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戦略は、馬刺しと囲碁。
16話
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夕食でお酒を飲んでしまった父に代わって、わたしが車で彼を送ることになった。
最近、免許をとったばかりで少し緊張する。
助手席に織部くんが座ると、まるで教官がいるみたい。
「あれ? エンジンがかからない」
「志野さん。キーがかかってない」
高校生に冷静に突っ込まれて、わたしは力なく笑う。
酔いも覚めそうな父と不安げな母に比べ、織部くんは表情ひとつかえない。
わたしの運転を信用してもらっているわけではなさそうなので、たぶん、物事に動じない性格なんだろうな。
織部くんの学校までは、およそ50分。初心者でも大丈夫な距離。
なんとかわたしは、車をスタートさせてトロトロと走り出す。
運転に集中するあまり無言でいると、珍しく彼のほうから話し掛けてきた。
「志野さん。話があるんだ。車を停めてくれないか」
「うん、ちょっと待ってね」
わたしは、車を路肩に寄せる。
それを見て織部くんはすぐに、他の車の迷惑になるからきちんと駐車できるところを探せと言う。
ほんとにカタイ……。
わたしは、思い切って景色のよい高台に出てみることにした。
前にも友達と来たことがあるから、慣れないわたしでもたぶん大丈夫。
いつか恋人同士で来たいね、と彼氏イナイ歴を着実に更新していく友達と嘆いていたものだ。
別にわたしは、織部くんを口説こうとかなんて、絶対思ってないわけで……。
って、ほんのちょっぴりぐらいは下心もあったりしたかも。
いやいや、やっぱり無理。無理無理無理。
わたしなんかより、一枚も二枚も上手をいく高校生を相手にそんなの無理です。
車から降りるとわたしは、織部くんの隣に立つ。
年齢差も大きいが、伸長差もそれ以上に大きいかも。
わたしの頭は、彼の胸あたりだ。
背が高いからって、わけじゃないけど……。
彼は確固たる自信を、もって生きているように見える。
だから、いつも堂々としているのかもしれない。
高校生とは思えないほど、しっかりしているもの。
織部くんは、わたしの持っていないすべてを持っている。
ただ、ダラダラと学生時代を過ごしてきたわたしと違って、一日一日を大切に積み重ねているのだ。
そんな彼の横顔にわたしは、うっとりと見つめた。
きっと今のわたしは、とんでもなく締まりのない顔をしているに違いないだろう。
もう一度、わたしが高校時代を生きなおしたとしても、織部くんのようにはなれない。
最近、免許をとったばかりで少し緊張する。
助手席に織部くんが座ると、まるで教官がいるみたい。
「あれ? エンジンがかからない」
「志野さん。キーがかかってない」
高校生に冷静に突っ込まれて、わたしは力なく笑う。
酔いも覚めそうな父と不安げな母に比べ、織部くんは表情ひとつかえない。
わたしの運転を信用してもらっているわけではなさそうなので、たぶん、物事に動じない性格なんだろうな。
織部くんの学校までは、およそ50分。初心者でも大丈夫な距離。
なんとかわたしは、車をスタートさせてトロトロと走り出す。
運転に集中するあまり無言でいると、珍しく彼のほうから話し掛けてきた。
「志野さん。話があるんだ。車を停めてくれないか」
「うん、ちょっと待ってね」
わたしは、車を路肩に寄せる。
それを見て織部くんはすぐに、他の車の迷惑になるからきちんと駐車できるところを探せと言う。
ほんとにカタイ……。
わたしは、思い切って景色のよい高台に出てみることにした。
前にも友達と来たことがあるから、慣れないわたしでもたぶん大丈夫。
いつか恋人同士で来たいね、と彼氏イナイ歴を着実に更新していく友達と嘆いていたものだ。
別にわたしは、織部くんを口説こうとかなんて、絶対思ってないわけで……。
って、ほんのちょっぴりぐらいは下心もあったりしたかも。
いやいや、やっぱり無理。無理無理無理。
わたしなんかより、一枚も二枚も上手をいく高校生を相手にそんなの無理です。
車から降りるとわたしは、織部くんの隣に立つ。
年齢差も大きいが、伸長差もそれ以上に大きいかも。
わたしの頭は、彼の胸あたりだ。
背が高いからって、わけじゃないけど……。
彼は確固たる自信を、もって生きているように見える。
だから、いつも堂々としているのかもしれない。
高校生とは思えないほど、しっかりしているもの。
織部くんは、わたしの持っていないすべてを持っている。
ただ、ダラダラと学生時代を過ごしてきたわたしと違って、一日一日を大切に積み重ねているのだ。
そんな彼の横顔にわたしは、うっとりと見つめた。
きっと今のわたしは、とんでもなく締まりのない顔をしているに違いないだろう。
もう一度、わたしが高校時代を生きなおしたとしても、織部くんのようにはなれない。
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