上 下
17 / 76

16. 「ホラーゲームの企画書を恋愛ゲームの会社に送るの、やめてもらって良いですか?」

しおりを挟む
「ジブンは考えた。この館で起こった面白……悲劇的な出来事を、より忠実に再現してもらうためには、どうしたらいいのかをね」

 今、明らかに「面白い」って言おうとしたよね。

「……で、潰れかけのゲームメーカーに企画書を送り付けたんだ。起死回生のアイデアがあれば、血眼ちまなこで飛び付くだろうってねぇ! ヒヒヒッ!」

 ……この人、やっぱり生まれる時代を間違えたんじゃないだろうか。
 いやでも、1999年に死んでるなら、元から音楽家じゃなくてゲームクリエイターになれば良かったのでは? って可能性も……

 うん、言うのやめとこ。

「……って、あれ? おかしくない? その話だと、『レディ・ナイトメア』が実在したことになっちゃうけど……」

 わたしの質問に、ニコラスは平然とした顔で頷く。

「ヒヒッ、実在しているよ。、れっきとした史実さ」

 うん???
 どういうこと???

「ヒヒヒッ……混乱してるみたいだけど、話は簡単だ。ジブンは、辿企画書を送り付けたのさ」
「……へっ?」
「この館で強い影響力を持つ怪異、『レディ・ナイトメア』の『前世』がいる世界だからねぇ。縁は充分にある。上手いことどうにかなったよ」
「んんっ??」
「その世界、ちょっと後に大きな戦争が起こって大変なことになるしね」
「えっ!? マジ???」
「マジマジ。人口が大幅に減って、そのうえ負のエネルギーもドッカンドッカン溢れて法則が乱れ放題、並行世界にも影響が出放題。……で、キミの魂も並行世界で新たな生を受ける手筈てはずになってたわけさ。ヒヒヒッ」

 あの、なんか難しい話になってません???
 頭が混乱してきたんですけど!?

「……まあ……ひとつ、伝えたいこととしては」

 ニコラスは灰色の瞳をすっと細め、わたしの目を真っ直ぐ見つめてくる。

「キミは間違いなく『レディ・ナイトメア』その人さ。……目をらそうとしたって無駄だよ。ヒヒッ」

 目を、逸らそうとなんか……
 ……いいや、否定できない。
 前世の記憶を取り戻した瞬間から、わたしは、つらい記憶を「他人事」にして追いやった。「自分」じゃなくて「レディ・ナイトメア」の記憶だから、わたしには関係ないって……どこかで、思おうとしていた。

「キミはホラー映画が好きだろう? ホラーゲームと知りつつ、あのゲームを手に取ったんだろう?」

 それは、そうだ。
「ちょっと変わったホラーゲーム」だと人づてに聞いて、面白そうだなって思って……

「……別に、おかしなことじゃないでしょ。好きな人がたくさんいるから、ホラー作品があれだけの数生まれてるわけだし。わたしはチェルシーとは違って、普通の……」
「分かってないなぁ。チェルシーも、本来は『普通の子』だったのさ」

 ニコラスの言葉に、思わず拳を握り締める。
 そうだ。自分でも分かってたはずだ。
 普通に生きられるのであれば、それが許されていたのなら、生首を玩具おもちゃにする異常者になんかならなかった。

「あんな目に遭いさえしなければ、前世さくらと同じように、『ホラーが好き』程度で済んだはずってことさ。ヒヒヒッ」

 何も、言い返せない。
「普通」の生き方が選択できたのなら、わたしは「レディ・ナイトメア」になんかならなかった──

 ……ん? 待って。それってつまり……

 ──お嬢も……もし、普通に育ってたら、こういうのが好きになってたのかな
 ──お嬢。……そろそろ、普通に生きようぜ

 ………………ひらめいた。
 ひらめいてしまった。

「ヒッ? どうしたんだい? 突然黙り込んで……」
「ふ……ふふふ……ふふふふふふ……」

 思わず笑いがこぼれる。

 推しゴードンとわたし、全然チャンスあるじゃーーーーん!!!!!!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?

蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」 ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。 リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。 「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」 結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。 愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。 これからは自分の幸せのために生きると決意した。 そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。 「迎えに来たよ、リディス」 交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。 裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。 ※完結まで書いた短編集消化のための投稿。 小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

【ヤンデレ付喪神様を大切にした貴方、どうやら今夜神隠しされるそうです。】

一ノ瀬 瞬
恋愛
貴方が自室で眠っていた、ある夜のこと 大きな物音で目を覚ました するとそこには……、

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

処理中です...