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第三話 旧友……?
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「い……生きとったんか、君」
「ええー! 勝手に殺さないでくださいよ!」
銀狐は見るからに表情を引きつらせ、貫八の方は銀狐の言葉に口を尖らせる。
銀狐はどうにか相手を振り払おうともがくが、貫八はしっかりと抱きついたまま離れようとしない。
「千年前、あんなに仲良くしてたじゃないですか~」
「あほ言いな……っ」
貫八の台詞に何やら赤面し、先程にも増してジタバタともがく銀狐。……が、貫八は大きな身体でしっかりと抱擁し、逃がそうとしない。
対し、かまいたちは全くもって状況についていけず、呆然と目の前の喧騒を眺めるしかできなかった。
「えーと……見やん顔ですけど、どなたです?」
「……古い知り合いや。気にせんでええ」
「へえ……」と呟き、かまいたちは貫八の方を見る。
貫八の赤い瞳と目が合った瞬間、ぞくりと、得体の知れない予感がかまいたちの背筋を這い上がった。
「……誰ですか。銀狐さん」
問う貫八の声がわずかに低くなる。……少なくとも、かまいたちにはそう聞こえた。
「かまいたちの吉野や。まあまあ腕が立つさかい、鍛えたってる」
「ど……どうも。僕は吉野言います……変わったとこも取り柄もなんもないただのかまいたちです……」
貫八によく分からない苦手意識を感じながらも、かまいたち……吉野は、一歩、二歩と後ずさりつつどうにか自己紹介を済ませる。
「……なるほど、銀狐さんのお弟子さんですね!」
「ま……まあ、そないな感じです。武術から変化まで、ぎょうさん教えてもろうてます」
先程の視線が嘘のように、貫八は満面の笑みを吉野に向ける。
その隙に銀狐はポンッと軽快な音を立てて狐の姿に戻り、貫八の腕からするりと抜け出した。
「……あっ、どこ行くんですか銀狐さん!」
「何のために来はったか知らへんけど、君を構うてる暇なんてうちにはあらへんのや」
「えー……そんなぁ……」
ガックリと肩を落とし、貫八はぽつりと呟く。
「ほんなら……あの癖は、治ったんぞなもし」
明確に、数段低い声で放たれた、故郷の訛りを伴った言葉。
銀狐のみならず、吉野の毛穴までもがぞっと粟立った。
「……癖? 銀狐さんの?」
「はい、千年前のことなので、今もそうとは限りませんけど……」
「……貫八ぃ、ええ度胸やないか」
わなわなと身体を震わせ、銀狐は貫八の肩に易々と飛び乗る。貫八は偉丈夫(※尻尾つき)の姿のまま、「あれ、どうしたんですか?」……と、目を瞬かせた。
「気ぃ変わったわ。せっかく遠路はるばる訪ねてくれはったんに、歓迎もせぇへんで堪忍なぁ」
「そうですね! 四国からてくてく歩いてきたのに、これからどうしようかなって思ってました!」
「……何撫でとんねん」
「いやぁ……相変わらず、良い毛並みですね……!」
「ほんに、ええ育ちしてはるわ……」
ため息をつく銀狐の頭を、もふもふと撫で続ける貫八。
どう声をかけるべきか分からず、おろおろと狼狽えている吉野をしり目に、銀狐は再び人間の姿へと変化した。
紫色を基調とした狩衣の上に、長い銀髪がはらりと流れ、凛々しく整った顔立ちが現れる。銀狐が普段からよく使う人間体だ。
髪で片方隠された金色の瞳が、鋭い光を放つ。
「宿ぐらいは面倒見たるわ。はよ着いてきぃ」
「はーい!」
不服そうな銀狐に対し、貫八は心底嬉しそうに笑いながら後に続いた。
吉野も二匹の後に続き、困惑したように呟く。
「……えーと……ほんだら、銀狐さんの古い友達ってことで……ええんかな……」
吉野は知らない。
銀狐がひた隠しにしている「癖」を。
銀狐と貫八に隠された因縁を……。
「ええー! 勝手に殺さないでくださいよ!」
銀狐は見るからに表情を引きつらせ、貫八の方は銀狐の言葉に口を尖らせる。
銀狐はどうにか相手を振り払おうともがくが、貫八はしっかりと抱きついたまま離れようとしない。
「千年前、あんなに仲良くしてたじゃないですか~」
「あほ言いな……っ」
貫八の台詞に何やら赤面し、先程にも増してジタバタともがく銀狐。……が、貫八は大きな身体でしっかりと抱擁し、逃がそうとしない。
対し、かまいたちは全くもって状況についていけず、呆然と目の前の喧騒を眺めるしかできなかった。
「えーと……見やん顔ですけど、どなたです?」
「……古い知り合いや。気にせんでええ」
「へえ……」と呟き、かまいたちは貫八の方を見る。
貫八の赤い瞳と目が合った瞬間、ぞくりと、得体の知れない予感がかまいたちの背筋を這い上がった。
「……誰ですか。銀狐さん」
問う貫八の声がわずかに低くなる。……少なくとも、かまいたちにはそう聞こえた。
「かまいたちの吉野や。まあまあ腕が立つさかい、鍛えたってる」
「ど……どうも。僕は吉野言います……変わったとこも取り柄もなんもないただのかまいたちです……」
貫八によく分からない苦手意識を感じながらも、かまいたち……吉野は、一歩、二歩と後ずさりつつどうにか自己紹介を済ませる。
「……なるほど、銀狐さんのお弟子さんですね!」
「ま……まあ、そないな感じです。武術から変化まで、ぎょうさん教えてもろうてます」
先程の視線が嘘のように、貫八は満面の笑みを吉野に向ける。
その隙に銀狐はポンッと軽快な音を立てて狐の姿に戻り、貫八の腕からするりと抜け出した。
「……あっ、どこ行くんですか銀狐さん!」
「何のために来はったか知らへんけど、君を構うてる暇なんてうちにはあらへんのや」
「えー……そんなぁ……」
ガックリと肩を落とし、貫八はぽつりと呟く。
「ほんなら……あの癖は、治ったんぞなもし」
明確に、数段低い声で放たれた、故郷の訛りを伴った言葉。
銀狐のみならず、吉野の毛穴までもがぞっと粟立った。
「……癖? 銀狐さんの?」
「はい、千年前のことなので、今もそうとは限りませんけど……」
「……貫八ぃ、ええ度胸やないか」
わなわなと身体を震わせ、銀狐は貫八の肩に易々と飛び乗る。貫八は偉丈夫(※尻尾つき)の姿のまま、「あれ、どうしたんですか?」……と、目を瞬かせた。
「気ぃ変わったわ。せっかく遠路はるばる訪ねてくれはったんに、歓迎もせぇへんで堪忍なぁ」
「そうですね! 四国からてくてく歩いてきたのに、これからどうしようかなって思ってました!」
「……何撫でとんねん」
「いやぁ……相変わらず、良い毛並みですね……!」
「ほんに、ええ育ちしてはるわ……」
ため息をつく銀狐の頭を、もふもふと撫で続ける貫八。
どう声をかけるべきか分からず、おろおろと狼狽えている吉野をしり目に、銀狐は再び人間の姿へと変化した。
紫色を基調とした狩衣の上に、長い銀髪がはらりと流れ、凛々しく整った顔立ちが現れる。銀狐が普段からよく使う人間体だ。
髪で片方隠された金色の瞳が、鋭い光を放つ。
「宿ぐらいは面倒見たるわ。はよ着いてきぃ」
「はーい!」
不服そうな銀狐に対し、貫八は心底嬉しそうに笑いながら後に続いた。
吉野も二匹の後に続き、困惑したように呟く。
「……えーと……ほんだら、銀狐さんの古い友達ってことで……ええんかな……」
吉野は知らない。
銀狐がひた隠しにしている「癖」を。
銀狐と貫八に隠された因縁を……。
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