ぬいぐるみ界の日常記録

奈留美

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新入り

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お昼ごはんを食べて、眠くなった僕は、大木の下で昼寝をしようとぬいぐるみ界を見渡せる丘を登っていた。

「おーい、しろくにゃ!大変だ」

後ろから僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

くまみちの言う大変はそんなにあてにならない。

「なにさ、くまみち。僕今忙しいんだけど」

「お前が忙しいわけあるか!」

突然殴られた。

え、こいつ今なんて言ったの?失礼過ぎない?僕にだって忙しい時はあるよ!

なんで失礼なこと言われて、殴られなきゃいけないんだ。理不尽過ぎる……。

「……」

痛くて涙目でくまみちを睨みつける僕。

「お、やるか?」

くまみちは僕が怒ったと思い、ファイティングポーズをとってくる。

「やらないよ、僕は眠いんだってば」

そう言って僕はくまみちに背を向けた。

「ほーん、そんなことじゃ新入りに負けちまうかもなぁ」

背中を向けているけど声だけでくまみちがニヤニヤしながら言っているのが分かる。

「……新入り?」

「やっと話を聞く気になったか」

「男なの?」

「さあ」

「じゃあなんで負けるの?」

「お前が俺の話聞かねえからだ!」

くまみちは僕が話に食いついたのが嬉しかったのか、ガハハハハと笑っている。

「はぁ、相手にするんじゃなかった……。どっちでもいいけど僕には関係ないよ」

僕は昼寝のためにまた大木に向かって歩き始める。

後ろからくまみちが着いてくる。

「おい、なぁしろくにゃ。新入り締めに行こうぜ」

「男か女かも分かんないのに?」

「美少女だったらお近づきになりたいな」

そんなキリッとして言われても……。

「そんな都合よく美少女が来るとも思えないけど」

僕達が大木の下でわーわー話していたその時。

「あの」

聞き慣れない、不機嫌そうな声が聞こえてきた。

「「ん?」」

僕とくまみちが声を揃えて一緒に木の上を見ると、そこには。

「もう少し静かにしてくれませんか?せっかく気持ちよく寝てたのに」

ピンクのくまがいた。しかも可愛い。めっちゃ可愛い。

僕とくまみちは普段から美少女が好きだと言ってるけど、実際目の前にしたら上手く喋れない。

それをよく妹のホワイトに「ダサ」と言われ呆れられている。

例によって僕とくまみちは美少女の登場によって挙動不審になっていた。

でもくまみちはなんとかこの美少女とお近づきになりたいらしく、話しかけようとしていた。

「えー、本日は足元のお悪い中……」

はっ!くまみち、緊張し過ぎておかしなこと言ってる!

「くまみちってば、全然足元悪くないでしょ!僕に任せて。えー、本日はお日柄もよく……」

「ぶはははは!おい、偉そうなこと言って、てめぇも緊張してんじゃねえか!」

「してないよ、変なこと言わないでよ!」

僕とくまみちが漫才を繰り広げていると、ピンクのくまが木の上から降りてきた。

近くで見ると、背も小さくてピンクで女の子!って感じのとっても可愛い子だった。

「見ない顔だね。新しい子?」

さっき漫才を繰り広げたことで2人とも緊張が解けたみたいで、普通に話しかけることができた。

「はい、ももたと言います。」

桃田……。

ぬいぐるみで苗字を名乗ってくるのって珍しいな。

するとくまみちが、聞いた。

「下の名前はなんていうんだ?」

するとそのくまちゃんは、

「だからももたです、果物の桃にさんずいに太いで桃汰」

もう一度そう名乗った。

「「桃汰……。え、男?」」

また僕とくまみちの声が揃った。

「そうですけど……」

桃汰くんが怪訝そうな顔になる。

「もしかして、僕がピンクで可愛いから女の子だと思ったんですか?」

「「ま、まぁ」」

またしても僕とくまみちの声が揃った。あんまり嬉しくない。

「はぁ」

桃汰くんはため息を吐いた。

「僕が可愛いのは分かりますけど、その辺のぶりっ子女どもと一緒にされるのはちょっと……」

それに、と桃汰くんは続ける。

「今どき、見た目で男か女か判断するなんて、流行らないですよ」

「えっと、ごめん」

僕は桃汰くんの可愛い見た目とのギャップに謝ることしか出来なかった。

「お、おう。なんかごめん」

くまみちも同じだった。なんか言ってやればいいのに、くまみちってばビビりだなぁ。はははっ。あ、僕もか。

2人で下を向いて項垂れてしまった。

「あの、僕もう行きますね。あなた方のせいで睡眠も妨げられてしまいましたし」

あまりにストレート過ぎるその言葉に僕もくまみちも、ちょっと恐怖を感じて何も言い返せずにいた。

怖いからこのままやり過ごそう、僕はそう考えていた。

くまみちの方をちらっと見てみる。くまみちも同じ気持ちだと思う。さっきから僕と同じ事ばっかり言ってるし。

項垂れたまま僕たちは桃汰くんが去るのを待っていた。

すると、

「あの、何か言ったらどうですか?僕の睡眠を妨げたんですよ」

え、怖。なんでこの子こんなに掘り下げようとするんだ。早く行ってよ、そろそろ僕がちびるぞ。恐怖で。

なおも押し黙る僕たち。

でも、桃汰くんはもう行くと言ってたのに、その場から動く気配が無く。

下を向いたままの僕とくまみちの顔を交互に覗きながら、「ねぇ。何か言ったらどうですか?ねぇ」としきりに言っている。

もう謝ったじゃないか!なんて言えるはずもなく。

僕は怖すぎて泣きそうだし動けない。

すると隣から、ズズッ、と音が聞こえてきた。

ん?と思って、隣のくまみちを見てみた。

めっちゃ泣いてた。

え!?めっちゃ泣いてるんだけど!

いつも僕のことバカにしてるくせに、可愛い男の子にキレられて僕より先に泣いたぞ!

でも僕は鼻水を垂らして泣いてるくまみちのおかげで逆に冷静になった。


「きみ、友達いないでしょ」

冷静になった僕は、冷静になりすぎて余計なことを言ってしまった。

訪れる静寂。

僕は自分の失言に今さら気付いた。

桃汰くんからとてつもない負のオーラが見えたから。

「ごめんなさい許してくださいころさないで」

僕は土下座をした。

必死で命乞いした。

すると、

「……なんでですか?」

さっきまでの威圧的な声と違って、聞こえるか聞こえないかくらいの声で桃汰くんが聞いてきた。

僕はおそるおそる顔を上げた。

桃汰くんはさっきとは打って変わって目をうるうるさせていた。

「なんで、僕はこんなに可愛いのに友達ができないんですか……?」

図星だったみたいだけど、この期に及んでこの子は何を言ってるんだ?

「そういうとこだよ」

「どこですか、もっとわかりやすいように言ってください」

え、わかんないの?と思ったけど僕は途中まで言ってしまった手前引き下がれず。

思ったことを言うようにした。

「あんまり、自分をかわいいって言うようなやつは友達いないじゃん」

「でも僕可愛いですし」

「うん、きみは確かに可愛いよ。でもそれとこれとは別だよ。自分に自信は持ってもいいと思うけど、あんまり他の子達に自分のことかわいいって自慢しないほうがいい」

「僕にお説教なんてあなたが初めてです。そんなの誰も教えてくれなかったですし」

「そんな気がした。見た目も大事だけどさ性格も美人な方がいいじゃんっ」

「……あの」

「だからさ、僕たち友達になろうよ」

「ごめんなさい……」

「この流れで!?」

「ち、違うんです。友達には、なりたいです。でも」

「でも?」

「さっきまでの、怖がらせちゃったこと謝りたくて」

「もういいよー、僕たち友達になったんだから。あ、でも一つだけいいかな」

「なんですか……?」

僕の言葉に、桃汰くんがしおらしく聞き返してくる。

「これからは可愛いって言われたときににっこり笑って、ありがとう、って言えばいいと思うよ」

「ありがとうございます、しろくにゃさん」

「あれ、僕の名前知ってた?」

「いえ、さっきこの方がそう呼んでたので」

隣のくまみちに視線を向けた。

恐怖で気絶してるな。まぁ、後で起きるか。

「さんなんて他人行儀だし、僕のことはしろくにゃでいいよ」

「流石にそれはハードルが高いので、えっ……と。……しろくにゃ、くん、でもいいですか?」

「うん、もちろん。これからは友達だよ!」

桃汰くんの顔が一気に明るく、笑顔になった。

「えへへ。僕友達なんて初めてできました」 

「これからいっぱいできるよ。よし、友達2号はくまみちだね」

「でもくまみちさんは、許してくれるかな。友達になってくれますかね」

「後で意識が戻ってきたら一緒に謝ろ、くまみちなら友達になってくれるよ。なんせ僕の親友だもん」

「むぅ、妬けちゃいます……。よし、僕もしろくにゃくんにそう言ってもらえるように頑張ります!」

桃汰くんがにっこり笑顔でそう言った。

僕は無意識に、

「やっぱり可愛いな……」

心のなかで呟いたはずが声に出ちゃってた。

桃汰くんは今度はイタズラっぽく笑って言った。

「ありがとうございますっ」
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感想 1

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みんなの感想(1件)

葉霧 星
2021.07.19 葉霧 星

ファンシーな話だと思って覗いてみたら、シュールギャグだったw
話のテンポも良いし、会話のゆるい感じがすごくツボにはまりました。

奈留美
2021.07.19 奈留美

感想ありがとうございます!
シュールなのを目指していたのでそう言って頂けて嬉しいです。

解除

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