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ある犬の物語

前編 犬と出会う※

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都鳥さまに描いていただいた四コマ漫画からインスピレーションをいただき、サイドストーリーを書いてみました。



元ネタ → https://www.pixiv.net/artworks/94128631



四コマ通りほのぼのストーリーになるはずが、なぜかガッツリ濡れ場が入りました。そんな番外編です。



***



 これは、とある冬の出会い。
 煩悶はんもんの日々の只中にあった、ささやかな記憶。



 逃避行の最中のこと。
 とある事情から、私は生まれ育った故郷に戻ることとなった。
 その頃には、追手は私を教義や正義のために、というよりは……「面子めんつのために」排除せんとしていることが判明していた。
 つまりは、顔見知りがいる土地ほど、表立っては戦闘をしかけにくいということ。そのために故郷に向かう決断をしたものの、家族の元に戻るのにはためらいがあった。

 結論を言えば、後にエルンストに見つかり強引さに押し負け、あっさりと実家で過ごすようになったのだが……当時は祖父の顛末を思い出したのもあり、迷惑をかけられないと二の足を踏んでいたのだ。

 ヴァッサーシュピーゲルの駅を出、ヴィルと手分けをして宿を探すことに。
 そこで、一匹の子犬と目が合った。

 毛並みはそれなりに整っていたし、程よく肥えた体格を見たところ栄養状態も悪くなさそうだった。
 その上、私を見た途端、怯えるでもなくパタパタとしっぽを振ってくる。人に慣れていなければ、こうはなるまい(厳密に言えば、私はヒトではないのだが……)。
 ……おそらくは、捨てられたばかりなのだろう。

「……っ」

 茶色のもふもふとした毛並みは愛らしく、向けられた瞳が胸に突き刺さる。
 純粋な光が、誰かを彷彿ほうふつとさせる。……弟か……? いや、少し違うような……。
 私とて、見捨てたくはない。だが、逃避行の最中に飼ってやることなどできない。
 何より……

 哺乳類の血液は、吸血鬼わたしの糧になる。

「……たくましく生きるのですよ」

 やはり、ダメだ。
 未練を振り切り、背を向ける。
 この体躯では、少量の吸血でも命取りになりかねない。
 野良犬として生きるのは、過酷な道だろうが……それでも。
 私には、祈ることしかできはしないのだ。



 ***



 見つけた宿にて、くたびれた身体を寝台に沈める。
 昼間に動いたせいか、身体がひどく重く感じた。

「大丈夫っすか?」
「ん……あぁ、大したことではない」

 ヴィルの問いに、そう返しておく。
 太陽光を浴びたせいだろう。怠くはあるが、この程度は慣れておかねば今後に支障が出る。

「無理すんなって言ったじゃないすか」

 ヴィルは呆れたように言うと、横になった私の肩に触れ、自分の方を向くように伝えてくる。

「飲みます?」

 躊躇いなく差し出された手には、以前に噛んだ痕がまだ残っていた。
 断ろうとは思った。思ったのだが……疲れた肉体は、間違いなく血を欲していた。

「……っ、う……」

 言葉を発する前に、思わず喉が鳴ってしまう。……と、唇に生ぬるい感触が触れた。
 口付けられたと気付いた瞬間、扉を叩くように舌が唇の隙間を舐めた。

「待っ、ぁ……!」

 薄く開いた唇に舌をねじ込まれ、口の中いっぱいに求めていた味が広がる。

「ん、ふ……っ」

 肩を押し返そうとするが、私の肉体は間違いなくを待っていた。
 唇を離すと、真剣な表情のヴィルと目が合う。

「……神父様……」

 瑪瑙めのうの瞳が、欲望を映してぎらりと輝く。
 思わず、胸が高鳴る。
 彼の武骨な指先が、そっと私のももに触れた。

「どうっすか?」

 誘いの言葉に、静かに頷く。
 寝台が、二人の重みでぎしりと軋んだ。



 ***



 ヴィルは私の服を脱がし、自らも裸になる。
 たくましい肉体と反りった肉棒が目に入り、腹の奥が疼くのを感じた。

「もう、そんなになっているのか……」
「誰のせいだと思ってるんすか」

 ヴィルは手慣れた様子で私に口付け、その位置を下へ、下へと徐々に落としていく。

「……ぅ、あ……ぁあっ」

 ヴィルの唇が私の首筋を、鎖骨を、胸の突起をついばむ。時に軽く吸われ、時に執念深くねぶられ、身体の芯が熱を持つ。
 ゆるく起き上がった私自身を握られ、上下に扱かれる。……が、そんな刺激ではもう、私は満足できない。

「ん……っ、ふ、ぅ……くぅっ」
「は……っ、物欲しそうな顔っすねぇ」

 図星を突かれ、顔がかぁっと熱くなる。

「大丈夫っすよ。ちゃーんと、可愛がってあげますんで」

 節くれだった指が孔に沈められ、弱い箇所を指の腹で擦られる。

「んぁあっ、ぁ、あ、そこは……っ」
「エロい孔っすねぇ。オレの指、そんなに美味しいっすか」
「だ……誰のせい、だと……っ、く、ぅ、ぁあっ」

 欲しい。
 奥まで欲しい。
 貫かれたい。

 指を引き抜かれ、代わりに怒張が秘所に宛てがわれる。
 先走りで潤った先端に口付けられ、入口がひくつくのがわかった。

「あぁああっ」

 ずぷりと差し挿れられ、嬌声が漏れた。
 今や、私は挿入されるだけで快感を得る身体なのだ。

 浮き出た雁首が私の弱い箇所を抉り、浅黒い指が傷痕の上を這い回る。

「ぅ……っ、く、ぅう、あぁっ」
「は……ぁ、エロすぎ……ッ」

 奥へ奥へと、ヴィルが入ってくる。
 強い快感が脳天を駆け抜け、思わずたくましい背中にしがみついた。

「アッ、ぁ、あぁあっ! そこ、は……っ」
「あー、ココ、知っちまいましたもんねぇ」
「やらっ、へんにな……っ、ぁ、あ、んんんんっ」
「……ッ、大丈夫っすよ。女のコになっちゃうだけって聞いたし」

 ごくりと息を飲む音と、舌なめずりの音が耳を犯す。
 最奥をずんっと突き上げられ、一瞬、呼吸が止まる。

「あ……っ、ンッ、────────ッ」

 激しい快感の波に襲われ、目の前が真っ白になる。
 わななく胎内に精が注がれ、腹の奥からじわりと養分が染み渡っていく。

「は……ァ、……あ……」

 ずるりと肉棒を引き抜かれた孔が、名残惜しいとばかりに疼いた。
 ぐたりと寝台に身を預ければ、たくましい腕が私を抱き留め、髪に、額に、頬に、口付けの雨が降ってくる。

「おやすみ、神父様。ゆっくり休んでくれな」

 甘い囁きに身を委ね、私の意識は微睡まどろみの中へと沈んだ。



 ***



 目を覚ますと、ヴィルは部屋にいなかった。

 ……何かを探して来ると言っていた気もするが、ぼんやりしていたせいかよく覚えていない。
 裸の身体を起こすと、収まりきらなかった精がたらりと腿を伝う。

「勿体ない」と即座に思ってしまった愚かな思考を、無理やり振り払った。

 とはいえ、糧を与えられたからか、身体の調子は間違いなく回復している。
 身体を起こし、寝台脇に放られていた服を着込んだ。
 毎回思うのだが、剥ぐなら剥ぐでもう少しまとめて置いておけないのだろうか。
 ……いや、私から脱いでおけばいい話でもあるのだが。

「神父様ー!」

 ……と、元気な声が扉の向こうから響いて来る。
 どうやら、ヴィルが帰って来たらしい。
 内鍵を開き、招き入れ……ようとしたところで、無邪気な報告が聞こえた。

「犬拾いました!」

 ヴィルの腕には、先刻見かけた子犬が抱えられている。

「わふっ」

 子犬はヴィルの言葉に呼応するよう、どこか嬉しそうに鳴いていた。
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