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第一章 物語は地中海の小島にて始まる
九、緊急会議
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甲板のジャックとアリーの元へ戻り、先程の戦闘について簡単に告げる。
「……どうやら、船の場所はバレているらしい」
そう結論づけると、ジャックは目を見開き、アリーは俯いて黙りこくった。
「こ、小島の追っ手は全員ぶち殺したんだよな!?」
「出会った奴らはな。……だが、アリーの魔術を考えるに、「探索」に特化した魔術使いが向こう側にいてもおかしくはない」
もしくは、あのネズミ火が殿下の匂いが何かに反応するよう「仕込んでいた」のかもしれないが。
残った灰を見せると、ジャックは「マジかよ……」と呟いて息を飲んだ。
「で、では、このまま海路のみを進むことになるのでしょうか……もっとも、物資の補給は欠かせないし、目的地は内陸ですが……」
アリーが震える声で提案する。
「……いや、海上での戦闘はなるべく避けたい。殿下を『守る』のが目的の俺たちと、『殺す』のが目的の刺客では有利不利が圧倒的に違う」
「おお怖っ。最悪、船を沈めてみんな魚のエサに……なんてことも有り得るか」
ジャックの言葉には黙って頷いた。当然、向こうも死ぬ覚悟はできているだろうしな。
死を恐れず、捨て身でかかってくる者の攻撃ほど恐ろしいものは無い。……それは、身に染みて理解している。
「なるほどぉ……膠着状態になってしまえば、物資がどんどん尽きていきますしねぇ……」
「ああ、海路を過信する方策は、なるべく避けるべきだろう」
話がまとまってきたところで、星の様子を見る。
この調子だと、嵐はまだ来ない。……当面の間、気にするのは敵への対処と物資および士気の管理、船の調整だけで良さそうだ。
「ポルトガル経由は無謀だ。大西洋の航路も大方知り尽くされているし、長引けばそれだけ対策される」
「そうだなぁ……距離が伸びるだけで、いいことないだろうし」
ジャックはぼやきつつランプを手に取り、地図を開いた。
浅黒い指が、紙の上をなぞる。
「……つっても、ジェノバあたりに上陸するのも危険だろ?」
「追っ手を迎え撃つ前提なら、それが一番手っ取り早いがな」
アリーは島での争いを思い浮かべてか、ゴクリと息を飲んだ。……が、「追っ手を迎え撃つ」という意見に異を唱えはしなかった。
「に、逃げ隠れしようが……無意味……だと、私も理解しています。結局は戦いになる……ならば、消耗の少ない道を選ぶべき…………かと、はい」
震えながらもしっかりと頷き、アリーは俺を見据える。
「し、しかし……殿下のことだけは、絶対に、絶対にお守りくださいね」
「あァ……言われなくてもそのつもりだ。安心しな」
ランプに照らされた瞳には、忠臣としての覚悟が宿っていた。
「……どうやら、船の場所はバレているらしい」
そう結論づけると、ジャックは目を見開き、アリーは俯いて黙りこくった。
「こ、小島の追っ手は全員ぶち殺したんだよな!?」
「出会った奴らはな。……だが、アリーの魔術を考えるに、「探索」に特化した魔術使いが向こう側にいてもおかしくはない」
もしくは、あのネズミ火が殿下の匂いが何かに反応するよう「仕込んでいた」のかもしれないが。
残った灰を見せると、ジャックは「マジかよ……」と呟いて息を飲んだ。
「で、では、このまま海路のみを進むことになるのでしょうか……もっとも、物資の補給は欠かせないし、目的地は内陸ですが……」
アリーが震える声で提案する。
「……いや、海上での戦闘はなるべく避けたい。殿下を『守る』のが目的の俺たちと、『殺す』のが目的の刺客では有利不利が圧倒的に違う」
「おお怖っ。最悪、船を沈めてみんな魚のエサに……なんてことも有り得るか」
ジャックの言葉には黙って頷いた。当然、向こうも死ぬ覚悟はできているだろうしな。
死を恐れず、捨て身でかかってくる者の攻撃ほど恐ろしいものは無い。……それは、身に染みて理解している。
「なるほどぉ……膠着状態になってしまえば、物資がどんどん尽きていきますしねぇ……」
「ああ、海路を過信する方策は、なるべく避けるべきだろう」
話がまとまってきたところで、星の様子を見る。
この調子だと、嵐はまだ来ない。……当面の間、気にするのは敵への対処と物資および士気の管理、船の調整だけで良さそうだ。
「ポルトガル経由は無謀だ。大西洋の航路も大方知り尽くされているし、長引けばそれだけ対策される」
「そうだなぁ……距離が伸びるだけで、いいことないだろうし」
ジャックはぼやきつつランプを手に取り、地図を開いた。
浅黒い指が、紙の上をなぞる。
「……つっても、ジェノバあたりに上陸するのも危険だろ?」
「追っ手を迎え撃つ前提なら、それが一番手っ取り早いがな」
アリーは島での争いを思い浮かべてか、ゴクリと息を飲んだ。……が、「追っ手を迎え撃つ」という意見に異を唱えはしなかった。
「に、逃げ隠れしようが……無意味……だと、私も理解しています。結局は戦いになる……ならば、消耗の少ない道を選ぶべき…………かと、はい」
震えながらもしっかりと頷き、アリーは俺を見据える。
「し、しかし……殿下のことだけは、絶対に、絶対にお守りくださいね」
「あァ……言われなくてもそのつもりだ。安心しな」
ランプに照らされた瞳には、忠臣としての覚悟が宿っていた。
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