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第1章 Really of Other
10. 死者
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「私の目的はさっき言った通り、復讐。……叶えてくれるの?」
マノンは瞳にほの暗い意志を宿し、告げる。
「ノエルを引きずってきてとっちめりゃいいんだろ? そんぐらい朝飯前さ。なぁ兄弟?」
「んぉ? ノエルちゃん? なんで?」
「……てめぇ……話聞いてたのかよ」
双子の会話をしり目に、今度はポールが口を開く。
「ぼくの方はね、今、酷いスランプに陥っていて……要するに、何かインスピレーションが欲しかったんだ」
「なるほどな。そりゃあ、ここは良くも悪くも刺激だらけだろうよ」
レニーはうんうんと頷く。
マノンも「ああ、それで……」と納得しているみたい。さっき、芸術家界隈から遠ざかってるって話してたもんね……。
「……で、兄弟は俺に会いに来たと」
「超ヒマになっちまってよ」
「そんなこったろうと思ったぜ」
レオナルドはケロッとしているけど、ここ……そんな近所の公園みたいな感覚で来るとこじゃなくない……?
「……で、お前さんは?」
「それが……思い出せなくて……」
レニーに話を振られ、私はがっくりと項垂れる。
結局、何も思い出せなかった……。
「ふぅん……?」
何やら考え込んでるみたいだけど、事実だから仕方ない。どうしたもんかなぁ……。
「さて、と。突然で悪ぃが……ここで嘘は通用しねぇと思ってくれや。欺こうとする魂も多いんでな、そこら辺のシステムは優先的に整備されてんだ」
……どうやら、ロデリックの本に書かれていた時期よりも混沌とはしてないっぽい?
レヴィ、だったかな。彼が仕事を頑張ってるってことかも。なんか、その仕事……想像するだけで大変そう……。
「……その言い方……誰か、嘘つきがいたってこと?」
マノンの声に、レニーは大きく頷いた。
「生身の肉体と魂だけの存在ってぇのはパッと見じゃわかりにくいが、こっちで区別はつけられる」
「生者と死者の区別がつく……ってことでいい?」
私の疑問にも、レニーは苦笑しつつ答える。
「ま、生きてるのに魂だけ迷い込む場合も案外あるし、一概にゃ言えねぇがな」
レニーの説明に対し、私の隣で、観念したような声が上がる。
「ありゃあ、バレちゃうのかあ……じゃあ仕方ないかなぁ」
声の先に視線を向けると、ポールが頬を掻きつつ苦笑していた。
「そう。本当はスランプなんかじゃなくて、死んで作品が作れなくなったんだ」
「ったく、カミーユといいお前さんといい……芸術家ってぇのは死んでも何かを作りたくなんのかい?」
レニーはやれやれと肩を竦めつつ、続ける。
「だがよ、元の肉体がない以上……魂だけが戻ってもどうにもならねぇぜ。こっちに肉体を持ってきてたとしても……そんでもって運良く奪われなかったとしても、時間が動く場所じゃそのうち朽ちちまうしな」
なんか、やたら説明慣れしてる気がする。
もしかして、それなりに多いのかな。生き返ろうとする死者。……多いんだろうなぁ……。
でも、ポールが死者だって言うなら、マノンとのやり取りでも納得できる部分は多い。死亡時期によっては、ニュースを見てないのも知り合いの死を知らないのも仕方ないしね……。
ポールは「そっかぁ」と呟き、
「あ、そうだ! この世界で何かしらアートを作って、発表するって方法はどうだろう?」
特に凹むことも無く、食い下がった。
メンタル強っ。
「……まあ……やってみたらどうだい? 自力でなんとかできるもんならな」
レニーの顔に、明らかに「めんどくせぇ」って書いてある。ポールの方は素直に「頑張ってみようかな」なんて言ってる。めちゃくちゃポジティブ。
「……ちょっと待って。あんた、いつ死んでたの?」
マノンが突っ込んでくる。まあ……そうなるよね。
「うーん、いつだろう。2009年くらい? だったかなぁ」
「10年も前!? 全然知らなかった……」
マノンが目を見開く。繋がりは大学が同じってことくらいとはいえ、知り合いだもんね……そりゃ、びっくりするよね。
……10年? 何か、引っかかる気もする。なんだろう、この胸のつっかえ……。
「オリーヴ」
……と、レニーが私に声をかけてきた。
レオナルドから借りたのかな。古い型の携帯電話をいじってる。
「お前さんの恋人、何で死んだ?」
恋人……?
そう、そうだ。私には恋人がいたんだ。
指摘された途端、穴だらけになった記憶の一部が蘇った気がした。
そう、「彼」は……よく、血を吐いていた。
血を吐きながら、「死にたくない」と私に言っていたことを覚えている。
「……病気だったと思う。よく吐血してて、通院もしてた……はず」
「病死、か……」
レニーは眉をひそめつつ、今度はポールに聞いた。
「お前さんはなんで死んだ?」
その問い……もしかして、ポールが私の恋人って、こと……?
ポールの方を見る。……記憶は穴だらけだけど、確かに……見覚えがある、ような……気も……
「ぼくかい? 事故死だよ」
ポールは事もなげに語る。事故死……なら、死の予兆があった「彼」とは別人、なのかな。
「作品を作ってる最中にね、うっかり脚立から落ちて……」
ポールは軽い口調で言葉を続け……って、待って待って待って、その先嫌な予感がする!!
「手に持ってたハサミで胸を突いちゃったんだ」
「……ッ!?!?」
マノンがさぁっと青ざめる。
私と同じように、光景を想像しちゃったんだろうか。……うぎゃぁあ……。
「いやぁ、参ったね。気づいた時には血の海で……」
それさぁ、参ったね、で済ませないで欲しいな!!!
「……ったく、芸術家ってぇのはどいつもこいつも頭のネジがどうにかしてやがるぜ」
レニーが雑にまとめる。
「胸ならワンチャンあったろ。運悪かったんだな」
レオナルドがなんか言ってるけど……
えっ、ワンチャンスとかある? そんなもん? そんなことなくない?
「ぼく、巨乳じゃなかったしなあ」
えっ、そういう問題!?
そろそろツッコミ追いつかなくなってきたよー!?
マノンは瞳にほの暗い意志を宿し、告げる。
「ノエルを引きずってきてとっちめりゃいいんだろ? そんぐらい朝飯前さ。なぁ兄弟?」
「んぉ? ノエルちゃん? なんで?」
「……てめぇ……話聞いてたのかよ」
双子の会話をしり目に、今度はポールが口を開く。
「ぼくの方はね、今、酷いスランプに陥っていて……要するに、何かインスピレーションが欲しかったんだ」
「なるほどな。そりゃあ、ここは良くも悪くも刺激だらけだろうよ」
レニーはうんうんと頷く。
マノンも「ああ、それで……」と納得しているみたい。さっき、芸術家界隈から遠ざかってるって話してたもんね……。
「……で、兄弟は俺に会いに来たと」
「超ヒマになっちまってよ」
「そんなこったろうと思ったぜ」
レオナルドはケロッとしているけど、ここ……そんな近所の公園みたいな感覚で来るとこじゃなくない……?
「……で、お前さんは?」
「それが……思い出せなくて……」
レニーに話を振られ、私はがっくりと項垂れる。
結局、何も思い出せなかった……。
「ふぅん……?」
何やら考え込んでるみたいだけど、事実だから仕方ない。どうしたもんかなぁ……。
「さて、と。突然で悪ぃが……ここで嘘は通用しねぇと思ってくれや。欺こうとする魂も多いんでな、そこら辺のシステムは優先的に整備されてんだ」
……どうやら、ロデリックの本に書かれていた時期よりも混沌とはしてないっぽい?
レヴィ、だったかな。彼が仕事を頑張ってるってことかも。なんか、その仕事……想像するだけで大変そう……。
「……その言い方……誰か、嘘つきがいたってこと?」
マノンの声に、レニーは大きく頷いた。
「生身の肉体と魂だけの存在ってぇのはパッと見じゃわかりにくいが、こっちで区別はつけられる」
「生者と死者の区別がつく……ってことでいい?」
私の疑問にも、レニーは苦笑しつつ答える。
「ま、生きてるのに魂だけ迷い込む場合も案外あるし、一概にゃ言えねぇがな」
レニーの説明に対し、私の隣で、観念したような声が上がる。
「ありゃあ、バレちゃうのかあ……じゃあ仕方ないかなぁ」
声の先に視線を向けると、ポールが頬を掻きつつ苦笑していた。
「そう。本当はスランプなんかじゃなくて、死んで作品が作れなくなったんだ」
「ったく、カミーユといいお前さんといい……芸術家ってぇのは死んでも何かを作りたくなんのかい?」
レニーはやれやれと肩を竦めつつ、続ける。
「だがよ、元の肉体がない以上……魂だけが戻ってもどうにもならねぇぜ。こっちに肉体を持ってきてたとしても……そんでもって運良く奪われなかったとしても、時間が動く場所じゃそのうち朽ちちまうしな」
なんか、やたら説明慣れしてる気がする。
もしかして、それなりに多いのかな。生き返ろうとする死者。……多いんだろうなぁ……。
でも、ポールが死者だって言うなら、マノンとのやり取りでも納得できる部分は多い。死亡時期によっては、ニュースを見てないのも知り合いの死を知らないのも仕方ないしね……。
ポールは「そっかぁ」と呟き、
「あ、そうだ! この世界で何かしらアートを作って、発表するって方法はどうだろう?」
特に凹むことも無く、食い下がった。
メンタル強っ。
「……まあ……やってみたらどうだい? 自力でなんとかできるもんならな」
レニーの顔に、明らかに「めんどくせぇ」って書いてある。ポールの方は素直に「頑張ってみようかな」なんて言ってる。めちゃくちゃポジティブ。
「……ちょっと待って。あんた、いつ死んでたの?」
マノンが突っ込んでくる。まあ……そうなるよね。
「うーん、いつだろう。2009年くらい? だったかなぁ」
「10年も前!? 全然知らなかった……」
マノンが目を見開く。繋がりは大学が同じってことくらいとはいえ、知り合いだもんね……そりゃ、びっくりするよね。
……10年? 何か、引っかかる気もする。なんだろう、この胸のつっかえ……。
「オリーヴ」
……と、レニーが私に声をかけてきた。
レオナルドから借りたのかな。古い型の携帯電話をいじってる。
「お前さんの恋人、何で死んだ?」
恋人……?
そう、そうだ。私には恋人がいたんだ。
指摘された途端、穴だらけになった記憶の一部が蘇った気がした。
そう、「彼」は……よく、血を吐いていた。
血を吐きながら、「死にたくない」と私に言っていたことを覚えている。
「……病気だったと思う。よく吐血してて、通院もしてた……はず」
「病死、か……」
レニーは眉をひそめつつ、今度はポールに聞いた。
「お前さんはなんで死んだ?」
その問い……もしかして、ポールが私の恋人って、こと……?
ポールの方を見る。……記憶は穴だらけだけど、確かに……見覚えがある、ような……気も……
「ぼくかい? 事故死だよ」
ポールは事もなげに語る。事故死……なら、死の予兆があった「彼」とは別人、なのかな。
「作品を作ってる最中にね、うっかり脚立から落ちて……」
ポールは軽い口調で言葉を続け……って、待って待って待って、その先嫌な予感がする!!
「手に持ってたハサミで胸を突いちゃったんだ」
「……ッ!?!?」
マノンがさぁっと青ざめる。
私と同じように、光景を想像しちゃったんだろうか。……うぎゃぁあ……。
「いやぁ、参ったね。気づいた時には血の海で……」
それさぁ、参ったね、で済ませないで欲しいな!!!
「……ったく、芸術家ってぇのはどいつもこいつも頭のネジがどうにかしてやがるぜ」
レニーが雑にまとめる。
「胸ならワンチャンあったろ。運悪かったんだな」
レオナルドがなんか言ってるけど……
えっ、ワンチャンスとかある? そんなもん? そんなことなくない?
「ぼく、巨乳じゃなかったしなあ」
えっ、そういう問題!?
そろそろツッコミ追いつかなくなってきたよー!?
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