分が怖い。
ダメ、ダメ!!! 時と、場所を考えて!
何やってるのよ。わたし!!!
脳内で、もう一人の自分が叫ぶけど、すでに身体は痺れるように動かない。
「織部、時給プラス完全出来高制の執事バイトのサービスにしてはやり過ぎだ」
夢心地だったわたしの耳に、やけに現実味のある声が響く。
のぼせかけていたわたしは、いきなり水を浴びせられたような気がした。あわてて織部くんから離れようとしたけど、彼の抱きしめる力は、びくともしない。
「備前。俺は一身上の都合により退職する」
「ちょ、待て! そんなこと言われたって!!」
あせっている声は、たぶん、担当執事の備前くんだろう。
二人とも周囲をはばかっているのか、小声で話している。そのわりに、わたしのことはあいかわらず、身動きできないほど抱きしめているから、状況が判らない。
「店長の車を借りるから、そのことも伝えておいてくれ」
「店長じゃなくて、家令だ」
「それから、優衣の連れの女性がいただろう。彼女へのフォローも頼む」
「待て、待て、どういうことだ?!」
「俺は、優衣を連れて帰るから、備前は、彼女を送ってくれ」
「バイト中なんだが」
「頼む」
頼んでいるわりに、声音が低いせいか、脅迫しているようにしか聞こえてこない。
備前くんの反応が気になったが、返事が返ってくる前に、織部くんはわたしの腰をつかむと、ツカツカと歩き出した。彼の歩幅に合わせようと思うと、小走りになってしまう。
振り返ると、化粧室から戻ってきたらしい伊万里が、備前くんと一緒に手を振っていた。
店内では、こちらを凝視する客もいれば、執事たちとの会話に夢中で、まったく気にしていない客もいる。
耳もとでそっと囁く声に、わたしは驚いて織部くんを見た。
少し腕を緩めてくれたので、あわてて息をつく。
うっすらと細められた眼に、まるで心をすくいとられるようだ。
いつもは不機嫌そうなしかめっ面なのに、ときどきこうして、びっくりするほど優しい表情をする。
思えば、あたしがいちばん最初に心惹かれたのは、この顔ではなかったのか。
いつもの奇麗な彼の顔ではない。
普段は見せない優しい笑顔。
完璧すぎるほどのポーカーフェイスのせいで歳より老けて見える彼なんだけど、ちょっとだけ垣間見えるもうひとつの顔。
「俺が優衣を抱いているんだ。お前は被害者だ」
まるで子供をなだめるように、あたしの頭を優しく撫でながら織部くんは言った。
あれ。いつの間にか立場が逆転してる。
この身長差のせい?
気が付いたら、いつも彼のほうが上なんですが。
「ひ、被害者って……そっちのほうが変よ」
「変か?」
ちょっと笑いを堪えたような様子で、織部くんが答える。
ああ、この顔も好き。
でも、いつもの不機嫌そうな、世の苦悩を一身に背負ったみたいな顔も好き。
結局のところ、わたしは織部くんのどんな表情も好きなんだけど……。
本当にいろいろ好きで困る。
やっぱり深刻な恋愛依存症かもしれない。心療内科に行くべきかしら。
「やはり、俺は変なんだな」
「べ、別に織部くんが変だなんて……」
そういい終わらないうちに、織部くんの顔が近づいてきた。
「あ……ちょ、ちょっ……ぅんぐ」
唇が触れる瞬間まで、しゃべっていたから変な声がでちゃった。
恥ずかしいと思うより先に、唇は強く押し付けられて激しいくちづけに変わる。
息もできないほど乱暴なのに、もっと欲しいと望んでしまう自分が怖い。
ダメ、ダメ!!! 時と、場所を考えて!
何やってるのよ。わたし!!!
脳内で、もう一人の自分が叫ぶけど、すでに身体は痺れるように動かない。
「織部、時給プラス完全出来高制の執事バイトのサービスにしてはやり過ぎだ」
夢心地だったわたしの耳に、やけに現実味のある声が響く。
のぼせかけていたわたしは、いきなり水を浴びせられたような気がした。あわてて織部くんから離れようとしたけど、彼の抱きしめる力は、びくともしない。
「備前。俺は一身上の都合により退職する」
「ちょ、待て! そんなこと言われたって!!」
あせっている声は、たぶん、担当執事の備前くんだろう。
二人とも周囲をはばかっているのか、小声で話している。そのわりに、わたしのことはあいかわらず、身動きできないほど抱きしめているから、状況が判らない。
「店長の車を借りるから、そのことも伝えておいてくれ」
「店長じゃなくて、家令だ」
「それから、優衣の連れの女性がいただろう。彼女へのフォローも頼む」
「待て、待て、どういうことだ?!」
「俺は、優衣を連れて帰るから、備前は、彼女を送ってくれ」
「バイト中なんだが」
「頼む」
頼んでいるわりに、声音が低いせいか、脅迫しているようにしか聞こえてこない。
備前くんの反応が気になったが、返事が返ってくる前に、織部くんはわたしの腰をつかむと、ツカツカと歩き出した。彼の歩幅に合わせようと思うと、小走りになってしまう。
振り返ると、化粧室から戻ってきたらしい伊万里が、備前くんと一緒に手を振っていた。
店内では、こちらを凝視する客もいれば、執事たちとの会話に夢中で、まったく気にしていない客もいる。
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